翌朝、ゆうきが練習していた公園にはゆうきに加えなのはとユーノがいた。フェイトと話したゲームの話を帰宅後したのだが
「私、強くなりたい」
なのはが不意に呟いた。
「どうして?」
「フェイトちゃんと戦いたい。戦ってなんでジュエルシードを集めるか聞きたい」
思い出すのはフェイトの瞳。見ず知らずの自分にも優しく声をかけてくれたその瞳は優しかった。しかし、優しさの裏にある悲しみを感じた。こんなことをしたくない。嫌だ。なぜか瞳はそういう感情があった。
「フェイトちゃんとは直接戦ってないけど、なんだかとっても強い気がしたの」
自分よりも確実に強いゆうきを負かしたエクス。共に行動していたフェイトも同等くらいの実力を持っていると予測できた。そして少し話は離れるが、なのはの家は「小太刀二刀御神流」という武術を持っている。その鍛錬は行ってはいないがその血ははっきり受け継いでいる。故に分かる、フェイトが強い事を。
「そんなフェイトちゃんと戦うんだから、もっと強くならなきゃ!」
という事があり、魔法の特訓をする事に。
「ゆうき君って昨日もこんな事をしていたの?」
「まあね」
話すゆうきの頭上では6つの魔力弾と3つの缶が宙を舞っていた。シャイニングハートの補助はなく、話しながらの操作が可能になっていた。
「凄い……まだ魔法を知ってから2日も経ってないのに」
その事にユーノ驚きの声を漏らす。
「レイジングハート、私もあんな風にできるかな?」
<できます。マスターが重ねればきっとできます>
「勿論、努力するよ」
「じゃあ、始めようか」
2人はギリギリまで魔法の訓練をしたのだった。
ここはとあるマンション一室。そこにはとある2人の姿があった。その人物とはフェイトとエクスだった。
「エクスはあの2人、どう見る?」
ベッドで横になっている黒衣の少女、フェイトはドアの所にいる少年エクスに問いかける。
「あの2人か。正直言うならば、異常だな」
「異常……?」
「才能があり過ぎる。今は魔法に関して初心者だが然るべき訓練と経験を積めば私達すら超えるかもしれん」
エクスの言葉にフェイトはベッドから起き上がり、エクスを見る。
「特にゆうき、彼は確実に強くなる。ただ……」
「ただ……?」
「何か違和感を感じた。だが……その違和感を言語化するのは難しい」
自分の感覚に自信がもてないエクス。フェイトはエクスがはっきりとものを言えないを珍しく思う。
「違和感は言語化できないが、ゆうきと戦う時は注意した方がいいだろう」
「エクスがそう言うなら、注意しておくよ」
エクスの感覚にしっかり耳を傾け、忠告を聞くフェイトはエクスに全幅の信頼を置いている。
「それはそうとフェイト、本当にいいのか?」
フェイトがベッドか降りようとした時、エクスが何もかも飛ばして、いきなり聞く。
「大丈夫。母さんの願いを叶えるって決めたんだ。それが例え……」
そう言い言葉を切るフェイト、その瞳には悲しみと覚悟の色があった。
「母さんに棄てられる事になろうとも」
そんなフェイトにエクスが近き、隣に座る。するとフェイトはエクスに寄りかかる。エクスはその事を気にしない。
「例えそうなったとしても、私はフェイトの傍にいる」
「ありがとう、エクス」
「感謝する必要はない」
若干無愛想に答えるエクスだが、それはある種の照れ隠しだった。それを知っているフェイトは笑みをこぼす。
「今日のご飯どうしようか?」
「そうだな……」
その後、取りとめのない会話をしていく。それだけを見ると2人は仲のいい兄妹みたいだった。
「フェイト、エクス、聞こえる?」
と、そこにオレンジ色の髪をした女性が2人に通信を送ってくる。その女性の頭にはイヌ科の耳が付いており、一目で人ではないと分かった。彼女の正体は動物が死亡する直前または直後に、人造魂魄を憑依させる事で造り出す使い魔と呼ばれる魔法生命体だった。
