鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第七十二話 講和会議

 

 

 

 1941年5月27日。

 

 どの様な結果になるかはまだ不明とはいえ、確実に後の歴史書にその経緯が書き綴られる事になるであろうその日の天気は雲一つない快晴だった。穏やかな陽光に包まれ、海鳥達は優雅に空を舞い、海面は穏やかに波を打つ。

 

 会談場所であるデンマーク海峡に向かう最中、鉄血だけではなく様々な国のkansen達が自国の旗を掲げつつ、意気揚々。威風堂々とした姿で進む姿は正に決戦に挑む戦士の様だった。だが武装こそ施している彼女達が挑む場所は戦場ではなく平和の為の話し合いの場だ。

 

 

「……」

 

「指揮官、緊張しているの?」

 

「……そうですね。正直言って少し」

 

 

 指揮艦内の艦橋にて窓から見える景色を見ながら物思いに耽っていると背後から声を掛けられる。振り向くとそこには艤装を装着したビスマルクさんが鉄血の軍旗を片手に少し心配そうな表情を浮かべていた。

 

 

「今回の交渉、色々と気にかかる事は有るけど、まずは無事に終えましょう」

 

「そうですね……何事も起きなければ良いんですが」

 

「大丈夫よ。もし何か有ったらその時は私も戦うから。だから安心して」

 

 

 そう言いながらビスマルクさんは俺に近づくと、ゆっくりと手を差し伸べる。その手は一切の震えはなく、力強いものだった。

 

 

「ここまで、鉄血がここまで歩みを止めずに進んでこれたのは指揮官のお陰よ。感謝してもしきれないぐらい。だから……ヴァイスクレー・ヘルブスト。貴方はこれからも鉄血の為に尽くして欲しい。頼めるわね?私は貴方を信頼しているから」

 

「勿論です。どこまでも俺達は貴方の剣となって戦い抜きます。この身が朽ち果てるまで。そしてビスマルクさんがいつか自身を許すその日まで」

 

 

 差し出された手を握りつつ放った俺の言葉に、曖昧な笑みを浮かべつつ、ビスマルクさんは俺の手を強く握ってくる。俺にとっては当初は天の上の存在であったビスマルクさんだったが、今はこうして隣に立ち共に同じ景色を見つめる事が出来る。

 

 

 だが、ビスマルクさんは俺達と隣に立ちつつも、どこか別の光景を一人だけその目に写しているかの様に思えてしまうのだ。

 

 それはこの戦争を引き起こした自身に対する罪悪感。何よりも自身を許す事は出来ないという強い想いなのだろう。

 

 

 たとえ、この戦争が終わったとしても。俺達鉄血国民がどれだけ彼女が鉄血の為に尽くしてくれた事を感謝している事を伝えたとしても、彼女自身が自分自身を許し、そして解放されるには長い時間が必要になるに違いない。

 

 だからこそ、俺はそんな彼女の支えになりたいと思った。傲慢かもしれないが、俺の全てを掛けて彼女を救いたい。その想いを伝える様に俺は更に強く彼女の手を握る。

 

 

「諦めません。貴女が本当の意味で心から笑ってくれるその日まで」

 

 

 ビスマルクさんはその問いに答えなかった。一瞬だけ目を閉じると、固く握った手を放す。彼女が自身を許す日はいつくるのだろうか?明日?明後日?それともずっと先なのか。答えは出ないが、その日が来るまで俺は全力で彼女を支えよう。

 

 

 

 

 行こう、すべてを終わらせる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 大西洋と北極海の合間に位置するデンマーク海峡という地は、北極海から運ばれてきたであろう氷山のカケラがちらほらと見える氷点下に近い気温の土地だ。

 

 雪こそ降ってはいないものの、海風が吹き付けてくるこの海域を進む身体に突き刺さる寒さはかなりのもの。控えめに言って二カ国の会談場所としては不適切とも言える場所なのだが、それでもこの場所が選ばれたのは、お互いの国にとって都合の良い点が多いからだった。

