空が茜色に染まる頃、ゆうき、なのは、ユーノの姿は日課となりつつある魔法の練習をしている、小さな広場に来ていた。
「ねえ、どうしてこの時間に?」
「ん、ある理由があってね」
なのはの問にゆうきは明確に答えることはない。ゆうきがこの場に来るようなのはに提案したのだ。その時にも理由を聞いたが答えることはなかった。
「そろそろ教えてくれないか、ゆうき」
「まあ、そろそろいいかなあ」
と、後ろを振り向き
「ここなら、人が来ることはあまりありませんよ」
虚空に声をかける。当然返答はこない。
はずだった
「驚いた、まさか気付いていたのね」
だが、くるはずがないのにきてしまった。そのことに2人が驚き後ろを振り返ると、そこにいたのは
1人の女性、リンディであった。
「どうして気付いたのか教えてくれる?」
「貴女こそ、分かっていたんですよね? それが答えです」
「まあ、あの人達の子供なら、ね」
なのはとユーノの2人を置いて話がなにやら進んでしまう。その様子を見ていたリンディが納得したようなそぶりを見せると二人に目線を移す。
「はじめまして、2人とも。私の名前はリンディ・ハラオウンよ」
「は、はじめまして、高町なのはです」
「ユーノ・スクライアです」
つい反射的にあいさつを返した2人。その2人を、特になのはを見て驚きを隠そうと必死になる。何人もの局員を見てきたリンディだからこそ、その身に宿る才能に驚きを覚える。だが決して表には出さない。これから口撃戦が始まるのだから。
「さて、彼は知ってるみたいだけど、私は時空管理局の1人として貴方達に会いにきたの」
「か、管理局の!?」
ユーノが驚くが隣のなのはは管理局など知らないのだからポカーンとしている。
「簡単に言うと、幾つもある次元世界を守ってる組織、僕達で言うと、警察や裁判所を司っているところだよ」
「そ、そんな人がどうして」
「僕達を止めに来たんですよね、リンディ・ハラオウン提督」
その言葉に何故と返したいがぐっと堪える。ここからはゆうきとの腹芸勝負だ。
その間、ゆうきはなのはにアイコンタクトで「ここはまかせて」と伝える。事情が分からないなのはは当然了解する。
「ええ、そうよ。その理由についても分かるわね」
「はい。ロストロギア、ジュエルシードの回収のためですね」
その言葉にリンディは勝ちを確信する。何故なら止める理由はそうではないからだ。
「それもあるけど、本当の理由は魔法文明確認されていない次元世界での魔法使用は法律で禁止されているの」
魔法文明が確認されていない世界での魔法の使用は犯罪だ。だが、それはあくまで管理局が定めたルールで、2人には適用されない。だが、ユーノは違う。そこで見逃す代わりに管理局で軽く働かないかと誘う。これで短期間ながらも優秀な魔導師が手には入る。子供相手に打算的かつ詐欺まがいに立ち回るがそうまでして欲しいと思ってしまった。規格外の2人に届くかもしれない才能を持つゆうきとなのはの2人を。
「では、僕達は罰せられると?」
「いえ、貴方達は管理世界の住人じゃないから。でも、彼は別よ」
驚くこと、想定外のこともあったがここまではリンディの計画内にあった。
「リンディ・ハラオウン提督、それは不可能ですよ」
そう、ここまでは。
「あら、どうして?」
リンディは失念していた、ゆうきが誰の子供なのかを。
「管理局法第37条1項、緊急回避が適用されるからです」
緊急回避と緊急措置は簡単に言ってしまえば緊急事態で自身および他人の命が危ないとき、ある程度の法を犯しても罪にならないというものだ。ゆうきは過去に戦ったジュエルシードの暴走体のデータを表示し、仮にユーノが魔法を使用しなかった場合の被害も算出してある。そのデータを見ると確かに緊急回避が適用されるとリンディも判断するしかなかった。
「付け加えると、ユーノは遺失物の捜索と自己防衛の限定での魔法使用許可を管理局に申請、受諾されています」
規格外の2人にばかり注目して、確認を怠っていた。完全な、初歩的ミスだ。
「さらに言うならばユーノは僕達、この世界の恩人です。もし彼が魔法を使用しなかったらどれだけの被害が出たか……被害が出たとき、管理局はどのように責任を取るつもりで?」
管理局が作り出した法律を守ったばかりに被害が出たのなら、非難は免れない。つまり
「参ったわ。私の負けよ」
口撃戦は、リンディの敗北であった。が、そもリンディはユーノを本気で処罰する気はない。理由はゆうきの発言通り。ただ、2人の息子であるゆうきがどのような人物なのか、少しでも知りたいが故に、この口撃戦をひらいたのだった。
「では、僕達は当然、ユーノも」
「無罪放免ね。まさかこっちの法を知っているとは、完全に計算外だわ」
「ええ、この日のために勉強しました」
「そういう計算高さはあの2人譲りね。2人は元気かしら?」
2人、それが誰を指しているのかゆうきは理解している。故に静かに口を開いた。
「ええ、元気ですよ。今はこの世界にはいませんが」
半分の嘘を吐く。
「そう……なら、いいわ」
それで何を悟ったのか知る術はない。
「これからの話をしたいだけれど、今いいかしら?」
「なのは、今時間は?」
「えっと、まだ大丈夫かな」
「じゃあ、決まりね」
