鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第六十九話 偽りの盾

 

 

 

 それはあっという間だった。クリーブランドさん達と合流して数時間後。大西洋の海を進み、もう少しすればロイヤルの領海に辿り着くという所でそれは起きた。

 

 

 突然現れた複数の巨大な影。それらは瞬く間にこちらを包囲すると海面から姿を現した。それは数多の軍艦を引き連れた人類種の敵であり、四方八方からまるで津波の様に押し寄せたセイレーン達はこちらに目掛けて攻撃を開始した。

 

 

 セイレーンは神出鬼没であり、こうして奇襲攻撃を仕掛けた例は鉄血内でも腐る程に挙げられるが、余りにもタイミングが悪過ぎる状況に思わず吐き捨てたくなってしまう。レーダーに映る無数の赤い点は全て敵。要人護衛の最中に敵の奇襲を受けるというのは最早最悪の一言しかないだろう。

 

「指揮官、状況は良くないよ。このままだとすぐにでも囲まれて逃げ場が無くなる」

 

 前方で即座に艤装を展開したシュペーは声を上げ、通信越しに彼女達の動揺が伝わってくる。敵の数は倒すだけならば不可能ではないが、こちらは無傷で倒せるか?弾薬の問題は大丈夫か?敵は完全にこちらを察知して襲撃を仕掛けたのか偶然なのか?と能力様々な疑問が脳内で駆け巡るがまずは目の前の事に集中しなければならない。

 

 

 

 ……はぁ……ビスマルクさんに怒られるかも知れないが仕方ない。後で土下座でもして説明しようと喉がカラカラになる感覚を覚えながらもマイクを手に取り指示を出す。

 

 

「鉄血艦隊!全艦戦闘準備!敵の規模はかなり多い!恐らくはこちらを潰そうとするセイレーンの部隊である可能性が高い!奴らの好きにさせるな!我が同胞のために鉄血の力とならん事を!各員の奮戦に期待する!皆には悪いがちょっとばかし派手にやるぞ!」

 

 

『了解!!』

 

 

 通信機から全員の声が返ってくる。その返事。耳にしつつ、急いで艦内に待機中のクリーブランドさん達に通信を繋ぐ。

 

 

「聞こえますか、こちらが現在受けている情報から推測するに相手は大規模なセイレーンの艦隊です。おそらく我々がここにいると察知された可能性があります」

 

『なるほどね……待ち伏せされてたって事かな?ならセイレーンがいるなら、私達の出番かな?』

 

「えぇ、恥を承知でお願いしますが貴女達にも出てもらいたいのです。正直に言えばこの規模のセイレーンの部隊と戦うのは非常に危険を伴う可能性があります。無理強いはしませんが……」

 

 

 

 思わず胃に痛みを感じながらそう口にするとクリーブランドさんは少しだけ驚嘆した様な表情を浮かべ、しかし、すぐに切り替えた様に微笑んだ様子で声を紡ぐ。

 

『あははっ、絶対に断られるかな?って思ってたけどちょっとびっくりかも』

 

 クリーブランドさんが言う通り本来客人である彼女達に状況を切り抜けるために武装して最前線に出て欲しいだなんて失礼も甚だしい。鉄血の面目は丸潰れとなり、ビスマルクさんから激しい叱責が飛ぶ可能性もある。

 

 しかし、状況を鑑みて意地を張って鉄血艦隊だけで対処するよりも、生存確率を少しでも上げる為に彼女達に頼るしか無い。一応誤魔化し方というかビスマルクさんにどう説明するのか?というサブプランは用意しているが、こちらの葛藤を知ってかクリーブランドさんは優しい声だ。

 

 

『そっちだけだと厳しいだろうし…こういう時はアズールレーンだろうがレッドアクシズだろうがそんな事言ってられないでしょ?イデオロギーは違っていても私達の最優先に倒すべき敵はセイレーン。その為にメンツやプライドなんて投げ捨てて素直に頼ってくれてありがとう。英雄サン』

 

 

