ポケットモンスター Let’s Go! ピッピ   作:ディヴァ子

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アオイ:「青き龍は勝利を齎す」


群青のマリオネットと明日への打ち上げ

 ポケモンタワー最上階。

 そこは天に召したポケモンたちに祈りを捧げ、冥福と来世の幸福を願う場所。大切な思い出を忘れずに、前へ進む為のターニングポイントでもある。未練がましい事この上ないが、言わぬが華だろう。

 

「………………」

 

 そんなお墓とお墓がオーバーレイネットワークを構築している、このホラースポットのど真ん中で、フジ老人は祈っていた。それはもう、一心不乱に。寄る年波も何のその、岩のように微動だにせず、祭壇へ向かって手を合わせ続けている。さすが原典では祈りに集中し過ぎてムコニャの出現にすら気付けなかった御人。

 正直、祈祷師よりヤバい奴にしか見えない。呼吸をしているのかすら若干怪しくなる。祈祷師は明らかにラリってるので分かりやすく怖いが、フジ老人の場合は一切喋らないのが逆に不気味だ。死んでないよね?

 まぁ、実際に彼の過去は仄暗いどころか、その不気味さに相応しい、カオスエクシーズチェンジしそうな勢いでヤバいのだが。ミュウツーの創造主だからね、仕方ないね。

 しかし、こちらにも要件という物がある。ポケモンの笛とか、ミュウツーの情報とか。

 

「お爺ちゃん、カラカラのお母さんは成仏したよ。さぁ、一緒に帰ろう?」

「………………」

 

 だから、いつまでも蝋人形になってないで、普通の老人に戻って下さいお願いします。

 つーか、実の娘に話し掛けられてるのに沈黙を守るなよ。冥福云々以前に、家族の絆を守れ。

 

「どうしよう、アオイ?」「うーん……」

 

 このままじゃ埒が明かないな。ここは一発、目覚めのメガトンパンチを――――――。

 と、その時。

 

「お爺ちゃん、そいつから離れて!」

 

 私たちの背後から、もう一人のアイさんが現れた。

 ……、…………、……って、えぇええええええっ!?

 

「「か、かげぶんしん!?」」「違います! 正真正銘のフジ・アイです!」

 

 私とシンくんのボケに律儀に突っ込んでくれるアイさん。

 いや、ちょっと待って、頭が追い付かない。この人が本物なら、あのアイさんは一体……?

 

「そこまでだぜっ!」「アタシたちが先よ!」「手柄は渡さないぜ、偽物ヤロウ!」『観念するのにゃ!』

 

 すると、これまた予想だにしない人物が登場。ムコニャに加えて、グリーンまで現れたのである。何でボンジュールがここに!?

 

「ラッタの墓参りさ」

 

 ですよねぇ。

 グリーンがポケモンタワーに訪れる理由なんて、一つしかない。

 

「それと、こいつを会わせてやりたかったのさ」『ヂュッ!』

 

 さらに、まさかのアローララッタを召喚。アローラの姿はカントー地方では発生しない筈だから、誰に貰ったのだろうか?

 

「でも、ノスタルジーに浸ってる場合でもないみたいだな!」

「でしょでしょ!」「俺たちの言う通りだったろ、ツンジャリ!」『感謝して敬うのにゃ!』

「誰がツンジャリだ! 感謝もしねぇよ!」

 

 そして、仲良く喧嘩するグリーンとムコニャ。LPLEはすでにグリーンたちマサラ組が旅立った後の物語なので、案外アニポケのサトシみたいな腐れ縁があるのかもしれない。

 でも、やっぱり現状を脳が処理しきれていない事に変わりはないのですが。

 結局、あの偽物は何者なんだよ!?

 

「それはそうと……いい加減、諦めたらどうだ、ブルー?」

 

 と、グリーンの鋭い目が偽アイの正体を見破る。

 

「ブルー?」

 

 それって、マサラ組最後の一人――――――初代当初は「三つ巴があるとしたらこんな奴」というコンセプトで設定だけされ、メディアミックスを除けばLPLEでようやく日の目を見た、あのブルー!?

