「そろそろ時間ね」
美しい、燃えるような赤毛を指で弄びながら、サディア帝国に所属するkansenザラは時計をしながら静かに呟いた。
その周囲にはニコニコと微笑みながら鉄血海軍に所属する特別計画艦であるフリードリヒ・デア・グローセが花柄のエプロンを着用し、マフィンにジャムを塗りながらリラックスした様子でザラの言葉に頷いており、逆にヴィシア聖座の事実上の代表者であるジャン・バールは油断ならないといった様子で手を組んでいる。
ここはヴィシア聖座に位置する海軍基地であるトゥーロン港の会議室。窓の外を見渡せばセイレーン技術を満載したと思われる鹵獲艦や、その技術を参考に作られたと思われる独自の新型量産艦がずらりと軍港に停泊しており、その横にはサディア帝国、ヴィシア聖座の量産艦も存在しており、まるでレッドアクシズの軍艦見本市のような光景を作り出していた。
現在デンマーク海峡でビスマルクやフッド達が講和会議に挑んでいる中、何故彼女達がこの場所に訪れているかと言えば、最悪の事態を恐れている事に他ならない。
会談が決裂し、もしもロイヤルが各国のオブザーバー事ビスマルク達を血祭りにあげようとした場合、ロイヤルは同時に本格的な軍事行動を起こす可能性は高く、それを阻止する為に。そして、ロイヤルへの報復戦に備えて地中海の出入り口であるジブラルタル基地を攻略する為の戦力として彼女達は集結していたのだ。
無論、その様な暴挙をロイヤルが行わない事をこの会議室に集う軍人達は祈ってはいるが、現在のロイヤルネイビー。いやクイーン・エリザベス達は最早後が無いと断言出来るほどに政治的にも軍事的にも追い詰められている。
追い詰められた獅子は死に物狂いで牙を剥いて暴れる可能性がある。その可能性の芽が1%でもあるのならば、彼女達はその対策に動かなければならないのだ。
「ビスマルク達なら大丈夫よ。あぁ見えて彼女は最前線で何度も軍功を積み重ねてきた歴戦の猛者。それにボウヤ達が護衛しているのだから、例えロイヤルが暴挙に出たとしてもきっと護りきれるわ」
マフィンにジャムを塗り終えたフリードリヒは一人の指揮官を頭の中に思い描きながらそう口にしてザラにマフィンを差し出す。口に含めば素朴な味ながらも、どこか懐かしさを感じさせる優しい甘さが口いっぱいに広がり、思わずほっと息を吐く。
そんなザラの様子を見ながらフリードリヒもまた満足げに笑みを浮かべるが、そんな和やかな二人の雰囲気とは対照的なジャン・バールは険しい表情でラジオから流れてくる放送に耳を傾けている。
「おい鉄血の」
「あら?どうしたのかしら?マフィンが食べたいのならいくらでも───」
「いらん。それよりビスマルクに伝えとけ。レッドアクシズ内で先走るな、事後報告ではなく予めもっと早く使者を派遣して情報共有を徹底しろとな」
「ええ、分かったわ。確かに急な報告でそちらに迷惑をかけた事は確かね。ビスマルクに代わって謝罪するわ」
軽く頭を下げるフリードリヒにジャン・バールはふんっ……と鼻を鳴らす。
「サディアは実利を得て、ヴィシアは立場を得て、鉄血はロイヤルの未来を奪うか……」
「全く。ビスマルクもあんな顔してやる事がエゲツないわね。まぁ30万人の民間人を強制追放したウチにそんな事言う資格はないのだけれど……」
ジャン・バールとザラは鉄血を、ビスマルクを敵に回さなくて良かったと心の底から安堵する。この講和会議にて鉄血は幾らでもロイヤルから賠償金や領土割譲を望む事が出来たというのに、鉄血が求めたものはロイヤルへの過剰なまでのセイレーン技術研究の禁止だけだ。
レッドアクシズとアズールレーンが戦争状態に陥った理由は多くあれど、1番の意図はセイレーン技術研究におけるスタンスの差。ロイヤルは鉄血のセイレーン技術研究を長年非難しており、アズールレーン所属国家の中でも、もっとも常日頃から危険なセイレーン技術ではなく、精錬なる人類の叡智こそが、世界を救う術であると口にし続けている。それがロイヤルの首を絞める事に繋がるだなるだなんて誰が予想出来たのだろうか?