「いえ、こちらこそすいません。本当に情けない限りですが……俺達が生き残り、会談の日を迎えるために協力を改めて要請します。勿論最優先はそちらの命を守ることで!」

 

『はい任された!じゃあいくよコロンビア!モントピリア!デンバー!鉄血艦隊とセイレーンに私達の戦い方を見せつけよう!』

 

 

 クリーブランドさんの優しさに甘える形になってしまったが、こうして結果的には鉄血とユニオンの合同部隊が急遽編成された。プロパガンダ的には数十年間関係が断絶していた両国が人類種全ての敵であるセイレーンを相手に共同戦線を張る事に。

 

 

 そしてこの海戦により海の平和は保たれた…なんてストーリーで報道される事になるだろう。というかそうビスマルクさんに提案するしかないわな、こんなの。

 

 後はこちらが上手く立ち回れば……と思いつつ、俺は意識を切り替えると、セイレーンとの交戦を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 開戦の狼煙を挙げたのはグラーフが率いる艦載機の集団だ。放置されつつある現状、まずは敵の戦力を削る為に動き出す。こちらの先制攻撃で敵艦隊の陣形が乱れるのを確認するとそのまま制空権を確保するべくグラーフ率いる爆撃機スツーカの部隊は一斉に攻撃を仕掛ける。

 

 

「ふん…!いいだろう、ならばユニオンにも我が力、見せてやろうではないか」

 

 

 悪魔のサイレンとも称されたJu-87Cスツーカ爆撃機の一撃は殺戮機械たる漆黒の外装をもつセイレーンの無人艦を次々と吹き飛ばしていく。その光景はまるで地獄の蓋が開いたかの様なものであり、サディアで漆黒の狩人と称された実力は伊達ではない事を示している。

 

 

「ahead!ahead!Go ahead!!!」

 

 

 戦線の穴を開けた途端、クリーブランドさん達ユニオン部隊四名は素早く飛び出した。前方をクリーブランドさんが進み、姉妹艦である3名が追随する様なフォーメーション。

 

 敵は当然こちらを仕留めようと狙いを定めてくるが、それをクリーブランドさんが巧みに舵を取り攻撃を誘導、そして回避しつつ反撃する。

 

 更に3名の砲撃も正確にセイレーンを貫いて撃沈させる。まさに三位一体とも言える戦闘スタイルは圧巻の一言。クリーブランドさんが囮役を務め、残り3名が主砲を的確に撃ち抜ていく。

 

 

「アネキ!右!」

 

「おっと!コロンビア!左に砲撃!」

 

「オーライ!モンピもフォローお願い!」

 

「了解」

 

 

 姉妹達は見事な連携でセイレーンを蹴散らしていく。紙一重で攻撃を避け、的確に相手を轟沈させ、更にそれぞれのフォローを行うチームワークは果たしてどれ程までに訓練と実戦を積み重ねてきたのか想像もつかない。

 

 彼女達の勇姿に一瞬、見惚れてしまうが意識を切り替える。敵に意志がないのは百も承知だが見間違えでなければグラーフの先制攻撃とクリーブランドさん達の奮戦で敵部隊の一部は完全に混乱している。そこを見逃すわけにはいかない。

 

 

「グラーフ!そのまま奴らの足を止めろ!鉄血艦隊全砲門開け!一気に敵を殲滅しろ!」

 

 俺の指示と共に鉄血艦隊は一斉に砲口をセイレーンへと向ける。ガスコーニュから放たれた三色の弾幕はセイレーンの部隊を見事に飲み込み、無慈悲な鉄槌を叩きつける様にして轟音を上げながら爆発を引き起こす。

 

 ヒッパーとシュペーから吐き出された砲弾がセイレーンに直撃、そして爆散したと同時に巨大な水柱を巻き上げる。無論相手も反撃を敢行しようとするが、その度にグラーフの艦載機達が妨害の為に機銃掃射を仕掛け、それを阻止する。

 

 

『指揮官、敵部隊の第二波が来る。私達も援護するよっ!』

 

 

クリーブランドさんがこちらに通信を入れると同時に彼女の姉妹達も呼応するかのように力強く声を上げる。

 

