俺は男だ!!!
女扱いすんな!!!!!

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<怪器>、それは異能の力を持つアイテム。
形や能力は様々であり、所持には役所への登録が必要。
しかし、不認可怪器による犯罪が多発する。
そんな事件に対処するために設立された、それが公安怪器取締課である。


俺の後輩はしょうもねぇ。

とある廃工場。

そこに1人の男が立てこもっていた。

 

「はぁ....畜生、まさか嗅ぎつけられるとは.....。痛てぇ.....」

 

「んっ!んむぅ!!!」

 

男の腕の中には轡を噛まされて縛られた女性が一人。

すると、廃工場の中で二人の足音が聞こえてくる。

一人はほわほわとした雰囲気の癖毛の男、そしてもう一人は身動きが取りやすそうな軽装のショートカットの女。

 

癖毛の男は一歩前に出ると、銃を構える。

 

「公安怪器取締課だ。あなたはもう包囲されている。大人しく投降しなさい!!」

 

銃を構える癖毛の男。

しかし、男はにやりと笑みを浮かべる。

 

「投降なんてしねぇよ.....、へへっ、コイツがどうなってもいいのかよ?」

 

「むぅー!!!!!」

 

縛られた女にナイフを突きつける。

すると女はナイフを突きつけられたことの恐怖から必死に身を捩りながら声を上げる。

 

「や、やめろ!!そんなことしてなんになる!!その人には罪はない!!!」

 

銃を構えるも、その様に動揺する癖毛の男。

それを見て、にやける男。

 

「そうだよなぁ!!でもこのままじゃその罪の無い市民が死んじまうぜェ~、おらっ!逃走用の車両を揃えるように指示を出せ!!俺は本気だぞ!!!へっ、アンタの持っているその銃じゃ俺を仕留めることはできねぇ....さっき分かったろ!?このままじゃ悪戯に市民を殺して終わるんじゃねぇかぁ?アァ!?兄ちゃんよぉ!!」

 

いい気になって喚く男。

それに対して何も言えなくなっている癖毛の男。

腰元の通信機に手を伸ばした、その瞬間。

その手を傍らの女が強く握る。

握られた手首が痛くなるほどの怪力。

 

見ると、彼女は癖毛の男を睨みつけている。

 

「...バカか、おめぇ.....。」

 

「せ、先輩......」

 

癖毛の男が言葉を漏らした瞬間、彼を邪魔と言わんばかりに後ろに押し出す。

 

「ハッ、なんだ?今度は姉ちゃんかよ?悪いが女に頼まれようが俺は言葉を翻すつもりはねェ!!おらっ!!さっさと車を用意しろ!!!ぶっ殺すぞ!!!!」

 

「ンンッ!!!ンン~~~~!!!!」

 

叫ぶ男に、唸る女。

しかし、女は目を閉じると声を発した。

 

「唯我独尊....起動。」

 

<承認、起動準備...完了。高速装填....完了。>

 

右手に付けている機械的なコテのような物が光り、煙を発する。

それを見た瞬間、癖毛の男は驚き、口を開く。

 

「せ、先輩!まずいですよ!!人質が....」

 

「うるせぇ。テメェは何も出来ないんだから黙ってろ。」

 

そう睨み付けると癖毛の男は委縮したのか黙ってしまう。

それを見て、立てこもり犯の男は声を震わせながら声を発する。

 

「な、何してんだテメェ!!コイツが見えねぇのかよ!!お、俺は本気だぞ!!マジで殺すからな!!!」

 

「んぅぅぅぅ!!!!ぅぅううううう!!!!」

 

人質の女は訴えかけるように唸り声を上げる。

しかしそれすらも聞いてないかのように表情を変えずに女は口を開く。

 

「テメェは不認可怪器を不当に所持及びに販売した罪、管理委員会のPCに対してハッキングを行った罪。それ以外にも余罪がある。だから....強制執行許可が出てんだよ。」

 

その言葉を聞いて、顔を青くする男。

強制執行許可。

それは怪器犯罪においてのみ発行される許可令状。

それは怪器犯罪における凶悪犯の捜査においてのみ、相手を捜査中に殺害しても良いという旨の令状である。

怪器の中には初見で止めねばならないほど重篤で手の付けられない能力を持つ物があり、そのような怪器によって捜査が滅茶苦茶になり、迷宮入りした事例が立て続いたことで制定された物である。

