ポケットモンスター Let’s Go! ピッピ   作:ディヴァ子

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マツリカ:「おひさしブリタ~ニア~♪」
ミサワ:「タイタンの物真似かい?」


ウーハーとバリラナイ雷鳥

 俺の名はミサワ・ダイチ。オーレン諸島オボン島のジムリーダーを務めている者だ。専門はじめんタイプで、皆からは「大地のミサワ」と呼ばれる事が多い。名前ひっくり返しただけとか言わないで。

 船便の関係上、俺がオーレン諸島最初の関門と言えなくもないが、オーレンリーグは順序に決まりは無いので、実力は皆ほぼ互角である。全員、伝説のポケモンを所持してるしね。俺のがそうだって知ったのは最近だけど。

 さて、そんな俺だが、つい先日面白い観光客に巡り合った。カントーから来た本土人であり、余所者故の無警戒さで主ポケモンの巣穴に近付き襲われていた所に偶然出くわし、そのまま成り行きでチームを組んで、潜んでいたオーレンピジョットを見事に撃破する事が出来た。

 その観光客というのが、シン・トレース、アオイ・シズナ、マツリカ(フルネーム不明)の三人だ。彼らはポケモントレーナーであり、旅立ちから半月もしない内に本土のバッチを7つも集めた猛者である。場合によっては数年掛かる武者修行を、この短期間で成し遂げたのは、まさに才能と言えるだろう。

 だが、そう言った類は稀ながら過去にもいたし、ジムリーダーは突破出来ても四天王で躓いて(特にカンナで)挫折してしまった才ある若者も沢山見てきたので、そういう意味では物珍しいだけのトレーナーだった。

 しかし、この三人は今まで見てきた者たちとは、何処か違う。具体的に“こう”とは言えないが、何となく雰囲気が違った。抽象的に表現するなら、シンは「光」でアオイは「闇」、マツリカは「混沌」といった感じか。それもハッキリと明暗が分けられている訳でもなく、皆一様に何処かが捻じくれていた。

 そういう人間は大抵の場合、何かしら特別な体験……もしくは“トラウマ”を抱えているものだ。あの歳で、一体どんな経験をして来たのやら。何れにしろ、他の有象無象とは一味違う事だけは確かである。

 だので、俺は「三手に分かれる」という彼らの提案に便乗する形で、マツリカの保護観察役を買って出た。

 彼女は三人の中で、一番不可思議な子供だ。率直なシンや腹に一物抱えていそうなアオイと違い、何を考えているのかさっぱり分からない。フェアリータイプの専門家らしく、ほやーんとしているかと思えば、妙に大人びた言動を度々見せてくる。

 こんな不思議少女、放っておくのは勿体無い。是非とも何をやらかし、どんな混沌を生み出すのか、見てみたいじゃないか。これでもカオス理論が好きなのでね。

 という訳で、「単純に旅行がしたい」と言うマツリカに随伴する事と相成ったのだが、

 

「ふぇありーいっぱーい♪」

『フリフリ~♪』『ラフリィィン♪』『ニャ~ン♪』『ンベロ~♪』『ピクシ~♪』『プクリィ~♪』『モフ』『バウ』

 

 開始早々ほっこりした。何このファンシーな空間。マツリカを中心に、様々なフェアリータイプのポケモンが寄り添ってるんだけど。オーレンバタフリーに、オーレンラフレシア、オーレンニャース、オーレンベロリンガ、通常のピクシーとプクリン、彼女の手持ちのオーレンサイホーンなど、錚々たる顔ぶれである(ウインディは除く)。実にゆるふわしている。一緒に混ざりたいくらいだ。

 

『フシャーッ!』

「……うーん、やはり駄目か」

 

 だが、試しに近付いてみると、一番手前にいたオーレンニャースに威嚇された。相も変わらず、俺はフェアリータイプに嫌われているらしい。何がそんなに気に食わないのだろう。

 しかし、俺はめげないぞ。見た感じ、普段よりかは警戒心が薄れている。ここは――――――、

 

「ほぉ~ら、美味しい「いかりまんじゅう」だよ~?」

 

 餌付けだ! ※捕獲目的以外で安易に野生のポケモンへ餌付けをしてはいけません。

 

『……にゃあ』

 

 おお、思った通り、訝しげだが寄って来たぞ。よしよし、このままどうにか仲良しに……、

 

 ――――――ズワォオオオオッ!

