鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第七十四話 鉄血の旗の『元』に

 

 

 

 デンマーク海峡にて行われた鉄血とロイヤルの講和会議は終了し、これで数十年にも渡って続いてきた戦争が幕を閉じた。

 

 

 一般的にはこの講和会議がスムーズに進んだ理由についてはいくつか存在しているが、様々な巡り合わせの結果、直接的な武力衝突による死人が皆無である事。そして、鉄血側が世界各国のオブザーバー視点から見てもかなりの譲歩によってロイヤルに歩み寄りを見せた結果が成功に繋がったと後世の歴史では伝えられたそうな。

 

 

 恐らく、俺が捕虜を晒し者にした事も歴史に残るだろう。それが最も効率的であり、結果として目論見は成功したとしても、イラストリアス達が船内に戻っていく際にどんな表情をしているのか直視する事が出来ずに目を逸らしてしまう。

 

 せめて、ビスマルクさん曰く基本的には身内に甘いクイーン・エリザベスが彼女達をケアをしてくれる事を祈ろうと無責任に考えているとグラーフからの通信が入る。

 

 

「ひとまずは前に進めた。取り敢えずは最悪の事態である全面戦争を回避する事が出来た事を喜ぶべきだろうな、卿」

 

 

 グラーフの声音はいつも通りの様子ではあるが、喜色を含んでいる様に聞こえる。

 

 

「正直実感が湧かないや、俺が生まれた頃には関係悪化してた二つの国がこうして講話を結ぶなんてさ」

 

 

 グラーフの問いかけに俺は肩をすくめながら答える。

 

 

「……その講話を結べた理由の一つは。正確にはロイヤルを徹底的に追い詰めた要因の一人は卿である事を忘れてはいかんぞ。恐らく歴史書にはこう刻まれるだろうな、やることなす事ロイヤルに痛みを与え、クイーン・エリザベスの胃を最も苦しめた男ヴァイスクレー・ヘルブストとな」

 

 

「……やっぱ俺、戦後ロイヤルに暗殺されそうだなぁ…」

 

 

「心配するな。卿の事は我らが守るさ、シュペーやガスコーニュに泣かれては目覚めが悪い」

 

 

 

 ただし、とコホンと咳払いをしてからグラーフは言葉を続ける。

 

 

「恐らく、戦後となってもこれから我らが働く事は山程あるだろう。先に言っておくがビスマルクと我らの精神衛生上の為に余計な事はしないで貰おうか?」

 

 

 冗談のような言葉であるがグラーフは全く笑ってはいなかった。

 

 

「うん……でもね、それ今言う必要───」

 

「あるから言っている。卿の事は期待も信頼もこの命を預けても良いとは思ってはいるが、同時にその点に関しては我らも譲れん」

 

「そうよ。アンタが問題児扱いで、ビスマルクがアンタのせいで吐きそうになってるのは、もう鉄血海軍の共通認識だって事を自覚しないっての!」

 

 

 通信に割り込む様にヒッパーが言葉を差し込む。あっちょっと泣きそう……そう思いシュペーに目を向けても、彼女は苦笑をするだけで否定はせず暗に肯定しているように見えてしまう。

 

 

「アッハイ、気をつけさせて頂きます…」

 

「気をつけろよ、『英雄』」

 

「迷惑かけたらビンタしてやるわよ『英雄』」

 

「えっと……一緒に頑張ろうね?私も指揮官の事『英雄』だって信じてるよ?」

 

 

 最後の最後にしまらないなーと思いつつも、三人からは確かな信頼の眼差しを受けて俺は苦乾いた笑みを浮かべるしかない。心底『英雄』ではなくあくまで『指揮官』として見てくれる彼女達に申し訳なさを感じつつ、俺は小さく感謝の言葉を口にしようと通信機に手を取り、シメの言葉を口にしようとした所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ダメダメ!そんなのじゃあ、つまらないじゃーん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、世界が、周囲が凄まじい勢いで変質していく。

 

 