「聞こえているよ、アルフ」
「覚醒しそうなジュエルシードを4つ発見した」
「そうか、では」
「ちょっと待ってエクス」
早速そのジュエルシードを確保しに行こうとしたエクスを止めるアルフ。
「どうした?」
「そのある場所に問題があるんだ」
「問題?」
フェイトが再び首を傾げる。
「その場所ってのがこの世界の学校なんだ」
「なんなのよ!」
アリサは怒りの言葉を吐きながら廊下を進んで行く。その身から出る威圧感の様なものが他生徒をモーセの海割りの如く左右に分ける。
「アリサちゃん、待ってよ」
そのアリサを後ろから追いかけるすずか。
「なのはちゃんにも色々あるんだよ」
「その色々がムカつくのよ!」
事の発端は昼休みに起きた。
「なのは!」
「ふぇ!?」
いきなりのアリサの怒号に驚きの声を上げるなのは。
「あんた、授業中になにやっているのよ」
授業中になのははゆうきと同じようにマルチタスクを使いイメージトレーニングをしていた。だが素質の差か、アリサとすずかには心ここにあらずと見えてしまったのだ。
「な、何もしてないよ」
「嘘ね。私には分かるんだからさっさと白状しなさい」
「ほ、本当に何もしてないよ」
「もういい!!」
アリサが怒りの声を上げ、その場から立ち去ろうとする。
「あ、アリサちゃん「なのは、行っちゃダメだ」ゆうき君……」
「僕達が、追ってはいけない」
「アリサちゃんはなのはちゃんが心配なの。勿論私も心配してる。だから、時が来たら話してね」
そう言った後、すずかはアリサの後を追ったのだった。
「何かあるんだったら尚更私達に教えるべきよ。何のための親友なのよ……」
「アリサちゃん……」
と廊下の端まで歩いた2人はそこで立ち止まる。
「アリサちゃんもなのはちゃんの事、心配だよね?」
「勿論よ」
すずかの問いかけに即答するアリサ。
「何が何でも話してもらうんだから!」
すずかだけでなく自分にも向かって宣言するアリサ。と、そこで何か落ちている事に気づくアリサ。
「すずか、これは何かしら?」
「綺麗……」
そこには青い宝石が4つ落ちていた。
「どうすればいいのかな?」
「2人には話せないしね」
なのはとゆうきがどうするか考えていた時、禍々しい感覚と慣れ始めたジュエルシードの感覚を感じた。結界の影響か、昼間だった景色は真夜中に変わり、空には真紅の月が浮かんでいた。
「この感じ、ジュエルシード?!」
「なんで!?」
学校と言う場所での発動にも驚くが、結界が発動したという事にも驚きを隠せない。ユーノか、エクス、フェイトの誰かが結界を発動したと考えたかったが、魔力の感覚は3人のものとはかけ離れていた。
「とりあえず屋上に行こう」
「うん」
念の為とセット・アップした状態で2人は屋上に出る。するとそこには
「あ、アリサちゃん……」
アリサが立っていた。見られてしまったというのが2人の心の声だった。さっきの様な状況であれば、ごまかす事ができるが、今回は決定的な証拠を見せてしまっている。
「やっぱり、何か隠していたのね……」
「あ、あのね「もういいわよ……」アリサちゃん……」
「そこまで隠したいっていうなら……」
アリサが静かに右手を前に出す。突如、アリサの目の前に日本刀が出現し、アリサの右手に収まる。
「力づくで吐かせる!」
それと同時にアリサの服装が変化する。制服からチャイナドレス風の服装に変わる。
「アリサちゃん!?」
「てやぁぁぁ!」
ためらうなのはとは逆にアリサの振るわれる刀に迷いはない。その迷いなき刀の一振りはゆうきによって阻まれる。
「ゆうき、あんたも私達を騙していたわね」
「隠し事はないなんて嘘は言わないよ」
力を込めて、アリサを弾く。弾かれたアリサは後ろに跳び、体勢を立て直す。
「なのは、刀を見て」
「かたな?」