 

『にゃー!?』

「ああっ!」

 

 だが、あと一歩で手が届くという所で、突然響いた爆音により、驚いたポケモンたちが離散してしまった。何て事を。一体何処のどいつだ?

 ……いや、というか、真面目にこの爆発は何だ?

 

「あっちー」

「「ニュートン山」の方か!」

 

 マツリカの指差す方を見てみれば、ニュートン山の麓辺りで煙が上がっている。何が原因かは知らないが、その後も断続的に爆発が起こっている事を鑑みるに、元凶は未だにあそこに存在するのだろう。オボン島を預かる身として、確かめに行かねば。

 

「マツリカちゃんは……どうする?」

 

 保護を買って出た身としては、ここに留まって貰うべきなのだろうが、しかし、この子は普通じゃないし真面じゃない。あの二人に好んで付き添うような女の子だからね。過保護に接するより手綱を握るような感覚で付き合う方が、お互いの為であろう。

 

「いくー」

 

 ほらね、やっぱりこうなった。

 ――――――全く、俺も悪い大人だね。善き見本である前に、自分の好奇心を優先するのだから。研究者の性かな?

 ともかく、俺たちはそれぞれのポケモンに跨り、現場へ急行した。

 ちなみに、マツリカが乗っているのはウインディで、俺の相棒はオーレンのドードリオだ。タイプはじめん/ひこう。原種と違って特殊寄りであり、姿形も大分違う。ジョウト地方に住むキリンリキの如く頭部二つが尻尾のように生えている上に明確な翼が見えるので、初見だと別のポケモンに勘違いされる事は必至である。

 そのステータスは、こんな感じ。

 

◆ドードリオ(オーレンのすがた)

 

・分類:ポケモン

・タイプ:じめん/ひこう

・レベル:85

・性別:♂

・種族値: HP:60 A:60 B:70 C:110 D:70 S:110 合計:470

・図鑑説明

 警戒心が非常に強く、並大抵の愛情では決して靡かないが、一度信頼を置いたトレーナーには何処までも付き従う義理堅さを持つ。尻尾の双頭は高性能なレーダーで、360度死角が存在しない。大地の力を用いた強力な攻撃を行う。

 

 実に理想的な種族配分だ。無駄が殆どない。オーレンの充実した技マシンのおかげで、覚える技も一味違う。俺の切り札がグラードンなら、先鋒役はこのドードリオである。

 実際、彼は多くのトレーナーを単騎で返り討ちにして来た実力者だ。俺からの信頼も厚い。彼がいれば、大抵の事は解決するだろう。例え相手が伝説のポケモンだとしても。

 ……そう思っていた時期が、俺にもありました。

 

「「なぁにこれぇ?」」

 

 だってさ、ポケモンと素手で互角に殴り合う人間が目の前に居たら、どうしていいか分からなくなりません?

 それとも俺の感性がおかしいのか……いや、そこだけは断固否定させて貰おう。おかしいのは、あの人間である。

 ――――――って、ちょっと待て、あの人って……、

 

「凄まじいパワーだ! 貴様、かくとうタイプだな? ならば、全力で叩きのめしてくれよう! ウー! ハーッ!」

 

 四天王のシバさんじゃん。こんな所で何をしてるんだ、あの人は。

 

『バリバラヌッ!』

 

 しかも、対戦相手はサンダーに良く似た鳥ポケモン。原種と違って下半身の発達が著しく、その反面翼は飾り程度にしかない。形状的にドードーやドードリオと同じく、走る事に特化した種族なのだろう。

 確かガラルにはカントーの伝説の三鳥と似通った鳥ポケモンが三竦みを成していると風の噂で聞いたが、あれがそうなのだろうか?

 ともかく、そのガラルサンダーと四天王のシバが、草原の真ん中で睨みを聞かせ合っている。

 さっきの爆発音の原因が彼らだとすると、交戦したはいいが予想以上に拮抗してしまった為、今のような膠着状態になったのだと思われる。

 うーん、意味不明だ。何がどうしてこうなった。

 

「さぁ、答えろ! ……いかり饅頭は何処にある!」

 

 チョウジタウンに行け。

 いや、ダイタウンでも売ってるから麓に降りろ。俺のはあげない。何となく嫌だから。

 

『………………』

 

 すると、ガラルサンダーがサッと目を逸らした。

 その仕草、ま、まさか……そういう事、なのか?

