魔法少女リリカルなのは~未来を変える者~   作:A,I,R

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第14話「それぞれの休日 -sideF-」

                                                                                             

「ん……」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら目が覚めるフェイト。普段落ち着いた言動から、見た目より年上に見られがちだが、その仕草は見た目相応の年齢に見える。

 

窓から射す朝日が眩しく、今まで眠っていたフェイトはその眩しさ故にすぐに瞳を閉じる。最近、ようやく慣れてきた朝がきたと思った時、違和感を覚える。いつもの枕と固さが違う。そう思った瞬間

 

「起きたか、フェイト」

 

エクスの声がした。これもいつもと変わらない朝だ。が、いつもと違うことがある。それは自分の頭上から声がしていることだった。

 

 恐る恐る瞳を開く。だんだんと明るさに慣れてきたフェイトの瞳に映ったのは、窓からこぼれる朝日を背景に優しく微笑んでいるエクスの顔だった。

 

「え、エクス!? ななな、なんで!?」

 

 全く予想しなかった事態に慌てふためくフェイト。今、現在フェイトはエクスに膝枕をされている状態にあったのだ。

 

 慌てるフェイトの姿は勝手ながら微笑ましいものがあった。その光景を見ながら、エクスは昨夜のできごとを振り返る。

 

 

 

「ん……」

 

 未だフェイトとアルフは寝息を立てている中、エクスは目覚める。アルフは狼形態で床に寝ており、ベットではエクスとフェイトが寝ていた。傍にある窓からこぼれる月明かりに誘われ空を見やると、満天の星空に煌々と輝く月。その月が昼間の戦闘を思い出させる。

 

「私は無力だったな……」

 

 局員の魔導師にも通じると信じて疑わない近接戦闘の技術もすずかの前には通じず、ただの荷物となってしまった。その大きな原因はエクスが射撃と砲撃、つまり中長距離射程の魔法使用ができないことだった。どれだけ学んでも、どれだけ鍛錬を積み重ねてもどうしてか、習得することは叶っていない。

 

 理論も、術式も理解しており、できないはずがない。だができない。発動しても、式を組み立てても発動できないのだ。それを補うための秘策はある。だが、それは最後の切り札。使ったら最後、戦闘継続は困難になる。

 

 過去に魔法の教師役であったリニスにどうして自分は使えないのかと問うたことがある。だが、

 

「エクス、貴方には貴方の良さがあります。できなくとも気にする必要はありませんよ」

 

 と言われ、結局理由を語る事はなかった。今思い出してみると何か知っている様子だったが、それを追求する思考は当時持っていなかった。理由すら分からない事を気にしても仕方ないと今までは割り切っていたもの、いざそれが必要であった場面があった時に使えない事に自分の不甲斐なさを呪う。

 

と、いつになく弱気な自分に笑ってしまう。こんなのではダメだと、弱気な自分を鼓舞する。フェイトに降りかかる災悪を振り払う剣となると誓った筈だった。

 

「いくら嘆いたところで変わる事はない。ならば、私のすべきことは鍛錬を積み重ねるしかない」

 

 とにかく鍛錬を積み重ねるしかないと判断したエクスはさっそく向かう為に静かにベットを抜け出そうとする。が、突然、膝に重さがかかる。何だ? と疑問に思い、見遣るとフェイトがエクスの膝に少しばかり乗っていた。おそらく寝返りで乗ったのだろうと推測する。

 

が、これでは鍛練に向かえない。どうしたものかとふとフェイトを見ると、穏やかな顔で静かに寝ていた。それを妨げたくないという思いが強くなる。

 

「まあ、鍛練はまた今度にするか」

 

 鍛錬はまたできる。ならばこの穏やかな眠りを妨げる必要はないだろう。

 

 暖かくなったとはいえ、まだ風邪をひく可能性はある。フェイトに布団をかけ、自分も近くにあった布団を羽織、再び眠るのだった。

 

 

 

 

 

 そんなことを思い出しながらさてどう説明したものかと頭を捻る。その間、フェイトは顔を赤くしたまま「あうあう」と恥ずかしがっている。そんな光景に思わず笑みがこぼれる。

 

「まったく、何をそんなに顔を赤くしている」

「だ、だって……」

「まだ寝ていたほうがいいだろう。時差の影響でまだあっちは深夜なのだから」

「でも……」

「……私はこの状態がいいのだが?」

「……じゃあ、このままで……」

 

 再び頬を赤く染めながら、再びエクスの太ももに頭をのせる。鍛えられた太ももはそこまで柔らかくない。

 だが、体温とは別の温もりがあった。さらにエクスがフェイトを頭を優しく撫でていく。それはとても気持ちよく、それほど時間が掛からずにフェイトは夢の世界に入る。

 

「…………」

 

 暫らく撫でていたエクスの手が不意に止まり。その手がフェイトの頬に触れる。

 

 身内贔屓を除いたとしてもフェイトの容姿はかなり整っていると思う。そう思えば思うほどに

 

「傷つくことを避けられないとはな」

 

