宗二の襲撃から半日。時間は午後十時を回ったところ。
辛うじて目を覚ましたのはパルトメストだ。数秒の間天上を見つめ、事を理解した後に、点滴を外して立ち上がる。
流石にまだダメージが残っているのか、よろよろとしてしまう。ドアに手を掛けたところで、声を掛けられた。
「どこへ行く気?」
声の方に振り向くとそこには、パルトメスト、神助、スバルの三人の世話をしていたフェイトが居た。
「何処って、決まってんだろ。アイツらのところだよ」
「今はまだ傷が治ってないんだから、安静にしないと」
「うるせぇな。あんな惨めなことされて、黙ってられるかよ」
「まるで子供だね。安静にしてて、じゃないと」
「なんだよ」
「足を切り落として移動出来ない様にします」
「物騒だな〜」
光の宿っていない目を向けられては、従うしかない。ベットにパルトメストが戻ったところで、フェイトは切ってあったリンゴを爪楊枝で刺し、パルトメストの口元に近づける。
「っ!な、なんだよ」
「ちょっとでも栄養付けて。ほら、あーん」
パルトメストは頬を赤らめて、恥ずかしそうにしながら口を開ける。サクッという音がした時だ。
病室のドアがノックされた。
「誰だろう?こんな時間に」
フェイトが扉に近づくと、ポタッポタッという水の滴る音がする。
なんだこの音はと疑問は抱いたが、疑問が晴れないので扉を開けることにした。
数センチ。扉が空いたその隙間から、にゅるりと手が入り込んできた。咄嗟に離れようとするが既に遅い。手を捕まれ、ゆっくりと扉が開く。
――そこには、凶悪で残酷で残虐で残忍で非情で非道で外道な笑みを浮かべた腸喰いがそこにいた。
腸喰い、マルコォは勢いよく鼻で息を吸うと、恍惚というような表情を浮かべた。
「いいよぉ。君、凄くいい。凄くいい臭いだよぉ。なんだか僕、興奮して来ちゃったよぉ」
ケタケタケタケタケタケタ――と笑うマルコォ。
危険と判断し、パルトメストはセットアップをして刀型のデバイスをマルコォの首元に当てる。
「その手を離せ」
「ああぁ?君はさぁ、嫌な臭いがするからさぁ、死んでくれないかなぁぁ!!?」
その言葉と共に、顎下から頭部を貫通せんとナイフを振り上げる。パルトメストはそれを下に叩き落とすと、フェイトを掴んでいる手を殴る。
関節でないところがくの字に折れた。マルコォは絶叫する。パルトメストはその隙に、フェイトを後ろに下がらせる。
絶叫し終えたマルコォは、恍惚と笑みを浮かべて、
「今のは凄く、気持ち良かったよぉぉ」
あろう事か興奮していた。
イカれた戦闘狂。彼とこんな狭い部屋で戦うのは得策ではないと判断し、フェイトを抱え窓を突き破り病室を出る。二人を追いかけるように飛び降りてきたマルコォは。
「女の方を渡してよぉ。そうしたらさぁ、君は楽に殺してあげるからぁ」
「するかばーか」
言ってパルトメストは身体中に電気を走らせる。この技はエレクトロソニック。パルトメストオリジナルの、身体強化魔法。魔力により上げた身体能力の内、電気により反応速度だけを、更に向上させる魔法。認識してから反応出来る人間の限界を、二つか三つ超える魔法。これが近接戦闘において、パルトメストの使う十八番である。
次いで、後ろにいたフェイトもセットアップする。
「手伝うよ、パル」
「はっ、久しぶりに聞いた気がするぜ。その愛称」
「渡してくれないならさぁ、君たちはさぁ、生きたまま、腸を引きずり出してあげるねぇ。それでぇ、女の方の腸はぁ、僕が食べであげるぅぅぅッ!」
滴る涎。それを飛び散らせながら、二人へと向かってくる。
まずパルトメストが行ったのは、インパクトシューターの発動。なのはのアクセルシューターとは違い、スピードこそ無いものの、その分威力は絶大。ただかすっただけで、象を数十メートル吹き飛ばすほどの威力を誇る。無論、スピードが欠点であるこの技は、相手に当てるよりも、相手に意識させるという使い方をする。
次にフェイトが行ったのは、バルディッシュを大きな剣に変化させること。そしてそれを正面に構え、いつでも迎撃出来るよう準備する。
その二人に、滴らせた涎を飛び散らせながら猪突猛進するマルコォ。パルトメストがインパクトシューターをマルコォへと放つ間際、マルコォは持っていたナイフを二つ、二人へと投げつけた。
そのナイフを、パルトメストは首だけを動かし避け、フェイトはバルディッシュで弾く、瞬間である。フェイトの鼻先までマルコォが近付いていた。
驚愕に目を見開くフェイトに、マルコォは凶悪に歪めた口元を開き、長く細い舌を出したかと思えば、フェイトの冷や汗を舐めたのだ。
――何を、している⋯⋯?