「圧倒的な破壊を渦を生み出す戦術兵器、今後は戦略兵器になりかねないブラック・キューブをユニオン、北方連合、重桜に譲渡する事による『相互確証破壊』による平和。ロイヤルがブラック・キューブを研究させない為の戦後社会を見据えている様だけど本当は……」
ザラがそう口を開こうとした途端、パタンと扉が開き。ピヨピヨと可愛らしい声を上げながらヒヨコ型のロボットであるマンジュウがケーキやバター菓子を両手一杯に抱えながら現れる。そんな彼らの頭を撫でつつバター菓子を手に取りながら、ザラはこう呟く。
「この子達が、世界の命運を左右する存在になるだなんてね?全く鉄血は───」
「とんでもないものを開発したと思わないか?ソユーズよ」
吹雪がP・カムチャッキー基地を覆い尽くす中、巫狐服を身につけた重桜の代表者である長門が、同盟相手であり、個人的な友情も深めている北方連合の陣営代表ソビエツキー・ソユーズに向かって口を開く。その視線の先には、鉄血から譲渡されたマンジュウが二人に向かってピヨっと鳴きながら緑茶と羊羹を差し出していた。
「掃除、洗濯、家事といった家庭的な作業だけではなく、銃を装備すれば優秀な兵士となり、通信機を装備すれば優秀なオペレーターになる事も出来る。単純作業も精密作業もお手の物……」
「それでいて、学習AIによって経験を積む毎に様々な知識や能力を得る事が出来、自己判断機能に優れており、常に最善の行動が選択可能。更に安全装置を備えているから……いや、忠誠心の塊だからこそ裏切る可能性も皆無な、まさに理想的な労働力と言えるでしょう」
ヒヨコ型労働用ロボット『マンジュウ』という存在は鉄血海軍にとってはトップシークレットであり、イオニア海海戦の以前は同じレッドアクシズの国々にすらその存在を秘匿していたのだが、それもその筈だろう。
裏切らず、眠らず、文句も言わず、黙々(ピヨピヨと鳴き声は放つが)と命令に従ってくれる最高の労働力。正に人類の夢である労働からの解放を叶えてくれる救世主と習える存在は最早人類の歴史におけるシンギュラリティ(技術的特異点)に等しいと言えるのだから。
現段階ではコストという問題が存在するものの、量産が進めば価格の問題も解決される、例えば国営として集団農場でマンジュウ達を働かせれば国民に負担をかける事なく、食糧の安定供給が可能となるはずだと共産主義者であるソユーズはその理念の実現への第一歩に繋がると確信していた。
「鉄血はブラック・キューブと共にマンジュウの購入とライセンス生産を私達に認めましたがその条件は、オブザーバーの派遣とロイヤルへの、この二つの技術流出の絶対的な阻止協力」
「いわば、ロイヤルとその影響下にある国々や植民地にはこうして今、大々的に発表しているマンジュウを一切使わせない事による国力の低下を望んでいるのであろう。労働力であるマンジュウ有無は間違いなく国力に影響下にを与える。果たして数十年後、ロイヤルは果たして列強の地位を維持出来ているのかどうか……」
鉄血はロイヤルを完全に潰すつもりなのだろう、と重桜と北方連合の陣営代表は互いに目配せを行う。セイレーン技術の塊であるマンジュウの使用を禁じられたロイヤルは積極的に社会福祉や国営農場の経営に使用する国々と比べてまず間違いなく弱体化するだろう。
それを不満に思った国民の国外流出という可能性も考えられるだろう。戦争で相手を叩き潰すのではなく、相手の力を削ぐ遅効性の毒。それまでレッドアクシズのセイレーン技術を否定し続けたクイーン・エリザベス達は自らの手でその喉を締める事になってしまったのだ。
「全てはあの『指揮官暗殺未遂事件』が原因か……あの事件の結果、鉄血は決意したのだろう」
「英雄『ヴァイスクレー・ヘルブスト』を銃撃したロイヤルを、二度と立ち直れない程にじっくりと弱体化させると。その為ならば無償で我らだけではなくユニオンにすらブラック・キューブを差し出す程に」
──我が同胞のために鉄血の力とならん事を。