 曇天の曇り空は血の色のように赤く染まり、穏やかだった波は荒々しく、海風には鉄錆の匂いが含まれていく。余りにも一瞬の変容に頭が理解が追いつかず呆然と立ち尽くしていれば、遠くで響く爆音が鼓膜を震わせる。慌てて視線を音の方へと向ければ遠くに火の手が上がる光景が見え、そこでようやく俺の頭はこの異常の原因を理解した。

 

 

 

「鏡面、海域……まさか!?」

 

 

 

 ビスマルクさんがそう口にした途端、鉄血側とロイヤル側の使者は勿論、オブザーバーの面々すらも囲む様に大量の敵艦隊が姿を表す。

 

 ざっと見るだけでも100隻近く存在し、レーダーをみれば友軍を示す青い点である自分達を赤い点でこちらを逃さないと言わんばかりに覆われて表示されている事に背筋に冷や汗が流れる。

 

 

(まずい、完全に嵌められた……しかも最悪な形で……!)

 

 

 事態の急変に困惑と焦りを見せつつも、各国のkansen達は即座に臨戦態勢へと移る事に成功している辺り流石は各国の上層部から信頼を得たkansen達であると言えるのかもしれない。赤いネオンのような光をテラテラと下品に点滅させつつ黒色の巨大な敵量産艦がその砲塔を俺達へと向けてくる。

 

 

「面白い枝と流れだったんだけどねー、流石にここで止まられちゃう、って言うのはこっちとしても困るんだよ」

 

 

 空から嘲笑うかの様な少女の声が響き渡る。いつの間にか俺達の上空に浮遊する様に浮かんでいたその人物はシュモクサメの様な巨大な艤装を展開しながらニタニタと笑い続ける。

 

 

「本当、やってくれた。やってくれたよ!!まさか物語のプロローグをエピローグに変えちゃうなんてねぇ!」

 

 

 そう言いながら少女は空中を滑る様に移動する。その速度はまるで妖精の様に見える程で俺は思わず拳を握り締める。あぁ、予想はしていた。あぁ、あり得るとは想定はしていた。だが、因縁深いアイツがこうして現れたという事に対する衝撃は余りにも大きかった。

 

 

「結局、こうなるよなぁ……」

 

 

 ゲンナリとそう口にすると此方に向かって個別通信が届く。いや、個別通信ですらないだろう、頭の中に直接彼女の……ピュリファイアーの声が直接響いている。

 

 

『まっ、そういう事でこっちとしてもここで講話して貰っちゃ色々と面倒だからね。黙ってこめかみに拳銃を突き付けてロイヤル以外全員沈んでくれると楽なんだけどなぁ〜!』

 

 

 嬉々として脳に響く声に俺は歯噛みしつつ、情報を整理する。ロイヤル以外?セイレーンと手を組んだのか?と疑心暗鬼になりつつフッド達を見つめるが、彼女達も一瞬で艤装を展開して臨戦状態となり、とてもではないがあれが演技とは思えない。

 

 

 ……セイレーンはどの様な理由や意図があるかは不明とは言え泥沼の戦いを望んでいた。

 

 

 イオニア海海戦の直前には俺達に接触し、シェフィールド達が逃亡しようとしてる際は自身の手で仕留めようと出現し鉄血の味方の様な行動をとり、今はロイヤルの味方としてロイヤル以外の面々の撲滅を図っている。まるで弱った陣営に援助を行い均衡状態を作り出すかの様に。ずっとロイヤルと鉄血を憎み合わせて盤面をコントロールしようとしているかの様な振る舞いだ。

 

 

『なぁ、ピュリファイアー』

 

『んっ?どしたの?』

 

 

 ダメ元で脳内の言葉を相手に伝えるかの様に念じてみると不思議そうな表情と共に彼女は言葉を返してくる。どうやら現在、俺とピュリファイアーの脳内は一種のリンク状態の様で、遠く離れているというのにまるで、直接目の前で言葉を交わしているかのような状況となっていた。

 

 

『ダメ元で聞いてみるけどさ、お前達の目的は何なんだ?』

 

 

 人類種の敵として50年近く前から出現したセイレーン。彼らの目的はいまだに不明であり、その行動については謎が多い。

 