 

「そ、そんな...だが、俺は人質を......」

 

「一人の市民の犠牲で数千、数万もの市民の安全が守れるなら一人くらい誤差なんだよ。」

 

そう言って腰を低く落として拳を構える。

そして言葉を一つ漏らした。

 

「気炎万丈.....。」

 

<了解、放出準備完了。>

 

籠手からエネルギーが溢れ出し、天へと昇っていく。

それを見て、震える男。

そして彼女の言葉を聞いて絶望する女性。

 

女は震える男を見て、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「それによぉ...ムカつくんだよな。テメェら犯罪者には隅でコソコソ怯えてるのが似合ってるぜ。ってわけで...おっ死んじまえよ!!!」

 

<覇気放出>

 

拳で空を殴りつける。

すると拳型のオーラのような物が凄い速さで飛んでいく。

 

「ひっ、ひっ!俺は、まだ死にたくねぇ!!俺は...こんな所でぇ!!」

 

「んむっふぅ!!!!?」

 

人質の女を前に蹴飛ばして逃げ出す男。

そしてポケットからボタンのような物を出して、ボタンを押す。

すると透明な被膜のような物が彼の周りに現れる。

 

「あれは!」

 

癖毛の男が声を出す。

逃走中に彼の銃弾を防いだ力場。

奴が持ち歩いている不正な怪器だ。

 

女の放った覇気は女性の砲口に飛んでいく途中で軌道を変えて、男の方へと向かっていく。

そして男の周囲の力場に阻まれた。

 

「はっ...はっ......」

 

息も絶え絶えになりながらも笑みを浮かべる男。

奴の攻撃を防いだと確信した、次の瞬間。

女が口を開いた。

 

「...てめぇの怪器はネタが割れてんだよ。これで終いだ。」

 

その言葉と同時に、覇気は錐のような形状に変化する。

そして力場を貫くと彼の身体を当たる。

瞬間、炎上する。

 

燃え上がる男を遠巻きに見ながら、彼女は一言呟いた。

 

「デリート、完了....ってな。」

 

 

 

 

 

 

くだらねぇ案件だった。

署に戻ってコーヒーを飲みながら今回の事件について思う。

俺一人であればこんな案件さっさと終わった。

なのにあそこまで手間がかかったのは何故か?

それは俺一人じゃなかったことが原因として挙げられる。

あの新人が傍に居なければ....。

 

そう思っていると、更衣室から帰ってきたアイツがこちらに駆け寄ってくる。

 

「せ、先輩...さっきはありがとうございまっ...いだっ!な、なにするんですか!!?」

 

癖毛の男が神妙な顔でお礼を言おうとするが、俺はそいつをヘッドロックする。

コイツのせいで余計な手間をかけさせたってのにノコノコよくこちらに来れるものだな。

恨みも込めて強めにヘッドロックを掛けた。

 

「テメェがあの時躊躇ったろうが.....テメェの銃ならあの力場だって突破可能だったろ。....余計な手間かけさせやがって.....!!」

 

「す、すいません!で、でも人質が.......」

 

奴はなおも言い訳を言おうとする。

コイツ、舐めてんのか?

 

「人質がどーとか、綺麗言言いやがってよぉ....おめぇはただ覚悟がねェだけだろうが。どんな犠牲を払い、汚名を負ってでも社会全体の安寧を守るっていう覚悟がなぁ....。だからテメェはしょうもないんだよ分かるか?」

 

「覚悟......あ、あの...そのっ、先輩.....」

 

俺に怒鳴られて委縮しながらも、言葉をリピートする。

ウジウジしやがって....てかコイツ頬染めてんな.....

