どうしてこんな事になっているのかな?
すずかは疑問に思う。本来ならばもうなのはをさくっと殺し、ゆうきを同胞としているはずだった。ところが現実は違った。何故か同じ黄色の2人と緑2人が乱入しなのはを助けてしまっている。反撃の芽を潰して、心をへし折って、なぶり殺そうとしたのが間違いだったのだろうか。その肝心のなのははゆうきに泣きついてしまっている。すずかの中で黒い感情が渦を巻いて大きくなっていく。
「願え、我は願いを叶えるモノ。お前の願いを叶えよう」
誰かの声がすずかの心に響く。自分ではない何か。本来ならばその存在に戸惑い、恐怖すら覚えるであろうものを、すずかは無条件で受け入れる。全てはゆうきを手に入れる。それしかすずかに目的はない。そのためにはいかなる犠牲もいとわない。
「私はゆうき君が欲しい! ゆうき君以外何もいらない!!」
すずかの叫びを、願いを聞いた謎の声はまるでニヤリと笑ったかの様な間が空き。
「その願い、叶えよう」
ただ一言、告げた。
「「「っ!!」」」
勘の鋭いエクスだけではない。フェイトもアルフもその変化に気付く。今戦っている少女の何かが変わったと。三人が察したのと同時に分身している両方のすずかの体の力が抜け、身体が左右に揺れるに従い、腕が振り子の様に揺れる。あまりの不気味さに3人は距離を取る
「開け根の国、根のやしろ」
「尋ね訪ねて 幾千里」
まるで歌を歌うかの様に、言葉を紡く。
「恋の行方を 尋ねや来られ」
「彷徨い入れ 宵の宿」
2人のすずかはゆらゆら揺れながら、集まっていく。
「死にゆく呻きは」
「昏鐘鳴となるか?」
紡ぎ終わると2人のすずかは交わり1人となる。それにより先程の威圧感は消滅する。が、異質さが2倍、3倍となり、まるで出来の悪いCGを見ているかの様に周りの世界から逸脱していた。
「エクス!」
フェイトが一瞬ふらついたエクスを支える。勘の鋭いエクスはフェイトとアルフよりも本質をよりみる事ができる。そしてエクスはみえてしまったのだ、すずかの闇を。
過去の、現在の、そして未来の災厄をすずかに押し込めたかの様な禍々しさ。それをエクスは直接見てしまい、感じてしまったのだ。
「……すまない。もう、大丈夫だ」
エクスが支えてくれた事に礼を言い、再びしっかりと両の足を地につける。
「
その言葉を紡いだ直後、すずかの背後の空間に亀裂が奔り、光が漏れる。亀裂はまるで闇の中で光溢れる外へと続く扉を開けたかのようだった。だが、その光はけして眩いものではない。むしろ逆の、暗く、深い光だった。それは辺りに広がる夜の帳よりも深く、暗い闇の光。それがすずかの背後から漏れ出ていた。しかもその光は辺りを侵食し、広がっていく。
広がっていく闇の中にさらに幾つもの亀裂が現れる。そしてその亀裂が開くとそこには瞳があった。亀裂より出でた瞳は目の前に広がる世界を確認する様にぎょろぎょろと辺りを見回す。
「
「っ! フェイト! アルフ!」
すずかの言葉に従うかの様に辺りを見回していた瞳は一斉にフェイト達を見る。それと同時に感じる
「降り注げ!」
それと同時に瞳から放たれる閃光。タッチの差で3人は閃光から逃れる。だが、それで終わりではない。
「全てを拭い流せ!」
瞳が空に駆けたエクス達を追いかけ、閃光を再び放つ。幾つもの瞳から放たれる閃光は多い。しかも瞳は次々と閃光を放ってくる。広大な空中へ放たれる閃光の効果範囲はまさに点程度だが、数が集まればそれはやがて面となる。
「くっ!」
面となつつある閃光を全て避けきるのは不可能だった。
「……なら、バルディッシュ!」
<アークセイバー>
