魔法少女リリカルなのは~未来を変える者~   作:A,I,R

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第10話「紅月の夜 明ける夜」

「なんでここに……?」

 

 その光景を見て、思わずゆうきは呟きをもらす。

 

 あの出血量では生きているはずなどなく、死んだはずだった。だが、今目の前に広がる光景はとても死後の世界に―それが本当にあるとしたのならばだが―あるはずのないものだからだ。その光景とはなのはの部屋だったからだ。

 

 室内は綺麗に整理されていると共に可愛らしいぬいぐるみがベッドの傍に数体置いてある。まさに女の子の部屋らしい部屋だった。

 

「あれ……?」

 

 と、ゆうきはある点に気付く。なのはの部屋には壁と机の上に写真が数枚飾ってあり、ゆうきが写っている写真も何枚かある。しかし、このなのはの部屋にそれが全くなく、そこにはなのはと見知らぬ男の子が仲良さそうに写っているものもあれば、髪を下ろし私服のなのはとフェイトが仲良く写っているものが代わりに飾ってあった。

 

 ゆうきが疑問に感じたその時、ドアが開く。部屋に入ってきたのは日々のありのままの姿をしたなのはだった。ゆうきの姿は見えないのか気にせず部屋に入る。その後に続く様に写真に写っていた見知らぬ男の子も遠慮がちに部屋に入る。

 

「もう、前に何回も来ているんだからそんなに緊張しなくてもいいと思うな」

「いや……あの時はこの姿じゃなかったから」

「そうだっけ? まあ、座ろうよ」

 

 なのははカーペットに腰を下ろし、男の子はなのはに促されて、隣に座る。

 

「な、なのはは最近どう?」

「考えてくれたメニューのおかげで調子いいよ! ありがとね」

「そう言ってくれると考えたかいがあるよ」

「そう言えば……」

 

 最初の頃は緊張していた男の子もなのはと話している内に慣れたのか、会話がスムーズになっていく。それに伴い、時々2人に笑みがこぼれる。

 

自分が知らない男の子となのはが楽しそうに会話している。その光景にゆうきは強い違和感を覚える。自分がいた形跡もまるでない。まるでそれは、ここにお前の居場所など無いと世界が告げているかの様だった。

 

「そうだ、ここは僕の世界じゃない」

 

 その言葉と同時に世界が色を失いヒビが入る。

 

「戻ろう、僕の世界に」

 

 そして、世界は崩壊した。

 

 

 

 

 

「う、ううん……」

 

 目を開けると空には紅の月が浮いている。

 

「僕は何を……」

<!! マスター目が覚めましたか>

「目覚めたって……っ!」

 

 横たわっている状態から起き上がろうとすると、腹部に鈍い痛みが走る。その事で思い出す、すずかに殺されかけた事を。

 

<マスター、身体は動きそうですか>

「若干痛みが、あるけど大丈夫そう」

<なら、急いでください! 現在彼女達は絶体絶命の状況にあります>

「どこ!?」

<3時の方向です>

 

 シャイニングハートの言われた方向を向くと、なのは達が黒い手に囚われていた。

 

「シャイニングハート行くよ!」

 

 そこで立ち上がった瞬間、とある事に気付く。

 

「体が軽い……」

 

 身体が以前と比べて軽く感じられた。どうして? と疑問に思うが、そんな事は些細な事と振り払い、シャイニングハートを構える。

 

「大丈夫いけるよ、シャイニングハート」

<……分かりました>

 

 シャイニングハートを構え照準を合わせる。その時に距離がある為、照準合わせはシャイニングハートにまかせるゆうき。

 

<今です!>

「ディバインバスター!!」

 

 シャイニングハートの合図にゆうきが魔力を発し、砲撃を放った。放たれた砲撃はきれいに腕を消滅させ、その延長線上にいたすずかを後退させる事に成功する。

 

<マスター、今がチャンスです! 急いで追撃を!>

「…………」

<マスター!>

 

 シャイニングハートの言葉はもちろん、ゆうきは聞いている。それでもゆうきは言葉を無視して、ゆっくり歩いて進む。なのは達の、そしてすずかの所へと。

 

「嘘……」

「そんな……」

 

 驚きの声を漏らすなのはとすずかの言葉に内心激しく同意するゆうき。実際、ゆうき自身も自分が死んだと思っていた。

 

 そんな状態でも生きていられた理由、それはなのはの懸命の止血がある。あの無駄とも思えたあの止血は致死量の血液を流す事をギリギリ防いでいたのだ。なのはの祈りは、願いはけして無駄ではなかった。あそこでなのはが止血行動を行わなければ、ゆうきは生きていなかっただろう。

 

