魔法少女リリカルなのは~未来を変える者~   作:A,I,R

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第12話「ずれた世界」

「私、ゆうき君の事が好き……」

 

 すずかが静かに自分の想いを告げる。ゆうきがすずかから告白されるのは2度目で、1度目はジュエルシードという異物によってである。だが、今は違う。この告白はすずかの純粋なる想いだった。

 

「ねえ、ゆうき君は私の事、好き……?」

 

  すずかは容姿、性格も良く、これで文句など言えば世界中の男子から凶器をぶん投げられるだろう。実際、ゆうきもすずかに告白されてうれしくない訳ではない。だが

 

 そこでゆうきは思考を止め、一度目を瞑り、深呼吸を行い感情を整理する。そして目を、口を開く。

 

「……分からない」

「分からない?」

「すずかの事が好きかどうか分からないんだ」

 

 分からないそれがゆうきの答えだった。なのはの次に一緒にいる時間が長いすずか。なのはと同様、傍にいるのが当たり前になっていた。その当り前の人が嫌いである訳がない。だか、その好いているという意味が、恋や愛の方なのかは全く分からなかった。

 

「だから、答えを出せない」

「そう……」

 

 ゆうきの回答に対し、すずかは静かに返答する。そこに落胆も驚きもない。まるでゆうきの返答をある程度予想していたかの様である。そして全ては次の一言のために用意したかのようだった。

 

「なら、付き合ってよ」

「…………は?」

 

すずかの予想外の言葉に一瞬思考を停止させる。

 

「えっと……なんて言ったのかな?」

「だから、私と付き合ってって言ってるの!」

「どうしてそうなるの!?」

「だって、勇気を出して告白したのに返答が分かんないだよ。そんなの納得できないじゃん」

 

 可愛らしく頬を膨らませそう言い出すすずか。あまりにも普段とのギャップのせいで「貴女、そんなキャラでしたっけ?」と心の中でつい丁寧な口調で訪ねてしまうゆうき。

 

「いや、付き合うって普通恋人がやる事じゃないの?」

「そう? 好きじゃなくても付き合っている人いっぱいいるってよく話を聞くよ」

「へ、へえ……」

 

 1つ知らない世界を知ってしまった瞬間である。

 

「で、でも中途半端な気持ちで付き合ったらすずかに失礼だし……」

「それでも私はいいよ。それも納得して付き合いを言い出したんだし」

「僕は君の裏切るかもしれないよ?」

「裏切られても怨まない」

「僕は君を捨てるかもしれないよ?」

「捨てられたら私はそこまでの女」

 

 すずかの瞳には強い意志が宿っている。そこに揺らぎがないと分かったゆうきは「はあ……」と溜息に似た息を吐いた後、すずかを見据える。その目に戸惑いも迷いも無い。

 

「分かった、付き合おうすずか」

 

ゆうきの言葉を聞いた瞬間、すずかが目を伏せる。意外な反応にオロオロし出すゆうき。と、次第にすずかの体が震えだしそれが一段と大きくなった瞬間

 

「ゆうき君!!」

 

 すずかが飛びかかってきた。

 

「す、すずか!?」

 

 いきなりの事で心も体勢も準備できておらず、飛びかかってくるすずかを支えきれずに体勢が崩れる。視界が回り、空が見える。とその時

 

 入口の上、一般的な学校では貯水タンクなどがある場所に何かが半分出た状態で乗っかているのが視界に入った。が、それが見えたのは一瞬で、すぐに空が見え、地面に倒れた。が、痛みはあまりなく、それよりも抱き付いてすずかが今のでケガしていないかという方がゆうきにとっては心配だった。

 

「ご、ごめんね。ケガない?」

「大丈夫だよ」

 

 まるですずかがゆうきを押し倒したかの様な形で倒れた為、すずかは真っ赤になりながら退く。が、ゆうきには本当の理由が分からず、ただ恥ずかしかったのだろうと思っていた。

 