 今日行くとある場所で起こるだろう、いや絶対に起こることを考えるとフェイトを止めたい。だが止まる事はないのだろう。ならばせめて

 

「夢の中では優しい世界であればいいのだがな」

 

 エクスの願いが届いたのかは誰も知らない。だが、フェイトが目覚めるまで、その顔は幸せに満ちていた。

 

 

 

 

 

「何にしようか」

 

 フェイト達は現在、海鳴市のガイドマップを片手に町を歩いていた。午後から行く所へ何か持っていこうとフェイトが言い出し、市街地で戦闘になった場合への対策を練るついでにいい店がないのか探していた。

 

「あの人が喜ぶとは思えないんだけど」

「大切なのは、気持ちなんだよ」

「そうだけどさあ」

 

 アルフにはそういった物を受け取って喜ぶ姿は想像できなかった。

 

「フェイト、どういったものがいいのか希望はないのか?」

「そうだね……ケーキとかはどうかな?」

「ケーキか、ならあの店はどうだろう?」

 

 エクスが指差した方向には一件の喫茶店が営業していた。休日ということがあるのか、はたまた大人気故なのかは分からないが、店はかなり賑わっていた。

 

「このガイドブックにも人気店で、ケーキなどがおすすめだと載っているな」

「ふ~ん、ならあそこでいいんじゃない?」

「どうだフェイト」

「いいと思うよ」

 

 満場一致によりその喫茶店に行くことが決まった。

 

「………………」

 

 エクスが喫茶店に入るためにドアに触れた瞬間、歩みを止めた。

 

「エクス、どうしたの?」

「いや、ゆうき達がいるような気がしてな」

「あのチビッ子達がかい? ……いくらなんでもそんな偶然があるわけないさ」

「……だといいのだがな」

 

 ドアを開け、店に入るとそこには

 

「いらっしゃいませ、翠屋へよう……こそ?」

 

 接客をしているゆうきがいた。ある意味予想通りなエクスはやってしまったと天を仰ぎ、フェイトとアルフは唖然呆然だった。

 

「どうしたのゆうき君って、フェイトちゃん!?」

「ど、どうも」

「……ごめん、エクス。今度からその勘には従うよ」

 

 なんとも言えない空気が漂い始めたとき、思わぬ方向から振り払われる。

 

「あら? なのは達のお友達?」

「あ、昨日の」

 

 なのはとゆうきの2人が入り口で立ち止まっているのを不思議に思った桃子とすずかが厨房から顔を出す。こうなるとかなり対応が困る。2組の関係は微妙な関係にあり、どう説明するか迷う。

 

「みんな、僕の話に合わせて」

「心得た」

「うん。この前知り合ったんだ」

「はじめまして、エクス・テスタロッサです」

 

 念話で話を合わせるようにする。バカ正直に「ジュエルシードという魔法の宝石を一緒に封印したり、取り合ったりする仲です」とは言えない。

 

「はじめまして、なのはとゆうきのお母さんの高町桃子です。よろしくね」

「どうも、昨日ぶりですね」

「ど、どうも」

 

 いくらジュエルシードに操られていたからとはいえ、あまりのギャップに未だ戸惑いを隠せないアルフ。幸い、桃子とすずかは忙しいのかすぐさま厨房へと戻っていった。

 

「持ち帰り? それとも店内で食べる?」

「持ち帰りをお願いしよう」

「じゃあ、これがメニュー表だよ」

 

 ゆうきからメニュー表を受け取ったエクスはメニュー表を開いてみる。文字だけではなく、そのものの写真などを載せて分かりやすくしてある。ケーキなどの洋菓子に力を入れているのか、写真が比較的大きく乗っている。

 

「フェイト、アルフ、どんなものがいい」

「うわあ、いっぱいあるね」

「あの人に持っていくのが勿体無い気がするよ」

 

 フェイトとアルフもエクスの後ろから覗いているが、そのメニューの多さと見た目から感嘆の声が上がる。

 

「誰かに持っていくの?」

「ああ。何かおすすめはあるか?」

「そうだね……無難にこのショートケーキかな」

「じゃあ、それにしよっか」

「ではゆうき、これを1つ頼む」

 

 「かしこまりました」とゆうきは最後に業務態度で対応し、厨房に注文を伝えに行く。残ったなのははでき上がりまで待ってもらうためにカウンター席へと案内する。

 

「どうして、翠屋に?」

「お土産を持っていこうとこれを見ながらいい店を探していたら近くにここがあってな」

「いつも家の手伝いをしてるのかい?」

「たまにですね」

 

 エクスとアルフがなのはと会話しているのを眺めるフェイト。フェイトはふっと思ってしまったのだ。どうしてあの時なのは(この子)に共闘を申し込んだのだろうか。自分はエクスのように才能を見抜くほど勘は鋭くない。本当に何かのときのために? だが、そこまで打算的に考えたとは我ながら思えない。ならどうして

 

「フェイト! フェイト!」

 

 と思案していると、アルフの声が聞こえ、はっと現実に戻る。するとアルフやエクスはもちろんなのはも心配そうにこちらを見ていた。どうやらなかなか返事のしない自分のことを心配してくれたようだった。