「ふっ、どうやら我々も暴れる時が来たようだ。さぁ、狩りの時間だ……と、言いたい所だが」

 

「そうだねグラーフ。敵の全滅は考えなくていい、戦線に穴を開けて撤退しやすくすればそれでいいんだ」

 

 

 確かにこの艦隊ならば敵の大艦隊相手にも引けを取らずに全滅させる事も出来るだろう。しかし、襲撃が何度も続いた場合弾薬が尽きてしまえばこちらがジリ貧になる。だからこそ相手の包囲網の一点のみに攻撃を仕掛け、一気に突っ込んで撤退をする事しか俺は考えてはいなかった。ゲストを最前線に配置した上での長々とした戦闘なんてまっぴらごめんだ。

 

 マンジュウ達に命令をすると彼らはピヨピヨと鳴きながら現状について説明をしてくれた。後数分で使い捨ての外付けロケットブースターが点火可能になる。それまで時間を稼ぎ、戦線に開けた穴を維持し続ければこちらの勝利だ。

 

 マンジュウが差し出した水で喉を潤すと再びマイクを手に取る。心を落ち着かせつつ、覚悟を決めて言葉を放つ。

 

『鉄血の同胞達よ!ユニオンの自由の戦士達よ!卑劣なセイレーンは我らの平和を望む想いを踏みにじり、今こうして攻撃を仕掛けている!これを許すか?否!!これは正義の戦いだ!一度は道を違えた二つの国が今まさに手を携えて人類全ての敵に立ち向かおうとしているのだ!』

 

 

 俺はここで大きく息を吸い込むと、更に大きな声で宣言する。

 

 

『後もう少しで平和を勝ち取る為の希望の灯火が爛々と輝く!ならば!やるべき事は一つ!奴らに砲弾をぶちかませ!!』

 

 

 普段の俺を知るグラーフ達は思わず吹き出しそうな顔をしているが、ニヤリと笑みを浮かべると。再び敵の排除に取り掛かる。クリーブランドさん達は一瞬呆気を取られて俺の声に驚いていたが、すぐに表情を引き締めると、 先程よりも激しい砲撃音が鳴り響く。

 

 

「なれない事はするもんじゃないけど……これでクリーブランドさん達も上手く説明してくれるかな?」

 

 

 どちらかといえば鼓舞と言うよりはそれぞれの陣営に向けての隠れたメッセージ。グラーフ達にはリラックスして戦えばいいと言う言葉を、そしてクリーブランドさん達にはこちらへの僅かに残っているであろう、この襲撃は彼女達を闇討ちする為に鉄血が仕掛けたという疑惑の払拭に繋がったと信じたい。

 

 

 セイレーンはこちらを取り囲もうと無人艦を展開させているが、マンジュウ達の報告によれば既に燃料の補給が完了しており、後は使い捨てのロケットブースターが点火されるだけとなっている。

 

 マンジュウ達は次々と報告をしてくれる。敵部隊の展開状況、現在の味方部隊の位置、そして現在戦闘中のクリーブランドさん達の状況まで。曰く全ての戦線は我らの優勢なり。囲まれつつあると言う絶望的な盤面からのスタートからここまで来る事が出来たのは、ひとえに皆の協力があってこそだ。

 

 

 レーダーにはグラーフやクリーブランドさん達が攻撃を集中したお陰で脱出ルート方面の敵がごっそりと減っており、突破口が見えてきた。

 

 

 イケる。そう思った瞬間だった。突如としてマンジュウ達が悲鳴のような鳴き声を上げる。

 

 

「っと!何があった!?」

 

 

 マンジュウが指し示す方向を見ると、そこには黒い影がゆっくりと浮上してくるのが見える。レーダーの上ではアンノウンと表示されており、正体は不明。ゴポゴポと海面から姿を現したそれは目視できる距離になると、その全貌が明らかになる。

 