 ぶっちゃけるとセイレーンが本当の殺戮機械であるのなら、人類はとっくの昔に絶滅していたはずだ。統率されたセイレーンと比べて利権や歴史などによりまとまらない人類。圧倒的な技術力の格差に初期のセイレーン大戦に於けるkansenの数の少なさ。

 

 

 手を抜かずに本気でセイレーンが攻勢に出ていれば、陸上兵器や機械歩兵でも開発していれば、今頃人類は相当悲惨な目にあっているのは間違いないからだ。

 

 

『娯楽の様に人間狩りをしてる訳でもなければ、資源や食料を奪うわけでもない。要求を突きつける事も人類に宣戦布告する事もなく、それでいて任務と言っていた通り何かの目的の為に動いてるのは分かるんだが……セイレーンは一体何を企んでいるんだ?』

 

 

 こんな状態だと言うのにもし、仮にセイレーン側に何らかの利益があって俺達と戦っているのだとすれば、その真意が気になって仕方がなかった。純粋な殺戮機械ではなく、明確な意思を持つ生命体であるならばそこにも必ず意味があるはずだからだ。

 

 

『……本当、君ってイカれてるよ。ヴァイスクレー・ヘルブスト』

 

 

 真っ直ぐと上空のピュリファイアーを見つめると、明らかに俺の船に目をやり、呆れた声音で彼女は少し考えた様な素振りを見せる。

 

 

『うーん……やっぱ、やーめた。今更じゃん、セイレーンは人類種の敵の『悪者』で指揮官とkansenの君達は『正義の味方』。そこに交渉や和解の余地はなく、握手の代わりに互いの主砲を叩き込む。それじゃダメな理由なんて無いでしょう?それに……そんな事聞いちゃったら興ざめじゃん』

 

 

 つまらなそうに吐き捨てるピュリファイアーは俺へとそう告げる。彼女の返答には何処か違和感を覚え、その理由を考えていると彼女は凄惨な笑みを浮かべる。

 

 

『ただ一つだけ言える事があるとすれば、私は戦いが大好きって事。そして本気で君達を殺そうとしてる事だよ!!』

 

 

 彼女の叫びと同時に量産艦による巨大な砲塔が火を噴くと轟音が響き渡り海面を衝撃波が吹き荒れる。本気で当てるつもりはない威嚇砲撃のつもりなんだろう、しかしその砲撃はまるで俺達との決別の一撃であるかの様に感じてしまう。

 

 

『それよりも……ほら、楽しもうか!そっちにとってはどんな結果になろうと!最後の殺し合いをさぁ!」

 

 

 最早、向こうに語る言葉も余地もないと断言する。降り掛かる火の粉を払わなければ、その身は業火に焼かれて朽ち果てるという事だけは確かだ。彼女の宣言に俺は拳を強く握り締めつつ各国の皆を眺めると皆、決意に満ちた瞳をしていた。 

 

 鉄血も、ロイヤルも、オブザーバーも。あと少しで勝ち取ることが出来る勝利と未来の為に。

 

 

「……そうか、なら」

 

 

 覚悟を決める。例えこの先どうなるのか分かっているとしても。俺は拳を振り上げると、セイレーン艦隊に向かって叫んだ。 

 

 

『この海域に存在する全ての戦士に告げる!自身はヴァイスクレー・ヘルブスト!鉄血艦隊に所属する指揮官の一人だ!!』

 

 

 全てを察したマンジュウから差し出された通信機を手に取り、オープン回線でヤケクソ気味に叫ぶ。セイレーンに囲まれて焦りを感じつつも迎撃行動に写ろうとしていたオブザーバーの面々は一瞬惚けた表情を浮かべ、ロイヤルネイビーの面々からは殺意と怒りに満ち溢れた視線を向けられる。

 

 そして鉄血艦隊の面々とガスコーニュからは、信頼と呆れの籠った視線が送られていた。散々振り回し続けた俺の命よりも大切な仲間達、彼女らの視線は俺の行動を肯定してくれ、ヒッパーも含めて黙って見守ってくれている。

 

 

