「まさか魔法が存在したなんて……」
時は少し流れて放課後。ゆうきは昼休みと放課後とアリサとすずかがジュエルシードによって暴走したこと以外の事情を説明し、論より証拠の如く学校のあまり人の来ない所で魔法の披露もし、魔法が存在する事を証明した。
色々と落ち着くためになのは達は現在にて屋上で風に当たっていた。
「ジュエルシードの回収は危険があって、アリサとすずかを巻き込みたくなかったんだ」
「だから、黙っていたのね……」
全てのテストで満点を軽く獲得できるアリサが理解できないという事はない。が、
「でもね、これだけは言わせなさい」
理解と納得は別物である。
「どんな事情があろうとも私とすずかに隠し事なんてするんじゃないわよ!」
「ゆうき君が私達を思ってくれるのはいいんだけど、逆にゆうき君達を心配している人達の立場にもなってみてね」
「ごめんね……」
ゆうきが責められているが、これはゆうきが言い出したことで、同じ女の子で付き合いも多いであろうなのはの関係悪化を防ぐ為に講じた策だった。ゆうきがなのはに言わない様にしたとすれば自分にしか矛が向かず最悪の場合でもなのはが関係を断たれる事はないと考えたのだった。
全てがゆうきの思惑どおりに動いていた。
「ま、アンタだけに言ってもどうしようもないんだけど。なのはもいいわね!」
「う、うん」
今までは。
「あ、あれ!?」
予想外の展開にゆうきが珍しく驚きの声を上げる。
「私がアンタの思考を読めないと思った? だったら私を過小評価し過ぎよ」
「ゆうき君は優しいから何でも自分に責任を負おうとするから、逆に分かりやすいんだよ」
「というか、アンタって自分の事に関してはかなり無頓着ね」
そう、ゆうきはアリサとすずかはがなのはをよく見ていると認識していたがそれは間違いであり、ゆうきもしっかりと見ていたのである。
「今度からは自分の事もしっかり考えてね」
「たしかに、ゆうき君にはもうちょっと自分の事も考えてほしいかな……」
「いいわね」
「はい……」
流石のゆうきも美少女3人組の言葉には頷くしかなった。
「じゃああれ、見に行かない?」
「あ、そうか今日はあれが張られる日だもんね」
「またアリサの独壇場だろうな……」
「ふふふ、当り前じゃない!」
4人の話題はすっかり"あれ"についてに切り替わる。その目当てのあれを見に職員室へと向かう。その途中に何組かの生徒とすれ違うがその生徒もあれについての話をしていたのだった。
職員室の前には大勢の生徒が1か所に集まっていた。
「やっぱり、みんな気になるんだ……」
大勢の生徒が集まっている場所、そこには壁一面に紙が貼りつけられていた。その紙こそが生徒の目的である。貼られている紙を見ては安堵する子もいれば、がっくりとする生徒もいた。
生徒が一喜一憂するその紙の正体は、学年テストランキングの紙だった。私立である聖祥大附属小学校は生徒が高い目標を持ち、切磋琢磨できる環境を作るためにあえてテストの順位を上位だけながら発表していた。
テストなんて満点が当り前と豪語しているアリサはぶっちぎりの学年一位を毎回記録しており、学校の伝説となりつつあった。
「アリサの独走に一票」
「「私も」」
「無駄な話してないで早く行くわよ」
目的の所に行くためには4人固まっていては困難なので分かれていくはずなのだが
「なんでゆうきの所になのはとすずかが行くのよ!」
「「え?」」
1対3というおかしい人数バランスにアリサの怒号が飛ぶ。が、もう行動を始めているので今更集まる事はできない。アリサは単身人の波に苦労して入り、すずか、なのははゆうきが道を開いてくれるので楽々入れる。
「……?」
と人をかき分ける作業をしているゆうきは首を傾げる。
「ゆうき君、もしかして疲れた?」
「ごめんね、こんな事させて」
