桜諸刃流免許皆伝の天才剣士   作:反町龍騎

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七振目

 マルコォがフェイト達のいる病室に向かった少し後。アイズは戻ってきたばかりの宗二に告げた。

 

「宗二、お前も行け。ただし行くのは管理局古代遺物管理室だ」

 

「今からか?」

 

「少しだけ計画を前倒しする。本当なら、管理局を潰した後に持ち出すはずだったレリックを、二つか三つ盗ってこい」

 

「少しずつ集める、に変更って訳か」

 

「まぁ、こんな事は一度しか通用しないと思うがな」

 

「その後はどうする?」

 

「全部で六十三個あるからな。少しずつ敵を減らし、少しずつ奪う。――敵が少なくなれば、残り全てを頂く」

 

「分かった」

 

 頷いて宗二は、デバイスで通信を始めた。ワンコールで出たのは『渡航者』のレアスキルを持つアルベドだ。

 

「俺を管理局古代遺物管理室まで連れて行ってくれ」

 

「了解」

 

 目の前に現れた穴に、宗二は入っていく。

 

 

×  ×  ×

 

 

 古代遺物管理室では、今局員の交代の時間だ。

 

 お疲れ様〜と手を振ったのは、管理局が誇るエース・オブ・エースの一人、高町なのはだ。そして代わりとして入ってきたのが、ティアナ・ランスターだ。

 ティアナはお疲れ様ですとお辞儀をすると、ふぅと息を吐き、そばにある椅子に腰をかけた。ティアナは天を仰ぎ、疲れた様に目頭を押さえる。日中管理局執務官としての仕事をこなした上、夜は機動六課としての仕事。フェイトはこんな事をしていたのかと、改めて彼女の凄さを体感させられる。

 

(ギンガさんにエリオ、キャロがまだ意識不明の中、人手が足りないこの状況でスバル、神助、パルトメストさんまで襲われた。計画的犯行。目的はレリックで間違いないと思うけど、ここまで大胆に行うなんて⋯⋯)

 

 そんな風に、彼らの行動を分析していた。

 

(これから何をするのか⋯⋯。それが分かればもっと簡単になるだろうけど、アルベドさんが裏切って、向こう側に付いてしまった。あの人のレアスキルは優秀すぎる。それで同時多発的に行動を起こされた場合、いくら管理局でも対処しきれない。それに加えて、アイズ・グランフリート、腸喰い、それに宗二さんまで⋯⋯。アイズ・グランフリートや腸喰いは言わずもがなの極悪非道の犯罪者。そして宗二さんは、なのはさんやフェイトさんに、一対一で勝つことが出来る実力。さすがになのはさんレベルの人が二人以上で相手取れば勝てるだろうけど、右腕左脚の義手義足が厄介。クロノさんも言ってたけど、AMFの機能を付けている。これは私が本人から聞いている事。――つまり宗二さんは、触れるだけでブレイカーすら打ち消してしまうという事。昔は耐えるという手段しか取れなかったのに⋯⋯)

 

「ほんと厄介」

 

「お前一人か」

 

「ッ!!!」

 

 ティアナが思考の海に沈んでいると、不意に声が聞こえた。ここにはティアナ一人しかいないというのに。

 声から距離を取るために素早く椅子から飛び退き、声の方へ体を向けてクロスミラージュを構える。声の主を見ると、目を見開いて動揺した。

 なぜならそれは機動六課の教導官であり、ティアナのみならず、数々の管理局の英雄達を救ってきた人物、小鳥遊宗二その人なのだから。

 

「――な、なんであなたがここに⋯⋯ッ!」

 

「レリックを取りに来た。⋯⋯やはりお前一人か」

 

 ティアナの質問を冷静に返し、自分の問いを自分で解決させる。

 

「そんな事言われて、はいそうですかって渡すと思いますか!」

 

「思うよ。お前じゃ俺には絶対に勝てない。だからせめて、怪我をしないような対応をするしかない」

 

「そんな事、絶対にありえませんから!」

 

 言ってティアナはオレンジ色の球体をいくつも作り出した。完全な臨戦態勢。少しでも動けばすぐに攻撃するという意思の表れ。

 そのティアナに対し、宗二は左手を動かした。これは攻撃の為の動作ではない。

 

「なんですか、それは⋯⋯」

 

 宗二は差し伸べる様に手を出していた。

 

「こっちに来い、ティアナ」

 

「な、なにを言ってるんですか――ッ!」

 

 宗二がしたのは勧誘。それも管理局の執務官に対してだ。警察に犯罪に手を貸してほしいと言っているようなもの。

 

「俺は本気だぞ、ティアナ。お前がこちらに来れば、全てが上手くいく。それに、俺はお前が欲しい」

 

「――ッッッッッ!!!!」

 

 お前が欲しい。こんな状況でも、その言葉は告白や求婚のそれに等しい。

 なぜ今ここでなのか。その言葉を、宗二の管理局時代にどれほど言って欲しいと願った事だろうか。こんなタイミングでそれを言われて、よろしくお願いしますと手を取れるはずもない。

 かつての思い人とはいえど、今は憎き犯罪者なのだから。

 