『互いの理念がぶつかり合い、一度は憎悪のままに戦い続けたアズールレーンとレッドアクシズ。いや!今だってそのシコリは残っている事は百も承知だ!』

 

 

 この戦争は余りにも憎悪を互いに煽り続けてきた。それが正しいから、それが相手を貶めることが出来るチャンスだからと互いに一線何度も超えている。最早戦後であっても各国の関係は今までの様にはいかない。

 

 

『だが!それでも!レッドアクシズとアズールレーンの共通の敵はセイレーン……人類の敵だ!!たとえ理念のすれ違いがあったとしても、互いの共通目標はセイレーンから蒼き航路を取り返す事だったはずだ!!』

 

 

 ピュリファイアー達は動かない。俺の言葉が邪魔だと言うのなら砲撃を持って妨害すればいいと言うのに、彼女は空の上から耳を傾けて、他のオブザーバーと同じくこちらをじっと見つめている。

 

 視線が互いに交差する。理念も、イデオロギーも、宗教も、信念も、歴史も、思想も、主義も、文化も、理想も全てが異なる彼女達。それでもセイレーンという存在に対する敵意は一致しており、それ故に俺の叫び声が響いていく。

 

 

『都合の良い台詞である事は分かってる!こんな綺麗事でこれまでの憎しみが水に流される事が無い事も理解している!それでも!セイレーンは人類にとって害悪だ!奴等を野放しにしていればこの会談は水泡に帰す事になる!それを防ぐ為にも俺達は戦うしかないんだッ!!』

 

 

 今、この会談に参加するメンバーが全滅すれば、互いの疑心暗鬼は加速するだろう。ロイヤルと鉄血の関係の決裂の決定的要因となった『スカパフローの悲劇』の様に、互いがセイレーンを呼び込み、騙し討ちをしたとさえ思われかねない。

 

 血で血を洗う闘争。互いの同胞を傷つけたクズ共を抹殺さんと憎悪と憤怒に燃える戦火は、新たな戦いを生み続けていくだろう。決してそんな火種を残す訳には行かない。あと少しで、問題を抱えつつもあと少しで差し込む光は目の前にまで迫ってきているのだ。

 

 通信機を手に取る指は震える。今更どの口でこんな事を叫んでいるんだと、罵倒される覚悟は出来ていた。ただ、それでも俺は叫び続ける。全身の神経を張り詰めてでも、喉の奥から言葉を押し出すように、叫ぶ。

 

 

『この戦争に終止符をうつ、勝利条件はセイレーンの撃破!味方はレッドアクシズ!そして、アズールレーンの戦士達!』

 

 

 着任した時には、こんな事になるとは思わなかった。

 

 何度も死にかけ、何度も迷惑をかけ、何度も皆と語り合い、そして……好きになった女性まで出来たんだ。

 

 こんな所で死んでたまるか、諦めて堪るものか。

 

 それ問いかけでもあり、宣言でもあり、命令でもあり、願いでもあり、そしてセイレーンに対する宣戦布告でもあった。少しでもロイヤルやオブザーバーの面々がこれで動いてくれれば、セイレーンとの戦いに集中してくれればと願いつつ口から次々と言葉は漏れていく。

 

 通信機を片手に俺は艦橋を抜け出すと、船首に走って向かう。ドアを開ければ潮風と共に荒れ狂う海と赤く染まった空。こんな地獄の底の様な光景は1分1秒だって見ていたくない。

 

 空は青い方がいい、海は穏やかであって欲しい。幼い頃から俺はそう思っていた。美しい海を想像するだけで、俺の心は安らいだ。なのに、今はどうだ?赤黒い空に波は高く、海は荒ぶる魔獣のように牙を剥いている。こんなもの、見ていて楽しい筈がない。

 

 

『新たな夜明けの幕開けを目撃したいと思うなら!暗雲を吹き飛ばす為に立ち上がれ勇敢な戦士達よ!憎悪と苦難の時代を乗り越え!未来へと続く栄光の架橋を駆け抜けるんだ!』

 

 

 甲板に出ると、スピーカーから流れる俺の声が聞こえてくる。大した役者っぷりだと自嘲しながら、マイクに向かって更に語り続けた。

 