 黒い髪とユニオンの先住民族の様な褐色肌。露出度の高い衣装に身を包んだ美女は巨大な艤装を身につけており、特に印象深いのは左に装備した巨大なシールドのような装備だ。距離の問題からか相手の表情はこちらは把握できない。しかし、レーダーの表示は突如として所属不明を示す黄色の点から点滅した方思うと友軍を示す青色の点に変化する。

 

 反応はユニオンの戦艦タイプ。レーダーを信じるのであれば味方ではあるが……それにしては色々と疑問点が多すぎる。

 

 何故突如と海面から現れたのか?何故普通に合流しなかったのか?なぜセイレーンとの戦闘中に姿を現したのか?そして何故───

 

 

 

 

『えっ…ダコタ?なんでこんな所に……』

 

「総員に告ぐ!気をつけろ、多分アイツは……!」

 

 

 

 

 ───こちらに通信の一つもせず、砲塔をクリーブランドさん達に向けているんだろうか?

 

 

「敵だ!!!ヒッパー!」

 

「分かってるてぇの!!」

 

 

 

 余りにも異質なソレはなんの躊躇いもなくクリーブランドさん達にその巨砲を向けるが、間一髪でヒッパーのシールドの展開が間に合い、爆音と共に衝撃波が周囲を襲う。

 

 耳をつんざくような金属同士がぶつかる様な甲高い音が周囲に響き渡る。ミシミシと空中に浮かぶシールドはあっという間に耐久限界を迎えたのかガラスが割れるような音を響かせて砕け散ったが、直撃コースは逃したのか明後日の方向で水柱を立てる。

 

 初撃を防いだとは言え、相手は冷静に次の砲撃の準備を行う、シュペーが放った砲撃は敵セイレーンの量産艦がまるで庇うかのように射線上に入る。

 

 

『な、なんで……ダコタ!?サウスダコタなんだろ!?なんで私達を!?』

 

「ヒッパー!ガスコーニュ!シュペー!グラーフ!セイレーン以外は攻撃はするな!『今は』相手の攻撃を避けて、受け流すことだけを考えるんだ!」

 

 

 クリーブランドさんの困惑気味に放った言葉の返答は、敵艦……サウスダコタの無言の砲撃であった。クリーブランドさんは咄嵯に攻撃を避けるがもし命中していれば確実に彼女は海の藻屑になっていたはずだ。つまり相手は明確な殺意や敵意を持って攻撃を仕掛けてきている。

 

 今この状況で早期終戦を望むユニオンが味方ごと鉄血を撃ってくる理由はなく、サウスダコタという人物はクリーブランドさんとの会話を聞く限り友人関係でもあるのだから個人的な復讐という可能性も皆無。つまり考えられる可能性は……。

 

 

「クリーブランドさん、冷静に、落ち着いて攻撃を避けながら俺の質問に答えてください。今、目の前にいる人物の正体に心当たりがあるんですよね?」

 

『う、うん……でも!ダコタがそんな事する訳…!』

 

『姉貴!落ち着いて鉄血の人の言うことを聞いて!鉄血の指揮官、私はクリーブランドの姉貴の妹のコロンビア!無理そうなら私も答えるから質問を続けて!』

 

 

 余りの事に余裕を失い激しく狼狽するクリーブランドさんの横に瓜二つの外見をした妹、コロンビアさんが並び立つ。他二人はシュペーやヒッパー達と残存セイレーンや今も苛烈な砲撃を続けようとするサウスダコタの足止めを行なっており、戦場は混迷を極めつつある中ゆっくりと相手に聞こえる声で通信を行う。

 

 

「それではまず一つ。サウスダコタが何か危険な宗教や怪しい団体に所属したり、危険な思想に傾倒はしてないですか?」

 

『え、えっと、それは大丈夫……と思う。仮にそうだとしてもダコタが友達を傷つける事なんてあり得ないよ!』

 

「ふむ……まぁそりゃそうか……なら次です。彼女は現在どの方面に配備されてます?」

 

『い、今はハワイで……指揮官達がタラントで暴れたから主力艦の殆どがユニオンの主要基地に呼びも戻されてるよ!だってつい最近ハワイで見たから!』

 

 

