ポケットモンスター Let’s Go! ピッピ   作:ディヴァ子

15 / 27
ムコニャ:「バトルしようぜっ!」
アオイ・シン・マツリカ:「OK!」


勝ちたい者と負けられない者たち

 ○月×日 記載者:アポロ・ガイスト

 

 本日、ワタシはロケット団の幹部候補生、ムサシ、コジロウ、ニャースの三名(?)の幹部昇格試験に立ち会った。

 内容はアオイ・シズナ、シン・トレース、マツリカ(本名不明)とのポケモンバトル。神童たちとの戦いである。対戦カードは「アオイVSムサシ」「シンVSコジロウ」「マツリカVSニャース」の三つ。ロケット団を大躍進させた功績を持つチーム同士だ、素晴らしい戦いを見せてくれるに違いない。

 特に注目すべきはアオイとムサシのバトルだろうか。両者共に各々のチームにおける実質的なリーダーであり、実力もある。才能だけで言えばコジロウやシンの方が上のようだが、彼女たちには男性陣二人にはない思い切りの良さがある。「運」が彼女らに味方しているとしか思えない時が多々あるのだ。そういう人間は土壇場に強い。だからこそのリーダー格なのだろう。

 さて、アオイとムサシの戦い(メインディッシュ)は最後を飾るとして、まずは先鋒――――――マツリカとニャースのバトルを観るとしようか。

 正直、この二人(?)の戦いの行く末は、全く以て予想出来ない。不思議少女と喋るニャースのポケモンバトルがどうなるか予見出来るのだとしたら、そいつは確実にSAN値不足だろう。正気に戻れ。

 

『フフフフフ、初めから全力投球にゃ!』

「がんばるー」

 

 何だろう、温度差が激しい。ニャースは強がりで、マツリカは余裕の表れにも見えるが、どうなのだろう。

 

『行くのにゃ、スリーパー!』『ロリダロリダウヒャヒャ!』

「ごー、バリバリ!」『バリヴァアアアッ!』

 

 さて、初手はロリコ……ではなく、ロリーパー……じゃなくて、スリーパー(Lv67)VSバリヤードのバリバリ(Lv65)。卑しい顔と惚け顔の戦いである。なぁにこれぇ?

 

「バリバリ、「ひかりのかべ」!」『バリバリジャーン!』

 

 まずはバリバリの光の壁。特殊攻撃に強くなる防御壁で攻撃に備えた。同じエスパータイプであるスリーパーの特攻技を警戒しての事だろうが、甘い。

 

『馬鹿めにゃ! スリーパー、「かみなりパンチ」にゃ!』『ロリィィタァッ!』

『バリァーッ!』「バリバリ!」

 

 スリーパーの雷パンチでバリバリが吹っ飛ぶ。痙攣している所を見るに、麻痺状態になったのだろう。

 そう、スリーパーは特殊一辺倒ではない。攻撃も特攻も同じくらいな上に人型なので、意外と芸達者なのだ。具体的に言うとユンゲラーやフーディンくらいに。

 

『畳み掛けるにゃ! 「ほのおのパンチ」からの「れいとうパンチ」にゃ!』『ローリロリロリロリィッ!』

『バッハァッ……!』「ぬー、もどって、バリバリ!」

 

 さらに、不意を突かれて隙だらけのバリバリを残る二色のパンチで殴り倒す。元々体力が無く防御も低いバリヤードに耐えられる筈も無い。雷パンチの時点で麻痺が入ったのも大きいだろう。

 だが、随分と思い切った技構成にした物だな。スリーパーの火力自体は低めだから、普通は補助技主体になるのだが。いや、むしろそれを逆手に取ったのか。とんだ変態である。

 

「いって、バウワウ!」『バウヴァァアアッ!』

 

 おっと、いきなり切り札(ジョーカー)を切ったか。先鋒が一方的に倒されるというディスアドバンテージを取り戻すつもりなのだろうが、少々急ぎ過ぎている気もする。あのニャースはそこまで甘い奴ではないぞ。

 

「バウワウ、「フレアドライブ」!」『バォオオオン!』

『耐えて「どくガス」にゃ!』『ロリーダス!』

 

 勝負を決めようとウィンディのバウワウ(Lv86)がフレアドライブを仕掛けるが、悲しませまいと持ち堪えたスリーパーは一撃では斃れず、火傷で瀕死になる前に放った毒ガスでバウワウは毒状態になってしまった。反動技を繰り出した後にこれは痛い。そう掛からずに倒れてしまうだろう。

 やはりこのニャース、強かだ。ウー博士に研究させたくなる。さすがに人員を実験台にはしないけど……ねぇ?

 

『にゃんか一瞬寒気がしたけど、気にしないにゃ! 行くのにゃ、ヤドラン!』『ドルァアアン!』

 

 ニャースが次に繰り出したのはヤドラン(Lv70)。鈍足耐久型でみずタイプという、これでもかと言わんばかりの弱点タイプを出して来たな。

 

「……っ! バウワウ、「げきりん」!」『バォォオッ!』

 

 もう勝ち筋は無いと見たか、マツリカはバウワウに逆鱗を指示した。最後の鼬っ屁という奴だろう。

 しかし、仕留めるには至らず。耐久寄りのヤドランはそう簡単には落ちない。

 

『ヤドラン、「なみのり」にゃ!』『ヤッド~ン!』

 

 そして、ヤドランの波乗りで止めが入る。レベル差はあるが、さすがに蓄積ダメージは如何ともし難かったようだな。

 これで残るはマツリカが二体、ニャースが三体。まだミュウがいる事を考えると、マツリカの方が圧倒的に不利である。

 だが、ポケモン勝負に不測の事態は付き物。果たしてどうなる事やら。

 