「ちょっとびっくりしちゃった」

「ご、ごめんね。うれしくてつい」

 

 すずかの手を借りて起き上がるゆうき。その際、当然手を繋ぐことになるため再び真っ赤になるすずか。「すずかってこんな性格だった?」と内心疑問だらけになるが表には出さない。

 

「まあ、すずかのおかげでとある発見があったんだけどね」

「発見?」

 

 発見とは当然ながら上にあったもののことである。一瞬であったのでそれが何であるか分からなかったが、その物体の見当はついていた。

 

 ゆうきが再びその場所を見ると大きな、普通の本よりかは大きいサイズの本が飛び出た形で置いてあった。

 

「あれかな?」

「多分、大きいしあそこに普通は置かないしね」

 

 普通ならばどうやって取るかという点で思案する必要があるのだが、ゆうきには必要がない。すずかに入口を見張ってもらい一般生徒が来ない事を確認した後、魔力で強化した脚力を使い、跳ね上がり本を取り降り立つ。

 

 手に取ってみるとその大きさがよく分かる。全体的に空の様な薄い蒼をしており、黄色の十字架が表紙に書かれていたその本は、辞書ぐらいの大きさでありながら、重さは全く感じない。

 

 その事を不思議に思いつつもなのはに念話で見つけた事を伝える。

 

「なのは、多分本が見つかったよ」

「ほんと!? 場所は」

「屋上」

「分かった。今から行くね」

 

 念話が切られるが、ちゃんとアリサと宇佐美に説明できるか若干心配になるゆうき。

 

「もう伝えたの?」

「うん。もう少ししたら来ると思うよ」

「宇佐美君のが見つかってよかったね」

「これだといいんだけどね」

 

 

 

 

 

「そう、これだよ! ありがとう」

 

 ゆうきが発見した本はどうやら当たりだった様だった。

 

「ありがとう。大切な本なんだ」

「見つかってよかったね」

「これから何かあったら私達に頼りなさい。力になってあげる」

 

 見つかった事に皆が安堵する。

 

「それにしても大きな本ね」

「何が書いてあるの?」

 

 すずかの質問はもっともだった。下手な辞書よりも厚い本なのだから内容が気になっても仕方ない。

 

「普段は絶対に見せないんだけど、お礼に見せよう」

 

 宇佐美が本を開きビラビラとページをめくり、とあるページを開き、皆に見せる。

 

「僕は絵を描く趣味があって、これは絵を描く専用の本なんだ」

 

 宇佐美が見せたページには2本の剣が描かれていた。2本はよく描かれており、絵とは思えない程の精巧さがそこにはあった。まるで写真で写したかのような精巧さと、映画やアニメの設定資料の様に細部まで詳しく描かれていた。

 

「ちょっと恥ずかしいけど、僕は伝説上のものがどんな感じなのかって想像して描くのが好きなんだ」

「伝説上のもの? どうやって想像してるの?」

「文献とか見てかな。僕の親は、そういったものが好きで家にたくさんあるんだ」

 

 宇佐美が本のページを開いていくがどれも絵とは思えない程のレベルだった。

 

「宇佐美君の両親はどんな仕事してるの?」

「医者だよ。主に海外での仕事が多いから日本じゃ無名だけどね」

「じゃあ、家の生活はどうしてるの?」

 

 両親共に海外にいるのならば普段の炊事洗濯などはどうしているのだろうか? と疑問に思うのは当り前である。

 

「知り合いの家に今は一緒に住んでるんだ」

「へえ……」

 

 とここで学校中に鐘が響き渡る。この鐘は完全下校を促す鐘だった。

 

「と、鐘が鳴ったね」

「早く下校しないと怒られちゃう」

「みんな、急いで」

 

 荷物を急いで纏め、校門へ向かう。

 

「宇佐美、何か困った時は私達を頼りなさい」

「必ず力になるから」

「ありがとう」

 

 若干乱暴に言うアリサだが、それは素直に言えないだけと、共にしたのは短い時間だったが、アリサの性格を理解した宇佐美。

 