その言葉と同時に辺りが光に包まれる。眩しいと感じ、一瞬目を瞑り、再び開くと自然溢れる木々はなく、無機質な壁で覆われたところにいたのだった。
「ようこそ、アースラへ」
艦橋で主要人物を紹介するというので移動中であるが、その間でもリンディとゆうきは歩きながら協力の話をつめていく。その後ろをなのはとユーノは珍しそうに辺りを見回しながら歩いていく。
「じゃあ、魔法を使い始めたのは最近なのね?」
「はい。なので、できれば僕達に教えてくれる人はいませんか?」
「そうねえ、なら」
「私達にお任せを!」
リンディの言葉を待たずして、声が辺りに響く。
「あなたの隣に這いよる、シオンさんだよお!」
いつのまにか目の前に現れたネコミミの少女、シオンがいた。どうやら今日の気分は猫だったようだ。
「あら、シオン。いいとこに」
「その子達の教導、私達がやってもいいですか?」
「ええ、お願いできるかしら」
「よろこんで引き受けます!」
なのはとユーノどころか、ゆうきすら置いて話が進んでいく。引き受ける旨の返事をしたと思ったら、いきなりゆうきにシオンが超急接近する。それはもう、あと一歩どちらかが踏み出せば、キスできるかもしれないほどの接近ぷりである。シオンは笑顔のまま、だが目は本気でゆうきのことを観察していた。ゆうき達は気付かないが。
「君の名前は?」
「た、高町ゆうきです」
「私はシオン・グレアム。よろしくね、ゆう君」
「「ゆう君!?」」
いきなりの愛称付けで戸惑い、驚きの声を上げるゆうきとなのは。
「姉さん、いきなり艦橋から飛び出ないでください」
再び新たな声がする、その方向を見ると、きっちりと制服を着こなしているクオンがそこにいた。
「だって、おもしろそうな気配がしたんだもん」
「はあ、またですか……」
ため息を吐きながらゆうき達に近づく。飄々として風のように軽く自由なシオンとは対象に、クオンはきっちりとしていた。
「すまないね、君達も。姉さんは気に入った相手には愛称を付ける癖があるんだ」
「は、はあ。えっと僕は高町ゆうきです」
「私はクオン・グレアムだ。こっちのシオンとは姉妹の関係だ」
「もう、クウちゃんは固苦しいよ」
「姉さんが、自由すぎるんですよ……」
会って間もないがクオンが何かと苦労しているのは3人も理解できた。
「あ、クウちゃん。この3人を教導することになったから」
「予想していたのでメニューは考えてありますよ」
「さっすが、クウちゃん」
「まあ、直に実力を見ていないので修正は必要ですが」
自分の知らないところで話が進んでいる、しかもいい方向に進んでいる。だが、ゆうき達の想定では難関がもう1つあるはずである。
「じゃあ、教導の話よろしくね」
「わっかりました!」
「では、クロノと交代してきますね」
「ええ、よろしくね」
ゆうき達は再び艦橋を目指して、シオン達は逆方向に歩いていく。
「姉さん…」
「まあ、クロノがこの話を聞けばねえ」
「「きっと、突っかかる」」
クロノ・ハラオウンという人物と一度は仕事を共にした人物ならば、はっきり分かる。彼は生真面目であり、融通が利かないと。
「どうやって説得するのだろう」
「多分、あの子が何とかするんじゃない?」
「それは勘ですか?」
「まあね♪」
「まあ、今説明したのがこの艦の仕事よ」
艦橋に着いた3人はリンディからアースラの役割を説明していた。
「なるほど。たしかにここの方が地球全域を探せますね」
そういいながらゆうきは冷や汗を禁じえない。シャイニングハートよりある程度の情報を得ていたが、ここまでの技術力があるとは思わなかった。しかも先程まで口撃先を繰り広げていた相手は提督、つまりこの艦を指揮する立場にある。実は自分はとんでもない相手と口撃戦をしていたのだと。
「遠慮することないのよ。なんなら、私達を利用して捨てるぐらいの気持ちでいいのよ」
「そ、それはさずがに……。ユーノもなんか言ってよ」
「え!? えっと……」
ユーノもこれからの計画を考えるのに加わり、これからのことを考えていく。
「へえ、まだ間もないんだ」
「はい、なので私達が役立ててれるか心配で……」
「それは心配無用だよ、なのはちゃん達は才能もあるし、下地もできつつあるから」
エイミィとなのははエイミィの人懐っこい性格であるのもあり、早くも打ち解けていた。
そんな中
「艦長! どういうことですか!?」
クロノが艦橋へと突撃してきた。それもそうだ、民間人がアースラの艦橋にしかも
「クロノ、事情は聞いているわね」
「それとこれは別です。民間人をこんな危険なものに参加させる気ですか!?」
「手が足らないのは事実でしょ。それに才能は十分よ」
「ですが……」
クロノが突撃してくるのはゆうきに、ゆうき達にとっては予定調和であった。
「始めまして、クロノ・ハラオウン執務官。僕の名前は高町ゆうきです」
「……ゆうき、君はただちに元の日常に戻るんだ」
「それはできません。僕達にはやらなきゃいけない、しなければいけないことがあるんです」
「だが、君達は力不足だ」
明らかな事実であり、足手まといになる可能性も多いにあるのが事実だ。
「では、判断してくれませんか?」
ゆうきの提案に全員が注目する。ここが正念場だと、自らを鼓舞する。
「僕と模擬戦をしてください。その戦いぶりで、力不足か判断してください」