ゆうきに念話で言われたなのはは刀を見る。月明かりに照らされた刀は鋭く独特の輝きを放つ。その刀の柄の部分がそれとは違った輝きを放っている事に気づく。注視すると中央部分に青い宝石が埋め込まれていた。そう、その正体はジュエルシードだった。
「おそらくアリサはジュエルシードに操られているんだ。一応説得してみるけどダメな時は……」
「でもそれじゃあ……」
「それは僕がやるから安心して」
念話でなのはにそう言ったゆうきはアリサを真っ直ぐ見据える。
「アリサ、その刀の柄に付いているのをこっちに渡してほしい。それはジュエルシードと言ってとても危険なものなんだ」
「なんであんた達はこれを集めているのよ」
「他の人が不幸な事に遭わない為。実際僕となのはは今、力を手にしているけど、その前にはもう少しで大ケガする所だった」
「それ程危険なものなんだ……」
アリサは自身の手に握られている刀に付いているジュエルシードを眺める。
「だからそれをこっちに「嫌よ」…………なんでか教えてくれるかな?」
「あんたの話が本当だっていう証拠がないからよ。それに私はこれが危険なものとは思えない」
「僕の言葉が信じられないの?」
「ええ」
2人の間の空気が次第にピリピリと張り詰めていく。
「もしこれが欲しいのなら……私を倒しなさい!」
「じゃあ、遠慮なくいくよ!」
その言葉と同時に魔力弾が10個生成され、横一列に並べて放つ。横一列に並んでアリサに迫る為、平面上ではアリサに逃げ道はない。そう、平面上では。
「甘いわね!」
アリサが地面を強く蹴る、それと同時にアリサの背に翼が現れ、空に飛び立つ。先の細部が細かく変化しながら空を羽ばたくその翼はまるで炎でできた鳥の翼様だった。ゆうきはすぐさま魔力弾を操作し追尾する。
「この、しつこい!」
アリサが剣を振るおうとした時、炎が刀を包み込む。不思議な現象であるのにも関わらず戸惑いはなく、使い方すら分かった。
「断罪!」
刃の形へと圧縮した炎を斬撃として放つ。斬撃は魔力弾を打ち落としていく。しかし、既にゆうきは打ち落とされる前にその弾の思念誘導を放棄しており、アリサの背後に新たに生成した魔力弾を思念誘導して向かわせていた。
「っ!」
直撃は免れないかと思った瞬間、迫る魔力弾はまるでそのものが存在しなかったかの様に消える。
「なっ!」
「なんだかよく分からないけど、あんたの攻撃は効かないわ! 大人しく私にボコられなさい」
翼を羽ばたかせゆうきに迫るアリサ。
「シャイニングハート」
<フライアーフィン>
ゆうきも宙に飛び立ちアリサを迎え撃つ。
「はぁぁぁ!」
「てえぇぇい!」
ぶつかり合う刀と杖。
「アリサ、手加減しないよ」
「何を今更!」
アリサがそう言うとゆうきはアリサに魔力を纏わせた蹴りを放つ。その蹴りはアリサに直撃する寸前で魔力の纏わりが消え、普通の蹴りとなった。蹴りを食らい、アリサは後退する。
「っ! 痛いわね!」
アリサが場違いにも文句を言うがゆうきは「そういう事か……」と1人呟く。それが何かに触れたのか、ブチッ! という何かが切れたかの音が辺りに響く。
「もう、容赦しないんだから!!」
その言葉と同時に翼と刀の炎が巨大化する。どうやらアリサが本気、いやキレた様だった。
「炎熱絶翔!!」
刀を大きく振り構える。その瞬間にゆうきの本能が叫ぶ、あれを食らってはいけないと。
「なのは逃げて!」
「撃零!!」
刀を振り抜く。炎が巨大な刃となり刀が描く軌道を切り裂いていく。ゆうきは素早く避け、なのははゆうきの声によって避けたがそれは2人が動けたからだ。動けないもの即ち下にある学校はその刃によって両断され、轟音を響かせながら崩壊していく。
「学校が……」
学校が崩壊した事に驚愕の声を漏らすなのは。しかし、誰よりも驚いているのは
「う、嘘……」
崩壊させたアリサだった。
「嫌あぁぁぁ!」