 

「……フフフフフ、バレてしまったら仕方ないわね」

 

 すると、偽アイが怪盗みたいなノリで“皮”を剥ぎ、その正体を表した。

 

「そう、ある時は悲劇のヒロイン、ある時は悪の女スパイ、しかしてその正体は――――――世界最強のポケモントレーナー、ブルーちゃんよ!」

 

 少しウェーブが掛かった茶髪のロングに紺碧の瞳を持つ端麗な少女で、両裾にスリットが入ったノースリーブの黒いワンピースに水色のホットパンツという破廉恥な格好をしている。胸は慎ましく、お尻も小さい。可愛い黄色のバッグと、頭に生えた三本の動くアホ毛がチャームポイント。

 間違いない。苦節二十二年の時を乗り越え、現代に新生した謎のヒロインXY、ブルーその人だ。

 だが、今回はライバルや先輩というよりも、悪役令嬢というか、完全に峰不○子である。こいつもポケスペみたいな要素持ってんのか?

 それよりも、どうしてここにブルーが……いるかは考えるまでもないだろう。彼女の最終目標であるミュウツーの情報を求めに来たのだ。アイさんに化けていたのは、フジ老人に近付き易く、私たちと一緒にいても違和感がないからでしょうね。事実、全然分からなかったし。

 というか、悪の女スパイとか言ってるけど、ロケット団のあの人と関りがあったり?

 

「誰よそれ?」

「無関係でした!」

 

 まぁ、メタモンだからね、しょうがないね。彼女に今後の出番はあるのだろうか……。

 いや、それよりも、今は目の前のブルーにどう対処するかである。

 とは言え、彼女も私たちもトレーナーである以上、やる事は決まり切っている。正面切っての、ポケモンバトルだ。

 

「予定が狂ったけど、こうなったら実力行使よ! 行きなさい、アナタたち!」

『プァラァアアアッ!』『ギャハハハハァッ!』『ギィガァアアォヴッ!』『ガァルヴォォッ!』『クゥォンコォンコォン!』『グゥヴァアアメラァアアアアッ!』

 

 さっそく、手持ち全部を繰り出してくるブルー。

 メンバーは原典準拠でピクシー(Lv55)、ゲンガー(Lv57)、ウツボット(Lv58)、ガルーラ(Lv56)、キュウコン(Lv59)、カメックス(Lv68)……なのだが、どいつもこいつもプレッシャーが既存の物とはまるで違う上に、鳴き声がマジもんの怪獣みたいになってる。

 それぞれ天女超獣、エイリアン、磁力怪獣、ウラン怪獣、使徒っぽい邪神、超古代文明の生体兵器と、見事なまでに怪獣と宇宙人ばっかり(超獣混じってるけど)。どんなチョイスだよ。

 しかし、そっちがそう来るなら、こっちも手持ちを全部出して袋叩きに、

 

《ヒャッホッハッハッハッハッハッ!》

 

 ――――――謎の力が働き、手持ちを一匹しか出せなくなった!

 

 ……って、何だそりゃあ!? くそっ、マジでボールが反応しねぇ!

 

「仕方ない……頼んだわよ、アカネちゃん!」『ピッピィッ!』

「マジかよ! なら出番だ、プリン!」『プリィッ!』

「バウワウ!」『バァヴァアアゥ!』

「ブルー、お前……くそっ、行けぇ、バーナード(フシギバナ)!」『バァナァッ!』

「いいトコ見せて来なさい、カブトプス!」『キシャアアッ!』

「初陣だ、オムスター!」『ピギャアアッ!』

 

 という事で、こちらもポケモンを一匹ずつ展開する。

 対戦カードとしては、

 

・ピクシーVSアカネちゃん(相棒ピッピ)

・ゲンガーVS相棒プリン

・ウツボットVSバウワウ(ウィンディ)

・ガルーラVSカブトプス

・キュウコンVSオムスター

・バーナード(フシギバナ)VSクスクス(カメックス)

 

 という感じ。殆どがタイプ相性でこちら側が有利な組み合わせである。カブトプスは泣いていい。

 大体が相棒や切り札ポケモンだが、ムサシとコジロウはあえて化石ポケモンたち(どちらもLv42)の初陣とするつもりのようだ。

 大方、フジ老人に力を示すのが目的だろう。あるいは私に見せ付ける為か。どちらにしろ、彼らの実力がいかほどの物か、楽しみなカードには違いない。

 

 さぁ、ポケモンバトル、行ってみよう!