「ごー、おやかたさま! 「はかいこうせん」!」『タァーッ!』

『にゃにぃ!?』『ドッドォラ~!』

 

 とか考えていたら、まさかの開幕破壊光線でヤドランを吹き飛ばした。それがプクリン(Lv68)のやる事か。たぶん、飴で特攻を滅茶苦茶上げてるな、アレ。

 

『よくもやってくれたにゃあ! 仇討ちにゃ、行けぇ!』『ジュラジュラムラムラジュラムラムラ!』

 

 ニャースの三番手はルージュラ(Lv69)。仇名は「まさこ」だろうか。

 

『ひとみちゃん、「あくまのキッス」にゃ!』

 

 ひとみだった。何でや。

 

『ジュラァアアム!』『アッー!』

 

 物凄い速さで接近し、悪魔と言うより悪夢な接吻を施すルージュラのひとみ。吐き気を催す邪悪がそこにいた。

 

『このまま仕留めるにゃ! 「ふぶき」!』『サンタクロォォース!』

 

 さらに、こおりタイプの大技・吹雪を仕掛ける。今明らかに喋ったよね?

 

「おやかたさま、あんなところにひゃくまんえんが!」『トリャーッ!』

 

 金に反応して目覚めた。さすがおやかたさま。友達にはなりたくない。

 

「かわして「マジカルシャイン」!」『プックリ~ン♪』

『目がー!』『シンカー!』

 

 そして、マジカルシャインで目晦まし。場外戦術を使うな。あと、やっぱり喋ってるよね、ひとみさん?

 だが、悪くない。どうやら純粋な戦術面ではニャースの方が上手だし、平均レベルでも劣るマツリカも必死なのだろう。

 

「おやかたさま、「かえんほうしゃ」!」『チェリャー!』

 

 さらに、まさかの火炎放射。フェアリータイプが火を吹くなと言いたい。

 

『ジュラァ~ン……!』『ああっ、ひとみちゃん!』

 

 バリヤードと同レベルの耐久力しかないルージュラではこの猛攻は防ぎ切れず、あっという間にバナナになった。いつもの光景だ。悲壮感(笑)。

 さて、これでマツリカの方が有利になった。体力馬鹿のプクリンを落とすのは相当苦労するだろう。どうする、ニャース?

 

『……ついにおみゃーの出番みたいだにゃ! 勝って来い、ミュウ!』『ミュ~!』

 

 そして、ニャースのラストバッター、ミュウ(Lv75)が遂にベースイン。

 

『まずは「でんじは」! それから「わるだくみ」して「サイコキネシス」にゃ!』『ミュミュミューン!』

『ししょー!』「おやかたさま~!」

 

 さらに、怒涛の三連コンボで妖精のようなお方を仕留めた。やはり幻のポケモン、普通に強い。

 

「……くぅっ! いって、キュウちゃん!」『フリィイイズ!』

『「シャドーボール」!』『ミュラーッ!』

 

 マツリカも最後の一体であるアローラキュウコンのキュウ(Lv68)を繰り出すも、悪巧みしたミュウを止められる道理はなかった。

 

『コォオオン!』「うわーん、やなかんじぃ~!」

 

 シャドーボールでキュウが撃破され、マツリカはやな感じになった。それ相手の捨て台詞。

 うーむ、結果だけ見ると、マツリカの実戦経験の少なさが目立つ形になったな。特に戦術面は課題が多い。これからに期待するとしよう。

 さてさて、こちらの決着はついたとして、シンとコジロウの方はどうだろうか?

 

「お前に勝つ為に、バッチリ鍛えて来たぜ!」「上等!」

 

 往年のライバル同士という感じにメンチを切る二人。

 コジロウは高貴な生まれだが反発心の末に堕落した謂わばダークサイドであり、対するシンは普通の家庭ながらも幾つもの困難を挫けず乗り越えて来たライトサイド。まさにヒーローVSダークヒーローである。

 精神力はどちらも勇者級なので、より強い方が勝つだろう。

 

「行けッ、ギャラドス!」『ギャヴォォオオオオッ!』

「頼むぞ、ピジョット!」『ピジョォヴァゥゥッ!』

 

 コジロウの一番手はギャラドス(Lv76)で、シンの先鋒がピジョット(Lv76)。シンはいつも通りだが、コジロウはパターンを変えて来たようだ。対面的にはコジロウ側が有利である。

 

「ギャラドス!」「ピジョット!」

「「メガシンカだ!」」

『ゴァアアアアッ!』『ピジョォァッ!』

 

 おっと、お互いにメガシンカしたか。双方のメガバンドとキーストーンが光り輝き、ポケモンが丸い隕石のを思わせる“殻”に包まれると、まるで生まれ変わるように突き破りながらメガ状態となる。いつ見てもふつくしい光景だ。

 

「ピジョット、「すなかけ」!」『ピジョッ!』

「躱せ!」『ギャルアァアアッ!』

 

 さっそくメガピジョットが砂掛けするが、これは躱される。

 

「食らえ、「かみくだく」!」『ガァヴォオオオン!』

「くっ……反撃だ、「エアスラッシュ」!」『ピッ……ジョォアアアアヴッ!』

 

 そして、メガギャラドスのタイプ一致噛み砕くでメガピジョットは防御を下げられる程のダメージを受けたが、エアスラッシュで怯ませる事で追撃を防いだ。

 

「よし! ピジョット、「すなか――――――」

「「ちょうはつ」!」

 