「いや、疲れた訳じゃないんだ。ただ、身体が何故か軽いんだ」
身体が軽いと思ったのは2度目だった。1度目は倒れた後に行動した時。あの時は戦闘から離れ一時的に眠ったから疲労がとれたのだと思った。だが、授業によって戦闘後までとはいかないが確実に疲れている身体は確実にアリサ、すずかのジュエルシード事件前よりも軽かった。
「体が軽い?」
「ゆうき君、痩せたの?」
「……いや、気のせいだったみたい。ごめんね」
そう言って話題を終える。気のせいとは言えない感覚に戸惑いながら。
苦労して人をかき分け、ランキング用紙の前に来た4人。
「もう! なんなのよ!」
「まあまあ」
ご機嫌斜めなアリサをなだめるゆうき。なのはとすずかはただ呆然として、ランキング用紙を眺めている。そこに疑問を覚える。なのはとすずかの性格ならば、すぐにアリサに詫びを入れるはずである。だが、2人はランキング用紙を眺めているだけである。
「どうしたの?」
「ゆうき君、アリサちゃん、あれ……」
なのはが指が指差していたのはランキング用紙の一番上つまり1位の欄を指していた。そこには
1位 500点〖アリサ・バニングス〗
と書いてあった。これは4人とも予想していたことだ。しかし、予想外なのはその下だった。
1位 500点〖宇佐美神風〗
と書いてあった。
「うさみ、かみかぜ……?」
「誰なんだろ?」
「先生に聞いてみましょ」
ここで悩んでも仕方ないといつものリーダーシップを働かせ、職員室へと向かう。
と、その途中に学年教諭の先生が都合よく歩いてきた。これはチャンスと行動を開始する4人。
「先生、今ちょっと時間ありますか?」
「ちょっとだけならあるが、どうしてだ?」
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」
「聞きたい事……?」
と「お前が勉強のはずがないしな……?」と教諭が首を一瞬傾げた後、後ろのランキング用紙を見てその内容を察した。
「宇佐美の事か?」
「そうです。その宇佐美っていう子って今まで聞いた事ないんですけど」
「それは当り前だな。宇佐美はテストの前日に転入してきたからな」
「「「「え?」」」」
先生の発言に3重の意味で驚いた。
この学校は私立でしかも大学付属という事もあり、一度入りしっかりと勉強をこなせばエスカレーター式であるものの、入学するためには試験をパスする必要がある。1年から入学するのならば多少の勉強していれば事足りるが途中入学はそうはいかない。一般の学校よりも一歩も二歩も進んでいる学校の勉強の内容が編入試験に出てくるのだ。因みに聖祥大附属小学校の為に補足するが、優秀な生徒しかいらないという訳ではなく、難しい勉強して生徒が勉強を嫌いにならない様にという経営者の方針で、落ちた生徒にもその試験の成績に応じて、相応しい学校を紹介している。
転入してきたという事はそれをクリアしたという事である。なのはとゆうき同じ事をしろと言われたらできないと答えたくなるほどの事であった。これが驚く1つ目の理由。
2つ目の理由は転入直後に満点を取っていること。普段授業を聞いているなのは達ですら満点を獲得する事は困難というより不可能。アリサなど特例中の特例だった。
3つ目の理由はそれだけの事がありながら全く噂になっていない事だった。大人はあまり知らないが、子供の情報網というのは学校間であれば部類の凄さを見せる。全教科満点というのを出せると思われる生徒がいれば引っかかる筈である。しかし、その情報網の中に宇佐美という生徒の情報は一切なかった。
「先生がテストを受けさせたんですか?」
「いや、宇佐美自身が受けたいと言ってな。だから、テストの前日に転入したんだ」
「それで満点……」