「そういえば、アリサちゃんとすずかちゃんはお稽古時間大丈夫?」

「やば、急ぐよすずか」

「うん。じゃあね、なのはちゃん、ゆうき君」

 

 アリサ、すずかが急いで稽古へと向かう為にバニングス家の執事兼運転手の鮫島が待つ車の元へと走っていく。

 

「僕達はこっちだから」

「ゆうき、今日はありがとうね」

「気にしなくていいよ。じゃあね」

 

 宇佐美と別れなのはと2人で歩く。暫らく歩いた後、不意にゆうきが立ち止まる。

 

「で、なのはどうしたの?」

「…………」

 

 なのはは終始無言だったのが気になっていたのだった。

 

「すずかちゃんと2人の時、どんな話をしたの?」

「ん? どうして気にするんだい?」

「ジュエルシードの影響はないのかなって思って」

 

 記憶はないとはいえ何か影響があるかもしれない。なのはが終始無言だったのはアリサの行動を普段の行動と比べていたのだと判断した。そこですずかの行動を話そうとした時、ふと思い返して、気付いた。すずかとの主な会話は、恋愛の話だった。

 

「えっとね……」

「何かあったの!?」

「あったと言えばあったし、なかったと言えばなかったかな」

「どっちなの!」

 

 なのはが珍しく口調を強めて迫る。

 

「実は、すずかに告白されたんだ……」

「どう返したの?」

「…………付き合う事にした」

「……っ!」

 

 ゆうきの言葉に息を詰まらせるなのは。

 

「本当なの……?」

「本当だよ」

「そ、そうだよね。嘘吐く理由が、ないもんね」

 

 なのはの言葉が小さく弱くなっていく。

 

「どうしたのなのは?」

「あ! お兄ちゃんと約束があったの忘れてた。急ぐね」

「なのは、待ってよ!」

「ゆうき君はゆっくりでいいよ」

 

 なのはがまるで逃げる様にゆうきから離れていく。

 

「どうしたのかな?」

<危険性はないと思うので大丈夫でしょう>

「それなら大丈夫だね」

 

 若干、なのはの様子が気になったものの、シャイニングハートの言葉を信じ、言われた通りゆっくり帰るのだった。

 

「ジュエルシードを探しながら帰ろうか」

<学校の周りにあると危険ですからね>

 

 

 

 

「あ、お帰りなさいなのは」

 

 偶々、玄関の傍にいた桃子がなのはを出迎える。が、そこで疑問に思った。普段なら「ただいまー!」と元気の良い声が聞こえてくるのだが今は声すら聞こえてこない。

 

「どうしたの、なのは」

「ゆうき君が……ゆうきくんが……」

 

 そこでなのはの声が次第に涙を帯びてくる。普段は決してそういった事を表にださないなのはが親の前で泣いているというのは軽い事件だった。

 

「ゆうきが何か事件に巻き込まれたの?」

 

 内心では動揺しつつも事情を聞くのが最優先と優しくなのはに問いかける。

 

「ゆうき君がね、すずかちゃんと付き合うって言ったの」

 

 その一言でなのはが何故泣いたのか理解した。それは母としてというよりも女としてのカンが大きく働いたものだが。

 

「なのはどうした!」

 

 が、ここで恭也がタイミング悪く玄関に木刀を持ってカッ飛んできた。

 

「大丈夫よ、恭也」

「しかし、母さん!」

「大丈夫よ。だから も ど り な さ い」

「は、はい!」

 

 笑顔で言われたが明らかに目は笑っていない。笑顔とは恐ろしいものだと初めて知った瞬間だった。玄関へと向かった速度と同等の速さでその場を去る。

 

「大丈夫よ、なのは」

 

 桃子はなのはを胸に抱き、落ち着かせる。母親に抱かれているという安心感のおかげか、次第に落ち着きを取り戻してくる。

 

「ねえなのは、なのははゆうきがすずかちゃんと付き合うって知った時どう感じた?」

 