鎌状になっているバルディッシュを振りかぶり大きく振るう。それと同時に鎌の刃の部分が離れ、ブーメランの様に回転しながら進んでいく。回転する刃は向かってくる閃光を切り裂きながらすずかへと向かう。
「砕け、裁け、覗け、響け、咲き誇れ、無の花よ」
すずかが再び言葉を紡ぐと地面にも闇が広がり、そこから漆黒の手が闇から生える様に伸びる。気味悪くゆらゆら揺れるそれはまさに魔の手。その魔の手が向かってくる刃へと向かう。1つ2つでは刃に切り裂かれるが、それが10、20となると別になる。まるで壁の様になった手が刃に群がり遂に止める
「っ! バルディッシュ!」
<セイバーブラスト>
止められた瞬時に刃を爆発させ群がっていた手を木端微塵に吹き飛ばす。立ち込める煙が晴れると、すずかは無傷なのはもちろん、横にはあの魔の手がゆらゆら揺れていた。
「ならば!」
カリバーに魔力を纏わせる。まさに雷の剣となったカリバーを振りかぶり
<ライトニングスラッシュ>
思いっ切り振るった。振るった事で纏った魔力が斬撃となる。雷の斬撃は黒き手を切り裂きながら進むが
「ふふふ、無駄だよ」
黒き手の圧倒的量の壁に斬撃も止まる。
「今だ、フェイト!」
だが、本命はエクスではない。エクスが斬撃での攻撃で時間を作り、その間にフェイトが更なる攻撃の準備をしていたのだ。
「撃ち抜け! 轟雷!」
<サンダースマッシャー!>
放たれたのは雷を纏った砲撃。それは3人の中ですぐに使用可能な魔法の中で一番の貫通力と爆発力を持っている。つまり、現状を打開できるであろう最善の策。エクスの斬撃で削った上からの砲撃。これで通らなければ
刹那、すずかの下で巻き起こる爆発。それに従い辺りには煙に包まれる。
「エクス……」
「………」
フェイトがエクスに尋ねる。勘の鋭いエクスにすずかが健在かどうか確認するためだ。そこでエクスは静かに口を開いた
「奴は……健在だ」
「ふう……危なかった」
すずかが爆発によって巻き上がった土埃を掃いながら姿を現す。そこにダメージを受けた様子は全くなく、それはフェイト達の心理に重大なダメージを与えた。
「どうすれば……」
<先程と同じ状況を作り、更にフェイト嬢と同火力以上の攻撃を行えばダメージを与えられるかと>
「カリバーが喋った!」
「フェイト、驚くべき所か……?」
予想外の反応をしたフェイトに冷静に突っ込むエクス。
「しかし、フェイトと同威力か……」
<敵の攻撃行動への移行を確認>
バルディッシュの警告を受け、再び回避行動に移る、3人。それと同時に再び瞳から放たれる閃光による攻撃が再開される。
「く……っ!」
「……………」
「このままじゃ、不味いよ」
不利な状況に打開策はない。まさに絶体絶命だった。それでもエクスは打開策を考える。と、迫りくる閃光を回避した瞬間、エクスは打開策らしきものを思いつく。だが、それはあまりにも不確定で策とは到底言えないものだった。それでも何もしないよりはマシである。そうエクスは判断した。
「……フェイト、暫らく時間を稼げるか?」
「……分かった、行って」
何故? と理由を聞くまでもなくエクスの提案を受ける。そこにあるのはエクスに対する信頼だった。
「アルフ、フェイトを頼んだ」
「まかせな」
エクスはタイミングを計り、戦闘域から離脱し、とある所に行く。それは
「エクス……」
ユーノとなのはの所であった。エクスはなのはの戦闘をまともに見ているわけではないが、デバイスの形状から中遠距離型の射撃型と判断していた。
「ユーノ。彼女は戦えるか?」
エクスの問いにユーノは静かに首を振る。なのはは未だ泣いていた。
「なのははこの間まで普通の女の子だったんだ。でも僕のせいで……」
「…………」