今までライバルと言えるライバルがいなかったアリサにとって勉強とは身内に心配させない様にと義務的なものであった。しかし、今日判明した自分と同じく満点を獲得した生徒。しかも、前日に転入しての満点。自分よりも頭が良い可能性は大いにある。つまりそれは待ち望んでいたライバルの出現に他ならなかった。
宇佐美という生徒がどんな生徒か直接見てみたい、そう考えたアリサは先生へ質問する。
「先生、その宇佐美って子の何組ですか?」
「たしか……4組だったな。会おうとするなら早めの方がいいぞ。宇佐美は放課後あまり残らない様だからな」
「ありがとうございました」
必要な情報を聞けたのでみんなで先生にお礼を言い。早速目的の教室へと向かう。
「アリサちゃんうれしそうだね」
「今までライバルがいなかったからね」
「こら、早く行くわよ!」
普段1.5倍速のアリサを筆頭に4組の教室へと向かうのだった。
「宇佐美って人いますか」
4組へと一番乗りし、目的の人物の名を呼び教室に入る。突然の来訪者に教室に残って楽しく談笑をしていた生徒が呆然とする。
「アリサちゃんいきなりそれは……」
「あの、このクラスに宇佐美って子いないかな?」
「う、宇佐美くん? 宇佐美くんならあそこに」
クラスの生徒が指差した方向には1人の腕を組みながら目を瞑って座っている男子生徒がいた。
「貴方が宇佐美?」
「ちょ、直球過ぎるよ、アリサ」
指された方向にいた生徒にあまりにもど直球なアリサにツッコむゆうき。
「僕が宇佐美だけど。君達は誰だい?」
「私はアリサ。後ろの三人は順にゆうき、なのは、すずかよ」
「「「「はじめまして」」」
アリサがなのは達の紹介すると「ん?」と首を傾げる。
「ちょっと自己紹介とは関係がないんだけど、質問いいかな?」
「? 何かしら?」
「いや、僕はこの学校に来てあまり日が経ってないから学校について詳しくないんだけど……」
と、言葉を区切った後
「この学校って男装ありなのかい?」
訳の分からない質問をした。
「はい?」
「いや、だってゆうきって女の子だろ」
「え!?」
「あ、そういえば……」
ゆうきが驚きの声を上げる傍ら、アリサが納得したように呟く。
「ゆうきの声って、男子としては結構高かったわね」
「普段から一緒にいるから忘れていたね……」
「僕ってそんなに声高い!?」
「ごめん、ゆうき君。正直言って、結構高い」
普段いるなのは達は言葉通り完全に忘れていたが、ゆうきの声は男子としてはかなり高く、女子と間違えられてもおかしくない程だった。故に宇佐美がゆうきの事を男装している女子と間違えても無理はなかった。
「で、僕になんの用だい?」
声が高く、女子に間違えられた事に落ち込むゆうきはなのはとすずかに任せて、アリサと宇佐美は話に戻る。
「私と同じく満点を取って、しかもそれがテスト前日に転入した人って聞いたから気になって」
「君がもう1人の子か」
「前日に転入して満点だなんて凄いじゃない」
「勉強だけが取り柄みたいなものだからね」
宇佐美はアリサの言葉に受け答えはするが、どこか淡々としており、表に出さないが会話が早めに終わる事を望んでいる様だった。それを察せないアリサではない。
「何か用事でもあるの?」
「いや、ちょっとね……」
「何か困った事があれば協力するけど……」
アリサの提案に悩む宇佐美だが、事情が好転しないのだろうか、重そうな口を静かに開いた。
「実は、僕の大切な本がなくなったんだ」
「どんな本なの?」
「かなり大きな本で表紙が何も書いてない本なんだ」
「変わった本ね……」
大きい本となると置く場所も限られてくる。その限られた場所を探さないなどありえない。それでも尚、見つかっていないとなると可能性は1つ。
「隠されたわね……」
「やっぱりか……」
「探すとなるとゆうきを復活させた方が良さそうね」