 二つの質問に深呼吸をしながらも二人は答えてくれた。つまりサウスダコタと呼ばれるユニオンのkansenは突然人類を裏切りセイレーンと手を組む可能性も皆無であり、現在ハワイに。そう、太平洋方面に配備されており大西洋であるこの場所に現れるという事も考えにくい。

 

 つまり最悪の可能性を述べればあのkansnnはセイレーンかロイヤルに洗脳されてこちらの敵になっている事になるが、それより考えられるのは……。

 

 

「指揮官、ちょっとキツくなってきたかも……!」

 

 

 考える時間もほとんど無いだろう、シュペーがそう話す通り明らかに量産型セイレーンはサウスダコタの登場によって動きが変わり始めている。逆奇襲を受けたと言うのに全く怯んだ様子もなく、むしろ戦意高揚しているようにすら見える。

 

 

「クリーブランドさん。単刀直入にいいます」

 

 

 マイクを握りしめる手に力が入る。今から俺は彼女に残酷な二択を突きつけることになる。もしもその選択肢を選んだ場合、彼女の精神にどのような影響を及ぼすのか分からない。外交的にも最早礼儀を選んでいる暇すらない。しかし、今の状況を考えるのであれば……恐らく───

 

 

「今貴方達の目の前にいるkansenは恐らく……敵セイレーンが生み出したコピーでしょう。相手に人型タイプのセイレーンがいる以上、kansenのコピーを作ってもおかしくありません」

 

 

 本当に最悪の想定はサウスダコタさんが相手に洗脳されて敵になっている事だが、あえてその事は口にしない。もしも口にした途端100%目の前にいる優しい彼女は混乱してしまうからだ。あくまで冷静に、相手の心に負担をかけずに選択させるべきなのだから。

 

『そんな……そんなのって……』

 

「でも、このタイミングで現れた事を考えると相手は最初から狙いを定めていたんでしょう。クリーブランドさん達を始末するために」

 

 

 それまで、俺の知る限り歴史的に現れた事のなかった新タイプのセイレーンと思われる存在。情報はあまりにも不足しており、ユニオンのkansenの姿をしている以上、会談を控えている鉄血艦隊としては一方的に敵として撃破する事は難しい。

 

 だからこそ俺は暫定的に現場のトップであるユニオン部隊の代表であるクリーブランドさんに決めてもらうしか無い。撃破をするのか、無理をしてでも捕獲するか、それとも相手を放置して撤退するか。

 

 それは責任の放棄でクリーブランドさん全責任をなすりつける事と同義だと思わず自身のしている行動に嫌悪感を覚える。それでもここで躊躇えば皆を危険に晒すだけだ。

 

 

 沈黙が戦場を支配する。その間も状況は刻一刻と変化していく。そしてサウスダコタの一撃がヒッパーのシールドによって再び防がれた瞬間、クリーブランドは覚悟を決めた表情を浮かべる。

 

 

「……いいや、やる、やるよ。なんで攻撃をしてきたのかは知らないけれど……流石に、これを放っておくことはできないから。鉄血艦隊と、姉妹達に告げる。アレは……サウスダコタじゃない!敵だ!敵なんだ!私達の仲間を攻撃する奴らは敵!だから……だから攻撃を開始する!」

 

 クリーブランドさんは迷いを吹っ切る様に叫ぶ。それと同時に彼女達と量産型セイレーンとの戦いが本格化する。先ほどまでとは明らかに違う戦いぶりを見せる量産型セイレーン達は次々と沈み始めていくが、その動きには仲間の姿を勝手に模倣した挙句、攻撃を仕掛けてきたセイレーンに対する怒りが満ち溢れているように思える。

 

 

 ユニオンの代表からの許可をもらった以上最低でもサウスダコタ(仮)を撃破してからでなければ戦場を離脱する事はできない。というか離脱した際に後ろから撃たれないようにガスコーニュ達は敵の射程の長い量産型を集中して破壊してくれていたが、安全に離脱する為にもあのサウスダコタ(仮)の撃破は絶対条件だ。

 

 