エクスもなのはを見る。エクスが感じ取った才能の輝き、それは今、全く感じられない。
「ゆうき、すまん」
エクスはゆうきに謝り、その行動をした。ゆうきに泣きつくなのはの肩に手をかける。なのはが「え?」と疑問の声を上げるが気にしない。なのはを正面に向かせたエクスは驚きの行動に出る。
辺りに響く鈍い音。なのはは倒れ込み赤くなった頬を抑えている。そう、エクスがなのはの事を殴ったのだ。
「お前は何故泣いている。何故戦わない」
「…………」
「今を見てみろ!」
エクスが戦場を指差す。なのははそれに従い、戦場を見る。
「く……っ!」
「フェイト!」
「アルフは自分に集中して!」
エクスが抜けた事で攻撃はフェイトとアルフに集中していた。流石の2人も避けきれず時に防御などする事でなんとか耐えていた。
「ははは、どうしたの? どうしたの? 私に攻撃してみなよ!」
背後の闇にある瞳からは閃光が放たれ、すずかの横には2本の黒い手がゆらゆら気味が悪く動いていた。
「現状ははっきり言うが不利だ。中距離ではあの魔力弾が襲い、近距離ではあの謎の黒い手が護っている」
「…………」
「しかも現在は2本だが、その数は現状では無限になると思われ、接近戦は絶望的だ」
エクスが現状を説明をしていく。
「よって中長距離からの射撃か砲撃魔法での攻撃が求められるが、私達だけでは火力不足だ。だが、お前は射撃型だろう?」
「なのはは、砲撃型なんだ」
「砲撃型だと……!」
砲撃型とはその名の通り、砲撃魔法を得意とする魔導師の総称である。それぞれの一撃一撃の威力は高いが隙が大きく確かな経験と正確な判断が求められ、その上でも単体での戦闘には向かず、2人以上とのチームを組んでの戦闘で真価を発揮するものだ。それが経験不足かつデバイスの形状から同じ砲撃型であると判断できるゆうきと2人での戦闘という最悪の組み合わせで戦闘しようとしていたのだ。そのあまりにも無謀ぷりに驚愕するが、今はそれどころではないと首を振りその思考を彼方へと追いやる。
「ならば、尚更戦闘に参加してほしい。今、その力が必要なんだ!」
「でも……私は強くないよ。ゆうき君よりも弱い。何とかしようとしたけど何もできなかった」
「だが、そのままの状態では何も状況が好転しないぞ!」
「……エクス君達は逃げて」
なのはの折れたその心はそう簡単には立ち直る事はない。その一言があるまでは
「ゆうきはそんなお前の姿を望んでいるのか!」
その一言でハッとするなのは。ゆうきが言ったのは「泣くより笑顔の方が、よく似合う」それはきっとゆうきの笑ってほしいという願いがあったのだろう。だが、今の自分はどうだろうか。絶望に負けて涙を流し続けるその姿は願いからはかけ離れていた。
「私が感じたゆうきは少なくとも今のお前の姿を望んでいるとは思えない」
エクスがゆうきと接触したのは僅かの時間だったが、少なくともゆうきがその様な事を望むとは思えなかった。
「頼む、立ち上がり私達に力を貸して私達を助けてほしい」
「……う。……ない……」
なのはが俯きながら、小さく声にする。
「違う! エクス君達を私が助けるんじゃない! 私を助けてくれるのはエクス君達だよ!」
なのはの瞳に力が戻る。小さく弱かった少女は、今再びその力を取り戻す。
「よし、ならば」
「待って」
今すぐにでもフェイトの所に行こうとするエクスを引き留めるなのは。
「戦力は多い方がいいでしょ」
「確かにそうだが」
「なら……」
なのははアリサに駆け寄る。
「アリサちゃん、起きてアリサちゃん!」
「ごめんなさい、ごめんなさい………」