 そして、ユーノが使用した回復魔法の範囲に入っていなければこうしてゆうきが動けるという事は叶わなかっただろう。願いと偶然が重なって高町ゆうきはそこに立っていた。

 

 普通の声量でも十分に聞こえる距離まで近づいて、ゆうきは歩を止める。

 

「エクス、フェイト、アルフ、助けてくれてありがとね」

「あ、ああ……」

「う、うん……」

 

 あまりにも想定外すぎる事態にフェイトとエクスは言葉を返すので精一杯であり、アルフにいたっては驚きのあまり声が出せないでいた。

 

「なのは、アリサ、この感覚はユーノかな? 3人とも心配かけたね」

「本当に、本当にゆうき君なんだね……」

 

 ポロポロとなのはの頬に涙がつたい落ちていく。もうその声を二度と聞けないと思っていた声が聞こえている。悲しさではなく嬉しさが、涙となって零れ落ちていく。

 

「安心して。僕はここにいるよ」

「ゆうき君……ゆうき君……!」

 

 なのはがゆうきに駆け寄りその胸に飛び込む。

 

「よかった……本当に、よかった……」

「ごめんね、1人にして」

 

 抱きつくなのはの頭をしばらくの間撫でて落ち着かせる。

 

「落ち着いた?」

「……うん」

「じゃあ、あとは」

 

 なのはを優しく自分から離す。その時のなのはの顔は不安と心配でいっぱいだった。何故なら残る人物は

 

「待たせたね、すずか」

 

 ゆうきを殺そうとしたすずかだった。

 

「どうして、どうして生きてるの!?」

 

 すずかが悲鳴に近い声で叫ぶ。あれほどの出血をしていながらこうして立っているのだから、そう叫んでも仕方ない。

 

 その声対してのゆうきの返答にすずかを含めた全員が呆然とした。

 

「すずか、君は僕を本当に殺したかったの?」

 

 ゆうきのその言葉に全員が耳を疑う。今、ゆうきが生きている事は奇蹟とも呼べるくらいにありえない。そんなありえない状態へと誘った相手に対し、言っているのだから無理もない。

 

「何を言っているの!? 私はゆうき君をなのはちゃんに渡したくなかった。だから殺そうとした!」

「じゃあ、なんでこことここを刺さなかったの?」

 

 そう言ってゆうきが指差した2つの場所。そこは頭と左胸、即ち脳と心臓だった。そこがダメになってしまえば死んでしまうなど、誰もが知っている。まして、成績優秀であるすずかが知らないなどあるはずがない。

 

「それにどうしてわざわざなのは達の相手をしていたの? 今のすずかなら包囲を突破して僕所に来るなんて造作もなかったはずでしょ」

 

 現在のすずかの身体能力―ゆうきを襲った時の―があれば包囲を突破し、ゆうきを同胞へとするのは容易だっただろう。それでもしなかった。つまり

 

「すずかは、僕達に止めてほしかったんだよね」

 

 ゆうきはすずかが自身を止めてくれる事を望んでいると予想していた。

 

「そんな……そんな事は絶対にない!」

「なら、今度こそ僕を殺しなよ」

 

 バリアジャケットを解除し、制服姿になったゆうきは真っ直ぐすずかを見据える。制服に当然ながら防御能力はない。急所に当たれば間違いなく死ぬだろう。それでもゆうきはすずかに向かい合う。

 

「さあ早く! 僕を殺してみせろ! この命を絶ってみせろ!」

「あ……あぁぁぁぁぁ!」

 

 闇が開き瞳がゆうきを見据える。

 

「ゆうき君!」

 

 なのはの叫びと同時に放たれる魔弾。ゆうきは目を瞑り避け様としない。刹那、響く爆発音と巻き上がる煙。

 

「どうなったの……」

「バリアジャケットがない状態で直撃すればどうなるかなど、言わなくとも分かるだろう」

 

 フェイトの声にエクスが静かに答える。そう、ゆうきは避けなかった、避けようとしなかった。自分に魔弾が迫ろうとしても。その結末は明らかに死であろう。

 

 煙が辺りに溶けるかの様に薄れていき、そこにあったのは無残にも風穴を開けたゆうきの姿……ではなかった。

 

「これでも本当に僕を殺したいのかい?」

 

 そこには無傷の、服にすら傷がなく、立って真っ直ぐすずかを見据えるゆうきだった。すずかの放った魔弾はゆうきのまるで避けるかの様にして着弾していた。

 

「そんな……私は……たしかにゆうき君を……」

 

 自身の行動が信じられないのか、すずかはただただ自問自答を繰り返す。

 

「すずか、前の告白の答えをはっきり言うよ」

「……え?」

 

 すずかの自問自答がゆうきの言葉によって終わる。前の告白とはゆうきがすずかの手によって死にかける前のものだ。それに対しての回答など、今の危険な状況にどう関係するのか、ゆうき以外には分からなかった。