 交戦の許可を得て俺達鉄血艦隊も本格的な反撃に移る。量産型セイレーンの殲滅の為に動いていた皆は一斉にサウスダコタ(仮)を囲み攻撃を始める。ユニオン艦隊からの援護射撃を盾にしながら戦艦による砲撃を行いサウスダコタを牽制、同時にヒッパーの魚雷が命中するが相手は全く怯む様子を見せない。

 

 

「指揮官……この人、感情が全く感じられないよ。まるで機械みたいに感じるというか…」

 

 

 シュペーの魚雷が命中した瞬間、その片手の盾を使ってその攻撃を防いだサウスダコタ(仮)であるがその後も数多くの攻撃が集中しているというのに全く怯んだ様子がない。

 

 恐怖も、怒りも、高揚もなくただ目の前の俺達を殺戮する為の戦闘マシーン。ガスコーニュは感情を抑えて戦場に左右されない力を求められたいたが、ガスコーニュと違ってそもそも感情の機敏すら感じられないサウスダコタ(仮)は最早戦闘の為だけのロボットのようにすら見えてしまう。

 

 

 しかしユニオン所属のkansenの力をコピーしているからか動き自体は極めて高い水準だ。その砲撃は一度でも当たれば間違いなく中破以上の判定になるだろうし、盾で毎回防ぐ為か周囲から集中砲火を受けているというのにダメージらしいダメージも与えられていない。

 

 

「あーもう!周りも邪魔だっての!さっさと沈みなさいっ!」

 

 

 加えてイラついているヒッパーの言葉通り、サウスダコタ(仮)の前には彼女を守ろうとセイレーンの量産艦が盾になって前に出てきており、いたずらに弾薬を消費し続けるだけになりつつある。このまま馬鹿正直に砲撃を加えていても千日手だ。

 

 サウスダコタ(仮)の防御力は確かに高く、周囲の量産艦が盾になっている以上この状況を打破する為には相手の量産艦の攻撃を掻い潜り、尚且つ一撃でサウスダコタ(仮)に大打撃を与える必要がある。そんな無茶苦茶な注文に応じる事は……可能だ。

 

 

「全部隊に告げる!サウスダコタ(仮)に攻撃を続けても埒があかない!だから皆は量産型の相手に集中してくれ!そして……グラーフ!艦載機にぶつけてくれ!」

 

 

 グラーフはその一言だけで俺が何を望んでるかを理解してくれたようだ。まるで猛禽類のような鋭い目つきと共にグラーフの手が振り下ろされる。次の瞬間、周囲に展開されていたグラーフの艤装から大量の艦載機達が発艦される。

 

 

「全く、卿の指揮をロイヤルや整備士が見れば泡を吹いて倒れるかもしれないな……だが、だからこそ我は卿を気に入っている…!」

 

 大量に放たれた艦載機は本来爆撃や機銃掃射によって敵を削る事が目的であったが、近づきすぎれば対空砲による迎撃を受ける為にセオリー通りであれば相手の射程外から命中率の低い空からの攻撃を続けるのがグラーフの役目だ。

 

 

 

 しかし、彼女の行動はそんなセオリーを根本から覆す。

 

 

 

「全艦載機に告ぐ。狩猟の時間だ……攻撃開始……!」

 

 

 

 彼女の言葉と同時に複数の機体が一気に加速してサウスダコタ(仮)へ突撃を開始、それはまるで巨大な弾丸を思わせる動きで…… 艦載機からの射撃や爆撃ではなく、艦載機そのものによる体当たりを敢行する。

 

 

「ちょ、何してるの!?」

 

 

コロンビアさんが気でも狂ったのか?と言わんばかりの顔を浮かべるがそれも無理はない。側から見ると正気の沙汰ではない行動にしかみえないだろう。

 

 

 だが、艦載機による自爆攻撃はイラストリアスやピュリファイアーといった強敵相手に何度も繰り返した戦法だ。爆薬を満載し質量をもった戦闘機をそのまま敵に突っ込めばその際のダメージは計り知れない。仮に戦闘機に人が乗っていればこんな馬鹿げた戦法を使う事なんてできないだろう。