 

 デンマーク海峡の北に位置するアイスランドは親レッドアクシズ寄りのユトランドの領地であり、南に位置するヤンマイエン島は親アズールレーン寄りであるスカンジナビアの領土。古来より戦争の勝者は敗者の領地で各種の終戦協定を進めていたとされているが、あくまで両勢力が納得した上での講話を結ぶのであれば中立の地であるこの場所が選択されるのも納得ではある。

 

 

 

「本当に寒いですわ〜……全く、こんな僻地で講話会議だなんてロイヤルも鉄血も気が狂っているとしか言いようがないわね。なんなら重桜は会談の為の場所を提供する用意があったというのに」

 

「この場所を指定したのはロイヤルです姉様。だからこそロイヤルは場所指定を強硬した事により、それ以外は鉄血が有利になる様にオブザーバーが全員鉄血の地で過ごす事になったのでしょう」

 

 

 

 重桜から派遣されたオブザーバーである赤城さんが不満を隠さずに、通信機にもわざと聞こえるかの様に変えてを出せば、その妹と思われる加賀さんが嘆息を吐きながらもフォローに当たる。

 

 

 わざとらしいやり取りではあるが、そのやり取りから重桜は今回の会談に関してロイヤルに不満や不審を抱いているぞと周囲にアピールしているようにも見えてしまう。

 

 実際、中立の地であるこの場所での会談はロイヤルのゴリ押しによって決められたものだ。鉄血が北桜同盟の領土や南米辺りの中立国。鉄血とロイヤルの領海付近の島々など会談に相応しい土地を他にもいくつか提案したそうだが、ロイヤルはこの場所以外の場所を認めようとはしなかった。

 

 だからこそ、オブザーバー達は鉄血にもてなされて有利な発言をする可能性もあると言うのに、全員鉄血に滞在する事を認めるなど鉄血にいくつかの譲歩などを行なっており、この条件を飲まなければ今回の会合には応じないと言い放ったのだ。

 

 これではセイレーンからの情報提供が仮になかったとしても、俺達はロイヤルを怪しんだのは時間の問題だっただろう。僻地でオブザーバー事ロイヤルが凶行に走らない様にいくつかの対策をビスマルクさんは行なってはいるが、最早ロイヤルがなりふり構わずにビスマルクさんを暗殺しようとする可能性は0ではない。

 

 この会談は果たして戦争のない未来を歩む為の第一歩となるのか、それとも血みどろの戦いの狼煙になるのか、それはわからない。ただ、俺達護衛役の鉄血艦隊は与えられた役目を果たすだけだ。そう、セイレーンだけではなくロイヤルネイビーも注意深く観察しなければ。

 

 

 やがて会談場所に到着すると、既に到着していたであろう獅子の旗を掲げたロイヤルネイビー所属と思われるkansen達が十人以上待ち構えていた。貴族のような装飾を施された衣服を見る限り、彼女達はクイーン・エリザベスからの信任を得た貴族階級の幹部クラスばかりなんだろう。その多くが鉄血艦隊を見つめているが、どこか隠し切れない敵意が感じ取れる。

 

 それもそうだろう。会談の数ヶ月前はドーバー海峡を俺達が挑発するかのように突破し、更にビスマルクさんはこれ見よがしにロイヤルに挑発をするかの様に大々的にロイヤルの怨敵である『救国の艦隊』の指揮官である俺に勲章授与も大々的に行なっている。

 

 

 逆の立場で考えれば、ロイヤルの面々がこのような態度を取るのは理解できるのだが……隠しきれない敵意の視線により思わず緊張で吐きそうになる胃を抑えつつ、前に進んでいく。

 

 ロイヤルネイビーと鉄血海軍。そしてオブザーバーの面々が相対する中、ある程度進むと向かい合う様にビスマルクさんは停止の合図を出す。

 