 

「ッ、テメェまた照れてやがるな!!人が説教中によぉ!!!!」

 

頭頂部に拳をぐりぐりとする。

全力でやっているのもあって、腕の中でソイツの体が跳ねた。

 

「あ”っ...あ”あ”!!...す、すいません先輩!や、やめてください!あ、頭が割れて.....」

 

「出来の悪い脳味噌してやがるからだろうが、この玉無し野郎!!前にも言ったよなぁ!?俺は本当は男なんだよ!だから女扱いするなんて舐めた真似絶対許さねぇってよぉ!!!!あぁ!?それがなんだ!?任務中面倒掛けて、その説教中に欲情しやがってよぉエロ餓鬼が!!!殺すぞマジで!!!」

 

「よ、欲情なんか...あ”あ”あ”し、死ぬッ”!しんでしまいますからぁ!!!!」

 

悲痛な声を上げる馬鹿。

はっ、いい気味だ。

このまま頭が凹むまでやってやるからな.....。

 

「六条院マコト、それは教育とは言えませんよ。教育係として体罰などはあるまじき行いであると以前言ったはずです。今すぐ止めなさい。」

 

その瞬間、冷水のような女の声が俺達にかけられた。

横を見ると眼鏡をかけた女が俺にやめるように言ってくる。

俺の上司であり、この怪器取締課の課長。

至誠院結乃。

 

俺は、咄嗟に彼をロックしていた腕を放す。

 

「へーへー、すいませんねぇ。向いていない役割向けられてこっちもテンパっていました。」

 

「...任命された以上、教育係として相応しい振る舞いをしなさい。次はありませんよ。」

 

彼女は睨み付けながらこちらに言ってくる。

はぁ....面倒臭い。

そう思いながらも、返答する。

 

「以後気を付けますよ。彼方、悪かったな。...ただ説教中は真面目に聞け。良いな?」

 

「い、いえっ、お、俺が悪いんで...以後気を付けます!!」

 

奴は俺に対してまるでそう言ってくる。

...ったく、返事は良いんだけどな。

 

溜息を吐くと、部屋を出る。

 

すると、廊下でばったりと見知った顔に出会った。

白衣に身を包んだ女。

坂本恵梨香。

怪器取締課において押収した怪器の分析などを請け負っているエンジニアだ。

ソイツは俺を見ると、手を挙げる。

 

「よっ!なんか疲れた様子じゃん。どしたの?....もしかしてまた後輩クン?」

 

「あぁ.....。教育なんかやっぱ俺には向いてねぇ.....」

 

この教育期間中、奴がバディになってからずっと考えていたことを吐露する。

これも三度目くらいか。

すると彼女の対応も慣れてもので、こちらに飲み物を飲む様なジェスチャーをする。

 

「話なら聞くよ?この後飲みにでも行く?」

 

「....あぁ、頼む。」

 

 

 

「アイツ、ウジウジしててマジムカつくんだわ。男なんだろ!こちとら男なのに女だぞ!!境遇交換しろっ!!!マジ、アイツしょうもねぇ!!!」

 

居酒屋。

ひたすらモヒートを呷っていると段々理性の枷が外れ、愚痴が溢れるように出てくる。

そんな俺を苦笑いをしながら見てくる恵梨香。

 

「溜まってたんだね.....、でもさ、あの土方彼方クンだっけ?偶に資料室でよく見かけるとけど色々頑張ってるみたいじゃん。やっぱさ、新人なんだから大目に見てあげる大らかさも必要なんじゃない?」

 

「...アイツ、俺のこと女扱いしたもん。」

 

そう嗜めてくる恵梨香。

俺は別にそんなこと言われたい為にここに来たんじゃない!

そう思うと、拗ねたような口調になってしまった。

 

「それもほら、正直アンタ見た目めっちゃ可愛いじゃん。胸も....デカいし?それでそっちからヘッドロックしといてそりゃ流石にないわぁ。ちょっと相手してやったら?」

 

揶揄っているのかいやらしい笑みを浮かべる恵梨香。

他人事だと思って.....

 

「俺は、俺を女にした奴をぶっ飛ばす為に怪器取締課に在籍している。そんなまともな女みたいなことやるわけないだろ。」

 

「そりゃそうだろうねぇ、ハハハ.....」

 

恵梨香はビールを流し込む。

そして全て飲み切ると、彼女は再度口を開く。

 

「でも結局の所さ、その新人クンとは相性の問題でしょう?マコトくん、体育会系だから新人クンみたいな文化系な子とは合わないんでしょ。しきりにウジウジしてるとかなよなよしてるとかずっと同じこと言ってるんだし。」

 

「....そうかもしれん。アイツもアイツなりによくやってはいるけど....でも、なんか気に喰わないんだよな。目に付くっていうか....。」

 

俺はいつの間にかそう口にしていた。

どうやら酒が入りすぎたのかもしれない。

彼女は笑顔を浮かべて、口を開いた。

 