 ある程度落ち着きを取り戻したと判断した桃子は問題の核心を聞く。だが、それは真相を究明するためではない。なのはがどの程度"自覚"しているかを確認するためであった。

 

「……ゆうき君が遠くに行く様な気がして」

「どうしてそう思ったの?」

「……分からない……」

 

 ここで迷う。"それ"を教えるべきなのかどうかを。暫らく考え、出した答えは。

 

「そう……ならその原因をゆっくり探しましょう」

 

 教えない事だった。教えてしまえば"それ"が何であるか理解するのは簡単だろう。だが、それでいいのだろうか? 自分で気付くからこそ、その価値が分かる。その重みが分かる。

 

「……うん……」

 

 そんな母の想いなど知らず、なのはは自分自身でも分からないこの感情に自問自答を繰り返すのだった。

 

 

 

 

「ただいま」

 

 ジュエルシードを捜索しながら帰った為、いつもの2、3倍以上の時間を掛けて帰宅した。家に入った途端、ゾクっと嫌な感覚がゆうきを襲う。

 

「なんか嫌な予感がする」

 

 嫌な予感とはよく当たるものである。

 

「ゆうきいいいいい!!」

「ちょ、お兄さん!」

 

 恭也が文字通り弾丸の如く飛び出し、突きを放つ。が、間一髪の所で飛び退き難を逃れる。

 

「いきなり何!?」

「問答無用だ!」

 

 ゆうきの戸惑いの声を無視し、恭也は木刀をゆうきへと繰り出す。その攻撃スピードはエクス並み、いやもしかするとエクスよりも早い速度で木刀を振るう。

 

 狭い廊下での戦闘の為、攻撃可能範囲も狭いが回避可能範囲も狭い。廊下に救われると同時に危機に立たされている。

 

<道場へと逃げましょう! そこなら>

「! そうだね……」

「ちい! 逃げるな!」

 

 攻撃を紙一重で避けながら、道場へと侵入。その際、ドアを蹴破る形になるが気にしてはいられない。

 

「ゆうき、覚悟!」

「しかたない!」

 

 道場へと入り壁に掛けてある木刀を手に取り、恭也が振り下ろす木刀を受け止める。

 

「剣術で俺に勝てると思うなよ!」

「もういい! 堪忍袋の緒が切れた!」

 

 体格差では圧倒的に恭也の方が有利なはずだが、ゆうきは自身に強化魔法を使用しているので、力が拮抗する。拮抗する力と力により鍔迫り合いの状態となる。本来ならばどちらかが力を逃がす形に体勢を変えれば、終わり、有利になることは間違いないのだが、互いに意地だったり頭に血が上っていたりとそんな考えなど浮かばない。

 

「このおおお!」

「ていりゃあああ!」

 

 木刀と木刀がぶつかり合う乾いた音が連続して道場に響く。幾度も幾度も切り結ぶ2人。互角の様に思える状況だが実際にはゆうきが押されていた。魔法で強化しているとはいえ、恭也にばれない程度でやらなければならない、よって強化魔法は小学生対大学生の状況を、中学生対大学生までにしか縮められなかった。これだけに不利だというのに剣術の下地にも差があった。

 

 恭也は父士郎から剣術、小太刀二刀御神流を習っていた。木刀の大きさと数に違いはあるものの、素人であるゆうきに比べたら格段に剣術というのを知っている。

 

よって

 

「そらそらどうした!」

 

 ゆうきは徐々に劣勢へと追い込まれていく。

 

「本気で行くぞ!」

 

 恭也の宣言通り、木刀を振る速度が徐々に上がり次第に視界に捉えるのが難しくなってくる。が、そこでゆうきは1つのミスを犯してしまう。

 

「くらえ!」

 

 今までで速度も鋭さも一番の一撃がゆうきに振るわれる。その一撃に対し、ゆうきは防ぎながら反射的に目を瞑ってしまった。その一瞬の隙を恭也は見逃さない。ゆうきが目を瞑った一瞬の内に背後に回り込み、木刀を振るった。