同胞との絆を何よりも重視する鉄血の逆鱗に触れたロイヤルの未来を予想するだけで二人は重い空気に包まれるが、鉄血からの技術・軍事支援と引き換えに要望を受け入れた以上、今ロイヤルに手を差し伸べる訳にはいかない。最早ロイヤルは全世界の主要国から会談を前に見捨てられていたのだ。
ロイヤルと鉄血の会談が始まる時間帯に狙ったかの様に発表された鉄血の広報によるマンジュウのお披露目をラジオ放送で聴きながら、彼女達の脳裏に宿ったのは鉄血の絆、そして、同胞を傷つけた者に対する、炎の様に燃え盛るまでの怒りと、凍絶された北方連合の大地に吹き荒ぶ吹雪ですら生ぬるい、陰湿なまでの冷たい瞳であった。
「この要求の意味を理解して貰えたかしら?ねぇ、我々のセイレーン技術に関する研究を散々非難し続けてきたロイヤルネイビーの諸君?」
ビスマルクがフッド達にそう言い放つとほぼ同時に、ロイヤル側も現在鉄血が本国にて大々的なマンジュウの発表を行なっているという情報が届き、苦虫を噛みつぶす様な表情を浮かべる。
彼女達はクイーン・エリザベスの側近中の側近ばかりの幹部達であり、その能力の高さは戦闘面以外も折り紙付きだ。だからこそ、嫌でも鉄血側の策略を全て理解してしまったと同時に、最早この会談は始まる前からロイヤルの敗北に傾いている事に気が付いてしまった。
「とりあえず、こちらの要望は先に告げてある通りよ、レッドアクシズのセイレーン技術に関する研究及び、試験と開発の認可とその件に関する不干渉。更にロイヤル側は今後一切セイレーン技術に関する研究・試験・利用・開発といった一切の権利の放棄。それが鉄血が望む講話の為の絶対条件で曲げるつもりは一切ないわ」
ビスマルクは冷徹な口調でそう言い放つ。
「この状況……どう切り返すからは好きにしてみなさい。我々がそれまでロイヤルに味わった屈辱と被害を考えればかなり穏便かつ、妥協的である事をお忘れなく」
一切の妥協も認めない。
一切の躊躇も許さない。
一切の情けをかけない。
一切の温情など与えず。
一切の慈悲も無い。
目でビスマルクはロイヤル側の使者達に語りかけ、フッド達がオブザーバーの面々を見渡せば困惑するベアルン以外のオブザーバー達は、表向きはこちらの味方であるクリーブランド達も含め、今は口は挟まないと言わんばかりに状況を見守っている。
フッドは副案を抱えつつも、喉がチリチリと焼け付く感覚に襲われる。手の汗は酷く滲んでおり、自身の発言や行動によってはロイヤルの未来に光を失う。そんな重圧感に心は押し潰されそうになる。
「難しいと……言わざる得ませんわね」
沈黙の後、ゆっくりと、絞り出すかの様にフッドは焦りを隠しながらもようやく口を開いた。
「難しい?難しいと?それまでセイレーン技術を研究し、毒を持って毒を制すると人類種の敵に対抗しようとした私達鉄血に罵詈雑言を吐き続け、何度も、何度も私個人に人類を集団自殺に巻き込むマッドサイエンティストなどと、人格を否定するかのような言動を繰り返してきた貴女達ロイヤルの第一声が難しいと言わざる得ない?」
ビスマルクは絶対零度の視線を浴びせながら冷徹に皮肉を口にする。それまでのロイヤルの言動は全て覚えている、なんならセイレーン技術を否定してこちらを罵倒したクイーン・エリザベスの演説のテープを今から見せるぞと言わんばかりに睨みつけるが、仮に否定したとしても用意周到なビスマルクは間違いなく、その用意もしているであろう事を伺わせる。
「我々が難しいと言わざる得ないのは、その条約を結んでしまえば何処までも鉄血は悪用可能である事を自覚して欲しいのです。例えばパンにセイレーン技術が使われていると言えばロイヤルは今後一切パンを食べられなくなりますし、石油もセイレーン技術と問われればこちらの文明は旧世紀に逆戻りです」
それでもなおフッドは必死に言葉を絞り出し反論を行う。最早それは負け惜しみの様であり、既に手遅れな事も承知の上だ。