「まぁ教習機関はあと一週間。それが経ってしまえば、あの新人クンとのバディも解消されるんだし、それまでの辛抱じゃない?」

 

「まぁ...そうだな。」

 

そうだ。

奴の教育係になるのもあと一週間まで。

それが経ってしまえばバディは解消。

いちいち未熟な新人に手を焼かされることもないのだ。

そう思うと、気にしているのも馬鹿らしくなった。

 

「モヒートおかわりお願いします!」

 

「ちょっと飲みすぎじゃない.....?」

 

そうして恵梨香との夜は終わっていった。

 

 

 

 

時刻は夜。

容疑者の一人を追い込んでいた。

容疑者は小太りの20代くらい。

10代前半から20代後半までの女性をターゲットとして性的暴行を加えた男。

またその時の女性達は一様にその時は自分から奴との行為を何故か自分から精力的に行っていたと言って泣いたり、吐いたりする有様。

 

性犯罪である為、強制執行許可は出ていないが早く捕まえなければいけないのは変わりない。

ただ今回の事件はいつもより早く終わりそうだ。

それもそのはず、あの新人が隣いないからである。

最近弛んでいると言ってビルの外に控えさせたのだ。

 

まぁ奴がこちらの状況が分かるように盗聴器に使うような機器を俺が付ける羽目になっているのだが、まぁ手を焼く奴が居ないのだから良しとしておくか。

そして奴の部屋の前に来る。

 

扉を蹴破ると、そこには怖気の走る光景が目に入る。

底はまるで等身大フィギュアのように女性達がコスプレされたまま様々な表情で固定されている。

そしてそんな部屋の奥で小学生くらいの女児を嘗め回す小太りのオタク。

俺が最も嫌悪するデブオタの部類の男。

つい顔を顰めてしまう。

 

すると、こちらに目を向けると男はねちゃりと口を開く。

 

「おっ、ず、随分と可愛らしい女の子じゃないか。ぼ、僕、嗅ぎつけられたって仲間から聞いていたからどんなのが来るのかと思ってたけど...ふひひ.....」

 

「テメェは数多犯した婦女暴行と登録されていない不正な怪器の使用によって逮捕令状が出ている。署まで来てもらうぞ....。唯我独尊、起動。」

 

<承認、起動準備...完了。高速装填....完了。>

 

相手がどのような怪器を使用しているのか具体的な詳細は分からない。

だからこそ、即時対応できるように俺の怪器、『唯我独尊』を起動させておく。

 

「おぉう、怖いねぇ....でも、そう言うじゃじゃ馬な子も嫌いじゃないよぉ。こう手に入れた時のことを考えると....じゅる、じゅるる....そそるよねぇ.....」

 

男は嫌らしく舌なめずりする。

コイツ、マジで気持ち悪い。

生理的嫌悪から、コイツの面を拝むのが嫌になってくる。

だから、二度とみられない面にしてやるッ!!!

 

そう思い腰を沈める。

コイツは殺せない。

許可が出ていないから。

そして能力が分からない。

だからこそ、能力が分かる前に殴り飛ばしてやる。

使うのは気炎万丈ではなく、赤手空拳。

燃やすのではなく、覇気を込めた拳でぶっ飛ばす。

 

「赤手空拳!」

 

<了解。該当箇所、覇気充填....完了。>

 

その音声と共に籠手が紅く光る。

これでこのまま殴る。

相手に隙を与えない。

そう思って踏み込もうとした瞬間、前を見据えた。

それがまずかった。

 

不意に奴がスマホの液晶をこちらに見せる。

画面からはピンク色の怪しい光を放ちながらグルグルと模様が蠢いていた。

それを見た瞬間、身体が何故か主導権を失ったように動けなくなる。

口すらもきけない。

どうなって.....これが、奴の使う怪器!?

 

攻撃する為に踏み込んだ姿勢で固まる俺を見て、ニチャァと気持ちの悪い笑みを浮かべる。

まるで目論見が成功したかのような気持ちの悪い笑み。

怖気が走る。

それは今まで男に女として見られた時の感覚。

全身を嘗め回されたかのような嫌悪感。

 

「ふひひ...いいねその手が早い所。普通は減点対象だけど、その勝気な性格と引き締まった体に母性を感じる大きなおっぱい。それなのにボーイッシュなショートカットのアンバランスさが相まって僕の琴線にガンガン触れるよぉ!君は、満点だぁ!」

 

そう言って身体を撫で回し、胸や尻を揉みだす。

きっもぉ....本当気持ち悪い、触んな!しね!!

