桜諸刃流免許皆伝の天才剣士   作:反町龍騎

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五振目

 アルベドの着替えを待っている二人だが、三十分以上も戻ってこない事に苛立ちを覚えた神助は、貧乏揺すりをしていた。

 

「あー遅ぇ!いつまで待たせんだ」

 

「まー落ち着けよ。女は準備に時間が掛かるんだ。広い心で待ってやれ」

 

 そう言い、五本目の煙草に火を付けるパルトメスト。フーッと口から煙を出した時に、神助は咳き込んでしまう。

 

「お前煙草止めろよな。体力だって使うんだから、無駄だろそんなん。それに、死ぬリスク高くなんぞ」

 

「はっ。こんな仕事、煙草が無きゃやってらんねぇよ⋯⋯」

 

 煙草を吹かしながら遠い目をするパルトメストに呆れた目を向ける。こいつはもう何を言ってもダメだ。そう思ってしまった。

 

「お前が選んだ仕事だろうがよ」

 

「そうなんだけどなぁ。なんで選んじゃったかなぁ。こんな仕事をなぁ」

 

 なんて喋っていると、突然空間が歪む。そして人一人通れるサイズの穴が出来た。

 それを見て、パルトメストは目を見開く。

 

 ――これは、アルベド・アラーシャの力によるものだから。

 

 咄嗟にパルトメストは穴の中に吸殻を投げ込む。しかしそれは無意味だったと気付く。

 

「後ろだ!」

 

 神助の言葉で、パルトメストは振り返る。そこにはもう一つの穴。こちらも同じくアルベドの力によるもの。

 その穴から勢いよく出てきたのは、黒髪黒目、灰色のローブを来た男。その男は、義手の右腕でパルトメストの顔面を強打。不意をつかれたパルトメストは、ただの会議室として使うのが勿体ないほど広く作られた部屋を、二、三回バウンドしながら壁へと激突した。

 不意打ちとて、パルトメストの意識を奪うのには、一撃必殺とも言えるとてつもない力がいる。それほどの化け物だと知っているのか、男は追撃をと肉薄するが、それは神助によって止められた。

 振り下ろされた一刀を義手で防ぐ。刀を払い、もう一方の腕を神助の右肩へ撃ち込む。

 

「あぐぁッ!」

 

 鈍い音がした。肩が外れたのかもしれない。痛みで膝をついた神助は、床に刀を落とす。そして痛みを堪えながら、睨む先には。

 

「小鳥遊⋯⋯宗二ッ!」

 

 元管理局陸士一〇八にアルバイトとして所属し、機動六課に教導官として派遣され、幾度もの危機を救った、真のエースアルバイトとして誉高い存在となった男。小鳥遊宗二が居た。

 宗二は神助を一瞥すると、パルトメストの腹目掛けて蹴りを放つ。辛うじて保てていた意識も、血反吐を吐くほどの痛みにより、途絶えてしまう。

 パルトメストの戦闘不能を確認すると、今度はちゃんと身体全体を神助に向けて。

 

「久しぶりだな、山形神助」

 

「裏切りモンが、とうとう俺の目の前に現れたな」

 

 無理やり外れた肩を戻した神助は、刀を拾いながら立ち上がる。

 静かに息を吸い、吐き出す。そして宗二を睨むと持っている刀を、左右に八の字を描くように振り、正面で構える。

 

「言っとくが、てめぇらには前口上は必要ねぇ。その首切り落としてやるから、覚悟しとけよ」

 

 静かな怒りを刀身に宿らせた神助を見て、宗二も構える。右手を前に、左手は腰の辺りに、そして重心を下げる。殺気の宿った鋭い目を神助に向ける。

 瞬間、爆風。

 風が吹いた訳では無い。二人の初動、それによるものだ。互いが獲物の距離に近づいた時、神助は低い姿勢から、刀を振り上げる。宗二は義手で刀を払う。宗二はもう片方の腕で強打を狙うが、神助ももう片方の腕で腰に下げたもう一本の刀を引き抜き、身体を回転させることで勢いを出し、宗二の身体に斜めの傷をつくる。

 鮮血が舞う。追撃とばかりに手をついた神助は横に回転し、宗二の足を払いにかかる。しかしそれは後方に飛ぶことで避けられる。

 攻撃を避けた宗二は傷口を手で抑えながら、苦痛に顔を歪めている。

 

(流石に強い。不意打ちでパルトメストをやれたのは大きかった。俺一人では、二人の相手は厳しいだろうからな)

 

 息を整え、痛みを和らげた宗二は、義足のつま先を床にトントン、としてみたり、義手を手のひらに打ち付けて見たりした。

 

(やはり、あれを使わなければならないか)

 