「何をもってセイレーン技術と認定するべきか。それに関しては既にその講話草案の59項目に書かれている通り、我々レッドアクシズが一方的に認定するのではなく中立である重桜・北方連合のどちらかに調査隊の派遣を依頼すると書いているわ。彼らなら公平かつ公正、第三者の視点からの調査を行ってくれるでしょう」
五月蝿い巻き込むな、面倒くさいと一瞬赤城がビスマルクに思いっきり嫌そうな表情を向けたがチャパエフは静かに状況を見守っている。調査隊は中立どころかアズールレーンに所属する国家が派遣するのだからむしろロイヤルに本来は有利になるはずなのだから、鉄血が譲歩をしているという言葉に嘘偽りはないだろう。
尤も、直前にロイヤルが国内でレッドパージを行い。北桜同盟との関係は既に貿易停止に至る程に悪化している事など、この会談に参加するメンバー全員が知っている事なのだが。
そして、ロイヤル側は既に最重要機密であるブラック・キューブの情報こそ掴めなかったが、実の所マンジュウの情報に関してはスパイであるシェフィールド達によって既にある程度の情報を手に入れており、今更ながら彼女達が鉄血側の捕虜となってしまった事が悔やまれる。
鉄血側は既にシェフィールドが本国に輸送しようとしていたアタッシュケースの中身。それはマンジュウに関する報告書やマンジュウに使用されていたと思われる部品などであり、労働用ロボットであるマンジュウについては既にロイヤル側も把握していた。
しかし、ロイヤル側は知らない素振りを見せるしかない。でなければ、なぜマンジュウに関して知っていたと全世界から集められたオブザーバーの面々の前でスパイ活動をしていたと認める事になってしまうのだ。
条約を認めて仕舞えばロイヤルはエウロパ大陸から孤立する。それまで中立であった国々もセイレーン技術を目当てに、レッドアクシズ側に鞍替えしかねない。何を口にしてもそれまでの発言がブーメランの様にロイヤル側へと跳ね返るのを理解させられ、凶行へのカウントダウンとなるスイッチを本気で押したくなる程にフッドは追い詰められていた。
どちらも後がなく、どちらも譲れない。そしてこの会談が流れてしまえば本格的なレッドアクシズとロイヤルによる全面衝突が始まりかねない。
クイーン・エリザベスにより『副案』を行う為の最終判断を任されていたフッドが最早これまでなのか?と半ば諦めかけた時、ビスマルクはパチンと指を鳴らしながら口を開いた。
「無論、我々の要求は妥当とは言え、妥協点は幾つも用意しているわ。先ず一つは…こちらの新設基地への爆撃未遂の件について」
指の合図と共に待っていたと言わんばかりに、指揮官ヴァイスクレー・ヘルブストと、その部下であるシュペーやヒッパーが縛られた数名の人々を乗艦の船首に連行しており、オブザーバーもこれに関しては一切聞かされていなかったようで興味深い様子で見つめていた。
真っ先に船首に立たされた人物を見てロイヤル側は半数は絶句し、もう半数は鉄血の行動に殺意の籠った目を向けるがビスマルクはそれを全く気にせずに話を進める。
「彼女の名はイーグル。こちらの新基地であるキール第三基地を中心に爆撃を行い、キールの街を火の海にする事を目論見、グラーフ・ツェッペリンの暗殺を行おうとしたロイヤルネイビーに所属する特務部隊の隊長よ」
縄で拘束され、猿轡をされたままの女性がキッとビスマルク達を睨みつけるが、それを一睨みで黙らせながらビスマルクは淡々と言葉を紡ぐ。その視線には射殺す様な威圧感があり、ロイヤル側は下手な発言や行動に移せば、ビスマルクは即座にこの場にいるロイヤルの捕虜の面々を……人質を射殺すると警告している事を瞬時に察した。
「二つ目は融和的に歩み寄ったサディア帝国の軍港を騙し討ちによって焼き払おうした事……そして、彼女はイラストリアス。『救国の艦隊』との戦闘に敗北し、無様に捕虜となった実行犯の一人」
「姉さん……!!」