嫌悪感を感じていると、彼はスマホを指差す。

 

「これは僕の最高の怪器でね。これを使えば色んな催眠が使えるんだよぉ?それにしても...さっきのロリを一時的に動きを止める為に掛けた催眠。まだ消さなくてよかった。こうしてやんちゃな子猫ちゃんも捕まえられたしね?あっ、安心して?10分経てば動けるようになるからねぇ?」

 

そう言うと男は俺の脇を嗅ぎ始める。

コイツマジでハイエンドにキモいな。

こんなキモイ奴未だかつて見たことねぇ....

 

てか催眠ってそういうキモイAVかよ。

キモオタはそれに見合った怪器に巡り合うんだな!

そう心の中で虚勢を張るも、内心での不安と恐怖は拭えない。

催眠と聞けば、嫌な予感が頭をよぎる。

頼む...やめろ、やめてくれ.....。

 

しかし、現実は非情。

 

男は大声を上げる。

 

「よーし!きーめた!君は僕の彼女にしよーっと!」

 

....あぁ?

コイツ、何言って.....

 

「うんうん、ちょうどこういう感じのドエロイ彼女ほちかったんだよねぇ~。こういう子をあまあまママにしようかなぁ。ねえぇママァ?ぼくちんおちんちんちゅこちゅこちてほちぃでちゅ~なんて。」

 

ほんっとキモイ。

しかし、それと同時にヤバい。

奴にはそれを行う力がある。

被害者の女性が自分から積極的にコイツとの行為に走った理由。

それはコイツの催眠でしかない。

コイツは怪器で己の下劣な欲求を満たしている。

そして催眠だなんて使いようによってはとても危険な物だ。

強制執行許可物だろう。

そして、俺もその歯牙にかけられようとしている。

その現実が俺を戦慄させた。

 

くそ、俺は男だろ!

なにこんなキモイデブに怯えてるんだ。

腕っぷしだって俺の方が強い筈。

それなのに、身体を弄られ、貞操を危機にさらされて怯えるなんて....まるで.....

 

「じゃあ、いくよ~。この怪器は便利だけど複雑でねぇ。同人誌みたいに楽々に催眠できるわけじゃないだぁ。」

 

....女みたいじゃないか!

心中で怯える俺。

それはさながらもっともなりたくなかった女そのもの。

奴はスマホを俺に見せる。

スマホはさっきとは違う模様が渦巻いている。

 

「ほら、ひよことかの刷り込みあるだろう?そういう感じの掛け方しかできないんだよ。10秒後、君は見た人をとても好きになるよ。まっ、ここには僕しかいないから僕の事好きになるんだけどね?いやー照れるな~。」

 

白々しくそう話す男。

その間も、スマホを見させられてる。

頭の中でなにかが渦巻く。

やばい....俺の危惧が現実に....

マジで女に....しかもこんな下衆デブのカキタレに......

コイツのママというおぞましい存在にされてしまう...。

嫌だ....嫌だ!!

 

「5...4....」

 

自身の追手を自分の思い通りの人形出来る。

そのことからデブは勝ち誇ったように笑う。

俺はただ自分が変わってしまい、この男のカキタレになるのに嫌悪感と恐怖を感じることしかできない。

 

そんな中、ふと発砲音が一度響く。

 

「あっづ....あぁぁぁ!!!!」

 

スマホが落ちてデブが腕を抱えてのたうち回る。

しかし、俺の目には.....。

 

「...大丈夫ですか?先輩。」

 

自分が遠ざけたはずの後輩、土方彼方。

アイツが、銃を構えていた。

俺の方の状況が確認できるように盗聴器を付けていた。

だから、来てくれたって言うのか....。

そう思うと何故か、アイツの顔から目が離せない。

 

お、おい....まさかこれって......