 

 完全に見えない一振り、防げるはずがない必勝の一撃は恭也は勝利を確信する。

 

 道場内に響いたのは木刀が肉体を叩く鈍い音。

 

「はあ!?」

 

 ではなかった。恭也の必勝の一撃はゆうきの木刀によって防がれていた。しかも驚く事にゆうきは振り返らずに恭也の木刀を受け止めていた。まるでその攻撃軌道が分かっていたかのようであった。が、それは違う様で恐る恐る目を開いたゆうきは自分が防いだことにかなり驚いていた。

 

「え!? なんで受け止めてるの!?」

「それはこっちの台詞だ!」

 

 一瞬互いに戸惑ったものの、すぐに冷静さを取り戻し、体勢を整えるべく距離を取り、再び衝突しようとしたその時

 

「何をやっている!」

 

怒号が道場内に響き渡った。2人が入り口を見やるとそこには父、士郎が立っていた。

 

「何故2人はこんなことをやっている」

「帰ってきていきなり、兄さんが襲ってきたんだ」

「本当か?」

「うっ……」

 

ゆうきは知らないが、恭也がゆうきに襲いかかったのはなのはがゆうきの名を言いながら泣いていたからである。が、話の全てを聞いた訳ではないので、ゆうきが泣かせた確証はどこにもなかった。

 

「ゆうき、リビングにおやつがあるから手を洗って食べなさい」

「う、うん」

「恭也はここに残れ」

 

 暗にゆうきはここから離れる様に言われ、恭也の事を心配しながらも道場から退出する。

 

「で、どうしてこうなったんだ?」

「……ゆうきがなのはを泣かせたんだ」

「どういうことだ」

 

 恭也が事の経緯を士郎へと説明していく。

 

「なるほどな」

「あのなのはが母さんに泣きついたんだ、何かゆうきがやらかしたに違いない!」

 

 なのはの家族に心配を掛けない様に辛いこと事や悲しい事を抱え込む癖がある。実際に何度もゆうきが陰で伝えてくれなければ判明しなかった事態がある。そんななのはが表に出すというのだから相当な事に違いない。

 

「だが、確証がない。そうだろう」

「そう……だけど……」

「確証がない状態で襲いかかるなど言語道断だ」

 

 士郎の言葉は正しく、恭夜もそれを理解できるため、反論ができない。

 

「この件は母さんに聴いておくが、お前はもう忘れなさい」

「はい……」

 

 

 

 

 2人がそんな話をしているなど知らず、とりあえず言われた通りにリビングに行くと、ちょうどよく姉の美由希と桃子がリビングに行くと、姉の美由希と桃子が丁度ケーキを食べていた。

 

「ゆうき、お帰りなさい」

「お帰りゆうき」

「ただいま」

 

 とここでゆうきはあることに気付く。なのはがいないのである。

 

「あれ? なのはは」

「なんか家に着いたらすぐに寝ちゃった。きっと疲れたのね」

「へえ、珍しいね。なんか学校であったの?」

「ああ……結構大変な事があってね」

 

 最大の理由であろう魔法戦をバカ正直に話す訳にはいかないので、宇佐美の本を探したことを話す。

 

「へえ、そんなことがあったんだ……」

「それで疲れたんじゃないのかな」

「……なのはも大変ね……」

 

 その呟きの真意を知る者はこの場にはいなかった。

 

 

「なのはがまさかゆうきにとはな……」

 

 日付がもう変わろうとしていた頃、なのはが泣いた件について桃子から説明されていた。話を聴いている士郎は終始無言で初めて出てきたのはその一言だった。

 

「不思議?」

「いや、考えればなのはが一番人恋しい時に傍にいたのはゆうきだからな。不思議ではないさ」

 