 

 

『戦う前から勝利は目前にある!俺達の前には、希望が輝いている!海と空に平和を取り戻すんだ!光が照らす未来の為に!凱旋の末に我らの軍旗を掲げ!元の祖国戻す為に!そして、軍旗が倉庫の奥深くで埃に塗れ、使う必要のない未来の為に!』

 

 

 

 

 ビスマルクさん達が持つ軍旗に目を向けながら、叫び続ける。それぞれの軍旗に宿る願いは、セイレーンとの大戦に勝利し、平穏を勝ち取る事。そんな軍旗が二度と戦場で掲げられる事のない未来の為に。

 

 鉄血の旗を元の倉庫に仕舞い、平和を取り戻した母港にて静かに眠る未来を迎える為にも、戦わなければならない。

 

 

『立ち上がれ!セイレーンからこの蒼き航路を取り返すぞ!共にこの蒼き海に自由と繁栄を取り戻す為!今一度、力を……貸して欲しい!』

 

 

 

 通信機のスイッチを切る。オープン回線から流れ続けていた俺の絶叫が終わると、無音の空間が広がる。ロイヤルも、鉄血も、オブザーバーも、俺の仲間も誰も何も喋らない。

 

 

 

 ただ、空からこちらを見下ろすピュリファイアーだけが不敵な笑みを浮かべ、まるで後に起こる光景を予測し、期待しているような視線をこちらに向けていた。

 

 

「……こちら北方連合所属のオブザーバー、チャパエフ」

 

 

 沈黙を破ったのはチャパエフさんだった。彼女は静かに目を閉じ、何かを思い耽る様子でオープン回線で俺の言葉を反復すると口を開いた。

 

「これより、私は鉄血艦隊の指揮下に入るわ。指示を」

 

 

「えっ……」

 

 

 彼女の言葉に思わず声が喉から漏れるが、次々とオブザーバーの面々はチャパエフの様子をじっと見つめると、次々と口を開いていく。

 

 

「こちら、ヴィシア聖座所属のオブザーバー、ガスコーニュ。これより主(メートル)の指揮下の元で戦闘行動を行う」

 

 

 ガスコーニュはチャパエフに向かって少し不満そうに、本当は自分の方が早くそう言いたかったと言わんばかりに頬を膨らませている。

 

 

「んー、こちらユニオン所属のオブザーバーのクリーブランド。同じく姉妹揃って鉄血の指揮官の指揮下に入るね。ふふっ、こう言う展開って燃えるかもっ!」

 

「同じく、こちらサディア帝国所属のオブザーバー、ジュリオ・チェーザレ。過去に私たちの祖国の為に力を尽くしてくれた『英雄』の元で戦うことを望むわ。あの日、貴方に受けた恩をここで返させて頂戴。どうか、よろしくお願いするわ」

 

 

 ユニオンのクリーブランドさん達は姉妹揃って陣形を組んでいき、チェーザレさんはイオニアの海での借りを返すと言わんばかりにその主砲を撫でながら俺に返答する。

 

 

「はぁ……仕方ないわね。同じく、こちら重桜所属のオブザーバーの空母赤城、及び加賀も鉄血艦隊の指揮下に入らせてもらいます。良いわね、加賀」

 

「姉様がそう望むのであれば」

 

 

 最後に気怠げなる様子の話した事すらない、重桜のオブザーバーの二人が、見た事すらない折り紙のような艦載機を片手にこちらの指示に従うと意思を示すと宣言する。

 

 ただ、戦いに集中して欲しいからと叫んだ願いが。ただ、ピュリファイアーに対する宣戦布告がいつの間にやら大きな唸りとなり、広がっていく。

 

 

「卿」

 

 

 困惑気味に一瞬惚けていればグラーフの個別通信が耳元に届く、その声音はどこまでも誇らしげでどこまでも……優しかった。

 

 

「ここにいる戦士達の多くは卿の言葉に心を動かされたものだ。責任は取れ、皆が未来を掴もうとする卿の意志に心を動かされ、自らの意志で立ち上がったのだ」

 