 

思い出すのはあの時のデブの言葉。

 

『10秒後、君は見た人をとても好きになるよ。』

 

もしかして、いやそんなわけ.....。

 

「僕の....僕の腕が!!っづぅ...くっそ....好き勝手やって....催眠さえあれば、僕は誰にも負けないんだ!いい気になるなよっ!!!」

 

そう言って彼は歯を食いしばるとスマホを手に取る。

しかしその顔はすぐに青くなる。

 

「怪器が....僕の力が......!!っうぅ!!」

 

すると奴は背後の彼方を一度見ると、俺の後ろに隠れる。

そして近くの棚に手を伸ばすと万年筆を俺の首元に突きつけた。

そして声を張り上げた。

 

「う、撃つな!撃つと....この子に当たるぞ!!」

 

そう言うと、動きを止める彼方。

それを見て、俺の顔の横で笑みを浮かべる男。

 

「へっ、へへへ....こ、この子は同僚なんだろ!?な、なら....当たるかもしれない銃なんか打っても良いのかな......ひ、ひひひ......ま、万年筆でも出来ることは沢山あるんだよぉ.....」

 

まずい。

あの時のことを思い出す。

アイツは少しでも犯人以外の人に当たる可能性があると途端に銃が撃てなくなる。

なよなよして甘ちょっろい。

見れば銃を持つ手が震えている。

やっぱり....。

 

ま、まぁ?...い、今なら別にそこも良い所って思....ってオイ!

どうした....そんなことさっきまで思ってなかったろ!!?

やっぱり催眠が効いてる....。

 

ちょうど10秒経った時に、アイツの事を見てしまったんだ。

よ、よりにもよってあの後輩が相手なんて.....!!

い、いやでも横のキモデブ相手よりマシだし....あぁぁぁ!!もう!!!

 

とにかく、これで状況は膠着してしまった。

だけど10分経てば俺は動けるようになる。

どちらにせよコイツは......

 

「う、うひひひ....そ、そうだ。大人しくしろよ....」

 

男は手の震えている彼方を見て笑みを浮かべる。

まぁ良い。

そうやっていい気になっていろ。

時間さえ経過すれば....。

そう思った瞬間、彼方は銃を強く握りしめて口を開く。

 

「覚悟とは...どんな犠牲を払い、汚名を負ってでも社会全体の安寧を守るっていう心意気だ。」

 

「....は?急に何言ってんだよお前。」

 

横でデブがぽかんとする。

急にそんなこと言い出したんじゃその反応も無理はない。

でも、その言葉を俺は知っている。

厳密には言えば、俺が言った言葉....。

 

「貴方が教えてくれたことです、先輩。先輩は俺にとって憧れです。強くてブレなくて、俺にない物を沢山持っている。」

 

「お、おい....なに言ってんだよお前!ぼ、僕は今彼女を人質にしてるんだぞ!!わからないのか!!!」

 

彼方の不穏な様子を見て、デブが声を発する。

デブは怯えている。

目の前の彼方の目を見て。

 

その目はまっすぐこちらを見据えている。

漢の目。

いつも見ている頼りないアイツとは思えない。

 

「先輩との教習はもうすぐで終わり。だから、アナタに教わったことを全て....俺は忘れない。」

 

そう言って持っている銃、リボルバーから玉を取り出すと3発抜き取り、残りを装填する。

そしてシリンダーを回す。

 

「今、俺は弾を入れて適当に回した。ロシアンルーレットと同じだ。....確率はこちらの方が断然高いが。でも、これで先輩に当ててしまって、運が悪かったと割り切れる。」

 

そしてそれをそのまままた構える。

 

「俺は、今覚悟した。例え先輩を撃ってでも、目の前の邪悪を撃つと。...教官殺しの汚名を負ってでも世の中の秩序を守って見せると!」

 

「う、嘘だろ!冗談だろ!!う、撃てない癖に!脅そうたって....ひぃ!!」

 

彼は容赦なくトリガーを引く。

カチリと音だけが響く。

不発だ。

 

デブは引き攣った声を出す。

その声は震えている。

目の前の男がはったりでもなんでもなく、撃とうとした事実がデブを追い立てる。

 

そして俺も、戸惑っていた。

どういうつもりだ....まだ強制執行許可は出ていないはずだ。

デブを殺せないはず。

それに俺を殺してでも云々とか.....

 

も、もしかして....俺にいびられたから復讐するつもりか?

お、俺が嫌いだから.....

そう一瞬悲観的になる。

するとなぜだか悲しい気持ちになってしまう。

まるでそれは長年思っていた相手に嫌われていたことを知った生娘のよう....ってそういう問題じゃない!