なのはの声など耳に入らず、アリサはひたすら謝り続ける。その姿になのははアリサが謝っている事が何に対してであるかを理解する。
「アリサちゃん! アリサちゃんは確かに昔、間違えちゃったかもしれない。でも、その間違いが今のアリサちゃんを作ったんでしょ!」
「ごめんなさい……」
「だから、目覚めてアリサちゃん!」
「俺は昔っからお前の事が嫌いだったんだよ」
無抵抗のアリサに男子生徒2人の拳が振るわれる。その光景をアリサは幾千も、幾万も見てきた。もうアリサの心はボロボロだった。いつもの様にまた世界が巻き戻るかと思った時
「止めろ!」
そこで今までの世界に無かったできごとが起こる。
「なんでそんなにいじめるの!」
そこに現れたのはあの時に現れなかったなのはとゆうきだった。
「こいつは月村さんをいじめていたんだぞ!」
「いじめたからいじめ返して、いじめ返したからいじめられて、それじゃあ、きりがないよ!」
男子生徒2人はまさかの言葉にたじろぐ。
「いじめがあったのなら止めればいい。いじめなんかあっちゃいけないんだ!」
2人から言われ、しかも完全に自分達が悪いため、その場から一目散に逃げる2人の男子生徒。
「大丈夫?」
「ごめんね、もうちょっと早く気付けたらよかったのに」
2人の手がアリサに差し伸べられその手をアリサが取ろうとした時、世界がまるで積み上げた積み木が崩壊したかの様に崩壊し、辺りには暗闇しかない。そんな時、一筋の光が差す。
「君は自分がいじめを行った事を後悔し、もう2度としないと誓ったんだろ?」
その声は聞いた事はなかったがそこに不信感はなく、むしろ温かく感じられた。暗闇の中、アリサは静かに頷いた。
「なら、そんな幻想に苦しむ必要はない。君は変わったのだから」
その声と共に暗闇の中に光が広がっていく。
「さあ、行きなさい。行って友達を取り戻しなさい」
「貴方は一体……?」
アリサがその声に問うが答えられる事無く、その代わりに聞こえたのは
「起きて!」
その手に持つ金色のフレームの杖を振り下ろすなのはの声だった。
「え!?」
アリサは疑問の声を上げるが現実は待ってくれず、その杖、レイジングハートがアリサの頭を強打する。
「つ~~! 痛いじゃないの!!」
「あ、アリサちゃん! 戻ったの!」
「あんたのせいでまた意識が飛びそうだったわよ!」
「すまんが、時間がないのだが」
すっかり元の調子に戻った事を喜ぶなのは。だが、一刻も早くフェイトの援護に回りたいエクスは2人を止める。
「ご、ごめんね。アリサちゃん。力を貸してほしいの」
「言われなくとも、すずかを止めるんでしょ」
「うん」
なのはが強く頷いた後、エクスとユーノに向かっていきなり頭を下げる。
「ごめんね、ユーノ君、エクス君」
「いや、元々僕が巻き込んだ事だし」
「私達も好きでこの場にいる訳だしな」
4人は戦場を見据え
「行こう!」
エクス、ユーノ、アリサの順で空へと飛び立つ。そして最後になのはは
「行ってくるね、ゆうき君」
ゆうきに声をかける。そして、飛び立とうとした時、
「頑張って、なのは」
そう聞こえた気がした。
「エクスはまだかい!」
「アルフ、前!」
流石のアルフも悪態を吐くが、その前には閃光が迫る。フェイトに言われ、何とか紙一重でかわす。
「フェイト、これ以上は……」
「…………」
これ以上は自分達の集中力が続かない。それはフェイトも理解している。それでもエクスを信じる。そしてそれはようやく報われる。
「撃零!」
2人の目の前を通り過ぎるは巨大な炎の一閃。その一閃は迫りくる閃光を両断していく。あまりにも突然の事なので呆然とする2人。
「すまん、遅くなった」
「エクス……!」