 そのまま砂掛けを食らわせようとしたものの、そちらは挑発で封じられてしまった。これで羽休めも使えない。

 フム……徹底的だな、コジロウ。意地でもシンのペースにさせないつもりか。

 しかし、彼はその程度では止まらんぞ。

 

「決めろギャラドス! 「たきのぼり」!」『ギャルヴォオオオオッ!』

「させるか! 戻れピジョット! 行け、フシギバナ!」『バナァアアッ!』

 

 と、止めを刺さんと襲い来るメガギャラドスに対し、シンはさっさとメガピジョットを引っ込め、代わりにフシギバナ(Lv75)を繰り出した。

 

「「やどりぎのタネ」!」『バナバナァッ!』

 

 さらに、宿り木の種を植え付ける。遠回しに交代を強制する厭らしい技である。

 

「戻れ、ギャラドス! 行け、ウツボット!」『キャーッ♪』「ギャーッ! 違う、俺じゃないぃいいいっ!」

 

 あ、食われた。じゃなくて、ウツボット(Lv76)に交代した。

 だが、上手い。宿り木の種は何故かくさタイプには通じないし、タイプこそ同一だが、シンの技構成ではウツボットに有利を取れないので、引っ込めるしかないのだ。

 

「戻れ、フシギバナ! 行け、ガラガラ!」『ガラァアアアッ!』

 

 案の定、フシギバナが引っ込み、代打としてアローラガラガラ(Lv77)が出て来た。タイプ的にウツボットはかなり不利だが、どう出る?

 

「ウツボット、「ヘドロばくだん」!」『キャアアアアォッ!』

 

 ゴリ押しした。

 しかし、全くの無策という訳ではない。ガラガラ系統は鈍足かつ特防が若干低いので、等倍でもそこそこダメージにはなる。

 

『ガラッ……!』「ガラガラ!」

 

 その上、毒が入ったようである。火傷にならない物理アタッカーではあるが、状態異常にならない訳ではないので、これは結構辛い。

 

「……「フレアドライブ」!」『ボラボラボラボラッ!』

『キャーッ!』「ウツボット!」

 

 だが、シンの方もゴリ押した。さすがに一撃必殺とはならなかったが、ウツボットは火傷を負ってしまった。タイプ一致のフレアドライブを食らった上でこれなので、おそらく次は無いだろう。

 

「クソッ、「メガドレイン」!」「「フレアドライブ」!」

『ギッ……!』『ガ……ラ……!』

 

 そして、最後に大技をぶつけ合い、全く同時に双方が倒れた。

 お互いに一体失った上で、メガシンカも切っている。戦況はどちらが不利とも言えない。実に良い勝負だ。楽しませてくれる。

 

「頼むぞ、マタドガス!」『マァァタドガァアアス!』

「勝って来い、ピカチュウ!」『ピッカァアアアッ!』

 

 お次はマタドガス(Lv81)とピカチュウ(Lv75)。レベルが結構開いているが、あのピカチュウは相棒タイプの特別版なので油断は出来ない。マタドガスは素早さで負けているし、火力も割とどっこいどっこいだし。

 

「ピカチュウ、「ばちばちアクセル」!」「マタドガス、「まもる」!」

『ピカチューッ!』『ドヴァアアアズ!』

 

 いきなりシンが先制技を仕掛けたが、それは守るで防がれてしまった。

 

「「でんじは」!」「「どくどく」!」

『ビカァ……!』『マタドー……!』

 

 次は両者共に状態異常技。相棒ピカチュウは猛毒を浴び、マタドガスは身体が痺れた。毒守とか厭らしいぞ、コジロウ。シンのフシギバナもそうだけどね。

 

「「10まんボルト」!」「「シャドーボール」!」

『ピッカァアアアア!』『マァタドギャアアス!』

 

 お次はお互いに攻撃技。強力な電撃と影の塊が、双方の体力を奪う。相棒ピカチュウは継続ダメージ、マタドガスは行動制限が掛かっている為、拘泥している暇はない。

 

「もう一度、「10まんボルト」!」「「まもる」!」

 

 今度は押せ押せのシンに対して、コジロウは時間稼ぎを選んだ。

 

『ドゥ……!』「くっ!」

 

 しかし、運悪く痺れて動けないマタドガスに10万ボルトが直撃。

 

「ピカチュウ、もう一度だ!」『ピッカチュゥウウウウッ!』

『マタドァアアアッ!』「くっ、戻れマタドガス!」

 

 さらに、力を振り絞った相棒ピカチュウの雷撃がマタドガスを襲い、戦闘不能にした。

 かなりギリギリの勝負だったな。ダメージ的に10万ボルトは三発当てないと倒せなかったし、耐久的に守るで一度時間稼ぎ出来れば、逆にマタドガスがヘドロ爆弾で倒せていただろう。単純に運の差と言える。

 

「行けっ、ピジョット!」「出番だ、ガーちゃん!」

『ピジョォァアアヴヴッ!』『ガァアアアォン!』

 

 続いての対面はメガピジョットとウィンディのガーちゃん(Lv80)。構成技とレベルの関係上、今回は圧倒的にシンの側が不利である。ここは場作りに徹するか、引っ込めるしかない。

 まぁ、戻したポケモンで対抗出来るかどうかは別問題だが。アローラガラガラを早くに失ってしまったのが痛いな。火傷をばら撒くウィンディをさっさと片付けるには彼が一番の適任だった。

 

「ガーちゃん、「だいもんじ」!」『ガヴォォオッ!』

「くっ……耐えて「すなかけ」!」『ピジョォアッ!』

 

 フム、シンは場作りを優先したようだ。敵のメインウェポンが大技である事を鑑みても正しい選択である。これが後々どう響くのか……。

 

「ならば「フレアドライブ」でトドメだ!」『ガァアアッ!』

『ピジョォアッ……!』「くっ、戻れピジョット!」

 

 だが、さすがに一発だけでは効果が薄く、フレアドライブで止めを刺された。これは仕方ない。むしろ良くやった方だろう。

 さて、シンの次なる一手は?