ダメだ...催眠のせいで調子が狂う!

 

そう思っていると、奴が一瞬俺を見てウインクした。

な、なんだよ急に.....、そ、そんなことされたってかっこよくなんか....

いや、違うな。

アイツは俺に何か伝えようとしている。

...まさか。

 

「い、いぃぃ...ひ、ひひひ.....も、もうおしまいだ.....こ、こうなったら....ぼ、僕の証を顔に刻んでやる....。ど、どうせ僕たち殺されるかもしれないんだ....いいだろ!!僕の物になれよぉ!!!」

 

追い詰められた末にイカれてしまったのかそう叫ぶと、万年筆を振り上げる。

コイツ、俺の顔に突き立てるつもりか....!!!

その瞬間、カチカチカチとトリガーを連続で引く。

すると2発の弾丸が飛び出す。

 

デブは俺を盾にして、腕だけ出して万年筆を俺の顔にぶっ刺そうとする。

真っ直ぐ俺に迫る弾丸。

でも、俺は別にさっきのような戸惑い、ましてや恐れなど毛ほどもなかった。

アイツの意図が分かったから。

弾丸は俺に迫りながらもまるで蛇のようにグネグネと軌道を変える。

そして.....。

 

「っつぅぁあああああ!!!!!」

 

万年筆を持っているデブの腕を撃ち抜いた。

そして、もう一つの弾丸は下に潜り込むように動き、そのままデブの太腿を撃ち抜く。

アイツの持っている銃も怪器だ。

能力は弾丸の軌道を意のままに変える。

覚悟さえできればこいつは化ける、俺はそう思った。

やるじゃねぇか、見直した。

 

デブは足の痛みに耐えかねてまた倒れた。

すると、彼方は駆け寄るとデブを組み敷く。

 

「がぁぁあ触るなぁ!!!僕に触れて良いのはうら若い女だけと一番....ぐふっ!!」

 

そのまま銃のグリップで殴りつける。

するとデブはその内声を出さなくなった。

そして、かちゃりと手錠をかける音が背後で鳴ると、彼方は俺の前に出る。

 

「すいません先輩、先輩が何かされてるって聞いて持ち場を離れちゃって....で、でも犯人を捕まえましたよ!」

 

奴は俺に対してそう言ってくる。

正直、ちょっとビビったしまだ甘い所はあった。

でもまぁ俺の為に来てくれたわけだし....及第点ではあるかな。

そう言おうとして、身体と口が相変わらず動かないのに気づく。

....あっ、多分まだ10分経ってねぇ。

 

しかし動けない俺に対して彼方は話を続ける。

 

「先輩がやってたじゃないですか。アレ、犯罪者に精神的優位を取られちゃいけないってことですよね。だから今回、ロシアンルーレットとか言ったり、先輩ごと撃つとか先輩の真似してブラフ言ってみたんですけど...き、キレてないですよね?あ、あのなんか言ってくれませんか?」

 

奴が不安げに俺を窺っている。

いや、動けねぇんだよ。

お前も聞いてたなら分かるだろ?

それともその部分だけ聞こえなかったのかよ。

 

俺の顔を覗き込む彼方と目が合う。

クソ....ビクビクしやがって、かわい....だぁあああ!!!

催眠邪魔!マジで邪魔!!

 

まぁでもコイツに助けられたのは事実だ。

それにあの時のアイツはちゃんとした男だった。

アイツが居なかったら今頃俺はデブのママとしてカキタレ生活を始めようとしていたかもしれない。

もはや悪夢でしかない。

だから少しは認めてやってもいい。

お礼くらいは言うべきだろう....。

そう思った矢先に奴が声を上げる。

 

「あっ....も、もしかして...先輩、既に催眠で犯人の虜に.....」

 

は?

お前、今なんて言った?

何故だかいつも以上にムカついた。

俺が見てるのはおま....いや、そうじゃなくてまた俺の事を女扱いしやがったな!!

くそっ!動け!動けよ!!

シメてやる!!

 

俺がなんとか身体を動かそうとすると、アイツはあっと思いついたかのように声を出した。

 

「そう言えば先輩、身体動けないんでしたね。だ、だったら犯人に催眠されてても関係ないかぁ....。い、一応先輩にも手錠付けときますね!」

 

そう言って手錠を付けていく。

おい、待て!