一瞬でも、ダメかもしれないという時に戻ってきたそんな時に戻ってきたエクス。まるで英雄の様にフェイトには感じられた。そのエクスの後に続くようにやって来る、ユーノ、アリサ、なのは。
「ごめんね、フェイトちゃん。本当は私が戦わなきゃいけないのに」
「ううん。私もエクスやアルフがああなちゃったら……」
「なんで、いつもいつも!」
なのはとフェイトの会話に割り入る様に苛立ちの声を上げるすずか。
「どこまで、私の邪魔をすれば気がすむの! なのはちゃんはさ!」
「すずかちゃんが元に戻るまで!」
「そんな事はあり得ないから!」
怒りをぶつけるように放たれる閃光。が、怒りで放たれた閃光を避けるのは容易く、6人は散開して避ける。
「私とアリサは奴の足止めを! フェイトとなのはは砲撃準備! アルフとユーノは2人の援護を!」
『了解!』
エクスの指揮の下、行動する5人。
「で、どうやって足止めをするの?」
「簡単な事だ。ただ攻撃あるのみ!」
「分かりやすいわね!」
迫る閃光をヒラリとかわし、行動開始するエクスとアリサ。
「いけ!」
その炎の翼を大きく羽ばたき、その羽を雨の様にすずかへとと放つ。ジュエルシードによる誘導補助はなくなったが、それでも量で圧倒する。
「ちっ!」
舌打ちをしながら、すずかは黒い手を多く出現させ、壁の様にして防ぐ。量で攻める魔力の羽での攻撃だが、壁の前では効果的ではなくあっさりと弾かれていく。だが、その時を待っていた。
「いくぞ、カリバー!」
<ライトニングスラッシュ>
すずかが黒い手を壁にしたのを見計らい、カリバーを振るう。放たれるは稲妻を纏いし魔力斬撃。そして
「すずか、今私達が貴女を救う! 断罪!」
アリサもその刀を振るい炎の斬撃を飛ばす。それらは壁の黒い手を削っていくが、完全に断ち切る事はできない。だが、それでもいい。本命は他にある。
「いくよ、フェイトちゃん」
「2人で決めよう」
「調子に……のるな!!」
黒い手を増強するよりも攻撃を選んだすずかは再び閃光を放つ。その閃光は束となり、なのはとフェイトに集中していた。すずかとて理解していたのだ、この状態で
「2人はやらせない!」
迫りくる閃光を防ぐ為に前に出るユーノ。そして手を前に出し、魔力を込める。それによって現れたのは緑に輝く魔法の盾だった。ユーノはそれを完璧に防ぎきる。
「なら!」
「おっと、やらせないよ!」
中距離がだめならと、宙に飛ぼうとした瞬間、アルフが
「ええい!」
アルフを叩くために再び背後に闇が開く。が、
「やらせん!」
「私達を忘れんじゃない!」
エクスとアリサがもう一度、斬撃での攻撃をしてきたために防御する事を強いられたすずか。そして
「いくよ、フェイトちゃん!」
「そっちに合わせるから、思いっ切りやって!」
集束する魔力、桜と金の光は輝きを増していく。それは夜を、悲劇を終わらせるための光。
「ディバイン……!」
「サンダー……」
光が臨界へと達した時
「バスター!」
「スマッシャー!」
遂に放たれた。迫りくる2筋の光をすずかはただ見ているだけしかなかった。
「嫌だ! 嫌だ!」
その光が迫りくるのを拒絶するかのように叫ぶか、逸れる事は当然ない。だが、
「なんてね」
不敵に笑って見せた。突如としてすずかの前方に闇が口開き、砲撃を呑み込んでしまう。まさかの展開になのは達の思考は完全に止まってしまう。
「これ返すね」
そう言いながら再び闇を開くと呑み込まれた筈の砲撃がなのはとフェイトに向けて放たれる。
「不味い、逃げて!」
いち早く立ち直ったフェイトは砲撃を避けるべく行動するがなのはは反応が遅い。もう砲撃は迫ってきている。スピードに自信があるフェイトとはいえ、なのはを抱えて逃げれる自身はない。とその時、なのはの体に