 

「すずか、僕は君を知らない」

 

 そして、その言葉の意味も。

 

「どういう事……?」

「僕の知っているすずかはもっと優しいくて思いやりがある女の子だった」

「……違う! 私は弱かっただけ!」

 

 ゆうきの言葉にすずかの心の奥にあった思い(火薬)が爆発した。

 

「私は弱い人間だった! 自分の事を全く言い出せずに周りばかり気にして、自分を貫けない!」

 

 その火は次々すずかの心の奥にあった思い(火薬)に点火する

 

「アリサちゃんは強かった! 自分の思いを、考えを口に出して、人をまとめられて!」

 

 アリサには自分にはない積極性に劣等感を抱いていた。

 

「なのはちゃんは強かった! 自分を真っ直ぐ持っていて!」

 

 なのはの自分を貫く芯の強さに劣等感を抱いていた。 

 

「だから、私は手に入れた! 2人の強さを凌駕できる力を!」

「それが君の願い……?」

「そう! そしてそれは叶った! アリサちゃんもなのはちゃんも届かない力を手に入れたの!」

 

 すずかの願いを聞き終えたゆうきの行動にすずかは呆然とする。しかもそれはすずかだけではない。その行動を起こしたゆうき以外全員が呆然とした。その行動とは

 

 

 

 

 

 

 

 すずかに抱き付く事だった。

 

 

 

 魔法によって、強化した―ユーノやフェイト達から見たら強化とはいえないほど効果は微々たるものだが―脚を使い、瞬時にすずかに肉迫し抱き付いたのだ。

 

「な、何をしているの……?」

 

 ゆうきの今行っている行動、それは今のすずかという吸血鬼が、世間のイメージ通りの存在ならば、とても危険な行動である。

 

「今、それだけ危険な事をしてるか分かってるの……?」

「分かってるよ。それでも僕は止めない」

 

 その言葉通り、ゆうきは腕の力を緩める気配はない。

 

「ねえ、君の名前はなんだい?」

「……月村すずか」

「そう、君の名前は月村すずか。他の誰でもない」

 

 ゆうきがすずかに語りかけるかの様に言葉を紡ぐ。

 

「君がフォローしてくれるからアリサは積極的に行動できる」

 

 アリサの積極性は褒められるべき点だが、多少強引な所がある。それをすずかがフォローしているからこそ、アリサはクラスのリーダーとしての立場を築けた。

 

「なのはも君が助けてくれるから真っ直ぐ自分の意思を貫いて行動できる」

 

 なのはの自分の意思を貫くという姿勢は言い換えれば頑固であるとも言える。それにより、仲の良いアリサとすら衝突する時がある。それを終息させているのがすずか。

 

「月村すずかは決して弱い人間なんかじゃない。他人の事を考えられる強い人間なんだ」

「私が強い人間……?」

 

 すずかはゆうきの瞳を覗く。紫色の澄んだ目は嘘など言ってはいなかった。

 

「ねえ、1つ聞かせて。今の私と前の私、どっちが好き?」

「当然、前の君だよ」

「そう……」

 

 すずかの瞳の色が、髪が元に戻る。

 

「終わったの……?」

「……その様だな」

 

 すずかがゆうきと共になのは達の所へ歩み寄る。

 

「すずか……」

「皆さん、今回はすいませんでした」

「「「「…………」」」」

 

 すずかが頭を下げて謝る。今までの狂気の発言と行動しか見ていないフェイト、エクス、アルフ、ユーノは呆然としてしまう。

 

「すずかは本来、優しい子なんだ。ところがジュエルシードでちょっとね」

「ジュエルシードが間違った叶え方をしたって事?」

「まあ、そんな感じかな」

 

 ジュエルシードが危険なものと知っていたユーノは立ち直りが早い。

 

「ジュエルシードってなんなのよ」

「ジュエルシードは願いを叶えてくれる宝石なんだけど、その叶え方がちょっと間違った方向にいっちゃうんだ」

 

 ゆうきが簡単に説明するとアリサも納得した様で「だから私もすずかも……」と呟いていた。

 

「ジュエルシードは危険なものなんだ」

「ジュエルシードはユーノ君の発掘したもので、事故でバラバラになっちゃったの」

「それを封印する為に僕となのはは魔法の力を手に取ったんだ」

 

 ゆうき、なのは、ユーノが説明していく。

 

「ん? ところでなのは、ユーノって名前どこかで聞いた事がある様な……」

「うん、あのフェレットだよ」

「「えええええ!」」

 

 なのはからユーノ話を聞いていたすずかとアリサは驚きを隠せない。

 

「私も驚いたな……」

「僕も……」

「いや、ゆうきはリアクション全くしてないからね」

 