 

「行くぞ、プリン!」『プップリャ~!』

 

 おっと、切り札の相棒プリン(Lv82)を繰り出すか。

 ま、レベル差を考えれば仕方あるまい。フシギバナでは勝ち目は無く、何よりコジロウにはまだあのポケモンが残っている。くさタイプを温存したい気持ちは分かる。

 

「好きにさせるな、ガーちゃん! 「フレアドライブ」!」『バヴォゥッ!』

 

 しかし、コジロウのポケモンはどこまでも容赦がない。技構成はガチガチだし、ポケモンとの信頼も完璧だ。彼は他の幹部候補生には足りない物を持っている。その力があのシンをここまで追い詰めた。推したワタシの鼻も高くなるというもの。

 

「……プリン、「ふわふわドリームリサイタル」!」『プゥ~、ププ――――――』

「させるか! ガーちゃん、「フレアドライブ」で決めろ!」『ガァアアアアッ!』

 

 砂掛けによるデバフを物ともせずフレアドライブを当て、ふわふわドリームリサイタルすらも出鼻を挫こうと、もう一度フレアドライブを仕掛けるウィンディ。プリンを相手に反動技は危険だが、長期戦に持ち込まれると不利なのはコジロウ側なので、さっさと倒してしまうつもりなのだろう。

 

「――――――今だ、「スヤスヤおやすみタイム」!」『プリ~ン……』

『ガッ……!』「ガ、ガーちゃん!」

 

 だが、それは罠だった。眠りとダメージを同時に発現する相棒技スヤスヤおやすみタイムによって、ウィンディが一撃でダウンさせられる。反動ダメージを込みでも凄まじい威力である。完璧に射程圏内へ誘い込まれたな。

 

「……クソッ、頼んだぞ、ギャラドス! 「たきのぼり」!」『ギャラァアアアォッ!』

 

 しかし、ピンチは誰かのいいチャンス。相棒プリンは今、完全に無防備だ。超火力と超回復を両立したが故のデメリットである。いくらHPの高いプリンでも、メガギャラドスの猛攻を耐え切れる保証は無い。

 

「戻れ、プリン! 行け、フシギバナ!」『バナァアアアッ!』

 

 だが、入れ替えで躱された。みずタイプに抵抗力のあるフシギバナなだけあり、普通に耐え切っている。

 

「馬鹿め! そいつを待っていたんだよ! 「かみくだく」!」『ギャルヴォォォッ!』

「フシギバナ、「どくどく」!」『バナバナッ!』

「押し切れ、「かみくだく」!」『ギャォオオオッ!』

「うぐっ……「やどりぎのタネ」!」『バナナ……!』

「トドメだぁっ! 「かみくだく」!」『ギャラァアアアアアッ!』

『バ……ナ……』「お疲れ様……戻れ、フシギバナ!」

 

 とは言え、レベル差は如何ともし難く、素早さでも負けているので、噛み砕くでごり押しされてしまった。コジロウのギャラドスは確かドラゴンテールを持っているので場を荒らす事も出来た筈だが、眠り対策も兼ねてフシギバナの殲滅を優先したようだ。

 

「……プリン、「ころころスピンアタック」!」『プリャーッ!』

『ギャォォォ……!』「……戻れ、ギャラドス。よくやったぞ」

 

 そして、滝登りを一発貰ったものの、万全に近い状態で目を覚ました相棒プリンが、メガギャラドスを撃破する。

 これで最後の一体同士。ラストバトル、開始である。

 

「勝って来い、オムスター!」『キュゥギュゥゥッ!』

 

 現れるは、コジロウ最強の手持ちポケモン、オムスター(Lv86)。紫に変色したボディが特徴的な、色違いの個体だ。

 

「そいつは……」

「そうだ。お前らのおかげで手に入れられた、あのオムナイトさ。どうだ、強そうだろう?」

「ああ。……だからこそ、叩き潰してやるぜ!」

「いいぜ、掛かって来なぁ!」

「そうさせてもらう! 「ふわふわドリームタイム」!」『プリン!』

「させるかぁ! 「からをやぶる」で距離を取れ!」『キシャアアッ!』

 

 相棒プリンがふわふわドリームタイムを歌い出した瞬間、オムスターは殻を破る事で身軽になり、スヤスヤおやすみタイムで追撃を食らう前に距離を取る。コジロウもさっきのウィンディの敗北からシッカリと学んでいるようである。感心感心。

 

「……よし、もう一度「からをやぶる」だ!」『キュゥギュィイッ!』

 

 さらに、再び殻を破るで決定力をアップ。体力馬鹿のプリンを仕留めるには、強力な一撃を食らわせるしか無いのを分かっているのだろう。

 しかし、それをシンが許し続けるかと言われると、また別の話だ。

 

「「ころころスピンアタック」!」『プリャリャリャリャッ!』

 

 敵が時間を稼ぎながら力を溜めようとしているのが分かるや否や、シンは催眠戦術をさっさと切り捨て、ころころスピンアタックで猛攻を仕掛けた。逃げ回るオムスターを、風船とは思えない勢いで追い掛ける相棒プリン。何かシュールだな。

 さて、どっちが先に焦れるか……。

 

「オムスター、「いわなだれ」!」『オムスタァァアア!』

 