同じく猿轡と縄によって拘束された白髪の女性は悲しそうな瞳でロイヤルの面々に目を向ける。特にイラストリアスの姉妹艦であるヴィクトリアスは捕虜として拘束され、晒し者にされている姉の姿を目に涙を浮かべながらも何も出来ない事を悔しそうに青筋を立てながら拳を握る事で表現をしていた。
「そして、三つ目は……これは個人的には、私はあまり通したくはないのだけれど…そちらのメイドによる、こちらの『英雄』の『暗殺未遂』の件。彼女はその実行犯の一人であるシェフィールド。休暇中の我らの英雄を射殺しようと目論んだ、鉄血にとっては最も唾棄すべき卑怯な暗殺者」
最後に船首に現れた人物のその表情は誰も伺う事は出来ないが、それもそのはずだろう。縄と猿轡で拘束されたイーグルやイラストリアスと違い、指揮官暗殺未遂事件を引き起こしたシェフィールドの拘束は特に苛烈な物となっており、猿轡と縄だけではなく。両手首は背中側で厳重に手錠をかけられた上で拘束用の車椅子によって身体の自由を完全に奪われている。
目隠しや耳栓によって最早自身が現在どの様な状況に陥っているのか理解すら出来ない状態になったその姿は最早人権すらも踏み躙られた罪人と言ってもいい程の惨状となっており、取り分け暗殺未遂事件を引き起こしシェフィールドに対する鉄血側の憎悪の凄まじさにオブザーバー達は思わず目を逸らす。ガスコーニュだけはチャパエフによって優しく目を隠されているのは不幸中の幸いと言えるだろう。
一方でロイヤルネイビーの面々の一部は最早仮面をかなぐり捨て、怒りの余り今にもビスマルク達を皆殺しにしかねない程の形相を見せているが、そんな殺意の篭った視線をビスマルクは涼しい顔で受け止めていた。
「以上の三つのロイヤルが引き起こした問題を全て、もしこの講話条件を飲むというなら鉄血は全てを水に流し、現在船内に存在するもう一人の捕虜も加えた四名を今ここで解放し、戦後ロイヤル側に一切の責任追及を行わないと約束しましょう。無論戦後にそちら側が蒸し返さない事も条件として加えてね」
フッドが何かを言おうとするのをビスマルクは視線だけで黙らせるとそのまま言葉を続ける。
「はっきり言ってこれ以上の好条件での講和条件は今後一切認めないわ。ロイヤルの全ての所業を水に流し、更にはロイヤルにこちらが求めるものは、自らが非難し続けたセイレーン技術の禁止という穏便な措置。これ程の譲歩で足りないと言うのであれば、こちらも覚悟は決めさせていただこうかしらね?」
巨大な軍旗を肩で支え、帽子をキュッと掴むとビスマルクはその威風堂々とした立ち振る舞いのままにそう言い放つ。ロイヤルの未来を暗に示すように、曇り始めた空はまるでフッド達の心情を表すかの様にどんよりとした色を見せていた。
「さあ、こちらが会談の為に用意したカードは全て場に出したわ。因みに最後の指揮官暗殺未遂事件に対する賠償や責任追求の取り下げは、襲撃された指揮官本人が私に進言した案。鉄血とロイヤルの未来の為に自身の襲撃案件すらも水に流した『英雄』の慈悲ある提案をロイヤルが断るというのなら、我々は『同胞』の為に修羅となる事をお忘れなく」
その言葉に嘘はなく、講和の為のXデーが近づく中。指揮官は暗殺未遂事件を水に流すという譲歩の提案を行なっていたのだ。
尤も、下手に追求されると『真実』が明らかになるが為に、今後責任追求を国を挙げて行わない=ロイヤルが戦後何を問おうが既に被害者による譲歩により最終解決が成された案件に昇華させようという、ある意味では慈悲のカケラもない、永遠に被害者と加害者という構図を作り出さんとする悪辣な提案であったと言えるだろう。
「さぁ、そちらの回答を聞かせてもらいましょうか、ロイヤル……フッド卿」
オブザーバー達が見守る中、そう締めくくったビスマルクは優雅な笑みを浮かべながらフッドを見つめる。対するフッドもまた内心では腸煮えくり返るような激情に囚われながらも必死に平静を装っていた。