 

「ピクシー、「ムーンフォース」!」『ピィアァアアアアアッ!』

「アカネちゃん、躱して「コズミックパンチ」!」『オラーッ!』

 

 まずはアカネちゃんVSピクシー。

 ピクシーの放つムーンフォースを軽やかに躱し、カウンター気味にコズミックパンチを叩きこむ。効果は抜群だ。

 

「くっ、「かえんほうしゃ」!」『パァアァァアアッ!』

『ギピーッ!』「アカネちゃん!」

 

 しかし、さすがに一発では落とせず、反撃の火炎放射で火傷を負わされてしまった。たぶん、はがね対策だな。

 こうなっては、長期戦は無理に近い。短期決戦で勝負を付ける!

 

「「「ゆびをふる」!」」

『ピァアアアッ!』『ピッピピー!』

 

 互いに指を振り、どちらも破壊光線を引き当てる。勝敗は――――――、

 

『カァ……!』『ピピィ……!』

 

 くそっ、ドローか。

 だけど、進化態相手に良く戦ったわ、アカネちゃん♪

 さて、他の対戦カードは……っと。

 

「ゲンガー、「ヘドロばくだん」!」『カハハハハハッ!』

「プリン、耐えてくれ!」『プリィ……!』

 

 タイプ一致のヘドロ爆弾で抜群を取られるも、悲しませまいと耐え切るプリン。

 

「よしっ! プリン、「ふわふわドリームリサイタル」!」『プ~ププ~プ~プリ~ン♪』

 

 さらに、ふわふわドリームタイムでゲンガーを眠らせ、

 

「今だ! 「ころころスピンアタック」!」『プリャァ~ッ!』

『ギャヒャァッ!』「くっ……!」

 

 ころころスピンアタックを何度も叩き込み、轢殺した。さすがはシンくんの相棒である。是非とも戦いたくない。

 

「ウツボット、「パワーウィップ」!」『ギカァアアアヴォッ!』

「バウワウ、「フレアドライブ」でぬっころせ~!」『バヴワァアアアッ!』

 

 バウワウは普通に圧勝してた。おい、フェアリータイプ使えよ。

 

「ガルーラ、「かみなりパンチ」!」『ガヴォルァアアアアアッ!』

『キィィ……!』「カブトプス! 戻りなさい!」

「キュウコン、「アイアンテール」!」『クォォンコォンコォン!』

『ヒギィッ!』「くっ、戻れオムスター!」

 

 一方、初陣組はさすがにレベル差があったか、有利な相手にも関わらず押し負けてしまった。気にするな、最初は皆そんなものだよ。

 

「クスクス、「ふぶき」!」『グゥヴァアアメルァアアッ!』

「バーナード、「はなびらのまい」!」『ブゥワァナァア!』

 

 そして、最後は御三家勝負。双方共にメガシンカしており、凄まじい大技の応酬となっている。

 ただ、クスクスの技は命中率に難のある物が多く、タイプ相性が不利なのも相俟ってダメージレースで押し負けてしまい、先に倒れてしまった。

 だが、バーナードの蓄積ダメージも相当なもので、意地で持ち堪えていたものの、クスクスが倒れると、後を追うように戦闘不能となった。ちょっと微妙だが、ギリギリでバーナードの勝ちだろう。

 とにかく、これにてバトル終了。

 結果は三勝一分け二敗でこちらの勝ちだが、たった一人で二回も勝ち、実質的には二体を戦闘不能にしてしまった辺り、さすがは自称・最強のポケモントレーナーだ。タイマンだったらこっちが負けてたかもしれない。

 

「チックショウがぁ! これで終わったと思わないでよね! バイバイキ~ンだッ!」

 

 しかし、負けは負け。ブルーは悪態を吐きながらポケモンたちを回収すると、穴抜けの紐を発動。通りぬけ○ープの要領で亜空間ゲートを形成、さっさと逃げ出してしまった。

 前々から紐如きでどうやってダンジョンから抜け出しているのかと思っていたが、そんな使い方なのかよ!