 と、コジロウがオムスターに岩雪崩を指示した。空気中の砂塵が圧縮・硬化する事で形成された岩石群が、雪崩となって相棒プリンに襲い掛かる。

 だが、元々命中率の低い技な上に動きながら発動したとあっては、そうそう当たりはしない。

 

「プリン、そのまま轢き潰せ!」『プゥゥゥリャアアアアアアアッ!』

 

 案の定、避けられる――――――どころか、正面から薙ぎ払われ、オムスターは相棒プリンのころころスピンアタックを諸に食らってしまった。

 いや、違う。よく見ると触手で上手く受け流している。守るを使ったのだ。

 

「……オムスター、そろそろ反撃だ! 「ハイドロポンプ」!」『キュギョォアアア!』

 

 しかも、そのまま後ろに回り込み、至近距離からハイドロポンプを食らわせ、逆に相棒プリンを吹っ飛ばし返した。

 

「くっ、やるじゃねぇか!」

「言っただろう! 俺はお前を倒しに来たんだってなぁ!」

 

 自分のエースと互角以上に戦うオムスターの姿に、シンが嬉しそうに鼻を擦り、コジロウがニヒルに笑みを浮かべる。

 いやはや、本当によくやる。

 さっきの攻防も、殻を破るで身軽になっていなければ、吹っ飛んでいたのはオムスターの方だったろう。それ程に相棒ポケモンの使う相棒技は脅威であり、それを往なして反撃に転じるオムスターが強く、指示役のコジロウが強かという事だ。

 正直、あのアオイ以上に強い天才シンが相手では、善戦こそすれど勝利は望めないと持っていたが、これはどっちが勝ってもおかしくない。

 

「プリン、地面に「プリプリほうふくビンタ」からの「スヤスヤおやすみタイム」!」

 

 それは対戦相手であるシンが一番分かっているのか、一気に勝負を仕掛けて来た。弾き飛ばされた相棒プリンに地面を殴打させる事で反転、急接近してスヤスヤおやすみタイムを直撃させた。あの一瞬でこんな事を思い付くとは、何とも型破りで天才的な戦闘センスである。

 

「……耐えろ、オムスター! 「いわなだれ」で怯ませて「ハイドロポンプ」!」『……キシャアアアアッ!』

 

 しかし、オムスターは倒れない。コジロウを悲しませまいとギリギリで持ち堪え、怒涛の反撃を繰り出した。

 

「クソがっ! プリン、「ころころスピンアタック」!」『……プリィィッ!』

 

 これには相棒プリンも堪らず目を覚まし、再度ころころスピンアタックを繰り出した。一撃で体力がレッドゾーンまで持って行かれた為、これ以上の遅延戦闘は望めない。まさにこれがラストアタック。

 

「「ハイドロポンプ」!」『プギャアアォッ!』

 

 そして、最後の力を振り絞ったオムスターが渾身のハイドロポンプを放ち、相棒プリンと正面衝突、両者共に動かなくなる。果たしてどっちが勝ったのか。

 

『プギィ……!』『プリャァ……!』

 

 結果はドロー。両者共倒れに終わった。

 

「……チッ、また勝てなかったぜッ!」

「いや、オレも負けなかっただけだよ」

 

 それぞれのエースを手元に戻したコジロウとシンが、互いの健闘を称え合った。これぞ男の友情である。泣けるね。

 さてさて、熱き決闘者たちの戦いは引き分けで終わったが、レディースの方はどうなる事やら。

 

「アタシが今ここにいるのはアンタのおかげ。でも、手加減はしないわよ?」

「もちろん。そもそも、加減して勝てる相手だとでも?」

「相変わらずの減らず口ねぇ。まぁいいわ、勝つのはアタシよ。あの時、初めて味わった本当の挫折……そして、そこから始まった栄達の道……その先にアンタがいると言うなら、叩きのめしてやるだけだわ!」

「やれるもんならやってみなっ! 七転八倒、上等! 私は何度挫かれても力尽くで通って来た! 私のチャンピオンロードは雑草だらけ……そう、私一色よ!」

「「バトル!」」

 

 お互いに煽り合い、絶対に勝つという自負の下、ムサシとアオイの戦いが始まった。

 

「行って、ハヤテ!」『ホォグルドォッ!』

「やっちゃいな、アーボック!」『シャァァボック!』

 

 初手は双方の偵察役、オニドリルのハヤテ(Lv75)とアーボック(Lv75)。

 

「ハヤテ、「ネコにこばん」!」『カァアアアッ!』

 

 さっそくオニドリルが猫に小判で目晦ましを食らわせる。彼女のオニドリルはこれが厄介なのだ。本来はただのお小遣い稼ぎにしかならない技をフラッシュの上位互換にまで昇華し、目を潰しつつダメージを与えてくる。

 おかげでアーボックの蛇睨みも見事に外した。普通は絶対に回避出来ない技なだけに、猫に小判の目晦ましがどれ程に面倒なのかが分かるだろう。

 

「よし、「ドリルライナー」だ!」『ホォグルアァッ!』

 

 さらに、オニドリルがドリルライナーで追撃。嘴を中心にドリルのように回転し、アーボックをドリドリに穿とうとする。

 

「躱して!」『アヴォァッ!』

 

 だが、アーボックは余裕で躱してしまった。コジロウ同様、ポケモンとの絆は深いようだな。

 

「「ふいうち」!」「くっ、「とんぼがえり」!」

 

 その後、さっさと逃げ出そうとしたオニドリルに、アーボックの不意打ちが刺さる。交代こそ出来たが、これは中々に痛い。オニドリルとしては、素早さを活かして無傷で引っ込むつもりだっただろうからな。

 

「行って、ユウキ!」『ブッブイッ!』

 