フェイトがマルコォの行動に対し、意味不明と困惑している時、パルトメストは右手首に付けていたブレスレット型のデバイスを展開させる。そのデバイスはガントレットとなり、パルトメストのインパクトシューターを連れて、マルコォの頬に容赦なくぶち込んだ。
辛うじて反応したマルコォだが、首を動かして避けようとするのがやっとであり、避けられなかったがために、横へ吹き飛び木に激突する。
追撃とばかりにパルトメストはマルコォの周囲に黄色の矢を幾つも出現させる。フェイトのフォトンランサーと似てはいるが、威力、スピード、数全てにおいてそれを遥かに上回る。
インフィニット・サンダーストーム。無限にも等しい雷の嵐がマルコォを襲う。それを見て笑ったマルコォは、口から火炎を吐き出した。
炎熱の魔力変換資質。デバイス無しでこの速さは脅威。人の技とは思えぬ行動に、二人は驚愕する。
全てを焼き尽くしたあと、マルコォは糸で吊られた人形のように立ち上がると、凶悪で残酷で残虐で残忍で非常で非道で外道な笑みを浮かべた。
「凄いねぇ。凄い強さだよ、君ぃ。楽しいなぁ、嬉しいなぁ。君みたいなのを殺せるなんて、凄く興奮するよぉ」
ケタケタと笑いだした。そして
ナイフを刀で弾いたパルトメストが疑問を口にした。
「そこはさっき、俺が折った筈だろ」
言われて左腕を見たマルコォは、ああこれぇ?と言いながらプルプルと腕を振って見せた。
「僕ってさぁ、人より自然治癒力が高いらしいんだよねぇ。だからさぁ、ほとんどの傷は、すぐに治っちゃうんだよねぇ」
ありえない。本当に人間なのか?二人に疑問が浮かぶ。そんな二人の表情を楽しむように、マルコォはまたケタケタと笑いだした。
そして横にゆらゆらと揺れながら、いつの間にか両手に持っていたナイフを横に振り出した。ナイフの軌跡、飛ぶ斬撃が二人を襲う。
二人は上と右に避け、フェイトは反撃と高速でマルコォへ接近する。雷鳴のような素早さを、マルコォの目は逃さず捉え続けた。迎撃しようとマルコォが動く前に、黄色の鎖が体を縛り上げる。パルトメストのバインドだ。フェイトの行動で咄嗟にサポートに移ったのだが、それは悪手であると数瞬後に気づく。
縛られているはずのマルコォの腕が、フェイトの腹部を突き刺した。
思わず口から血を吐いたフェイト。何が起こっているのか?バインドで腕は動かせないはず。なのになぜ。
その疑問はマルコォ自ら語られた。
「関節を外せば、腕って伸びるんだよねぇ。痛いんだけどぉ、それが逆に気持ちいいんだぁ」
狂人は炎でバインドを焼き切り、刺したフェイトを自分の元へ引き寄せ、肩の肉を噛みちぎった。
「あああああぁぁぁぁぁッッ!!!」
激痛に叫ぶ。痛みで涙すら出てきてしまう始末。苦しむフェイトを背後から抱き、顎を持って首を動かし顔を見る。そして恍惚の表情。
「いいよぉ。凄くいいよぉ。痛いよねぇ?苦しいよねぇ?だから叫んじゃったんだよねぇ。その悲鳴、凄く気持ちいいよぉ。――僕凄く、興奮して来ちゃったぁ」
フェイトの涙を舐めまわし、膨らみを鷲掴みして、ケタケタと笑う狂人。その狂人に殺意を持って肉薄するパルトメスト。
口に残ったフェイトの肉がボトッと落ちた時、パルトメストが刀を振り上げる。刀を振り上げた瞬間にフェイトをパルトメストの目の前に持ってきた。それで一瞬、動きが止まる。だから斬られた。
血が流れ落ち、バランスを失った刀は左に傾く。そこに追撃とマルコォはパルトメストの首を切り落とす。
その寸前で、何故か止まった。
何故だ?そう思いつつ後ろへ跳ぶ。斬られた右腕を足で押えつつ刀から引き離したパルトメストは、青ざめたマルコォの視線を辿る。そこに答えがあった。
先程飛び降りた窓に、修羅が居た。
全てを憎んだ、殺してやるという殺気を纏った修羅が、一振の刀を持って、飛び降りた。
鋭いその眼光に見つめられ、気圧されるようにフェイトを手放し後ずさる。
「な、な、な、なんなんだよ君はぁ。そういうのは、僕は嫌いなんだよぉぉぉ!!!」
今までとは違う、鋭くもなんともない動きで、修羅に向かうマルコォを、
「桜諸刃一刀流、
下から上へと振り上げられた刀が、真っ二つに斬った。
噴水のように空へ上がった血が、三人を打ち付ける。
傷口を抑えながら、フェイトは修羅に声をかける。
「――神助」
呼ばれた修羅は、フェイトを一瞥すると、星を見上げ、涙を流す。
「⋯⋯仇、取ったぞ。――はやて、皆」
あの事件で死んでしまった想い人に、そのせいで消えてしまったヴォルケンリッター達に、己の旨を、伝えた。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
守れなかった悔しさと、無くしてしまった悲しさで、修羅は吠えた。
そこで修羅は神助へと戻り、力尽きて倒れた。
そんな彼らの元に、白いバリアジャケットを着た女性が空から訪れる。
「っ!皆どうしたの!?」
その現場に驚きを隠せない様子の女性に、パルトメストが事の顛末を伝えた。すると、彼らの身を案じながらも、重大な事を告げた。
「さっき管理局に宗二君が現れて、レリックを三つ、盗って行っちゃった!」