 

 しかし、艦載機を高価な使い捨て無人自爆兵器として割り切れば命中寸前までコントロールが可能な砲弾として運用する事ができる。何れは自爆攻撃専用の艦載機を、なんなら専用の飛翔体の開発をなんて事を考えていると、敵の対空砲を掻い潜った艦載機達が次々とサウスダコタ(仮)へと衝突する。

 

 ズドンッ!という衝撃音と共に装甲の一部が剥がれ落ちる。巨大な盾を構えるがその盾を掻い潜り無防備な背中や砲塔に次々と爆発が起きる。

 

 

 流石に無傷では済まなかったらしく、サウスダコタ(仮)はガクンっと体勢を崩すがグラーフが命じた自爆攻撃に躊躇はない。爆薬を満載にした艦載機の自爆攻撃は最早煙によってサウスダコタ(仮)が見えなくなったとしても突撃を止めず、そのまま質量攻撃の塊となったままスドン!ズドン!と鈍い音を響かせながら更に数発を連続して叩き込まれていく。

 

 

「……うわぁ……」

 

 

 ユニオン艦隊の面々は絶句してドン引きしている様に見えるが、その気持ちは理解できる。だけどこの戦法にはかなり有用な効果があった。というのも自爆攻撃を仕掛けた際に発生した爆炎により敵の視界を奪いつつ、対空砲による迎撃にさえ気をつければほぼ100%の命中率を誇るんだ。絵面がたとえ最高に酷いとしても、だ。

 

 

 「────」

 

 

 恐らく相手も最早これまでと理解したのだろう。最後にお前だけでも道連れにしてやると言わんばかりにグラーフに全砲門を向け、斉射を行うが…

 

 

「その程度でこちらを屠ろうなどと…舐められたものだな?」

 

 

 グラーフは全ての攻撃を余裕で回避、しかし相手もそれは承知の上だったのだろう。その両手で盾を構え、最後の力を振り絞るようにして突撃を仕掛ける。先程までの鈍重な動きとは打って変わり、凄まじい速度で距離を詰めてくるサウスダコタ(仮)に対して俺達の艦隊は迎え撃つ準備をする。しかし、最後の慈悲の一撃を決めたのはクリーブランドさんだった。

 

 

「確かにお前は強かったよ。でも、戦ってわかった。お前はサウスダコタじゃない」

 

 

 クリーブランドさんは無表情で艤装による体当たりを敢行しようとするサウスダコタ(仮)に向かい最後の一撃を喰らわせる。

 

 それはまるで水面に飛び込むかのように優雅な動作でありながら一切の無駄のない動きであった。そして次の瞬間にはサウスダコタ(仮)から距離を取り、彼女は再び主砲を敵に構える。

 

 

「私の知ってるサウスダコタは、そんなに積極的にバカスカ砲撃する事も、誰かを盾にする事もしなかった。その盾で誰かを守れると信じていたから。だから、お前は違う……!私はお前を否定する!」

 

 

 彼女の叫びと共に主砲から放たれた砲弾は寸分の狂いもなく盾を構えたサウスダコタ(仮)へ直撃する。しかし、サウスダコタ(仮)は未だ健在であり、盾こそ吹き飛んだもののサウスダコタ(仮)自身はピンピンしている。だが、その一瞬の怯みが致命的となる。

 

 

「兵装起動。目標、前方のkansenタイプ」

 

 

 クリーブランドさんの一撃で動きを止めたサウスダコタ(仮)に向かい、スキル発動の宣言を行うガスコーニュ。こちらの艦隊の最大火力である三色の弾幕が生成されたった一隻のターゲットに放たれる。

 

「排除、開始」

 

 

 無感情な言葉と同時に放たれた弾丸はサウスダコタ(仮)へ着弾し、巨大な爆炎が敵を飲み込んだ。サウスダコタ(仮)の周囲に展開されていた量産艦が巻き込まれて轟沈していきやがてサウスダコタ(仮)も限界を迎えたのか、爆炎に包まれたまま崩れ落ちていく。