 

 

「……鉄血、到着したわ。さあ、始めましょう…ここが分岐点よ、未来がどうなるかの、ね」

 

 

 全周波への通信にそう送りながらもビスマルクさんは前へと進んでいき、それを合図にオブザーバーの面々もビスマルクさんを取り囲む様にゆっくりと前進を始めていく。

 

 

 

「さて、それでは我も行くとするか……」

 

 

 くくっと笑みを浮かべてと砂糖入りのコーヒーを飲み干したグラーフは艤装を展開させると、船の上から飛び降りて海へとその身を投げ出す。会談中は俺達護衛組は少し後方からその様子を伺えと命令をされているが、グラーフだけはビスマルクの横で常に警戒態勢を取って貰う為に一緒に行動する手筈となっている。

 

 当たり前だがグラーフの姿を見た瞬間、ロイヤルネイビーの多くは、隠しきれなかった敵意を露わにしてビスマルクさんに殺気を向け始める。流石にここで暴れる様な真似はしないと思うが、それでもピリついた空気が周囲を包み込んでいく。

 

 あのイオニア海海戦にてイラストリアスを撃破し、捕縛するきっかけを作ったグラーフはロイヤルにとっては屈辱を刻みつけた憎悪の対象とも言えるkansenだ。そんな彼女がわざとらしくビスマルクさん横で腕を組んで待機しているのだから、これが本当に講話会議を望む面々の姿なのだろうか?と言わんばかりのロイヤルの敵意と殺意が溢れていく。

 

 

 その中でも白いドレスとオリーブ冠を身につけているロイヤルの空母ヴィクトリアス……つまり、イラストリアスの妹である美女は今にも殺してしまいそうな程に鋭い眼光を俺達に、いやグラーフに向けている。

 

 

 しかし、姉であるイラストリアスの栄光を踏み躙り、世界に恥を晒した卑怯で愚かな悪女という風潮を広めるきっかけを作った俺達相手に殺意の篭った視線を向けるだけで済んでいるのは、やはりロイヤルの中でも上位の実力者と言うべきか。ヴィクトリアスは深呼吸して、なんとか自分を落ち着かせよう拳を強く握りしめている。

 

 対するグラーフも口元に薄っすらと笑みを浮かべて挑発的な表情をしており、クリーブランドさんがこれ本当に大丈夫なのか?と頭を抱える程度には、これから行われる会談には似つかわしくない緊張感が周囲を支配していった。

 

 

「じゃあ、主(メートル)。行ってくるね?」

 

「あぁ、頑張れよガスコーニュ」

 

 

 ガスコーニュはそんな険悪な雰囲気に少し怯えつつも、同じく艤装を展開させて海に飛び降りていく。ヴィシア側のオブザーバーである彼女は今だけは、俺達と別行動をしてクリーブランドさん達の横に向かわなければならないのだが、彼女は船から飛び降りた後も、こちらに振り返り、中々向かおうとはしない。

 

 

「ヴァイス、わかってるわね?」

 

 

 そんなガスコーニュの姿を見てヒッパーは俺に釘を刺す様に、もっと彼女を気遣えと言外に告げてくる。ヒッパーの言葉を痛感した俺は個別通信に切り替えるとガスコーニュに通信を入れる。

 

 

「……怖いか、ガスコーニュ」

 

「体温の乱れを感知。心音の増加を確認……うん、ちょっとだけ、でも、もう大丈夫だよ」

 

 通信越しのガスコーニュの声色は震えており、少しだけ恐怖が感じ取れる。無理もないだろう、彼女は感情に目覚めてまだ間もないというのに、互いに手を差し伸べながらも敵意と悪意と謀略が渦巻くこの場所でオブザーバーとしての役目を果たさなければならないというのだから。

 

 それでもガスコーニュは勇気を振り絞って俺の方へと振り返ると、手を指揮艦に向かって振りながら満面の笑顔を俺に向けてくる。

 