そ、そんな強引に....っじゃない!俺は正常だ!!

テメェ後で覚えとけよ!

 

しかし俺の考えていることなど分かるはずもなく、彼方は手錠を付け終わると、スマホを回収し、転がっているデブを引き摺りながらも俺の腕を引いていく。

クソッ....こんな奴に腕を引かれて胸が高鳴るなんて.....

さっさと帰って、恵梨香に修理させて催眠を解かないと....

こんな、こんな後輩が好きなんて俺が耐えきれない!

 

 

 

 

 

 

あの日から暫く経った。

アイツとのバディ関係も教育期間が終わったからもう終わり。

それに俺も恵梨香が怪器を直してくれたおかげで催眠を解除することが出来た。

これであの後輩との仲も終わりだ....。

 

だがまぁ、いっぱしになったんだ。

一度サシで飲みに行くのも悪くないな。

まぁ結局以前の礼もなぁなぁになって出来たいない訳だし。

それに、催眠も無事に解けたからアイツのことは好きではないしな!

まぁ良い後輩?くらいには思っててやるよ。

まだ俺が居ないと不安ではあるけどな!

 

そう思い、アイツを待っている。

....けど、おせぇな。

先輩待たすとかどんな神経してんだアイツ.....。

探しにいくか。

 

探していると女の甲高い声が聞こえてくる。

確か最近外国支部から配属されてきた女か。

声が高いから騒ぐと頭に響くなぁ。

そう思っていると。

 

「...その先輩のこと凄く尊敬してるんデスね!」

 

「あ、うん...あの人は僕の恩師にあたるからね。」

 

アイツ、俺の後輩の土方がソイツと話してやがった。

...は?なに俺との約束があんのに他の奴と喋ってんだよ。

だが、話している内容的に俺の事を話しているし、寧ろ褒めてる。

ま、まぁそれなら少しは許してやるよ。

どうせそこの女に絡まれたんだろ?

先輩である俺の誘いをお前が無下にするわけないからなぁ。

 

なんとはなしに上機嫌になっていると、その金髪女が口を開く。

 

「“先輩”として尊敬してるってことデスよね?異性ではないんですよね?」

 

「えっ、えっと...うぅん......」

 

何故か先輩としての部分を強調する女。

なんだこの女.....。

土方が困ってんだろうが。

....チッ、色目使いやがって。

職場だろうが.....。

 

見ていられなくなって俺は声を掛けた。

 

「俺の“後輩”に何か用か?」

 

「あっ....先輩.....」

 

土方が俺を見る。

俺は土方を睨んだ。

 

「テメェ、せっかく俺がおごってやるって言ってんのに....こんな所で油売りやがって....」

 

「あっ、すいません!それじゃごめんねアリシアさん!俺先輩と用事があるから。」

 

「いえいえ、お気になさらず。“先輩”との用事ですもんね。」

 

アリシアと呼ばれた女は笑顔でそう土方に言う。

何だコイツ....いちいち言い方が鼻につく。

それにコイツ一切俺の方見やしないし.....

 

...そうだ。

俺は咄嗟に後輩と腕を組む。

すると、奴の笑顔が固まった。

 

「おらっ、行くぞ。」

 

そう言って無理やり後輩を連れていく。

後ろをちらりと見て、固まっている奴を見ると笑ってしまう。

ざまぁみろ。

 

「えっ、なんすか腕....極められちゃうんですか?そ、その許して欲しいんですけど。」

 

「うるせぇ。ちゃっちゃと歩け!」

 

「ちょっ、先輩!いきなりは....首がじまるぅ....」

 

見当はずれなことを言う後輩をどやしつけてヘッドロックする。

コイツは相も変わらずしょうもねぇ。

だから、俺がついててやんねぇとな。

本当、しょうがない奴。

しょうがないから赤面しているのは見ない振りしてやった。

 

そうしてどこか足取り軽く怪器取締課を後にしようとする二人。

そんな二人と残されたアリシアを見て、恵梨香は独り言ちる。

 

「これは...今度からマコトちゃんって呼ばないといけないな。ハハ....。」

 

同僚の余りの変わりようと自信の変化に気づいていない鈍感さに苦笑いを浮かべると飲んでいたコーヒーのゴミをゴミ箱に捨てて持ち場に戻った。


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