 つーか、バイバイキーンってお前……。

 

「さてと、色々聞かせてくれるかな、キミたち?」

 

 とりあえず、戦いは終わった。

 ならば、聞きそびれていた事を纏めてお話願おう。私の脳内キャパシティはいっぱいいっぱいなんだよ!

 

「そうねぇ……」

 

 それから、墓場のど真ん中というホラースポットである事も忘れて、ムコニャたちから話を聞いた。

 まず、ムコニャとグリーンの関係。

 これは予想通り、アニポケのサトシポジションだった。ムコニャがまだ幹部候補生になる前、つまりペーペーもペーペーな下っ端時代からの腐れ縁であり、グリーンの珍しいイーブイ(相棒イーブイ)をバトルを仕掛けたのが始まりらしい。

 ちなみに、ブルーとはたまに張り合う同業者のような間柄で、無口なレッドとは殆ど関りが無かったそうな。そりゃそうだよな、喋らないんじゃね……。

 その後も、色んな現場で鉢合わせになるという奇妙な関係は続いていたのだが、グリーンがカントーリーグのチャンピオンに成ったのとほぼ同時期にムコニャも幹部候補生となり、それからは疎遠になっていたらしく、此度の再会も数年ぶりなんだとか。

 ……で、その再会現場というのが、まさかのアイさん宅。

 グリーンは墓参りのついでにフジ老人へご挨拶、ムコニャは私がまだ家にいるかどうかの確認だったそうで、一時は再会を祝してのポケモンバトル(ガチ)に発展し掛けたのだが、そこであげたミュウが「ここ見ろミュウミュウ」とばかりに家の中を指差した為、中断。聞き耳を立てると人の呻き声が聞こえてきたので、中に入ってみると、

 

「――――――部屋の奥で、その子が駿河問いになってたから、てっきりそういう趣味なのかと……」

「違いますから! ちゃんと拷問されてたんですっ!」

「いや、ちゃんと拷問されてるって何だよ」

 

 ようするに、ブルーに吊り責めされた挙句、そのまま放置されていた彼女を、ムコニャとグリーンが呉越同舟で助け船を出した、という事らしい。グリーンは知人だったろうし、ムコニャに至っては初対面でそれだったから、色々勘違いされたんだろうなぁ、可哀想に……。

 さらに、犯人が特徴からブルーだと判明、先行している私たちとの合流も兼ねて大急ぎでタワーを駆け上がり、今に至る、と。纏めるとこんな感じだろうか。

 

「でも、あのジャリンコ、前と随分雰囲気変わったわよねぇ?」

「だよな。前はもう少しユニークな奴だったんだけど……」

『今のあいつは、にゃんと言うか、鬼気迫る物があったにゃ。おみゃー、何か知らないのかにゃ?』

「いや、ブルーとは偶然出くわすだけだし、ここ二、三年は会ってないからなぁ……」

 

 だが、ブルーの有り様は馴染み深いグリーンたちでも不可解らしく、見た目も含めて大分様変わりしているそうな。マジで何があったんだろうね。あんまり興味ないけど。

 

「まぁ、それはそれとして、だ。おーい、爺さん! いい加減、お祈りタイムは終わりにしろよ! 日が暮れちまうよ!」

「ハッ……!」

 

 共闘はここまでだと言わんばかりにコジロウが耳元で叫ぶと、フジ老人はようやく我に返った。お前、実は寝てたんじゃないだろうな。

 

「えーと、どちら様ですかな?」

「どちら様ですかと聞かれたら!」

「答えてやるが――――――」

「あーはいはい、話が進まないからそこまでな、ロケット団」

 

 もちろん、いつもの口上を言おうとしたが、手慣れたグリーンに中断されてしまった。言わせてあげればいいのに。

 

