宴は次のステージへと進み激しさを増していく。人外と非日常を過ごす者達による宴。その宴は終盤に差し掛かろうとしていた。
なのはの側に降り立つ黒衣の少女、フェイト。金色の光と共に降り立つその姿は美しく、幻想的だった。
「フェイト……ちゃん……?」
「遅くなってごめんね。結界を突破するのに時間がかかって」
「なのは! 大丈夫!」
と、なのはの傍に降り立つ男の子が1人。その顔は綺麗に整っていて、服装と口調を変えれば女の子と間違えてもおかしくなかった。だが、なのははそんな男の子とは会った事はなかった。なのに自分の名前を知っている事が不思議だった。と、なのはが?マークを浮かべている事に気づき苦笑しながら自分の正体を告げる。
「僕だよ、なのは。ユーノ・スクライアだよ」
「え……?」
なのはの知っているユーノはフェレットであり、人ではない。だから違うと思う一方で勘が目の前にいる男の子がユーノであると告げていた。
「フェレットの姿は魔力不足だったから仕方なくなっていたんだ」
「じゃあ、その姿が……?」
「うん。僕の本当の姿」
男の子の正体は分かったが、なのはにはもう1つ分からない事があった。それは何故フェイトと共に現れたかだ。
「どうしてフェイトちゃんと……?」
「結界に入る時に偶然ね」
その時、突如響く何が爆発する音。その方向に視線を向けると1人の男の子とすずかが剣を交えていた。その男の子をなのはは知っていた。前回、ゆうきを下し、今なのはの近くにいるフェイトと一緒にいた男の子、エクスだった。
「なんなのよ貴方達は! もう少しでなのはちゃんを殺せたのに!!」
「力は強い。が、それだけではな」
人外の力で振るわれる剣をまともに受ければ力負けするのは必至だ。そこでエクスは剣で受けた瞬間に力を外に逃がす事ですずかと対峙していた。その姿には余裕があり、今は様子を見ているかの様だった。
「……っ!」
「なのは、今は動かない方が!」
<マスターを行かせてあげてください>
なのはが立ち上がろうとするが、疲労と負傷でよろけ、ユーノに受け止められる。それでも立ち上がり向かうべき場所があった。それを分かっているからこそ、レイジングハートはユーノを説得する。なのははユーノの制止の声が聞こえても歩みを止めず、一歩、また一歩とその場所へと向かう。途中、震えるアリサとその傍にいる犬科の耳を持った女性、フェイトの使い魔であるアルフの近づくが、それでもなのはは歩みを止めない。
「フェイト……」
「アルフ、その子は?」
「……分からない。 震えながらごめんなさいってずっと謝ってる」
アリサは未だ震えていた。しかし、なのははその状態であるアリサすら通り越し向かう場所。そこは
「ゆうき君……」
「「「っ……!」」」
ゆうきが倒れている場所だった。ユーノはなのはを支える事に、フェイトはアルフの様子を見ていた為、アルフは震えているアリサに気が向いてた為に今まで気付かなかった3人はようやくゆうきの状態に気づく。横になっているゆうきの辺りあるのは、杖と血、血、血だけだった。あまりの光景に息をのむ。その血の量は素人の3人から見て致死レベルだった。そんなゆうきの傍に座り込むなのは。
「ねぇ、ゆうき君……私、頑張ったよ。だから、ほめて。ほめてよ……ほめてよゆうき君……!」
次第に大粒になって頬を流れる滴。なのはの心はついに命懸けの戦いによって完全に折れた。だが、それは無理もない。つい最近までは普通の小学3年生がただ資質があるからという理由で普通でなくなり、今まで傍にいた者が死に、自分にもその死が迫った。今までは自分がすずかを止めなければならないという一種義務と責任、そして、ゆうきを守る為という意思によって死線を戦い抜いた。だが、今はフェイトが、エクスが、アルフがいる。
フェイトとエクスの実力は確かなもので現にエクスはすずかを相手に余裕であった。良い筈の状況が結果としてなのはに安堵を与え、戦う意思を打ち砕いた。今はもうなのはは魔法少女としての力、戦う力はなく。そこにいるのは無力な、大切な人を亡くし、悲しみに染まるただの少女だった。
「なのは……」
そこにかける言葉は、かけられる言葉はなかった。なのははただ泣く。ゆうきの死を悼み泣く。アルフがアリサを傍に連れて行くが双方とも変化はない。
「…………ユーノ、ここはお願い。いくよアルフ」
「……分かった」
「あいよ」
念話で軽く会話をし、自分では足手まといになるかもしれないし、流れ弾を防ぐためにとそれを了解するユーノ。フェイトはアルフと共にエクスの所へ向かう。
残されたユーノの目には震えるアリサと泣き崩れるなのは、死んでいるゆうきが映る。こんな現状が起こったのは間違いなくジュエルシードのせいである。つまり自分に関わらなければ起こらなかった事だ。その事に罪悪感を感じるユーノ。
「せめて、痛みを感じない様に……」