 入れ替えで出て来たのは、白銀の毛並みが美しい相棒イーブイのユウキ(Lv74)。進化後のポケモンたちをイメージした相棒技を八つも操る、万能選手である。

 

「くっ……「ふいうち」!」「当たらない! 「どばどばオーラ」!」

『ンン……ブイッ!』『シャボァァ……!』

 

 好きにはさせまいとアーボックが再び不意打ちを仕掛けるも、先程の目晦ましが効いてしまっているせいか外してしまい、相棒イーブイのどばどばオーラが直撃する。威力が90もある上に光の壁を張る効果もあるので、アオイの方が優位に立ったと言える。この場合、アーボックが特殊型かどうかは関係ない。相手はもう虫の息だからだ。

 

「「へびにらみ」!」「させない! 「めらめらバーン」!」

『イッブィィイッ!』『ボァ……』

 

 そして、蛇睨みが入る前に相棒イーブイがアーボックを下した。

 まぁ、当然と言えば当然だが。あの相棒イーブイの性格はせっかち。ギリギリだが、アーボックよりも素早く動けるのである。

 

「やっちゃって、ベロリンガ!」『ンベロォ~ン♪』

 

 ムサシの次なるポケモンは、舐め回しポケモンのベロリンガ(Lv75)。黄色の身体にクリーム色の模様が走った、色違いの個体だ。そこそこの火力と耐久力を持つバランス型のポケモンであり、技のデパートでもある。万能とまではいかないので、器用貧乏と言うべきかもしれない。

 

「ユウキ、「めらめらバーン」!」『ブィァッ!』

「ベロリンガ、「パワーウィップ」!」『ベロロロロォッ!』

 

 相棒イーブイがめらめらバーンを叩き込むが、ベロリンガは大して気にせずパワーウィップを食らわせた。火傷を負っていなければ、一撃で半死半生に追い込めたであろう。

 しかし、やはり素早さ勝負に持ち込まれると不利なのはベロリンガの方である。何故なら、相棒イーブイには吸収技のいきいきバブルがある。相棒技は全て威力が90もあるので、ダメージレースから言って、先にへばるのはベロリンガだろう。奴の体力はそこそこだからな。

 だが、それは相棒イーブイ側に問題が無ければ、という話だ。状態異常は一方通行ではない。

 

「ベロリンガ、「どくどく」!」『オヴェェッ!』

『ブィッ!?』「ユウキ!」

 

 体力が尽きる前に、ベロリンガが相棒イーブイを猛毒状態にした。

 

「クソッ、「いきいきバブル」!」『ブイァッ!』

『ベロ~ン……』「お疲れさん」

 

 その後、再三に亘るいきいきバブルと火傷のダメージでベロリンガは落ちたが、相棒イーブイの体力もイエローゾーンかつ猛毒状態であり、おそらく次の攻防で倒れる事だろう。

 その点、ベロリンガは充分役割を果たしたと言える。面倒な相棒系のポケモンは、多少の犠牲を払ってでも優先的に落としたいからである。

 ひとまず、これで一体ずつ手持ちを失った。二人共六体ずつ持っているので、残りは後五体ずつ。これは長丁場になりそうだ。

 

「行くのよ、カブトプス!」『プギャァアアス!』

 

 次にムサシが繰り出したのは、コジロウのオムスターと同じく、化石研究所とのパイプを繋いだ功績で与えられたカブトが進化した、カブトプス(Lv80)。進化前の面影がまるでない凶暴な化石ポケモンである。その見た目通りの物理アタッカーで、いわタイプにしては俊敏性も高い。

 

「カブトプス、「アクアジェット」!」『プシャアアアッ!』

『ブィァアアッ!』「くっ、戻ってユウキ!」

 

 さらに、先制技のアクアジェットも持つ為、こうして弱った相手からの反撃を許さない。弱点の多さを加味しても、育て上げれば頼りになるポケモンだ。絆も同期のオムスター並みに深いので、素のポテンシャル以上の力を発揮するだろう。

 

「敵討ちよ、ヒナゲシちゃん!」『ビュリィイイイリリリッ!』

 

 対するアオイが繰り出したのは、ワタッコのような色合いをしたラフレシアのヒナゲシ(Lv73)。状態異常を器用に使いこなす特殊アタッカーである。カブトプスはくさ技が四倍ダメージなので、対面的には最悪と言っていい。

 

「戻って、カブトプス! アンタが頼りよ、ラフレシア!」『フラァァアアアッ!』

 

 しかし、そんな事はムサシも先刻承知。くさ技を撃ってくるのを見越して、ラフレシア(Lv74)と交代した。まさかのラフレシア同士のミラーマッチだ。ヒナゲシのメガドレインが先に入っているが、正直大差ないだろう。こうなるとお互いに決め手が全く無いので、交代するしかない。

 

「戻って、ヒナゲシ! 行け、アキト!」『ブゥゥウウウウヴヴヴヴヴン!』

「戻りな、ラフレシア! もう一度よ、カブトプス!」『プギャァヴォッ!』

 

 予想通り、双方同時にポケモンを交代。出て来たのは、カブトプスとスピアーのアキト(Lv76)。

 

「アキト、メガシンカだ!」『ギャヴォォオオオオッ!』

 

 そして、出遭い頭にメガシンカするスピアー。見た目通り速度と攻撃力に極振りした尖った性能であり、アタッカーとしての性能ならカブトプスよりもずっと上である。

 

「カブトプス、「アクアジェット」で距離を取って!」『スプラッシャォオオオッ!』

 

 だが、カブトプスにはスピアーにはない先制技がある。アクアの力でジェットの限り縦横無尽に逃げ回る彼女を捕まえるのは至難の業だろう。

 