「ロケット団、ですか……」

 

 「ロケット団」の名前が出た途端、フジ老人の表情が曇る。フジ博士だもんね、仕方ないね。

 

「そう、我々ロケット団は、アンタに用があってやって来た!」

「用件はもちろん、“最強のポケモン”についてよっ!」

『さぁ、キリキリ話すのにゃ!』

 

 おうおう、悪役ムーヴしてるねぇ。

 

「……それを知って、どうするおつもりなのですかな?」

「むろん、ゲットさせてもらう!」

「そして、アタシたちの為に戦ってもらうのよ!」

『サカキ様は最強のポケモン軍団を創ろうとしているのにゃ! “ミュウツー”は、その切り札になるのにゃ!』

 

 しかも、メッチャ機密事項バラしまくってる。お前ら、それで交渉が成立するとでも思ってんのか?

 

「お断りですな」

「そうよ! 助けてもらった事には感謝するけど、カラカラのお母さんを殺すような奴らに協力する事なんてないわ!」

 

 こっちもこっちでその返しはどうなのか。ポケモン殺すような連中言うてますやん。

 あー、もう、これじゃ埒が明かないよ。

 

「失敬な! 俺たちはそんな真似はしてねぇよ!」

「そうよ! 実行したお馬鹿たちは、こっちでしっかり粛清してやったわ!」

『にゃーたちは、世界の破壊を防ぐ悪にゃ! あんな裏切り者連中と一緒にするなにゃ!』

 

 おっと、そう切り返すか。ここはフォローを入れるべきかな。

 

「……それは、本当の事なの?」

「はい、本当です。私たちにも協力してくれました。彼らはロケット団ですが、根っからの悪人じゃありません。うっかり八兵衛みたいなもんです」

 

 だので、半信半疑なアイさんに、私が親身に話してあげる。もちろん、私とシンくんがロケット団員見習いだという事は伏せて。

 

「ああ。それに関しては、オレからも保証する。そいつらは小悪党だが、外道じゃない」

 

 と、グリーンからも援護射撃。さすがに付き合いが長いね。

 

「……あれは危険過ぎる。人の手に負えるモノではない」

 

 しかし、フジ老人は頑なに喋ろうとしない。

 そりゃそうか。倫理観云々以前にトラウマになっちゃってるもんな。

 むろん、罪悪感も多分にあるだろうが、根本的には恐怖心を抱いているからだろう。

 天才だった自分が手に負えなかったのに、どこの馬の骨とも知らぬ奴に御する事が出来る訳がない。その優し気な顔の奥底に、そんな気持ちがあるのだろう。

 天才なんて、科学者なんて、そんな物である。

 いくら後悔しようと、罪悪感に塗れようと、祈りを捧げ必死に贖罪しようと、三つ子の魂は百まで続く。そうでなければ、ミュウツーがあそこまで凶暴になる筈はない。

 

「違うな。アンタ()怖いだけだ」

「そうね。本当にミュウツーの事を想っているのなら、解放してあげるべきだわ。形はどうあれ、ポケモンは戦う生き物なんだから」

『そうにゃそうにゃ。人気のない所に逃がしたつもりだろうけど、それじゃ檻に閉じ込めてるのと変わらないにゃ』

「………………!」

 

 ムコニャの悪役故の言葉が重みとなって、フジ老人……否、フジ博士に圧し掛かる。

 なるほど、これ以上悪用されないよう、どこか人里離れた場所でそっとしておくと言えば、聞こえは良いだろう。

 だが、ムコニャの言うように、檻に閉じ込めているのと何が違う?