「そ、そんな事言われても、あんたの仲間になるぐらいなら、死んだほうがマシよッ!」

 

 宗二の提案を、完全に拒否したティアナは、彼に向かい先ほど出したオレンジの球体、クロスファイアシュートを打ち込む。

 無限。そう思えるほどの数の暴力。球体達はまだ宗二から三十メートル以上も離れているというのに、もうティアナの姿が見えなくなっていた。そんな数の球体を相手に、宗二が行ったのは。

 義手を横に一閃。――それだけで、あれだけあった球体達は全て消えた。

 

「なッ!」

 

 驚愕である。当たり前の反応だろう。あの数を一蹴されるなど、思っても見なかったのだから。

 力の差など歴然、そう言われている気がした。だからティアナは唇を噛みしめる。そんなティアナを尻目にレリックを取りに行こうとする。

 

「――ッ!待ちなさいッ!」

 

 宗二の背中にデバイスを向け、収束魔法を放とうとする。しかしそれは、一瞬にも満たない速度で詰め寄った宗二によって阻止される。ティアナの細い首を掴んだ宗二は、冷めた目を向け。

 

「無駄な事すんなよ、させんなよ」

 

 首を掴まれ息がしずらい状況で、それでも敵意の眼差しを向けるティアナ。しかし何も出来ないがために悔しい思いをするのみだ。

 

 不意に、頬が濡れた。涙がこぼれたのだ。自分の無力さ故か、想い人のこの仕打ちに対してか、ティアナ本人にも分からない。

 震える唇で、言葉を紡ぐ。

 

「どうして――、こんな事……ッ!」

 

 問いに答えることは無く、ただじっとティアナを見つめていた。無言に唇を噛み締めたティアナは、無理やり腕を動かし魔力の弾を発射した。

 しかしそれは義手により防がれる。

 

「あなたは、そうやって何も言わない……。言わなきゃ伝わらないのに、1人じゃ出来ない事があるのに。――あなたが教えてくれたこと、あなたは何一つやってない!!!」

 

「……」

 

「そうやって、ずっと黙ったまま……。だけど、あなたが私を、あの時みたいに抱きしめてくれたら。そうしたら私は多分、他の何を捨ててでもあなたと生きていけると思う。だから、さっきの言葉が本当なら、私を……」

 

 涙を零しながら、懸命に訴える。自首では無い。本来、執務官にあってはならない言動である。しかしながら、ティアナにとってはそれが幸せなのだろうか。たとえ敵対する相手であったとしても、想い人であるなら立場など投げ捨てると。

 泣き震えるティアナの首から手を離すと、ティアナは首を抑えて咳き込み出す。そのティアナに宗二は。

 

「……ティアナ。俺は――、お前が心底嫌いになったよ」

 

 吐き捨てるようなその言葉に、ティアナは絶望と目を見開いた。

 そのティアナに見向きもせずにレリックへと歩き出す。

 

「――待ってッ!」

 

 叫ぶその声は、宗二の耳には届かなくて。無我夢中で立ち上がり走り出した。腰に飛びつき必死に泣き叫ぶ。まるで別れ際のカップルのように。

 それを振り払うと、開け、と一言。

 それから穴が現れ、そこに入ろうとした時だ。

 

「アクセルシューター、シュート!」

 

 桜色の球体が数え切れぬ程迫ってきた。しかし義手を一閃し消し飛ばす。

 球体を放った本人――高町なのはは予想の範囲内とチャージしていた魔法を放つ。

 

「ディバインバスター!」

 

 極太の砲撃が宗二に迫るが、義手で殴り消し去った。そのまま後ろに飛んで穴に入る。

 

「ティアナ、大丈夫!?」

 

 倒れたティアナに駆け寄るなのは。涙に鼻水、嗚咽と外傷は無いに等しいはずなのに、とんでもなく酷い状態になっているティアナに、戦慄すら覚えてしまう。

 宗二はティアナにどんな事をしでかしたのかと思考を巡らした瞬間に、レリックを思い出したなのはは後ろを振り向いた。

 レリックを封印していたアタッシュケースが無くなっていた。数は2、3個程であるが、やられてしまった。

 とりあえず医療班とクロノに連絡を入れたなのはは、フェイトがいる病棟へと飛行した。

 

‪✕‬ ‪✕‬ ‪✕‬

 

 病棟の中庭でなのはが目にしたのは、肩がちぎれ横たわるフェイト。右腕の無くなったパルトメスト。気を失っている様子の神助。真っ二つに切り裂かれた腸喰い。

 その状況を見てどうしたのかと叫び、パルトメストから事情を聞いたなのはは、宗二がレリックを持って行ってしまった事を告げる。

 

 その後古代遺物管理室に駆けつけたクロノによって、ある程度無事な人員を集めた作戦会議が始まる。

 

 

‪✕‬ ‪✕‬ ‪✕‬

 

「気持悪ぃ――ッ!」

 

 戻ってくるなり壁を殴り壊す宗二を一瞥したアイズは。

 

「マルコォ。お前の分身、弱いな」

 

「まあねぇ。僕の力の、3分の1もないからねぇ」

 

 神助に一刀両断されたはずのマルコォが、ニタニタと笑みを浮かべていた。

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