悲鳴にも似た拒絶の声を上げるアリサ。それにより力が暴走しているのか辺りに衝撃波が発せられる。
「アリサ!」
「アリサちゃん!」
2人の声はその叫びで消え、近づこうにも衝撃波の影響で近づけない。
と、不意にそれが静まる。
「そうよ、これは夢よ。なんたって普通の私が空を飛んだり、学校を壊せたりしないわ」
アリサがそう思ってしまう
「いけないアリサ!」
何かに気づいた様にアリサに呼びかけるゆうきだが
「ナラスベテコワシテイイヨネ?」
もう手遅れだった。
「アリサちゃん!」
「なのは、うかつに前に出ちゃだめだ!」
「アハハハハハ」
なのはがアリサに近づこうとした瞬間、アリサが猛スピードでなのはに突っ込む。振るわれる刀を咄嗟にレイジングハートで受け止めるが、勢いと力に負け、下に落とされる。落とされたなのはは高さが幸いして、地面すれすれで体勢を立て直す。そのなのはに追撃をかけようとするアリサ。だがそれは回避行動に変わる。何故ならゆうきによって砲撃されたからであった。
「アリサ、君とはいえなのははやらせない」
「アハハハ、何夢の分際で随分とゆうきに似ているのね。それってとってもむかつく!」
今までの2倍くらい速さでゆうきに迫るアリサ。鋭い一閃がゆうきの身を両断しようとするがそれをかわし、アリサにシャイニングハートを叩き付ける。刀を振るった直後のアリサは避ける事ができず、食らい後退する。
「アリサ、もう止めるんだ!」
「夢の分際でぇぇぇぇ!!」
翼が巨大化し、宙でその羽をはばたかせ大量の羽がゆうきに向かって放つ。その羽が刃の様になっており、その数だけに致命傷になりかねない。
「シャイニングハート!」
<ディバインシューター>
それに対しゆうきが選んだのは回避でも防御でもなく迎撃だった。しかし、相手はそれこそ無数と言いたくなる程の数に対してゆうきは僅か5発の魔力弾で迎撃しようとしていた。
「たったそれだけで何ができるの」
「これだけの事ができるんだよ!」
魔力弾を誘導し、間隔を開けて迎撃に向かわせる。
「今だ!」
魔力弾と羽が接触しようとした瞬間、魔力弾の全てが突如、謎の爆発をする。その爆発の影響で雨の様に降り注ぐはずだった羽は爆風によって吹き飛ばされてしまう。
「ちょ、何もみえないじゃないの!」
更に爆発により生じた煙のせいで視界が遮られる。念には念を入れ、その場から移動しつつゆうきの姿を捜す。その時、煙の中に一筋の煌めきが。その煌めきは次第に大きくなり煙を貫通しアリサに迫る。そう、それはゆうきが放った砲撃だった。
「っ!!」
咄嗟に体を捻り直撃を免れるが片翼が砲撃によって撃ち抜かれる。片翼を失い体勢が乱れるが、すぐに復活させ立て直す。
煙によって遮られ、アリサの位置は分かる筈がなかった。それにも関わらずゆうきは正確にアリサのいる位置に砲撃を放った。ゆうきが砲撃を放てた理由。それはなんとなくだった。なんとなくそこにいる気がしたのだった。
「夢のくせに!」
再び翼を羽ばたかせ刃の羽をゆうきに向かって雨の様に放出する。それに対してゆうきは再び魔力弾を生成する。先程と同じように撃ち落とすつもりだった。
「甘い! 甘い!! 甘あぁぁぁい!!!」
突如、羽が意思を持ったかの様に柔軟な動きをみせる。ゆうきのディバインシューターを模倣し、羽を思念制御しているのだった。その為には膨大なマルチタスク能力が必要となるが、ジュエルシードによって補ってくれていた。
刃の羽は数枚を犠牲にディバインシューター落とし、ゆうきに迫る。そしてその一部はなのはにも迫っていた。
「なのは!」
「私は大丈夫! それより、ゆうき君前!」
なのはに言われ前を見ると、羽がゆうきを取り囲む様に移動していく。
「くっ!」
アリサが誘導制御しているのならば、さっきの様に爆発させて無効化するという事はできないかと言ってこのままでは撃墜は必至だ。ならば、取る道は一つ、全て打ち落とす事。