 

「主(メートル)……じゃあ、行ってくる。ガスコーニュの事、ちゃんと見ていてね…!」

 

「あぁ、任せろ。これが終わったらジャン・バールさんに君は頑張ってたと伝えておくからね?」

 

「うんっ!」

 

 

 素直にこくりと頷くガスコーニュはそのままオブザーバーであるチャパエフさん達の横に並び立つ。そこからは通信を切っているので彼女達が何を話しているのか分からないが、チャパエフさんもクリーブランドさんもガスコーニュに向かって微笑んで会話をしており、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 ガスコーニュがロイヤルからの敵意だけではなく、他国の子達と和やかに会話をする姿を見ているとこちらまで安堵してしまう。彼女には沢山学んでほしい、他国のkansen同士であっても敵意や欺瞞など無しに分かり合えるんだと。

 

 神を信じないコミュニストであるチャパエフさんが、宗教国家の重鎮の妹であるガスコーニュの頭を撫でている姿を見ていると、それは決して不可能ではないと思える。

 

「戦争、終わるといいね」

 

 

 そんなガスコーニュを見ながらシュペーはそう呟く。ガスコーニュと特に仲が良い彼女は期待を込めながら言葉を放つ。自身の生体艤装を優しく撫でるとグルルと嬉しそうな声を上げている。

 

 

「まあ、まずは目の前の問題を片付けなきゃな……マンジュウ達も焦らずに警戒を怠るなよ」

 

 

「「ピヨっ!」」

 

 

 シュペーの本心からの言葉に頷き、マンジュウ達の敬礼を受けながら、俺は目の前に広がる光景に意識を集中させる。ロイヤルネイビー、そして鉄血海軍双方使者は一定間隔の距離を取りつつも互いに牽制し合う様に前進

していく姿を目を離さずに見つめ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「分岐点……ええ、たしかにここは分岐点でしょう…私達にとっても、あなた達にとっても」

 

 

 

 オブザーバー達が見守る中、睨み合う鉄血とロイヤルのkansen達。その後ろに控えていたのか自嘲するかの様な声と共にロイヤル側の代表者である摂政フッドが姿を見せる。

 

 平和に向けた話し合いをする必要があるというのに、今この瞬間にも殺し合いを始めてもおかしくはない状況。

 

 

 最早何処かの世界の様に、一度全てを水に流して共通の敵や内通者を撃とうとするだなんて、まず不可能であると断言しきれる程に、両者の溝は余りにも深くなっている。

 

 彼らは自身の意志でこの道を歩んだのだ。手を繋ぎ、両陣営同士が仲良くなるという未来は最早あり得ない。しかし、同時に最後の一線を越えないが為の妥協点を探るべく。最良のハッピーエンドではなく少しでもマシなベターエンドを望みながら、互いに歩み寄ろうとする姿勢を見せる。

 

 

「出来れば、有意義は話し合いが出来る事を祈っておりますわ」

 

「それは、こちらも同じよ。我々は『平和』を望んでいるのだから」

 

 

 お互いが一歩ずつ、距離を取りながら近づく。そしてロイヤル側の駆逐艦フォックス・ハウンドに軽巡アリシューザ。全ての始まりとも言える『メルセルケビール海戦』に参加をしていた者達が恐る恐る、ロイヤル側の要求が書かれた冊子をオブザーバーやビスマルク達に配っていく。

 

 

「……どうぞ」

 

「……ヴィシアを挑発しているのかな?君達は?」

 

 

 指揮官ヴァイスクレー・ヘルブストが軽巡アリシューザから冊子を受け取る際に、思わずそう皮肉を漏らせば、ピクリとアリシューザは怯えるかの様に震える。

 

 メルセルケビールに参加をしたフォックスハウンドとアリシューザの事は指揮官も調べており、わざわざそんな面子を冊子を配る係として彼女達をロイヤルは選んだのだから、ダンケルクの姿が頭によぎった彼は思わずそう皮肉を口にする。

 

 

(まぁ、それは俺達を連れてきた鉄血側が言えるものでもないんだけどね……それにアリシューザの反応を見る限りあの怯え方はこちらが怖いと言うよりは罪悪感によるものかな?)