 士郎は昔ボディガードを生業としていたが、なのはが産まれて暫らくしたある時、仕事中にテロに巻き込まれ、瀕死の重傷を負い、長い間生死の境を長い間彷徨った。その頃の翠屋は仕事が軌道に乗っておらず、桃子は翠屋を切り盛りしながら家族の面倒を見なければならなかった。恭也と美由希はその桃子の手伝いを追われていた。そんな中、まだ小さかったなのはは1人家で待っているしかなかった。そんな時、1人寂しく家で待っていたなのはを救ったのがゆうきだった。

 

「あの時ゆうきが傍にいてくれたから、今のなのはがいる」

「それに優子達が来てくれなかったら翠屋も危なかった」

 

 ゆうきの母である優子は桃子の妹で、姉の危機に夫と共に翠屋を手伝いをかって出たのだった。親が翠屋の手伝いをしている間に、ゆうきはなのはと共に留守番となる。留守番という事実は変わらないが、その内容が全く違った。今までは1人寂しく待っていたのが、ゆうきと共に遊びながら待つに変わったのだ。

 

 

「で、それにゆうきは気付いているのか?」

「全く。しかもなのは自身も気付いていないのよ」

「前途多難だな……」

 

 娘の心配をしつつ、2人の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時はなのはとフェイトがジュエルシードを封印した直後まで戻る。地球の遥か、遥か彼方の次元に銀色の艦船が停船していた。その艦は、時空管理局と呼ばれる数多の次元の平和を守る組織が所有する船で名前はアースラ。

 

「次元断層、消滅を確認」

 

 普段はせわしなく仕事をしている筈のスタッフの姿は無く、艦の頭脳たる艦橋には5人しかいなかった。

 

「ありゃりゃー、艦長の1人が勝ちですか」

 

 そう呟く少女の見た目は明らかに目を引くものであった。まず一番目を引くのは頭にある兎の様な形のカチューシャだった。時折動いておりそれが尚更目立っていた。さらに顔は幼さを残しているにも関わらず、身に纏う青と黒のワンピースを押し上げる豊満な胸もまた注目を引く。そのサイズは成人女性を優に超えており、これでまだ14歳なのだから初めてそれを知った女性スタッフは血の涙を流したそうな。

 

 呟きながらも目の前のコンソールをいじる腕の速度は変わっていないという荒業をいとも簡単に行っている

少女の名はシオン・グレアム。

 

「珍しいですね、姉さんが外すなんて。明日ミッドが滅びるんじゃないんですか」

 

 そう発言する少女の姿も十分人の眼を引くものだった。鋭い目つきはまるでナイフの様である。また服装はまるで軍服を思わせるほどしっかりとしており、本人が醸し出す雰囲気と合わさり、傍にいるだけでも背筋を伸ばしてしまう。

 

 彼女の名はクオン・グレアム。シオンの妹だが同い年である。

 

「ははは、クオンちゃんそれは言いすぎでしょ」

 

 そう笑い一番先頭の席でコンソールをいじっているのはつむじからぴょんと跳ねているアホ毛が特徴的な少女はエイミィ・リミエッタ。年齢は16歳と、2人の姉さん的立ち位置にいる。

 

「艦長、艦長はなんで答えが分かったんですか?」

 

 そう隣にいる艦長に尋ねるのは艦長を含め、女性だらけの艦橋の中で紅一点ならぬ黒一点の少年はクロノ・ハラオウン。クオンとは別のベクトルで背筋が伸びる雰囲気を持ち、その性格は真面目の一言だった。シオン、クオン、エイミィとは同期で、真面目な性格からか、まとめ役の立場にいる。

 

「そうねえ、やっぱり経験の差かしら」

 

 クロノの問いに答えた艦長の名はリンディ・ハラオウン。クロノとは実の親子だが、クロノが真面目なため、業務中は艦長と呼ばれていた。

 

「本当ですか?」

「うーん、本当の事を話すとこの船に貴方達がいる理由とだいたい同じよ」

「あの……その理由を教えてもらっていないんですけど……」

「そうだったかしら?」

「全く」

 

 軽く笑いながら「ごめんなさいね」と詫びるリンディはよくありがちなふんぞり返っている艦長は違い、和やかな雰囲気を持ち、その下の部下達から慕われていた。

 