「そのまま「つるぎのまい」!」『プギャァアアアアッシュ!』

 

 さらに、剣の舞で決定力をアップ。どんどん手が付けられなくなって来た。

 

「調子に乗るなよ! アキト、「げきりん」!」『キャァァヴォォォッ!』

『プギィッ!?』「うへぇっ、マジで!?」

 

 しかし、攻撃力はともかく、素早さはメガスピアーの方が圧倒的に高い。アクアジェットで攻撃するのではなく距離を取るのは上手いが、何時までも逃げられると思ったら大間違いである。何せプテラやサンダースどころか、あのマルマインに迫る勢いなのだから。速さが足りてる。

 その上、攻撃力がカイリキーを超える百万パワーになってしまう為、例えそれが蜻蛉返りでも大ダメージを受ける事必至だ。今更だけど、あんな細身でメガギャラドスやメガカイロスと同レベルの攻撃力を発揮するって、どういう事なんだろうか……。

 

「……だけど不用意ね! 「いわなだれ」!」『プギャアアアアッ!』

 

 だが、ムサシもそのポケモンも、転んでも只では起きない。吹っ飛ばされながらも岩雪崩をお見舞いした。

 

「当たらなければどうという事は無い! 続けて「げきりん」!」『ガァアアアアッ!』

「何ですってぇ!? 「アクアジェット」で躱して!」『プシャアォッ!』

 

 しかし、常軌を逸した機動力を持ったメガスピアーにいわ技を当てるのは難しく、全弾回避された上に再び逆鱗をかまして来た。カブトプスはアクアジェットで何とか避けたが、このままではじり貧だろう。

 

『ギャォオオッ!』『プシュゥゥ……!』

 

 そして、とうとうメガスピアーのランスがカブトプスを捉えた。

 

「……今よ! 「いわなだれ」!」『キシャアアアアッ!』

『ブヴヴヴッ!』「アキト!」

 

 だが、それは罠であり、カブトプスはランスをガッシリと掴んで押さえ込むと、自分ごと岩雪崩を発生させ、メガスピアーに大ダメージを与えた。メガスピアーはアタック性能と引き換えに防御面が低いままなので、おそらく次は無い。

 

「そのまま「アクアジェット」よ!」「させるか! 「とんぼがえり」!」

 

 しかし、メガスピアーは仕留められる寸前に、力尽くで蜻蛉返りを使い、手持ちへ避難した。

 

「今度は確実に仕留めろ! ヒナゲシちゃん、「メガドレイン」!」『ヒニァアアアゲシャッ!』

『カッ……!』「……くぅっ! 戻って、カブトプス!」

 

 さらに、入れ替わりで再び現れた色違いのラフレシアがメガドレインで返り討ちにする。メガドレインを警戒した立ち回りをしていたムサシだったが、アオイが得意とするサイクル戦を捌き切れずに、エースの一角を落とされてしまった。

 さすがはアオイ、シンとは別ベクトルで面倒臭い奴である。知識だけでなく、それを活かす知恵と度胸も持ち合わせているし、いざとなれば外道な事も割とやる。悪女とは彼女のような者を言うのだろう。

 ……だが、ワタシは知っている。今アオイが相手をしているムサシもまた、一流の悪の華である事を。

 

「フフフッ……アンタの手の内、大体見せてもらったわ。結構な犠牲を払ったけど、本番はこれからよ」

 

 そして、ムサシは繰り出した。サイクル戦を得意とするアオイにとって、最悪な相手となるポケモンを。

 

「これがアタシの切り札――――――行きなさい、プテラ!」『ギュリィイイイイリリィッ!』

 

 ラフレシアそっくりの声で現れたのは、古代の翼竜ポケモン、プテラだ。メガシンカポケモンには敵わないが、それでも高い素早さと攻撃力を持つ高速アタッカー。

 しかし、彼にはもう一つの顔がある。それが、

 

「プテラ、メガシンカしてから「ステルスロック」!」『カァアアッ!』

 

 ムサシの指示で、プテラが黒い岩が疎らに生えた刺々しい姿にメガシンカを果たし、間髪入れず見えない岩をばら撒く。

 そう、これがプテラのもう一つの顔。サイクル戦の天敵にして、逆に相手にそれを強いて苦しめる、ステロ撒きのエースである。

 しかも、メガシンカを切って来た。これにより攻撃力と素早さに磨きが掛かり、メガスピアーでさえ追い抜いてしまう。同速はメガフーディンかマルマインしかいない。まさに対アオイ用の決戦兵器と言える。

 初めから出さなかったのは、手持ちの把握と相棒ポケモンや弱点ポケモンの消費を強いる為だろう。

 事実、メガスピアーは出た瞬間に瀕死が確定しているし、オニドリルやラフレシアでは仕留める前に押し負ける。ニドクインや相棒ピッピであればいい勝負をするかもしれないが、怯みや回復技も持ち合わせるメガプテラが相手では、どうなるかは分からない。

 そもそも、出た傍から弱る上に常に先手を取られるというのは、本当に辛いのだ。泣きっ面に蜂である。

 

「チクショウ! ヒナゲシちゃん、「ムーンフォース」!」『フリリィリリリッ!』

 

 色違いのラフレシアも決死の攻撃を仕掛けるが、一撃で仕留めるには至らない。細身な見た目に反して、案外硬いのだ、メガプテラは。

 だが、ムサシの嫌がらせはこれだけでは留まらない。

 

「オーッホッホッホッ! 貧弱貧弱ぅ! プテラ、「ふきとばし」! それから「はねやすめ」よ!」『カァアアアッ!』

『ブヴヴ……!』「ア、アキト……!」

 