 

 

 同時に無言で震えながら冊子を受け渡し、再びロイヤル側に戻っていくアリシューザの反応を見る限り、その言葉の裏にある感情を指揮官は見抜く。事実、メルセルケビール海戦はどの様な美辞麗句や大義名分を並べようとも、国家の利益の為に行った物量と暴力を伴う卑怯なロイヤル側の侵略行為そのものだった。

 

 故にロイヤルの正義を掲げる事こそが正義であると考えている者達にとって、例え『再現』という裏の事情や必死のクイーン・エリザベスが未来を掴むための覚悟に同調していたとしても、あの戦いは女王の栄光の為に戦う多くのロイヤルの面々に深い影を落としており、一種のトラウマを植え付ける結果となった。

 

 今でもアリシューザはあの戦いで傷つきながらも高潔に立ち向かい、こちらを睨み付けるダンケルクの表情を思い出してしまう。しかし、ヴィシア側のオブザーバーがその様な事を気にしないガスコーニュであった事はある意味では幸いなのだろう。

 

 

 指揮官は冊子を受け取りつつ、一瞬のアリシューザの反応から抜き取った情報を後でビスマルクに伝えようと思いながらも冊子に目を向け、金色の獅子の刺繍が施された赤い表紙を捲り、内容に目を通す。

 

 

 

「これは……」

 

 

 

 しばらくの間、護衛やオブザーバー達は配られた冊子を黙々と目を通していた。読み進める事にその表情は固くなっていき、特にサディア側のオブザーバーであるジュリオ・チェザーレに至っては怒りを通り越して呆れ果てていた。

 

 

「……フッド卿」

 

「なんでしょうか?グラーフ・ツェッペリン様」

 

「単刀直入に問おう、ふざけているのか?」

 

 

 冊子を読み終えた皆の心情を代弁するかの様にグラーフは口を開く。冊子の内容、それはあまりにもロイヤル側に都合の良い内容だった。

 

 あくまで講話というものは妥協点を見出し、可能な限り平和的な解決を望む為の手段。紛争状態を解決する為にいわば落としどころを、これなら両者が受け入れられるという妥協点を話し合う為の物であるはずなのだが……。

 

 

「即刻捕虜を全て引き渡し、サディアからマルタ島を返還させ、レッドアクシズ内で結ばれた同盟を破棄。更にセイレーン研究の破棄にアズールレーン側の駐留軍を認め、我や指揮官を引き渡した上にビスマルクが公の場で謝罪し、植民地の割譲に賠償金まで支払えと?お前達は我らが無条件降伏したと勘違いをしているのか?」

 

 

 あまりの要求に思わずグラーフは声を上げる。交渉の際に最初はふっかけてくるのは常套手段ではあるが、余りにも自分達の優位を過信した傲慢な要求。最早これは交渉ではなくただの脅しに過ぎない。ダンケルク達に突きつけた要求が遥かに可愛く見える程に。

 

 

「そう思われても仕方がないでしょうね。ですが、こちらには余裕が無いのです。今の我々は『最低』でもこれら全ての要求を求めてようやく国民が納得するのですから」

 

 

 フッドが手を握り締めながら呟けば、それを見た他のロイヤルのkansen達も悲痛な表情を浮かべる。ロイヤルは余りにも追い詰められ過ぎた。世界からの外交的な評価は指揮官暗殺未遂事件の顛末であるビスマルクによる暴露によって失墜し、最早クイーン・エリザベスの名は卑怯者、愚か者と示された烙印と共に歴史に深く刻みつけられるだろう。

 