 せっかく呪縛から解き放たれたのに、“可哀想だから”と腫れ物扱いしては、結局同じ事ではないか。

 

 図鑑にもあるように、ミュウツーは戦いたくてウズウズしているのだ。誰がどう思い、考えようと、それは変わりない。

 

「……だから、捕まえようと言うのですか?」

「一緒に旅立つと言って欲しいな」

「我らロケット団は、世界を支配する悪の組織! その名の如く、常に高みを目指す、人類の願いその物なのよ!」

『だから、おみゃーだって、ロケット団にいたんじゃないのかにゃ? おみゃーの夢を叶える為に』

「………………!」

 

 そう、フジ博士だってロケット団と変わらない。

 自分の夢を叶える為、他人を利用して、挑み続けた。己の限界に。まだ見ぬ高みを目指して。

 人は生まれながらに欲深い生き物である。そこに善も悪もない。そんな物はただの後付け。失敗した後が怖いから。

 

 だから、根本的に、この世に触れてはいけない力や領域など、ないのだ。

 

 そうでなければ、そうして来なければ、そうし続けなければ、人は今もエテ公のままである。

 自分が人でありたいと願うなら、認めろ。人間、誰しも闇を持っていると。それを認め、自分を受け入れられれば、人はどこまでも進歩出来る。

 例えそれが危険で、血を吐きながら続ける悲しいマラソンだとしても、赤の女王のように走り続けろ。停滞が招くのは、真の意味での死と破滅だけだ。

 

「なるほど、忘れていたよ。儂は聖職者ではない、科学者だという事を……」

 

 すると、フジ博士……いや、フジ老人は憑き物が落ちたように微笑みながら、告げた。

 

「――――――奴は今、ハナダにいる。あの名もなき洞窟の主として。それ以上は何も言えんよ」

「ハナダの洞窟って……」

「あの、無茶苦茶強いポケモンで溢れ返ってる危険地帯か!?」

『これは予想外だにゃー』

 

 ハナダの洞窟という単語に、ムコニャたちが気色ばむ。

 当然よね。低くてもレベル50台、最深部だとレベル60を超える化け物染みた野生ポケモンが闊歩する魔窟だもん。内部も入り組んでるし、まさにラストダンジョンと呼ぶに相応しい難易度の迷宮である。

 それ故、カントー最強の猛者たるリーグチャンピオンでなければ立ち入る事が許されず、生半可な気持ちと実力で向かっても、帰らぬ人になるだけだ。

 

「これはアタシたちだけの一存じゃ決められないわね」

「とにかく、サカキ様に一報入れよう」

『そうだにゃ。まずは手柄の確保にゃ!』

「「そう、出世が一番大事~♪」」

 

 それでも出世欲を優先させるお前らが大好きです。

 

「まぁ、立ち話も何ですし、とにかく下に降りましょう。渡したい物もありますしな」

 

 と、これ以上の進展は見込めないと判断したのか、フジ老人がそんな提案をして来た。

 

『いや、誰のせいだよ』

 

 その瞬間だけ、彼以外の全員の気持ちが一致した。ホント、お前が言うな。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 それからそれから。

 

「これが「ポケモンのふえ」です」

 

 何やかんやで地上に戻って来た私たちは、フジ老人の家であり捨てられたポケモンを保護する施設でもあるポケモンハウスに集合。そこでついに使い減りしない眠気覚まし「ポケモンのふえ」とご対面した訳だが、

 

「おおっ……ダッせぇっ!」「おいっ!?」

 

 いや、だって……ねぇ?

 どう見ても、モンスターボールがくっ付いただけのリコーダーなんだもん。もっと厳かなデザインには出来なかったもんですかね。

 しかし、重要アイテムである事に変わりない。これがないとカビゴンを起こせず、先にも進めないからな。この際、意匠には目を瞑って機能性を取るとしよう。

 

「ポケモンの笛の奏でる音色は、ポケモンたちの心を癒し――――――」

「ああ、そういうのいいんで、早く下さい」

「酷い……」

 

 その手の講釈は聞き飽きてるんだよ。朝礼で垂れ流れる校長の長話と差して変わらん。

 

「だけど、そんなもんどうすんのよ?」

「これを吹いて、カビゴンを起こすのよ」

「ああ、12番道路と16番道路に寝っ転がってる、あのお邪魔虫ね」

「そうそう。ついでに捕まえられれば一石二鳥ね。カビゴンは強いわよ~?」

「むむむ、強いポケモンねぇ……」

 

 うむうむ、見事に食い付いて来ましたね、ムサシさん。

 