それは自分勝手な償いと思われるかもしれない。それでも、もう痛みを感じてほしくないという思いは本当だ。目を瞑り意識を集中させる。そして両手を前にだし、印を結ぶ。するとなのは達の足元に緑色の魔法陣が出現する。
「妙なる響き、光となれ。しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ」
ユーノが言葉を紡ぎ終えると、2人が半円に包まれる。それはラウンドガーダー・エクステンドと呼ばれる防御と肉体・魔力の回復を同時に行う高位結界魔法だった。高位という文字から分かる通り、この魔法は簡単にできるものではない。それをできるユーノは捕縛、治癒、結界といった補助魔法の優秀な使い手だった。
「これは回復と防御の結界なんだ。ここで休んでいて、なのは」
泣いているなのはに自身の言葉が届くかは分からない。それでも優しくユーノはなのはに語りかけ、視線を戦場に向けた。
「お待たせエクス」
「あの様子だとゆうきは……」
「エクスの予想通り、あの子はもう……」
「優秀な魔導師になれると思っていたのだがな……」
エクスがゆうきの死を残念そうに呟く。エクスは平然と話しているが、すずかと対峙していた筈だ。その相手のすずかはというと。
「ちくしょう……ちくしょう……!」
ボロボロになり、真紅の剣を杖の様にしてやっと立っていた。
「力が、力が足りない! もっと力をもっと力を!」
「諦めな。アンタじゃ、フェイトとエクスに勝てはしないよ」
「力を……力をよこせえええええ!」
すずかの叫びに応えるかの様に青い光の柱がすずかの体から出現する。
「これは……!?」
「ジュエルシードか!」
「ちょっとやばいんじゃない!」
柱は次第に大きくなり、突如弾ける。柱に包まれていたすずかの姿がそれに伴って現れる。するとその服装は変わっていた。
今までは純白のドレスという姫に相応しいものだった。はっきり言って戦闘向きでない事は明らかだ。それが今は大部分が甲冑へと変わっていた。それは甲冑でありながらも気品を忘れてはおらず、ドレスと甲冑を足して2で割った様な姿は姫騎士という一言が当てはまった。しかし、その背から真紅の歪な形をしている4枚2対の翼が生えており。その歪さと真紅という色彩によりその姿はまるで死を告げる天使の様だった。その手に握っていた真紅の剣は双剣へと代わり右手には黒の、左手には赤の剣が握られる。
そして、その両手をゆっくりと交差させて、剣であるものを描いていく。死に逝く者達への手向けであり、生ける者への死の宣告、死の十字架を。
「っ!」
エクスはその姿を見た瞬間、嫌な汗が一気に吹き出る。エクスの本能が、直感が告げる。あれは危険だと。今やらなければやられると。エクスがすずかに接近し、斬りかかる。鋭く襲いかかる刃はすずかへと迫る。
「甘いよ」
すずかが黒の剣で受け止める。空いている左の赤の剣がエクスに振るわれる。
「カリバー!」
<ソニックムーブ>
防がれたと理解した瞬間、青い閃光を残し、すずかの死角となる位置へと回り込むエクス。必勝のポジションをとり、カリバーを振るう。そこに微塵の躊躇も、一片の手加減もない本気の一閃。振るうエクスは勝ちを確信する。だが、その確信はいとも容易く打ち砕かれた。突如すずかの姿が消える。それに伴いエクスの渾身の一閃は空を斬る事となる。
避けられたという現実を理解し驚愕したその時、背後から伝わる殺気と修練と鍛錬によって培われた感が警鐘がすずかの居場所を、自身に迫りくる危機と、それが"今のままでは"打開が不可能である事を教えてくれる。
「エクス!」
背後から自分の命を狩ろうと迫る刃。だが、エクスは諦めていなかった。この状況を打開すべく、切り札出そうとした時
「エクスはやらせない」
フェイトがバルディッシュ で剣を受け止めた。
「アルフ!」
「あいよ!」
フェイトの合図に従い、アルフが魔力弾を放つ。それと同時にフェイトが退く。アルフが放った魔力弾はすずかの進撃を阻むように展開、着弾し炸裂する。
「すまん、助かった」
「謝るより、ちょいと説明してくれないかい」
「なんで誰もいない所にカリバーを振るったのか」
「何?」
エクスは確かに空を斬った。だが、それは結果的なものであって、その直前まではそこにすずかはそこにいた。だが、アルフとフェイトの言い方は始めからそこにいなかった様に言っていた。
「エクスは見当違いの所にカリバーを振っていたんだよ」
「一体何があったんだい……?」
「それは当然だよ」
すずかが2人のエクスに対する疑問の声に答える様に言う。
「私は貴男の視界にはいて、貴女達の視界にはいない」
何故、エクスに見えていて、フェイト達には見えないのか分からない。そして、どちらが正しいのかは分からない。見えるのが正しいのか、見えないのが正しいのか、それが分からなければ意味はなかった。