 過去の傷は水に流さない、現にロイヤルの面々は迷ってる様な目でこちらを見つめており、空気を読んで俺の指揮下に入る宣言をするべきか、そんな事してしまった場合どの様な理由であれ国内からなんて言われるかという天秤が揺れ動いているようだ。

 

「こちら、自由アイリス所属のオブザーバー、ベアルン。これよりロイヤルの指揮下で戦います。指示を」

 

 

 そんな状況を見て空気を読んだらしく自由アイリスのオブザーバーがそう口にすれば、明らかにロイヤル側からは安堵したかのような雰囲気に包まれる。自由アイリスのkansenに指揮を任されたのだから、鉄血艦隊に従わなくても良いと言う大義名分が産まれたのだから。

 

 それでも、そんな王家の戦士達であっても。どさくさに紛れて鉄血艦隊に攻撃を仕掛けようとはせず、全ての戦士達はセイレーンに向かって臨戦体制となっていた。鉄血に同調するのは癪ではあるが、ここは一時休戦して共同戦線を張るという選択肢以外は既に消えている。例えどれほどまでに不利な講話条件を突きつけられていたとしても、彼女達は誇り高き民を守る為の戦士であった。

 

 

「皆……」

 

「ほら、私と散っっ々!指揮について勉強したんだからその成果を見せなさいっての!他の国の前で恥晒したくなけりゃさっさとピュリファイアーを潰して私達の家に帰るわよ!!」

 

 

 ヒッパーは甲板で待機していた俺を急かす様に叫ぶと、さっさと艦橋に戻って指揮官としての役目を果たせと檄を飛ばす。

 

 

「指揮官は兵器である私に沢山の事を……愛する事だって教えてくれた。ありがとう指揮官、もっと、もっと大好きな指揮官と平和になった世界を歩みたいから……一緒に行こう、ヴァイスっ…!未来を掴む為に!」

 

 

 シュペーは頬を染めてマフラーで口元を隠しつつ恥ずかしそうに呟くと、決意に満ちた眼差しをセイレーンへと向けた。その手に携える砲門は既にセイレーンを捉えており、彼女の覚悟と共に放たれようとしていた。

 

 

「……指揮官」

 

 

 最後にビスマルクさんは軍旗を俺に放り投げると、それを俺はしっかりとキャッチする。ビスマルクさんはそのまま真っ直ぐとセイレーン達に対峙する。その姿はまさに威風堂々たるもので、まるで歴戦の戦艦の貫禄があった。

 

 

「私も、貴方の指揮に身を委ねるわ。貴方は決して虚像の『英雄』じゃない。その言葉で人種も宗教もイデオロギーさえ違う面々の感情を揺さぶり、共に戦おうと鼓舞してくれた。コミュニストと帝政支持者が肩を並べ、全く事なる異教の神を信じる者達が後ろを任せて共に戦う事を決意させた」

 

 

 時には厳しく、時には優しく、常に俺に親身に寄り添ってくれたビスマルクさんはどこか満足そうに微笑む。

 

 

「全てを終わらせるわよ、英雄。その旗は貴方に預けるわ。共にこの戦争に終止符を……鉄血の旗の下に、いや、ただ平和を望む一人の戦士として戦いましょう」

 

 

 

 ビスマルクさんはそう呟くと、開戦の狼煙を上げるべくその巨砲から砲弾を空に放つ。爆音を上げて発射されたそれは、抉るように一隻の敵セイレーン量産艦を貫き、爆発音が赤く染まった海を揺らした。

 

 

『なんか、大変な事になったなって思ってるでしょ』

 

 

『……嬉しいけど正直吐きたい。正直に逃げ出したい。でも、ここまで来たらやるしかないよなぁ…!』

 

 

 脳内にはピュリファイアーの笑い声が反響し、ビスマルクさんから貰った軍旗を両手でぎゅっと握ったまま、深く息を吸い込んだ。もう逃げられないぞと、よりにもよって対戦相手であるセイレーンに覚悟を決めろと言われてる気がした。

 

 

『さぁ始めようか!更なる血と狂気の果てにある可能性を掴み取る為に!』

 