「そんなアナタには、カビゴンゲットのチャンスをプレゼントだ! もちろん、お手伝いもするよ!」

「いよっ、太っ腹!」

「レディに太っ腹言うなや」

 

 それはシルフの社長(モノホン)に言え。

 

「ちなみに、行き先はどっち?」

「もちろん、タマムシシティに近い、16番道路の方よ。タマムシジムへの挑戦はその後ね」

 

 むしろ、私にとってはカビゴンよりも、その先にポツンと立っているコーチトレーナーの方が遥かに重要である。

 何を隠そう、その人(ヌノシダさん)はハヤテやアンズちゃんのサブウェポンとなるドリルライナーの技マシンをくれるのだ。これで抜群を取れる範囲が一気に増える。特にアンズちゃんはタイプ一致なので、必殺の威力を発揮する事間違いなし。

 いやぁ、長かったねぇ、ここまで。セキエイ高原までドリルライナーなしとか、辛いにも程があるよ。ムコニャも報告とか色々あるだろうし、16番道路のカビゴンを狙うのがお互いの為であろう。

 そうと決まれば、タマムシシティまでレッツだGO!

 ……ただし、出発は明日の朝な!

 

「「さよ~なら~♪」」

「色々とありがとうございました!」「また遊びにおいで。歓迎するよ」

 

 という事で、私たちはアイさんの家に一晩だけ泊まらせてもらい、翌朝にはブレックファーストまでご馳走になり、その後アイさんとフジ老人に見送られつつヒジュツ・ソラワタリで大空へと舞い上がった。

 

「アタシらはコイツで行くわ!」「グレン直送便だぜぇ!」『プテラ、離陸なのにゃ!』

『ギィリリリリィィィイイッ!』

 

 ムコニャはさっき通信で送られたばかりのプテラに乗って、優雅に遊覧飛行。

 

「バウワウ、おねがい~」『バウッ!』

 

 マツリカちゃんはもちろんバウワウにポケライド。軽やかで力強い走りで、8番道路→地下通路→7番道路と駆け抜けていく。

 そう言えば、タケシからまだお茶貰ってなかったな。いい加減に遠回りも面倒臭いし、カビゴン起こしたらさっさと通れるようにしておこう、そうしよう。

 

「出たな……出たな、カビゴン!」

「いや、最初から微動だにしてないから……」

 

 そして、ゲートの向こうで全員集合しつつ、居眠りを続けるカビゴンの前に立った。

 つーか、よく見りゃこいつ、色違いじゃん。これで珍獣がまた増えるよ、やったねムコニャ♪

 さぁ、我が笛の音色で、目覚めよカビゴン!

 

「プルル~プルル~♪」

『ZZZzz……』

「……あれ?」

 

 だが、カビゴンは変わらずイビキを掻くだけで、起きる様子がまるでなかった。何でやねん。

 

「ヤロー、もう怒ったッピ! シンくん、バイオリン持って!」「えっ、何で!?」「いいからいいから、私を信じて!」「いや、あの……」

「マツリカちゃんはクラリネットね。アカネちゃんはトロボーンで、プリンちゃんはホルンをお願い」「おー」『ピッピィ♪』『プリャ~♪』「どっから出したの!?」

「ムサシはチェロ、コジロウはコントラバス、ニャースはティンパニ!」「フッ、久々ね……」「任せろ!」『目に物見せてやるにゃ!』「お前ら何者なんだよ!?」

 

 食らいやがれ、劇場版(こんしん)のタイトルコール! 軽音楽(バンド)でもミュージカルでもない……これがトレーナー(わたしたち)逆襲(オーケストラ)だっ!

 

 ……そんな楽器をどこから出したのかって?

 お前ら、もう少し大人になれ。

 

『ゴォン……』

 

 すると、私たちのソウルとハートが届いたのか、ようやくカビゴン(Lv34)が目を覚まし、

 

『ガァビゴォォオオオオオオオオオァン!』

 

 さらに、変身怪獣みたいな雄叫びを上げて襲い掛かって来た。寝惚けるどころか、テンション高過ぎィ!