 

「ご、ごめんね。ちょっとボーっとしちゃった」

「大丈夫なのかい」

 

 アルフが心配するのも無理はない。慣れない土地での生活、過密なスケジュール、昨日の命を懸けた戦いと疲れる要因しかない。

 

「うん、大丈夫だよ。君も心配かけさせてごめんね」

「ううん、大丈夫」

 

 それでも、フェイトは笑顔で答える。それがアルフにとっては辛い。自分はエクスと違い、フェイトの負担を和らげることができないのだと、力不足だと分かってしまう。

 

「おまたせ、はいショートケーキ」

「うむ」

「あと、これはお母さんからおまけ」

 

「では、行くとするか」

 

 フェイトが思案している間に受け取ったのであろう、ケーキが入っていると思われる箱を手にしているエクス。

 

「また来てね」

「うん。また来るよ」

 

 店の外に出たフェイト達を手を振って見送るなのは達。

 

「エクスの勘はすごいね……」

「まさか私も当たるとは思わなかったがな」

「いや、本当にごめん」

 

 まさかの会合に驚きつつ、歩いていく。そこには笑顔があり、まさに幸せな日常の1つだった。

 

 ふと立ち止まり、近くの公園を見ると幼い子供と母親が笑いながら遊んでいた。

 

「フェイト……」

「大丈夫、私は大丈夫……」

 

 フェイトはエクスの心配する声に答えるように言ったが、それはまるで自分に言い聞かせているかのようであった。

 

 公園にある時計を見るとちょうどよい時間となっていた。

 

「じゃあ、行こうか」

「……ああ」

「そう、だね」

 

 そういいながら再び歩み始めた3人には笑顔はもうなかった。

 

 

 

 

 

 キコエテクル、キコエテクル。悲痛な叫びが、痛みを訴える声が部屋中に響き渡る。

 

 素体が狼であったのを、自分の無力をこれほど呪ったことはない。

 

 ああ、聞こえてくる、フェイトの悲鳴が。

 

「どうして、どうして私は何もできないんだい!」

 

 アルフは嘆く、自身の無力を。

 

「なんで、なんでフェイトがこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだい!」

 

 アルフは激怒する。フェイトへの理不尽な仕打ちに。

 

 ここは時の庭園と呼ばれる次元移動可能庭園で、フェイトとエクスの母である、プレシア・テスタロッサの活動拠点。そこで今、フェイトはプレシアによってまさに虐待と取れる仕打ちを受けていた。

 

 その理由は、ジュエルシードの数が少ないからであった。フェイト達にジュエルシードの回収を命じたのはプレシアであり、今回はその途中報告として訪れたのだかその結果がこれである。

 

「…………」

 

 そんな中、フェイト達とを隔てる扉を守るかのようにエクスは立っており、目を閉じて、事が終わるのを静かに待っている。

 

「どうして何もしないんだい!」

 

 これが八つ当たりだとは分かっている。しかし、自分よりも明らかに力があるのに何もしないエクスに腹が立っているのも事実だった。

 

「止めることはフェイトが望んでいない」

「そんなはずがない! 現にフェイトは苦しんでるじゃないか!」

「アルフ、頼む。抑えてくれ。これはフェイトと、母上のためなんだ」

 

 そう話しているうちに、フェイトの声が止む。

 

「エクス、入ってきなさい」

「心得た」

 

 隔てていた扉が開かれる。奥には暗闇が広がっており、まるで地獄へと通じる道のようにも見える。

 

「アルフ暫く、待っていてくれ」

「……分かった」

 

 アルフの言葉を聞きエクスは奥へと進み始めた。それと同時に扉が閉まり始め、再び閉ざされる。

 

「くそ!」

 

 無意味だと分かっていてもアルフは怒りを扉にぶつけることしかできなかった。

 

 

 

 

「母上、ただいま到着した」

 

 時の庭園のほぼ中心部に位置する、間に着く。そこにいたのは1人の女性だった。

 

 その女性を外見だけで言うなれば病人だった。顔色は優れず、長い髪は艶がない。だが、その身か発せられる雰囲気は病人のそれではない。他者を威圧するような雰囲気は病人どころか常人の範囲を外れている。

 

 たしか、彼女は常人から外れているのだろう。その瞳には狂気の色が濃くあるのだから。

 

「エクス、そこにいるのをすぐに片付けなさい」

「承知」

 

 エクスは床に倒れているフェイトの元へ、フェイトの状態は酷いの一言だった。まるで鞭で打ったかのような傷が体中に刻まれていた。

 

 その傷も当然目に入るが特に顔色を変えることなくフェイトに抱る。

 

「エクス、分かっているとは思うけどもっとジュエルシードを多く、早く集めなさい」

「心得ている」

 

アルフの元へと帰っていく。その視界の隅では、買ってきたケーキが無残にも床に崩れ落ちていた。

 

「もう少し、もう少しだから待っていて……」

 

 

 

「アリシア……」

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