 最早ロイヤルネイビーは、ロイヤルのkansen達は国民からの信頼すらも失いかけている。だからこそ、ここで引いてはならない。こんな無茶苦茶な要求を鉄血が受け入れるはずが無いと思いつつも、現在ロイヤルの置かれている状況を説明する為にこれ程までの要求を行ったと暗に示す。

 

 

 そして、ある程度は鉄血側も譲歩しなければこの講話を受け入れず、ロイヤルは無傷な戦力と共に攻勢を開始するだろうとビスマルク達は理解する。

 

「貴方達の置かれた状況は理解したわ。とは言えあくまでこの会談は鉄血とロイヤルが出来る事ならば和平を結ぶ為のものであってレッドアクシズとアズールレーン全体によるものではない。ヴィシアやサディアへの内政干渉としか見られない提案は絶対に受け入れられないという事だけは伝えておきましょう」

 

 ビスマルクはチェザーレと目配せをしながらそう語る。チェザーレの瞳には、何処の世界に当事者ではない無関係の二カ国による取り決めで国家の命運を勝手に決められる国があると言わんばかりにロイヤル側を睨みつけていた。当然ロイヤルもそれは解っており、内心では冷や汗を流しながらも毅然と無視をする。

 

 

「オブザーバーとして言わせてもらうけど、流石にこんな要求を鉄血が無条件で飲むわけないでしょう」

 

 

 北方連合側のオブザーバーであるチャパエフが静かに口を開けば、ユニオン側のオブザーバーであるクリーブランドが同調する。一方でアイリス側のベアルンと重桜側の赤城・加賀はそんな彼女達の様子を見守りつつも無言で状況を見守っていた。

 

 

「賛成。チャパエフの言う通りまずは妥協点を探さないと。だからユニオンとして提案させてもらうけどまずは鉄血側も冊子を用意している訳だし、取り敢えず互いの要求を全部ぶつけてみるべきじゃないかな?」

 

 明らかにレッドアクシズ側がロイヤルの要求の冊子を見てから不満を抱いているという空気を勘付いたのだろう。クリーブランドはこのままでは皮肉の応酬になりかねないと間に入り、まずは話し合いの土台を作り上げようとする。

 

 

 そんな会議を円滑に進めようとする彼女やチャパエフにビスマルクも内心感謝しつつも、軍旗を握り締めながらビスマルクはグラーフに合図を送る。

 

 するとグラーフはパチンと指を鳴らし、途端に空から艦載機の編隊が姿を現す。その数は二十機ほどであり、その艦載機の多くは……。

 

 

「貴方、達は…!」

 

 

「落ち着けヴィクトリアス…!」

 

 

 我慢できなかったのだろう。ヴィクトリアスは思わず戦闘態勢を取ろうとするも、慌てた様子のアークロイヤルによってその手を制される。

 

 だが彼女が怒り狂うのも当然だろう。なんせグラーフが使用した艦載機は雷撃機ソードフィッシュや爆撃機フルマー……そう、元はイラストリアスやイーグルが使用していたロイヤル側の艦載機を鹵獲した物ばかり。それらの両翼には鉄血の艦載機である示す黒い十字架がペイントされており、ヴィクトリアスからすれば姉の大切な艦載機をこれ見よがしに鉄血が汚した上で見せつけているとしか思えないのだから。

 

 

(全く……面倒くさいですわ。皮肉の応酬で相手を煽る事に全力を尽くすだなんて、彼らは本当に和平する気はあるのかしら?)