 まずは吹き飛ばしで強制的に繰り出されたメガスピアーが仕留められ、次のポケモンが出るまでの間に羽休めでメガプテラが全快となり、

 

「クソッタレ! 行け、アンズちゃん! 「ドリルライナー」!」『ギャヴォオオオッ!』

「躱しなさい! そして、もう一度「ふきとばし」よ!」『ギュリリィィィッ!』

『ホグルァ……!』「ハ、ハヤテ!」

「仕留めなさい、「いわなだれ」!」『ギャゴァアアアアッ!』

『ホァアアッ!』「クソがぁっ!」

 

 さらに、せめて一太刀と放たれたニドクインのドリルライナーも難なく躱されてしまい、再び強制出場させられたオニドリルが岩雪崩で仕留められる。

 

「アンズちゃん、「どくづき」!」『ギュゥゥゥッ!』

「おっと、危ない。もう一度「ふきとばし」よ」『ガァォォッ!』

『ラァァッ……!』「ヒナゲシちゃん……「ムーンフォース」!」

「無駄よ! こっちの方が速いわ! 「いわなだれ」!」『ギュリィイイイリリッ!』

『フラァ……!』「くっ……!」

「ほらほら、もう一度「ふきとばし」よ!」『カァアアアアッ!』

「チックショウがぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 その後も、怯みを交えた鬼畜な強制交代によってニドクイン、ラフレシアもとうとう陥落。

 

「アカネちゃん、「コズミックパンチ」!」『オラァーッ!』

『ギョァアアアアッ!』「……戻って、プテラ。お疲れ様」

 

 さすがに相棒ピッピの暴力(しかも弱点技)には屈してしまったが、何の問題もない。何故なら、アオイにはもう手持ちがいないのだから。

 

「これで終わりよ。楽にしてあげなさい、ラッキー」『ラッキ~♪』

 

 そして、最後の最後に出て来たのがこれだ。ピンクの悪魔こと、ラッキーである。こいつは色違いだからピンクではないが。

 異常な体力と高い特防で特殊アタッカーを骨抜きにし、HPに物を言わせた継戦能力で並みの物理アタッカーを寄せ付けず、卵産みによって傷さえ癒してみせる、難攻不落の害悪要塞。それがラッキーだ。ついでにトライアタックで様々な状態異常も狙って来るから余計に質が悪い。どの辺が幸運ポケモンなのだろう。

 倒すには一撃必殺級のダメージを与えるしかないのだが……。

 

「あっ……」『ぴえん……』

 

 あ、絶望した。そりゃそうだよね。いくら相棒技が強力でも、ラッキーを一撃で仕留められる程ではない。

 そこからはもう、凄惨の一言だった。毒々、トライアタック、卵産み、小さくなる、という悪魔的な技構成をしているせいで相棒ピッピの攻撃は悉く外れ、降り掛かる状態異常が体力をどんどん削って行き、頑張って与えたダメージもすぐに全回復されてしまった。まさに踏んだり蹴ったりだ。

 むしろ、アオイはよくやった方である。自分の天敵であるメガプテラをようやく倒したと思ったら、ラッキーに孤軍奮闘を強いられたのだから。ついでに言えば、そこまでやってもまだラフレシアが残っていたりする。鬼か。

 おそらく、ワタシだったら勝負を投げ出している。「ふざけるなぁ!」と殴り掛かったかもしれない。それだけの事を、アオイはやらされたのだ。

 しかし、それは手の内が知られている、という情報アドバンテージの差が影響しているのも事実。ムサシがメガプテラを切り札に据えていたのがその証拠である。

 そんな不利な中、ムサシの手持ちの半数以上を仕留めたアオイもまた、素晴らしいトレーナーと言える。お互いの手札も知れた事だし、今後に期待するとしよう。

 

「……フゥ、負けたよ。完敗ね」

「でも、それくらいで諦めるアンタじゃないでしょ?」

「もちろん」

 

 それは本人たちが一番分かっているようで、戦いが終わってみれば、笑顔で握手を交わしていた。彼女らはライバルであると同時に、旅を共にした仲間でもあるのだ。

 さて、試合も終わった事だし、ワタシも役目を果たすとするか。

 

「――――――皆さん、お疲れ様です。これにて試合は終了。一人は引き分けでしたが、負けではありませんし……認めましょう。これで今日から貴方たちは候補生を卒業し、正式にロケット団幹部を任命します。追ってサカキ様からもお言葉を頂けるでしょう。今日はもう遅いですし、英気を養いなさい」

「「はっ!」」『了解ですのにゃ!』

 

 ムサシ、コジロウ、ニャースが恭しく跪き、幹部専用のバッチを受け取る。ミュウは上った月を見上げているが、まぁいいでしょう。

 

「貴方たちも、協力ありがとうございます。この埋め合わせはいずれ」

「いいって事よ」「良い薬にもなったからね」「くやし~」

 

 何か一人納得していないようだが、アオイたちも概ね好意的な返事をしてくれた。

 こうして、昇進を巡るポケモン勝負は、ムサシたちの勝利という形で幕を閉じた。




◆ロケット団

 カントー地方を中心に悪事を働くポケモンマフィア。本拠地はタマムシシティの地下秘密基地で、目標は分かり易く世界征服。マフィアと言うだけあって、場合によってはポケモンを殺めてしまう事すらある悪の軍団だが、首領であるサカキ自体はポケモンを大切にする人物なので、単に暴走し易い下っ端がいるだけのような気がする。
 さらに、この世界線では“ある人物”によって内部分裂寸前の状態であり、アオイというイレギュラーの介入を機に「病巣」を排除して、自浄する事に成功した。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。