「こんな形でごめん」
「う、ううん。助けてくれてありがとう」
そう感謝の言葉を述べるなのはだが、動揺が隠せていない。それもその筈、明らかにすずかの態度は一変していた。その身を拘束しているはずのバインドは既に破られており、いかにも絶体絶命といった言動は嘘の様に驚いているなのは達のリアクションをくすくす笑って楽しんでいる様に見えた。
「勝利の希望はどうだった? ほら、絶望に染まった顔を見せてよ」
「な、なんで、さっきまではあんなに取り乱していたのに!」
「演技だよ、演技。相手が勝利という希望の光を見た後に敗北という絶望の闇を見せる。最高じゃない」
すずかが手を振り上げると同時に闇があちらこちらに開き、瞳がなのは達を捉える。もう、闇はすずかの背後だけに広がるものではないという事を嫌でも分からせられた。そして、これから起こる事も分かってしまった。
「さあ、絶望に染まれ」
すずかが静かに告げると同時に瞳から閃光が放たれた。
その光景はまさに一方的な蹂躙だった。中長距離の攻撃は闇に呑み込まれ、反射されてしまう。接近戦も膨大な黒き手の量に圧殺されてしまう為にできない。反対にすずかからの攻撃はありとあらゆる方向から無数に放たれる。回避行動に慣れないなのはどころか、フェイトやエクスですらその攻撃に捉まっていく。
結果として
「あはははは、その程度なの」
黒き手に拘束されてしまった6人。その姿は満身創痍の一言。魔力は既に尽きかけており、バリアジャケットの維持ももう長くできそうにないほどだった。
「さて、終わりにしようか。せめて最後くらいは、その絶望に染まる顔で私を楽しませてよね」
黒き手はその根源たる闇の中にズブズブと沈み込んでいく。最後まで沈んでしまった時、何が起きるのかは分からなかったが良い事が起きるとは到底思えなかった。
「く、くそ!」
逃れようと必死にあがくが満身創痍且つ魔力不足の状況では十全の力を発揮できず、逃れる事は叶わない。
「そんな……」
「こんな所で終わるのか……」
「だめなの、私じゃすずかを救えないの……?」
フェイト、エクス、アリサには絶望の色が濃くなっていく。
「あたしじゃ、守れないのかい!」
「僕が、僕のせいだ……」
ユーノとアルフは守れない己の不甲斐なさを呪っている。
誰もが絶望と諦めに染まる状況でなのはも例外ではなかった。
「私じゃだめなの……」
打開できないという絶望感。フェイト達を巻き込んでしまったという罪悪感。それがなのはの心を満たしていく。それに比例する様に沈みゆく黒き手。
「ゆうき君……」
なのはがせめてゆうきがすずかの手に堕ちない事を願った時、それを起きた。
<高魔力攻撃接近!>
「なっ!」
レイジングハートの音声と同時に現れたのは一筋の閃光。その閃光は6人を拘束する黒き手の根元と腕を切り離し、更にはすずかに回避行動を強いた。その一筋の閃光の正体は魔力砲撃だった。
黒き手は根元が千切れた事で力を失い離散していく。解放された6人は重力に従い地面に落ちる。
「嘘……」
「そんな……」
その砲撃を放った人物の正体を瞬時に理解したなのはとすずかがそう呟く。放たれた魔力砲撃、その魔力光は明るく、優しいライトイエローだった。その魔力光を持つ人物は1人しか思い当たらない。せれでも2人には信じられなかった。何故ならその人物は死んでいるはずだからだ。
コツコツと静まった辺りに響く足音。その音は確実に近づいていた。近づくにつれて見えてくるその姿を認識した時、2人の疑問は吹き飛ばされた。その人物の名は
「ゆ、ゆうき君!」
高町ゆうき。死んだと思われていた人物である。