 

「ねーねー、もしかしてあのとりさん……」

「言わんといてあげて」

 

 おそらくだが、あの鳥、シバさんのいかり饅頭を盗み食いしてしまったのだろう。シバさんがいかり饅頭を好んでいるのは有名な話。食べ物の恨みは恐ろしいと言うし、彼もそのせいで怒っているのかもしれない。

 合点が行ったと同時に、呆れ果てた。ホント、何してんだお前ら。

 

『バリバァアアン!』

「ぬぅん!」

 

 しかし、理由が判明した所で、止められるかどうかは別問題だ。ガラルサンダーは雷鳴轟く飛び蹴りを放ってるし、シバさんは平気でそれを防いでるし。

 うーん、真面なポケモントレーナーが関わっちゃいけないような気がする。帰っちゃ駄目かな?

 

「……って言うか、凄いねキミ」

 

 それはそれとして、隣で“シバさんとガラルサンダーの戦闘シーン”を超高速で描くマツリカの姿に、俺は思わず脱帽した。ラフ画とは言え、この速さは正直に凄いと思う。手に残像が出来てるもん。

 

「かくのはとくいぶんやだからー」

 

 そういう問題だろうか。普通は得意分野だからと言って、「シロガネ三十六景」を描いたクズハ・ホクシンみたいな真似は出来ないと思うんだけど。どういう動体視力と瞬間記憶能力を持っているんだ、この子は。

 

「ウーハウハウハウハウゥゥハァアアアッ!」

『ギャォオオオッ!』

 

 そうこうしている内に、戦況が変化した。何とシバさんが推し始めたのである。そんな馬鹿な。人間を卒業しないで下さい、シバさん。

 

「知らぬと言うなら仕方なし! 我が拳の錆となるがいい!」

「だーめー!」『バウヴァアアアッ!』

「ぬぉおおおおっ!?」

 

 だが、シバさんがいよいよ止めを刺さんと拳を振り上げた所で、マツリカちゃんが待ったを掛ける。ウインディのフレアドライブで。物理的過ぎる……。

 

「ぬぅ……どういうつもりだ、見知らぬ少女よ。そいつは饅頭泥棒なのだぞ?」

「いいおとなが、おまんじゅうのいっこやにこで、がたがたさわがないのー!」

「ぬぬぬ……!」

 

 うーむ、ド正論。確かに良い大人のやる事じゃないわな。

 

「そんなにおまんじゅうがほしいなら、わたしのあげるー」

「何ッ、それは本当か!?」『バリバラヌッ!』

 

 幼女に餌付けされる四天王と伝説の鳥ポケモンがそこにいた。それでいいのかアンタら。

 つーか、お前はさっき盗み食いしたばかりだろう、ガラルサンダー。意地汚いにも程がある。本当に伝説のポケモンなのか?

 あーあー、顎の下撫でられちゃってまぁ……。

 とりあえず、これで万事解決――――――なのかぁ?

 正直、かなり釈然としないのだが。怪我人が出なかっただけ、良しとしよう。尚シバさんは人間を辞めているので除く物とする。

 ともかく、これで謎の爆発事件は一件落着……と思った、その時。

 

『バリバリルゥウウッ!』

 

 突如、青天の霹靂が轟いた。大木のように太い雷がシバさんたち目掛けて叩き落ちる。幸いマツリカはガラルサンダーに乗せられる形で逃げ果せたものの、一歩間違えば死人が出ていた。シバさんは直撃したけど、気絶しているだけみたいだから別にいいや。

 

「……あれは!」

 

 誰がこんな馬鹿な真似をしたのかと空を見上げると、そこには稲妻迸る原種のサンダーと、その背に仁王立ちする、とても見覚えのある男の姿が。

 癖の強いギザギザの黒髪に吊り目という高圧的な顔立ちで、黄・黒・緑の無限光(アイン・ソフ・オウル)が描かれた赤シャツの上から黒地に白いラインが入ったロングコートを羽織り、やたらと刺々しいアームド仕様のズボンを穿いているなど、何処の魔王だと言わんばかりの容姿をしている。

 