「それにしても1対3か……ならちょっと本気出しても遊べるよね」
「「「なっ!」」」
3人が驚愕の声を上げる。それもその筈、すずかが2人に突如分身したのだ。それぞれ4枚2対の翼は二枚一対となっていた。分身したすずかは分身する前と同じ剣を得物を手にしてそこに立つ。
「これなら楽しく遊べるね」
「さあ、始めようか」
2人のすずかがフェイト、エクス、アルフへと肉迫していく。
「アルフ、エクスを!」
「私は大丈夫だ! フェイトを頼む!」
エクスと自分達どっちが正しいのかは未だ分からない。だが、少なくとも今の判断についてはエクスの判断が正しいと思えた。フェイトの相棒であるバルディッシュは斧で変形したとしても鎌であり、剣と比べるとスピードが遅い。それでも持ち前のスピードでどうにかしてきた。だが、今回の敵は何もかも未知数だ。未知数相手においてフェイトとエクスのどちらが勝率が高いか。そこを考えた上でアルフは、フェイトへと向かった。
「アルフなんで!」
「私はエクスを信じる。フェイトもエクスを信じようよ」
「……分かった」
アルフはフェイトの横に立ち、構えた。
「いいの? 1人で」
「誰かが1人で相手をしなければならない。ならば、その1人に私はなろう」
「あはは、かっこいいね。でも
エクスの本能が警鐘を再び鳴らす。警鐘に従い身を捻り迫りくる剣を避ける。すずかは目の前にいた。だが攻撃が後ろから来ていたつまり
「どうやら、見えない方が正しい様だな」
フェイト達が正しかった事に安堵を覚える。だが、それは自分が危機に立たされている事を示していた。それなのに慌てる様子もなく平然としているエクスに疑問を覚えるすずか
「それがどうしたの? 貴男はピンチなんだよ」
「知っているさ」
そう言うとエクスが目を閉じる。
「アハハ、諦めたのかな」
すずかが念の為と背後に回りこみ黒の剣を振るう。迫る狂気の刃にエクスは動く気配が感じられない。さおれも見て殺ったと確信したすずかの口元が狂気に歪む。それに対しエクスは
「甘いな」
と不敵に笑った。エクスの姿が消え、すずかの背後へと回り込み、カリバーを振るう。が、すずかの反応が追いつき、赤の剣で防ぐ。
「ほう、やるな……」
「なんで見えている!」
先程まで見えなかったはずなのに今は正確に捉えられている。そのきっかけと思われるのは目を瞑っただけ。その事に対し疑問と驚きの声を上げるすずか。
「心眼は鍛えている。あとはきっかけだ!」
ぶつかり合う剣と剣。エクスが力を調整し、互いに弾き距離を取る。
「これで、お前のトリックは通じないぞ」
剣の切っ先をすずかへと真っ直ぐ向けるエクス。
「いいよ。なら真正面から戦ってあげる!」
本当の勝負がここから始まった。それは言葉だけではなく事実上もだった。エクスはすずかの姿が正確に見えるため、目の前に全力を尽くせるようになった事、すずかは今までの遊びを止め、真剣な戦いをするようになった事。2人とも現時点で出せる全力を出しているのだから、戦いが激化するのは必至であった。
すずかの双剣というスタイルは両手で振るう剣を片手で振るう事により手数を増やし、結果的な攻撃スピードを上げるもの。当然両手で振るうものを片手で振るえば一撃一撃は軽くなる。だが、すずかはその人外の力で重いままである。対してエクスは一瞬で回り込める実際のスピード、数々の鍛錬によって築かれた技量。この戦いは結果的スピードと実際のスピード、腕力と技量の戦いだった。
地を駆け怒涛の勢いで双剣を振るうすずか。青い閃光と共にカリバーを振るい、それを叩き落としていくエクス。現実では一瞬の出来事だが、当人達にはその一瞬が何秒にも引き伸ばされて感じられた。数瞬の内に何合も切り結ぶ2人。
「はあぁぁぁ!」
すずかが剣を振るっていく。その剣は死神の鎌の如くエクスの命を刈り取ろうと襲いかかる。
「ふっ!」
死の一撃をエクスは紙一重でかわす。かわした隙を狙いすずかがもう片方の剣を振るう。それをカリバー受てそらし、そらした刃をレールにし、カリバーをすずかへと振るう。
「チッ!」
「カリバー!」
<ソニック>
舌打ちを軽くして、力を込めて地面を蹴り後方に下がる事で一撃を避けるすずか。が、エクスが追撃をかける。青い閃光と共に後退先に先回りするエクス。それを感じ取ったすずかは後ろに振り向く反動を利用し、速度をのせ、赤の剣を振るう。
「仕方あるまい、カリバー」
<後退します>
攻撃の筋を見た瞬間、すずかが何を狙っているを察したエクスは何かを諦め、再びソニックムーブを発動させ、今度はエクスが後退する。それによりすずかの攻撃は空を斬り、そのまま勢いのままエクスの向き直る。
「へえ、今ので逃げるんだ」
「あのままではやられていたのでな」
不敵に笑う2人は同時に駆け、再び衝突した。