「貴方達も疑問に思ったでしょ、何故1つの艦にAAA+の魔導師が3人も、しかも2人は特例だとしても3人とも執務官なのかと」

 

 時空管理局には局員の実力に応じてランク分けされている。局員は膨大とも言える程に人数がいるがその中で全体の5%にすら満たない。そんな貴重な人材を3人も集めるのはよっぽどことであった。

 

「それは今から行く、第97管理外世界にいるある魔導師に関係があります」

「管理外世界なのに魔導師が居るんですか?」

「退職した魔導師で故郷が管理外世界なのよ」

「その魔導師とは?」

 

 クオンがリンディに尋ねると目の前にコンソールを呼び出し操作する。暫らく操作を続けると艦橋に男性と女性の2人の写真が出てくる。

 

「貴方達も聞いた事はあるでしょう。この2人が〖抹消者〗と〖殲滅者〗よ」

「なっ! この2人が!?」

「昔、たった2人で管理局さえも破壊できると言われた」

 

 その2人こそ

 

「〖抹消者〗ユウコ・タカマチ。〖殲滅者〗キース・ミリアルドよ」

 

 ゆうきの両親だった。

 

「下手すると管理局が吹き飛ばされるかもしれないから、最大限の礼儀を持っていかないと」

「この2人がいるから次元断層も解決できると思ったんですね」

「ええ」

 

 2人の写真を懐かしそうに眺めるリンディ。そこから4人はリンディが知り合いである事察する。

 

「どんな人たちだったんですか~」

「そうね……2人ともかなり過激な事をやらかす人ね」

「そうは全く見えないんですけど……」

 

 エイミィがつい漏らすが無理もない。2人の写真は明らかに良識人の顔だった。

 

「そんなことはないのよ。犯罪グループが立て籠もりをした時、中にそのメンバーしかいないと分かるとその建物を木端微塵にしたのよ」

「か、過激ですね……」

「それ以外にも……」

 

 と、リンディの説明、もとい愚痴は止まる事を知らない。口調もいつの間にか崩れており、4人の中のリンディのイメージが崩れる音を聞こえた気がした。

 

「……艦長」

「は! ご、ごめんなさいね。つい熱くなって」

「い、いえ……」

 

 リンディの性格からは考えられなかったのだが、相当若い頃に苦労したという事だけは理解したのだった。

 

「とりあえず、次元断層が収まったことだし、そろそろ動きましょうか」

「了解。艦動力稼働率上昇。目標第97管理外世界。地球」

 

 艦のエンジンが出力を上げていき、船を前進させる。

 

「ねえクウちゃん、いつものあれやってよ」

「そうね、お願いできるかしら」

「了解した」

 

 シオンとリンディからお願いされたクオンは縦長のカードを取り出す。

 

「お、出たね。クオンちゃんの未来予報」

「タロットカードだ、エイミィ」

 

 クオンが手に持つタロットカードを混ぜていく。

 

「ナイトメア、発動!」

 

 その言葉と同時にクオンに変化が現れる。クオンの右目に時計の様なシンボルが出現する。そして、それを使用しながらさらにカードを混ぜ、その内の2枚のカード抜き出す。

 

「これかな」

「早くめくって、めくって」

「出たカードは星と塔の正位置か」

 

 星の正位置の意味は希望。塔の正位置は危険を示していた。

 

「なんか複雑な結果になったね」

「これで怖気づくとはなさけないぞ、シオン」

「何を! 模擬戦でもやるかい!」

「君とやると部屋が持たないから遠慮するよ」

 

 同期の4人組(主にシオンだが)がじゃれている中、リンディは出たカードに意味について考える。

 

「何も起きなければいいわね……」

 

 リンディの呟きを聴いている者は、ましてや答える者などいなかった。

 

 そんな事もお構いなく、艦は地球を目指して進んでいく。

 

 舞台に役者が揃う時はもうすぐ近くに来ていた。

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