最後の手段である副案の準備は既に完了している。後はフッドが命令を下せば、彼女の配下のロイヤルネイビーは躊躇う事無くその命を投げ出してビスマルクと目撃者であるベアルンを除いたオブザーバーを包囲殲滅する為の苛烈な攻撃を仕掛けるだろう。
しかし、それは同時に人質である4名の命を確実に切り捨てる事と同義であり、一人でも脱出してしまった場合。間違いなく全世界からロイヤルは報復攻撃を受けて全土が火の海になる事は明白だ。
(……ここで、私が、決断しなければ……)
フッドは自らの心の奥底で沸き立つ感情を抑える。捕虜さえ、捕虜さえいなければ躊躇いつつも『副案』を実行する未来もあっただろう。
しかし、どれだけ女王陛下の為に忠誠を誓っていた王家の戦士であっても、どれ程までにその血で手を染める覚悟を持った者達であっても、目の前で仲間達が殺されると言う未来を幻視し、それをただ傍観する事しか出来ないという現実と、その未来を受け入れた上で確実にビスマルク達を仕留めるのは難しいという現実にロイヤルの騎士達の精神力は限界を迎えようとしていた。
そして、ジョージ、アークロイヤル、ロドニーと言った幹部達と顔を見合わせ、最後にヴィクトリアスがイラストリアスを見つめる、その瞳を最後に直視するとフッドは決意をした。最早、この状況下において選択肢は一つしかないのだと……。
「……ここまでのお膳立てと持ち札の差を見せつけられてしまえば……流石にもうどうしようもありませんわね」
マルタ島の強制追放というサディアの謀略を防げなかった故に失脚が確実になったフッド。それでも摂政としての最後の大仕事として『再現』に挑んだ彼女の選択は『再現』を引き起こすのではなく、ロイヤルの未来を暗黒に染め上げる為の講話提案にサインをするという苦渋の選択であった。
「……女王陛下の代理として、そしてロイヤルの使者としてそちらの要望を飲みましょう…ですが、そちらのカードも」
「ええ、勿論よ、しっかりと場に出した分の対価は支払わさせてもらうわ…色々と、またやることも増えて忙しくなりそうね?」
力なく項垂れつつ小さく、自身の主に申し訳ございませんと呟きながらフッドは用意された書類へとペンを走らせる。そのまま、ビスマルクへとその書面を手渡せば、悔しさの余り背後に控えるロイヤルの面々の瞳には涙が怒りと忠誠と共に溢れ、フッドは糸が切れた人形の様に座り込み、慌てて護衛に支えられる。
そんな、フッドの様子を眺めつつビスマルクは手渡した書類のサインを確認し終えると、それまで厳しい表情を浮かべ続けていたビスマルクは、ようやく安堵したように大きくため息をつく。
1941年5月27日。
こうして、ロイヤル王国にとっての終戦記念日となり、鉄血公国にとっての戦勝記念日として後の歴史に刻み込まれる事となった『デンマーク講和会談』は幕を閉じる。
とある世界にとっては物語のプロローグで会ったこの日は、この世界にとってはエピローグに繋がるカーテンコールとなった瞬間であった…………。
デンマーク講和会談
1941年5月27日、その日は鉄血公国にとっては嬉しい日であった。キールの海軍基地本部ではキャビアとシャンパンが並べられており、デーニッツ将軍などは今日は人生最良の日だと熱弁を奮ってラジオ放送に耳を傾けている。一方ロイヤル王国にとっては最悪の日であり、国内では暴動が起き、女王クイーン・エリザベスは全てを知った上でただ「もう、疲れた」と、一言周囲に漏らし、自由アイリス亡命政府の代表者であるリシュリューと共に執務室に2日程閉じこもっていたと記録されている。間もなく使者達は祖国を凱旋するだろう、鉄血では国民が笑顔で軍旗を片手に、そしてロイヤルでは国民が怒りを込めた生卵を片手に持って。決断の時は迫る、我が祖国はこの講和会議の条件を遵守するべきなのであろうか?
鉄血側選択肢
①和平協定を受諾する
イベント『ビターピース』が発生する
イベント『マルタ会談が発生する』
鉄血公国とロイヤル王国との間に60ヶ月の不可侵条約が締結される。
②断罪と血を我らは求めている!完全勝利こそ望ましい!