「シャイニングハート!」
<ダメです! 最悪の場合マスターの脳が潰れてしまいます!!>
今までゆうきの言葉に静かに答えていたシャイニングハートがゆうきを止める。
「僕は潰れない!」
<ですが!!>
「僕を信じて!」
<…………了解しました。私もサポートします>
「ありがとう……」
短く感謝の言葉を言い、目を閉じ僅かな時間だが深呼吸する。
「ディバイン……シュータァァァァァ!!」
ゆうきの周りに生成された魔力弾の数は50。
「撃ち落とせ!!」
その全てをゆうきは制御していく。そこにシャイニングハートのサポートがあるのは事実だが、そのサポートはちょっとしたものだった。数で言うのならば10個分の制御する負担を少なくしている程度だった。何故その程度しかしていないのか、理由は簡単、その程度しか必要がないからだ。
宙を駆ける魔力弾は撃ち漏らしなくゆうきに害をなそうと近づく羽を打ち落としていく。
「あぁぁぁもう!! イライラする!!」
アリサはそう言いながら、さらに羽を放出するが魔力弾の動きはどんどん鋭くなり、羽を打ち落とし、数の差をものともしない。
「もういいわ!」
アリサの一言を合図に放たれていた羽が同時に爆発する。1つ1つの規模は小さいがそれが幾つも重なれば大きくなっていく。
「くっ!」
その証拠に、ゆうきは爆発によって少なからずダメージを負う。
爆発の影響で発生した煙が周囲を包み込む。
「なっ!」
その時、ゆうきが驚愕の声を上げる。アリサがこの煙を利用し、接近している気がした。悪い事に、その感覚は正解であった。アリサはゆうきを斬ろうと接近していたのだ。
砲撃でも、魔力弾でも遅い。となると残る選択肢は防御だが、アリサの前では魔力は無意味。まさに万事休すだった。
「はあぁぁぁ!」
アリサが今まさにゆうきを斬ろうとした時、光の柱がそれを遮った。その光の柱の正体は砲撃であった。今、この状況で砲撃を放てるのはただ1人。
「ごめんね、ゆうき君。私も戦うよ!」
今までためらい、見ている事しかできなかったなのはだった。
なのははは優しい。それは傷つく痛みを知っているからである。だから他人にそれをしたくない、させたくない。故に現状で、なのははアリサに攻撃する事ができなかった。
「ゆうき君、私もアリサちゃんを止めたい」
「なのは……」
しかし、そのなのはも吹っ切れた。今、何をすべきかを理解したのだった。
「ごめんね、迷って」
「ううん。2人でアリサを止めよう」
「そんな所まで2人に似て……どこまで私をキレさせるのよ!」
アリサの炎が更に巨大化する。
「なのは、とにかく攻撃でもして、ちょっと時間を稼いで」
「でも攻撃は通らないよ」
ゆうきの攻撃を見ていたなのはは攻撃が通じないのを知っていた。唯一通じると思われるのは砲撃であるディバインバスターのみ。だが、そのディバインバスターは発射までに時間を要し、有効策とは言えなかった。例え、片方が注意を引きつけ、もう片方が砲撃を放っても先程みたいに避けられてしまう。
「大丈夫、僕を信じて」
ゆうきははっきりとそう言った。他に手があると暗に伝える。
「分かった。ゆうき君を信じるね」
それはどんなゆうきが何をしようとしているのか理解したという事ではない。ただゆうきを信じて、了承したのだった。
「はあぁぁ!!」
振るわれる巨大な炎の一閃を分かれて回避する。
「レイジングハート、いけるよね?」
<勿論です。全力でいきましょう>
「うん」
魔力弾を生成し、アリサに放つ。しかし、アリサは微動だにしない。そもそも回避する理由がない。魔力弾はアリサに届く前に消滅してしまう。
「無駄よ!! さっさと私を目覚めさせなさい」
「アリサちゃん、よく聞いて。これは夢じゃないの!」
「嘘だ!!」