 

 

 思わず赤城が鉄血とロイヤルの両陣営に呆れつつ、冷めた目で見つめているが、やがて彼女達の元にグラーフの艦載機が一機減速をしながら何かを落とす。

 

 

 それを全員器用に手にとれば、それは巻物の一種であり、ロイヤルの豪奢な装飾とは違いシンプルな黒地に赤い十字が描かれたものだった。

 

「……これが鉄血の要求が書かれた要望書よ。少し長くなってしまったけれど……説明するより見てもらう方が早いわね。確認して頂戴」

 

「……かしこまりました」

 

 フッドはビスマルクに軽く頷くと他のオブザーバーや護衛の面々と同じく巻物の封を切って中の文を確認する。その表情は真剣そのもの、彼女は今から自分が読み上げようとしている文章の一つ一つを確認しながらゆっくりと読み始める。

 

 その要望の数は200以上にも渡り、どれだけ鉄血がこちらに吹っかけようとしているんだと恐る恐るロイヤル側は確認していく。しかし、その要望書に書かれていたものは余りにもシンプルな要求ばかりであった。

 

 

「ビスマルク…貴方は」

 

「ロイヤル。私達が貴方達に求めるものはたった一つ。その数百に及ぶ要望書は全て、その一つの要求の抜け道を消す為だけに過ぎない」

 

 

 やがて、フッド達が読み終えた事を確認すればビスマルクは帽子を目深に被り直し、鋭い眼光を覗かせながら口を開く。最早ここまで来ればロイヤルも鉄血の真意を理解するしかない。そう理解させるだけの力がその要望にはあったのだ。

 

 

 

 

「我々がロイヤルに要求するもの。それは……ロイヤルがセイレーン技術に関わる事への研究・調査・開発に関する一切の権利を放棄する事」

 

 

「…………」

 

 

「この要求の意味を理解して貰えたかしら?ねぇ、我々のセイレーン技術に関する研究を散々非難し続けてきたロイヤルネイビーの諸君?」

 

 

 ビスマルクがそう口にすると同時に、指揮官の横で、セイレーン技術を満載した、自立型労働用ロボットであるマンジュウがピヨッと賛成するかの様に声を上げるのであった。

 

 

 







・ロイヤルの要求

 余りにも強欲過ぎると思われかねませんが、ロイヤルにとっては今回の戦争で失うものは多過ぎました。国民からの信頼を勝ち取る為に最低限戦前の状況に戻すという現状維持ではなく白紙講話を。出来るのならば鉄血にも更に譲渡を引き出さなければ最早後がない。めちゃくちゃであると皆に思われても要求せざる得ないのが現在のロイヤルの立場と言えるでしょう。


・鉄血の要求
 対する鉄血の要求はロイヤル側が一瞬「こんなに!?」と驚く程の量の要求が数百以上巻物に描かれていますが、それらはすべてロイヤルがセイレーン技術の研究に関わる事を感じる事ばかり。例えばロイヤル出身者によるスパイ活動や第三国での共同研究、名義を変えたペーパーカンパニーによる開発や買収など徹底的なまでにロイヤルが一切セイレーン技術に関わってはいけない。関われば査察団の派遣や、それでも納得しなければ宣戦布告も時辞さない程に鉄血は苛烈な報復を行うという事が書かれていました。そんな鉄血の真意とは如何に……


・赤城の感情

 どちらかといえば重桜は皮肉を言い合うよりは、礼儀に隠された本音のぶつかり合いによる話し合いばかりを行っている為か、こいつら何講和会議で互いに煽りあっているんです?本音で話し合えた長門様や金剛との会話が懐かしいですわと目のハイライトが消えており、この会談が何事もなく終了すれば確実に金剛や長門への態度が少しだけ軟化する事でしょう。因みに裏設定では本来は金剛や三笠が派遣される予定でしたが、元ロイヤル出身でもあるこの二人を派遣するのは中立の立場であるオブザーバーとしてはダメなのでは?と長門が、赤城と加賀に変更したというのが真相です。

・指揮官の現状
 グラーフ以上にロイヤルの感情を逆撫でするなど、余計な事をやりかねないので現在は待機中。とは言えアリシューザの反応を見て勝手にマインドリーディングじみた事をやり始めて情報を取得しているのでビスマルクの選択は間違っては居なかったでしょう。



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指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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