 戦闘の緊張が無くなった為、賑やかになる仲良しグループとユーノ。そこ一方でフェイト達は

 

「えっと……これって私達」

「うむ、若干だが蚊帳の外だな」

「んなの、冷静に言わなくとも……」

 

 フェイト達は平常運転に戻った模様だった。

 

 

 

 

 それから事態の説明やユーノが全員の回復など少々時間はかかったが

 

「じゃあ、始めるよ2人とも」

「うん」

「お願いね」

 

 ジュエルシードの封印作業に入る。封印はなのはとフェイトの2人が一緒に行う。

 

「本当にいいの? 結局止めたのはそっちだけど」

「フェイトちゃん達が来てくれなかったらダメだった。こうしていられるのもフェイトちゃん達のおかげだから」

「そう言っているのだ、いいだろう」

「うん……」

 

 遠慮気味だったフェイトはなのはとエクスの説得で乗る気になる。

 

「じゃあ」

「うん」

「「ジュエルシード、封印!!」」

 

 アリサとすずかが光に包まれたと同時に結界は崩れ落ちだす。空に亀裂が奔り、崩れ落ちる様は幻想的で普通では見られない光景だった。

 

「なんだか不思議な光景だね」

「この結界は特殊な結界で、しかも強制的に解除した。その為、この様に崩れる様に消えるのだろう」

「結界破壊の魔法、覚えようかな……」

 

 ゆうきが物騒な事を呟いていたが全員無視。

 

 封印の終了と共に世界の崩壊が終えると、そこは学校の屋上に全員はいた。封印した影響か、アリサとすずかだけは気を失っていた。

 

「じゃあ……」

「うん、また」

 

 なのはとフェイトがそれぞれジュエルシードを"1つ"ずつ手に持ち別れようとする。

 

「ん? 4つではないのか?」

「2つしかなかったの。ね、バルディッシュ」

<ジュエルシードの反応はもうありません>

 

 エクスの記憶上、発見したジュエルシードの反応は4つ。しかし、現状は2つしかない。

 

「エクスの思い違いじゃないのかい?」

「たしかに4つだったのだがな……」

 

 記憶との違いに戸惑いながらも、実際に2つなのだから自分の間違いだと思い直すエクス。

 

「すまなかった、おそらく私の思い違いだろう」

「そう……」

 

 フェイト達が地から離れ、宙に浮く。

 

「じゃあね」

「うん、また」

 

 青と金の閃光が空を駆け、学校から離れていく。

 

「僕も今の内に戻るね」

「見つからないようにね」

「うん」

 

 ユーノは隠密性に長けるフェレットに変身し、なのはの家へと戻る。

 

 その場にいるのはなのはとゆうき、気を失っているすずかとアリサだけになった。

 

「終わったね……」

「うん……」

 

 改めて事態が終結した事を実感する2人。屋上にある時計を見るとアリサ達と喧嘩別れをしてから30分しか経っていなかった。2人にしてみれば、とても長い時間に思えた戦いも現実の世界では30分も経っていなかったのだ。

 

「なの……は……?」

 

 と、すずかが目を覚ます。

 

「2人とも、大丈夫?」

「大丈夫って、なんでそもそも私とすずかがここで寝てるの?」

「ジュエルシード封印したからその影響で気を失ったんだ」

 

 ゆうきが事情を説明するとアリサがきょとんとした目で暫らく見つめた後、急にジト目になり

 

「ジュエルシード? 封印? なんなのよそれ」

「ふぇ?」

「それがアンタ達が私達に隠してた事?」

 

 隠してた事、それは魔法のことだろう。しかし、それはアリサも身を持って体験している為にアリサも理解しているはずである。今更隠すも何もない筈である。

 

「もしかして……」

「う、うん……」

 

 そこでゆうきはある仮定が思い浮かぶ。と、そこでちょうどよくすずかも目覚めたのでその試してみる。

 

「ねえすずか、君はどうしてここで寝ているか分かる?」

「たしかアリサちゃんを追いかけて……あれ? どうしてだろ?」

 

 すずかはジュエルシード関連の記憶がまるっきりなかった。その会話からゆうきの仮定は確証へと変わる。

 

「なのは、多分すずかとアリサにジュエルシード関連の記憶がない」

「たしかに、それなら……」

 

 念話でなのはに自身の考えを伝える。その考えになのはも納得する。

 

「2人にはまた隠し事になっちゃうけど、2人はただ巻き込まれただけにしよう」

「いいの?」

「巻き込まれた事はたしかだからね」

 

 ゆうきは意地悪そうに笑うとアリサとすずかに向かい合い

 

「ねえ2人はさ、魔法って信じる?」

 

 そう口にした。

 

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