アリサがゆうきの方を見ると
「ゆ、ゆうき君の声、とってもいいから」
「私はゆうき君の声好きだよ」
「…………」
教室の隅で膝を抱えながらのの字を描いていた。漫画ならば背景に縦線が多く入っている事間違いなしの落ち込みようだった。
「はあ……仕方ないわね。なのは、すずか退きなさい」
「う、うん」
「どうするの?」
アリサがなのはとすずかを退かせ、ゆうきに近寄る。当然のゆうきは落ち込んだままの為、アリサの接近に気付かない。そして真後ろに立つと。
「いいかげんにしなさい!」
「あう!」
ゆうきの後頭部に斜め45度の角度から手刀を落とす。後ろを向く際、頭を押さえ涙ぐみながら振り返ったので、一部それを見ていた一部の女子が頬を染めたりしていたが、ゆうきは気付かず他は気にしない。
「いつまでも落ち込んでない、宇佐美の事情に比べたらどうって事ないわ」
「……宇佐美に何かあったの?」
「大事な本がおそらく隠されたわ」
アリサの一言でゆうきの雰囲気が真剣なものへと変わる。
「特徴は、かなり大きい本。この教室には」
「とにかく大きい本で正直言って普通じゃない本かな」
「……なら、手分けして探そう」
意識を完全に切り替えたゆうき。その後ろではなのはとすずかが若干落ち込んでいるがゆうきには見えず、アリサは放置、宇佐美はそれどころではないという事でかまってもらえない。
「いいのかい?」
「勿論だよ」
「よし、ならみんなで探すわよ」
流石に5人で纏まっての捜索となると非効率である為に分かれる事に。そこまでは順調だったが、そこでアリサの予想外の事が起きる。アリサが、まさに阿吽の呼吸であるゆうきとなのはの2人組にしようとした時
「私がゆうき君と一緒に探していいかな?」
すずかが意見を言った。普通ならば十分考えられるが、すずかの場合は完全に考えられなかった事だった。
「すずか、どうしたの……?」
「うん? 何か私、変かな?」
すずかが笑顔で言うがアリサにとってはそれがまるで無言の威圧に感じられた。初めてすずかに恐怖を覚えた瞬間であった。
「たしかに……。なのは、なのははアリサと宇佐美の方に行ってくれないか?」
「どうして?」
「なのはと僕は念話での伝達ができる。そこで別れて探した方が効率がいいんだ」
「……うん、分かった」
念話の事はまだ話していないので理由は不明だが、渡りに舟とばかりにすずかに提案に乗っかる事にした。その際、どことなくなのはの声音に力が無い様に感じられたが気のせいだろうと思い、早速行動する。
「僕もそれがいいと思う」
「そ、そう。じゃあ、すずかはゆうきと一緒に探して」
「分かった、行こゆうき君」
ゆうきとすずかが別行動を開始する。
「私達も探しましょ」
「うん」
「……うん」
「見つからないね……」
なのはと連絡を取りながら捜索を始めてもう1時間が経つが、成果はなくただただ時間が過ぎていくだけであった。
様々な所を探して、若干の疲れを実感し始めた時、すずかが提案する。
「ねえゆうき君、屋上に行ってみない?」
「屋上か……たしかに探してないけど、あそこにあるかな?」
屋上とはよく生徒が行く場所で、そこに隠しているとは思えなかった。
「ちょっと風に当たって整理しない」
「……そうだね」
ずっと探しており、たしかにちょっと情報の整理と休憩をした方がいいかもしれない。とゆうきも納得し、屋上に向かうことに。
「誰もいないね……」
放課後という事もあってか、屋上には誰もおらず、ただ心地良い風がふいているのみだった。
「風が気持ちいいね」
「そ、そうだね……」
太陽を背にして振り返るすずか。風で流れる髪を軽く抑える仕草がすずかの綺麗さを際立たせる。その姿に一息を呑む。
「ねえ、ゆうき君……」
「何かな、すずか」
「私、ゆうき君の事が好き……」