 

 

「……バイバイ」

 

 

 燃え盛る火柱の中からゆっくりと沈んでいく友人と瓜二つのコピーを見て、クリーブランドさんはぽつりと呟く。

 

 

「ヴァイス。ダメだからね」

 

「あぁ、分かってる」

 

 

 ブースターを点火させるまでも無く、残った敵が撤退を開始する中シュペーは俺がサウスダコタ(仮)を助けようと海の中に飛び込む事を危惧したのか少し強い口調で俺に釘を刺さされ、静かに頷くと戦闘を終えた安堵感と共にガスコーニュ達にお疲れ様と声をかけると通信を切る。

 

 生き延びた。しかし、セイレーンが等々こちらのkansenと瓜二つの人型セイレーンを戦力としてこのタイミングでぶつけてくるのは色々とタイミングが悪過ぎる。一刻も早く対処しなければ……コピーと友軍を見分ける為にも。疑心暗鬼の種を根こそぎ焼き払う術を考えなければ。

 

 

 

 こうして、ユニオンと鉄血の数十年ぶりに行われた初の共同戦闘は幕を閉じたのであった。

 





 サウスダコタ(仮)

 今回いよいよ登場したkansenのコピータイプである駒と呼ばれる存在。セイレーンが鏡面海域で育て上げたグラーフやドイッチュラントの様に自我を持つ駒も存在するようですが大部分は自我もなく、戦闘能力だけをコピーした人型セイレーンと同じ扱いでありゲーム本編では駒タイプが現れる事も珍しくはないそうな。

 今作では『駒』タイプが現れるのはダイスの導きとはいえ歴史上初であり、ゲーム版のCWやテレビアニメ本編の様な今までkansenタイプのセイレーンが存在しなかったというのにこのタイミングで出現する事に。ある意味では陣営間を疑心暗鬼に陥れかねない最悪のタイミングでしょう。ちなみにダイス判定は実の所原作ダイスでは大艦隊戦が終えてからの強襲でありノベライズ版は大艦隊+駒襲来が同時に起きたという展開に改変されています。


dice1d10=10 (10)
1~3.無事到着!
4~6.とは言え入るのに待ち時間もあるのでお話でも
7~9.なんでセイレーンが来るの!
10.*おおっと*←ファンブル


dice1d10=9 (9)
1~3.ビスマルクが迎えに来ている…
4~6.あれ、556?
7~9.強襲←セイレーン戦
10.余燼


dice1d3=2 (2)
1~2.KAN-SEN型←確定
3.人型

dice1d4=1 (1)
1.ユニオン←確定
2~3.ロイヤル
4.鉄血


dice1d5=3 (3)
1.コロラド
2.無個性さん
3.ダコタ←確定
4.サラトガ
5.…なにあれ?(エンタープライズタイプの可能性もあり)

 この様な形でファンブルの結果この世界初の『駒』が引き起こされた事になるのでした。仮にこれがロイヤルの『駒』であると……ある意味ではユニオンの『駒』である事は不幸中の幸いと言えるでしょうね


・艦載機をぶつける

 イラストリアス戦やピュリファイヤー戦での教訓の結果艦載機を直接ぶつけるいわば自爆攻撃をそのまま戦法に加える様になったグラーフ。ユニオンの面々は何してるんだと引いていますが空母タイプのkansenを一撃で戦闘不能状態にするなど、蛮族戦法な見た目以外はかなり効果的な戦術です。何度もこの戦法で勝ち続けてきたグラーフや指揮官曰くいっそ使い捨てでこちらがコントロール可能な自爆前提の艦載機、もしくは飛翔体を開発すべきでは?とビスマルクに進言しようとしていますが将来的にはVで2なロケットなども作られるかも知れませんね。


 次回はビスマルクとクリーブランドや指揮官の会話から。この世界に現れたコピータイプのkansenを相手に会談が近づく中どう対処するのか…?

 コメント、感想、評価をお待ちしております。

指揮官の後世の評価はどうなる?

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  • サディアを救った救国の英雄
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