 そして宗二はまた構える。しかし先程とは向きが逆。

 来る!と神助が感じる前に、瞬きを一回。瞼を閉じて、開く。そして宗二が目と鼻の先に。

 危険!と脳が信号を伝達する時には既に、左側頭部に強烈な一撃が。神助はバウンドすることなく吹き飛び、そのまま壁へと激突。

 ぱらぱらと崩れ落ちるコンクリート達。砂塵が舞う中に、よろよろと立ち上がる影が一つ。

 そこへ追撃とばかりに義手でのストレート。これが腹部にクリーンヒットし、壁は崩壊。

 数部屋突き抜けた先には、機動六課のフォワードとして再集結したスバル・ナカジマがトレーニングとして使っている部屋。

 偶然にもこの部屋に居たスバルは驚いた後に事態を察知したらしく。

 

「神助さん!?――それに、宗二さんまで!!」

 

 と叫びながら、一瞬にしてセットアップを完了させ臨戦態勢に。

 

「行くよ、マッハキャリバー!」

 

 と相棒であるデバイスに声を掛け、宗二に踏みつけにされた神助を助けようとする、が。目にも止まらぬ回し蹴りで側腹部を強打。身体は左にくの字に折れ、部屋の端まで吹き飛んだ。肋が砕ける音がして、スバルは血を吐きながら、悶絶する。打ち上げられた魚のように、ピクピクと痛みに耐えることしか出来なくなってしまったスバルに、まるでゴミでも見るかのような目を向ける。

 這いつくばった神助に視線を戻すと、そこに居るはずの神助がいなくなっていた。後ろへ行ったのかと回し蹴りを放つが空振り。どこにいると周りを見やるが、見当たるのは倒れたスバルだけ。

 宗二は鼻で息を吐き、義手を上に振り上げる。耳を覆いたくなるような激しい金属音が響き渡る。何故なら神助は頭上から攻撃を仕掛けたから。頭上とは、人間の絶対的な死角である。しかし、

 

「それほどの殺気。死角からの攻撃の意味が無いな」

 

 神助は目の前でスバルを戦闘不能にさせられた。それで怒らない訳などない。故に隠せなかった。故に防がれた。

 

「一つ聞きたい」

 

 弾かれ、着地した神助に話しかけるが返事は無く、帰ってきたのは鋭い視線と溢れんばかりの殺意のみ。それでも宗二は構わず続ける。

 

「何故、本気で戦わない。⋯⋯死にたいのか?」

 

「――お前は俺を殺す気なんだろ?だったら、聞く意味あるか?」

 

 はっ、と息を吐く。そして「確かにな」と呟くと、また構える。

 爆風とともに義手を撃ち込むが、二振りの刀で受け止められる。しかし宗二にはもう片方の腕がある。側腹部に腕をめり込ませた宗二は、痛みで動けなくなった神助に、肘部分から噴き出す魔力により加速された義手を左頬にぶつける。

 地面に叩きつけられた神助は、力無く刀を落とす。

 

 

 管理局の最強と化け物、機動六課のフォワードを倒した宗二は、デバイスで通信する。相手は管理局特殊捜査班に所属するアルベド・アラーシャだ。

 

「目標は達成した。俺をアイズの所へ戻してくれ。お前はどこかに身を隠せ」

 

「了解」

 

 宗二の目の前に穴が現れる。そこに入り、アイズの元へと戻る。

 

 

×  ×  ×

 

 

 騒動に駆け付けた者達によって一命は取り留めた三人だが、いずれも重症であり、神助に至っては、肩の骨がひび割れ、肋が八本砕け、顎の骨が割れ、歯が九本砕けてしまっている状態だ。

 

 

「そうか、よくやった。これで戦力は半減したと言っていい。管理局随一の医者はあの時に殺してあるから、治るのは当分先だろうな。これなら、計画を前倒しするのもありだ」

 

「いいなぁ。アイツらとヤリあったのぉ。羨ましいなぁ」

 

「そうか。なら決行はいつだ?混乱している今でもいいとは思うが?」

 

 マルコォの言葉を無視して、宗二が疑問をぶつける。しかしアイズはダメだと一刀する。

 

「混乱しようが、手薄になった訳じゃない。確実に、一人ずつ減らしていく。――マルコォ、次はお前の番だ。フェイト・ハラオウンと高町なのは、どちらでもいい。殺してこい」

 

 するとマルコォは、凶悪で残虐で残酷で残忍で非情で非道で外道な笑みを浮かべると、

 

「了かぁい。殺してくるよぉ、二人ともねぇ」

 

 ケタケタケタケタケタケタ――と笑い続ける。

 その笑いは、宗二にとっては虫唾が走る程に不快なものだった。

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