国民不満度+5.0%
イベント『ジブラルタル攻略作戦』が発生する。
イベント『ラグナロク』が発生する。
情報部より報告
内容
鉄血公国の動向
同国政府の連絡によると
「デンマーク講話会談」
において
「和平協定を受諾する」
を選択したとの事です。
鉄血公国の反応『大変結構!』
ロイヤル側の選択肢
①和平協定を受諾する。
国民不満度+20.0%
イベント『ビターピース』が発生する
イベント『日の沈む帝国』が発生する
セイレーン技術研究の項目が全て凍結される。
鉄血公国とロイヤル王国との間に60ヶ月の不可侵条約が締結される。
②『副案』を発動する。
国民不満度+5.0%
イベント『ジブラルタル防衛戦』が発生する。
イベント『ビスマルク追撃戦』が発生する。
イベント『ラグナロク』が発生する。
情報部より報告
内容
ロイヤル王国の動向
同国政府の連絡によると
「デンマーク講和会談」
において
「和平協定を受諾する」
を選択したとの事です。
ロイヤル王国の反応『この戦争の敗者は我々だと認めざる得ない』
オブザーバー国家の反応『一つの戦争がこれで終わりを告げた』
・マンジュウ
この作品で最初期から登場し続けてきたマンジュウ。彼らは鉄血陣営だからこそ軽く流されてきましたが、その能力は正に人類史に影響を与えかねない程の労働用ロボットの完成形の一つと言えるでしょう。お菓子作りや家事洗濯だけではなく、軍事方面においても活躍可能。媒体によっては空を飛ぶ事も可能な忠実なる人類の奉仕者。
そんなマンジュウを教育し、試験運用する為に配属されたのがキール第三基地であり、その基地の代表となった若き指揮官こそが本作の主人公であるヴァイスクレー・ヘルブストであり、彼は共にマンジュウ達と戦い続ける事で、彼らから自発的な奉仕(ヴェネトからの手紙回における大掃除の提案など)を受ける程に信頼と忠誠を勝ち得る事に。
今後、鉄血内で生産されるマンジュウは正に『ヘルブストモデル』と言っても良い程に、その性格をフィードバックした生真面目な個体ばかりとなり、鉄血という国力を底上げし、長い年月が必要とは言えいつかは人類の夢である、労働からの解放という実現も現実味を帯びる事になるでしょう。学習型AIの持ち主である、マンジュウの反乱という可能性も0ではありませんが。
事実、原作アズールレーンという作品では母港時空においては、指揮官以外の人間の労働者や軍人は存在せず、労働のほぼ全てがマンジュウで補っているのですから。
そして、今回の講和会議における鉄血の目的とは、そんな将来的な量産によれば人類社会を変えかねない『技術的特異点』であるマンジュウを、更には大量破壊兵器の動力源である『ブラック・キューブ』を敵対国であるロイヤルには一切の使用を禁止する事が目的であり、セイレーン技術を非難し続けてきたロイヤルは人質を取られた上でサインをするしかなく、最早『大量破壊兵器』と『忠実なる労働者』に手を出す機会を失われたロイヤルの弱体化は防げなくなるのでした。簡単に言えば、技術の黎明期に核兵器とインターネットの技術の一切の使用を禁じられた国がどうなるのかと言えば分かりやすいのかも知れませんね。
・捕虜達
本来はロンドンだけの解放となる筈が、その後も情勢の変化なども重なり最終的にはシェフィールド、イラストリアス、イーグルも含めた四人が同時にあの会談にて開放される事に。各国から派遣されたオブザーバーや写真撮影やビデオ撮影を行うマンジュウも含めた面々の前に現れた三名は最早、その姿を教科書に刻まれ、全世界から嘲笑を買う事になり……船内に待機をしているロンドンがその姿を晒されないのは、ビスマルクと指揮官なりの『媚薬事故』に対する償いなのかもしれません。
・副案
ビスマルク追撃戦の『再現』。フッド達は現場の判断にてクイーン・エリザベスにより『再現』を行うか否かの判断を任されており、仮に副案が発動すればフッドに仕込んだ致死量未満の爆薬が炸裂し、それに激怒したロイヤルの艦隊が報復という筋書きにより、海中に大量に設置した妨害装置によって通信不可能となったビスマルク達と目撃者であるオブザーバーの面々をベアルンを除き、仕留める為に一斉に出現したでしょう。しかし、副案はイラストリアス達を肉盾扱いし、人質にしながら大きく表向きは譲歩をしながら交渉を行った鉄血艦隊により阻止される事に。ただし、仮に人質達がいなかったとしても、フッドが本当に『再現』を行い、デンマーク海峡を血の海に染めたのかといえば微妙な所でしょう。さて戦争は一応は終わりを告げましたが……
?「何かを忘れてないかなー!!」
コメント、感想、評価をお待ちしております。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