アリサが刀を振るう。が、アリサもこれが現実だと気づきつつあるのか、それには鋭さがなかった。鋭さがない攻撃はなのはにかわされる。
「嘘じゃない!! このピリピリとした空気が、その手に持つ刀の重さが夢なの!!」
「う、うるさいうるさいうるさい!!」
がむしゃらに刀を振り回すがそんな攻撃が当たる筈はない。十分に距離を取りながら、なのはは言葉を続ける。
「これは夢じゃない! 現実なの!!」
「う、うぅぅああああああ!!」
なのはの言葉を聞いたアリサは刀を振るう事を止め、頭を抑えながら苦痛の声を上げる。アリサが戻ろうとしているのだと思ったなのはは更に言葉を続ける。
「気づいてアリサちゃん!!」
「なの……は……」
その時、突如アリサが持つ刀が青白い光を放ちだす。今までの戦闘で大人しかったので、なのはは忘れていた。アリサの持つその刀にはジュエルシードがある事を。光は大きくなり、アリサの体を包み込む。
「アリサちゃん!」
光は次第に収まっていく。光から出てきたアリサの外見には変化はない。そう、外見には
「ふ、ふふふふ。アハハハハハハハハ」
まるで狂ったかの様に笑うアリサ。いや、様にではなく狂っていた。ジュエルシードによってアリサの心は捻じ曲げられてしまったのだった。
「そうよ、そうよね。こんな現実、モヤシテシマオウカ」
「残念だけど、それはできないよ。君は僕となのはが止める」
暴走しつつある、アリサを止める発言をしたのは時間稼ぎを頼んだゆうきだった。
「なのは、お待たせ」
「ゆうき君!」
「あんたに私が止められると思っているの? あんたの攻撃はあのビームぐらいしか私には効かないし、あれも避けるのは簡単なんだからね」
「その対策は出来ているよ。なのはは封印の準備をしていて」
「うん……。頑張ってゆうき君!」
なのはが静かに離れていく。
「これが君への対策さ!」
ゆうきの言葉の後にポツポツと現れたのは、20の魔力弾。
「あんたバカ? それは私には通じないわよ」
「それは受けてからのお楽しみで!」
そう言いながら、魔力弾を放つ。それにも関わらず、アリサ動こうとしない。
「避けなくていいの?」
「避ける必要はないわ」
「後悔しないでね」
アリサを包囲するように誘導された魔力弾は次々とアリサへと向かう。その魔力弾は前と同じ様に消えていく。
「ほらね」
「何を勘違いしているの? まだ弾は残っているよ!」
最後の2発がアリサに迫った時、それは起きた。
「なっ!」
アリサが驚愕の声を上げる。何故なら消える筈の魔力弾は消えず、今までアリサを守護してきた謎の現象を貫いた。
「ぐぅぅ」
魔力弾2発の攻撃をまともに受けたアリサは苦痛の声を上げる。
「アリサ、君の周りを取り囲むのは、おそらくAnti (アンチ)Magilink(マギリンク)Field(フィールド)、略してAMFと呼ばれる魔力結合と魔力効果発生を無効にするもの。僕やなのはみたいに魔力での攻撃が主戦力のタイプには天敵」
「なら……なんでアンタの攻撃が……」
「魔力弾を多重のフィールド中和膜で覆い、相手の防御に着弾すると中和膜がその防御を中和し、それを貫く魔法。それがさっきの攻撃」
そう言いながら、ゆうきは周りに20もの魔力弾を生成する。
「さて、覚悟はいいかい? アリサ」
「こ、このぉぉ!」
アリサががむしゃらに突っ込む。だが、アリサが今までそれができた理由はAMFがあっての事だった。それが破られた今、それはただの神風特攻でしかない。
魔力弾が次々とアリサを襲う。翼を撃ち抜かれ、背を撃ち抜かれ、足を、腕を。それでもアリサは止めない。全ての魔力弾の攻撃を受けても突き進むアリサが見たのは、杖を真っ直ぐアリサに構え、その先には光の球体があった。
「アリサ……ごめん」
<ディバインバスター>
ゆうきはただ静かにアリサを撃ち抜いた。