『始めよう、未来に火種を残さず、争う必要のない平和な世界を掴み取る為に!』

 

 

 

 セイレーン艦隊と連合軍の砲音が轟き合い、互いに互いを殲滅すべく火花を散らしていく。互いに譲れない可能性と未来の為に。人類種の敵の嘲笑を切り裂かんとする戦士達の戦いは苛烈を極め、誰もがその誇りと意地をぶつけ合うかのようにぶつかり合っていく。

 

 

『『戦闘、開始だ!』』

 

 

 

 赤い海と砲雷撃音共に、最後の戦いの幕が今切って落とされた。

 

 






・鉄血の旗の元に

本作のタイトルにもなっているこの言葉は、最終決戦における指揮官の言葉を。鉄血の旗の下に戦うのではなく、ビスマルクが持つ軍旗を終戦が決まったこのデンマーク海峡から持ち帰り凱旋する為に、そして二度と軍旗が表に出ずに倉庫の中で埃被った未来を願った指揮官の言葉から産まれたものでした。実は本作連載中に3回ほどメッセージによって『これ誤字じゃない?』と指摘されましたが、ようやくタイトル回収が出来てホッとしている所です。


・ピュリファイアー
最初から最後まで因縁たっぷりなピュリちゃん。ダイス判定によっては他の人型セイレーンが出てくる可能性もあったのですが。


dice1d10=2 (2)
1~3.ピュリっちだけ←確定
4~6.テスターもいる
7~9.コンパちゃんorオミったん
10.両方

 講和会議を妨害する為に出現したセイレーンは結局ピュリファイアーのみという結果に。これはある意味では他のセイレーンは戦いを望まない、というよりも余りにも歴史が壊れてしまった特異ない『枝』であるこの世界は観測に徹した方が良いと判断しており、ある意味では今回の襲撃はピュリファイアーの独断と維持をかけたものに。戦力的に、ももしも本気でテスターやオミッターやコンパイラーに動かせる指揮下の量産艦までも出ていれば戦力差的には指揮官達はすり潰されていたのは確定となっていましたが、ピュリファイアーだけとなったのは幸いでしょう。



・オブザーバーのスタンス
チャパエフ→個人的に指揮官を気に入ったから指揮下に入ろうとする。

ガスコーニュ→大好きな主(メートル)と共に戦いたいから。チャパエフに先を越されたのは少し不満に。

クリーブランド→モントピリアだけはクリーブランドと握手をしていた指揮官に対して不満を持っていますが、セイレーンとの戦いが最優先というユニオンのスタンスは変わらないという意志を持って。

チェーザレ→あの日、イオニアの海で指揮官がウォースパイトを捕虜にする場面を見ており、祖国の為に必死で働いてくれた鉄血艦隊への恩を返す為に。


赤城と加賀→立場的に死ぬほど面倒臭いし好き勝手やって単独でさっさと離脱したかったが空気を読むしかなかった。本当に赤城はイオニア海海戦以後鉄血の動きに振り回されています。


ベアルン→鉄血艦隊の指揮の元で闘う事よりも、空気を止んで迷っているロイヤル側のフォローに。彼女の行動が示す通り自由アイリス側のkansen達は基本的にはロイヤルに好意的。

ロイヤルネイビー→チャパエフ達の動きを見て自分達も鉄血指揮官という怨敵の元で闘うべきかどうか迷った理由は面子などもありますが、一番はイラストリアスが捕虜として晒されていた姿を見てもう精神的にもいっぱいいっぱいなヴィクトリアスの事を気遣ってのもの。ですのでベアルンの行動はまさに感謝でしかありません。

指揮官→20隻近くのロイヤルネイビーまで同時に指揮なんてすれば、確実にグダグダな指揮となるので実は一番ロイヤルが指揮下に入らなくて安堵しているのは指揮官だったり。







・英雄
虚像の『英雄』は今この瞬間を持って、英雄に。そのまま生き残って凱旋するのか、悲劇の英雄として歴史に刻まれるのか。全ては気まぐれなダイスの女神様の導くままに最後の戦いが始まろうとしていました。



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指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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