 

「よーし、今度こそいいトコ見せなさい、カブトプス!」『シャアアッ!』

「雪辱の時だ、オムスター!」『ピギュィッ!』

 

 どうやら、ムサシとコジロウはもう一度カブトプスとオムスターにチャンスを与えるつもりのようである。今回はレベル差もあるし、キッチリと汚名を返上してくれるだろう。技も「あくび」「ねむる」「ずつき」「したでなめる」しかないし。

 

「カブトプス、「いわなだれ」!」『キキィィッ!』

「オムスター、「ねっとう」!」『ピギャアアッ!』

『ガァビヴォォォ……!』

 

 カブトプスの岩雪崩とオムスターの熱湯を浴びせられ、大ダメージを受けた上に火傷を負わされ怯みまで取られるカビゴン。良い技持ってやがんなチクショウ。私にも早くドリルライナー、プリーズ!

 

「トドメよ、「たきのぼり」!」『シャアアオラァッ!』

「仕留めろ、「れいとうビーム」!」『ゥッシャアッ!』

 

 亀○兄弟か己らは。ベルトの前にカビゴンをKOして、どうぞ。

 

『ゴォォォ……!』

 

 カビゴン、殆ど何も出来ないままダウン。コジロウの投げたゴージャスボールであっさりと捕獲された。アニポケより資産があって良かったね。

 

「あ、図鑑登録だけはさせてね」

「はいよー」

 

 どれどれ、何ぼのもんじゃい?

 

◆カビゴン

 

・分類:いねむりポケモン★

・タイプ:ノーマル

・レベル:35

・性別:♀

・性格:ゆうかん

・種族値: HP:160 A:110 B:65 C:65 D:110 S:30 合計:540

・覚えている技:「あくび」「ねむる」「ずつき」「ばかぢから」

・図鑑説明

 一日に400キロ食べないと満腹にならない食いしん坊。胃液は腐った物でも平気で消化してしまう程に強力で、ベトベトンの猛毒ですらカビゴンにとってはスパイスに過ぎない。子供がお腹の上で遊んでも気にしないくらいにおおらかだが、本気を出すとビックリするくらい激しく動く。

 

 うっへぇ、こいつ馬鹿力なんか覚えてやがったのか。撃たれてたらヤバかったな。

 ともかく、これで道は開けた。途中に蔓延るバッドガイやスキンヘッズ、キャンプボーイにピクニックガールを駆逐していき、

 

「死ねぇ!」

「ドペェーッ!」

 

 遂に出会えたコーチトレーナーのヌノシダをフルボッコにして、

 

「おら、技マシン出せ、ドララララァッ!」「ベホマァッ!」「やめたげてよぉ~!」

 

 ついでに本人もたこ殴りにして、技マシン058「ドリルライナー」を手に入れた。ヤッタネ!

 

「お礼も持ってけぇ!」「ギャアアアッ!」「もう許してあげて!」

 

 だってさぁ、砂とか毒とかばら撒いて来るから、ウザったくて仕方なかったんだもん。あと、平気で強化アメ使ってやがるし。くたばれこの野郎。

 

「……よしっ!」

 

 引き返して回復も済ませたし、準備はバッチリ。

 

「いざっ、タマムシジムへ!」「おう!」「「「がんばって~♪」」」『にゃっ!』

 

 さぁ、エリカお嬢様との対決だぁ!




◆ブルー

 レッド、グリーンと共に旅立った、三人目のマサラ組にして紅一点。寡黙なレッド、チャラいグリーンと比べて、強さにストイックで苛烈な一面がある。カントー最強のポケモン=ミュウツーをゲットしようとするも、主人公が一足先に捕まえており、“お前の物は私の物!”と言わんばかりに喧嘩を売った。けど負けた。
 本来は構想だけのキャラクターだったのだが、ピカブイにてまさかの正史入りを果たした。
 そして、この世界線では更に以前から暗躍しており、その様はまるで峰不二子。グリーン程ではないがムコニャとも因縁がある。
 しかし、何処か前の彼女とは違っていて――――――。
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