あの時の私は自分から見ても最悪だった。わがままで、自信家で、強がり。だから私はクラスメイトをからかいバカにして。でもそれは私の心が弱かったから。あの時もそうだった。
「そ……それは……」
「アンタ、私に逆らう気なの? グズでのろまなアンタが」
自分より可愛いヘアバンドを身につけているあの子が気に入らなくて、それを奪った。その子は本当に気が弱くて、何を言ってもぼそぼそとしか言わない、いわば当時の私にとって最高のエサだった。何かを言いたそうにするあの子の声を聞くたびに私は優越を感じた。そんな時だった。
「君、その子が嫌がっているよ。返してあげなよ」
私を止める声が聞こえた。それは、ある男の子だった。その男の子はいつもとある女の子と一緒いた子だった。当然、その子も一緒にいたけど、止めてきたのは男の子の方だった。
「なんでアンタの言う事を聞かなきゃならないのよ」
当然、私は聞かない。他人の言う事を素直に聞いたら何かに負けた気がして。その時、私の頬に今までで一番の痛みがはしった。目の前を見ると、そこには男の子と一緒にいた女の子が立っていた。
「痛い? でもね、大事なものを取られた人の心はもっと痛いの!」
当然、私がやられっぱなしなんてできなくて、すぐにやり返す。やってはやられて、やり返して。そんな事が続き、結局、事の発端であったあの子と止めに入った男の子が私とその子を止めた。
それが私達、4人の出会いだった。
アリサが目を開けると、そこには未だ浮かぶ真紅の月と心配そうにのぞきこむなのはの顔があった。
「アリサちゃん、目覚めたんだ」
「なの……は?」
「ごめんね、ゆうき君手加減ができなくて」
「いや、手加減ができる状況じゃなかったし……」
「でもあれはやりすぎだと思うよ」
「で、でもさ……」
目覚めたばかりで、暫らく思考が停止しているアリサは暫らくなのはとゆうきの言い合いを眺める。だがすぐに思い出した、今まで自分がした事を。あの時は何も感じなかった、しかし今は違う。自分がした事に恐怖を覚えていた。
「その……アリサ大丈夫?」
自分を止めてくれたゆうきは何故か謝る。
「なんでアンタが謝るのよ……」
「いやさ、あれはやり過ぎかな? って」
「私が言わなきゃ、やり過ぎって思わなかったと思うよ?」
「うっ」
あんな事をしたのにも関わらず、平然と会話できる2人が不思議に思えた。
「アンタ達は怖くないの? あんな事をしたのに」
「あれはジュエルシードに操られていた「違う!」」
「違うの! 私は最初の方は確実に自分の意思で動いていた。それで学校を破壊した! そのせいでみんなが!!」
「それは大丈夫だよ。ここには僕達以外いないから」
「それでも、私がとんでもない力を持っているのには変わりない!!」
アリサは恐れていた。学校を簡単に崩壊させることができるその力を。そんなアリサになのははかける言葉が見つからなかった。
「シャイニングハート……」
<分かりました>
「ゆうき君?」
「ディバインバスター!」
不意にゆうきが明後日の方向へ砲撃を放つ。しかし、そこには何もなく、ただ地面があるのみだった。砲撃は地面に突き刺さり巨大な砂煙を発生させる。その煙が風によって晴れると、そこには巨大なクレーターができていた。
「アリサ、見ての通り僕やなのはだってその気になれば学校を壊せるだろうし、人だって簡単に殺せる。でもそれは絶対にしない」
ゆうきがアリサを真っ直ぐ見ながら言葉を続ける。
「力はどこまでいっても力。肝心なのはその力をどう使うかじゃないのかな?」
「それなら私はもう……」
「今ならまだ、間に合うよ」
ゆうきがアリサに差し伸べる。
「私は……」
アリサが手を伸ばそうとした時
「残念だけど……」
突如、声が聞こえる。その声はとても聞き覚えのある声だった。そう、その声の主はすずかだった。
「ゆうき君の手を取るのは私だけの特権だよ」