「――――――マゴ島を治めるジムリーダーの君が、わざわざ何をしに来たのだ、マンジョウメくん?」

「略さずきちんと呼べ。オレの名は……一、十、百、千、マンジョウメ・サンダーぁ!」

 

 そう、彼こそはマゴ島のジムリーダーを務める男、マンジョウメ・サンダー・ジューンブライドである。マンジョウメ・サンダーが苗字で、ジューンブライド(通称:ジュン)が名前だ。海外の出身らしく、貴族の末裔なんだとか。

 まぁ、そんな事はどうでも良いとして、わざわざ海を渡ってまで彼は一体何をしに来たのだろう。少なくとも観光だとか、穏便な理由ではない気がする。

 

「質問に答えよう! オレはそこの余所者を排除しに来たのさ! このオレの相棒たる、サンダーの紛い物をな!」

 

 ジュンはマツリカを乗せたガラルサンダーをビシッと指差して、そう宣った。つまりは縄張り争いみたいな物らしい。それで人がいるのもお構いなしにサンダーするとか、迷惑千万な奴である。昔からそうだが。

 

「なんでそんなことするのー? このこはまいごなだけだよー?」

 

 当然、マツリカが抗議する。……えっ、迷子なの、その鳥?

 

「知れた事! 生物は己の縄張りを侵される事を良しとしない! ここオーレン諸島はサンダーを含む三鳥の縄張りだ。そこに似たような輩が現れたとなれば、排除するのは当然だろう!」

 

 アローラやガラルの姿のポケモンが居るのに今更何を言うのかと思ってしまいがちだが、オーレン諸島に住まうポケモンたちとガラルサンダーとでは事情が違う。他のリージョンフォームはオーレン諸島の環境に影響を受けて後天的に変化した物だが、ガラルサンダーはポッと出で現れた謂わば外来種だ。孤島群という閉鎖空間に外来生物が持ち込まれた先に待つのは破滅である。

 だから、ジュンの対応は強ち間違ってはいない。人を巻き添えにするのは大問題だけど。

 

「いじめちゃだめー!」

 

 しかし、そんな事情を察せられる程、マツリカは大人ではなかった。

 いや、実は理解しているのかもしれないが、納得はしていないのだろう。聞く所によると、彼女も絶賛迷子中らしいので、ガラルサンダーに同情しているのかもしれない。ガラルサンダーが本当にただの迷子なら、の話だが。

 

「知らん! そんな事はオレの管轄外だ! 邪魔立てするなら、お前も排除するまでだぁ!」

 

 むろん、ジュンが聞く耳を持つ訳がなかった。

 彼は貴族の末裔かつ末弟でジムリーダーという複雑怪奇な立場と環境のせいで色々と屈折してしまっており、そのせいで過激な思考に陥りがちで、言った事は本当にやってしまう男なのだ。このままではマツリカが危ない。

 

「よせ、マンジョウメ! その子を預かっている身として、これ以上の狼藉は許さないぞ!」

「マンジョウメ・サンダーと呼べ! ……フン、貴様の知り合いだったか。それは悪い事をしたと言いたい所だが、そんなの知らんなぁ! オレの雷撃で全て消し飛ばしてやる!」

「……それ、じめんタイプの使い手に言う台詞か?」

「やかましい! いいから掛かって来い!」

 

 よし、相変わらず単純で助かった。挑発には直ぐに乗っかると思っていたよ。

 

「サンダーは奴を仕留めろ!」「何ィ!?」

 

 だが、勝負が始まる前に、ジュンがサンダーにガラルサンダーへの攻撃を命じた。口からプラズマの塊を撃ち出す。

 しまった、さすがに甘く見過ぎたか。まさか、自分の切り札を追撃に回すとはな。

 

「逃げろ、マツリカちゃん!」「ひゃー!」『ギャルルァアアッ!』

 

 俺の迫真な声に素早く反応したガラルサンダーが、マツリカを乗せたまま走り出す。それをジュンのサンダーが空中から襲い掛かる。

 

『バリバラヌ!』『バリバリル!』

 

 幾ら持久力にも優れる走鳥類とは言え、空から狙われ続けていたら身が持たない――――――と思っていたら、何とガラルサンダーの身体が浮き上がった。凄まじい助走の果てに空中に躍り出たのである。

 どうやって飛び続けているのかは疑問だが、箒のような尾羽から何かが噴き出ているので、それで飛行しているのだろう。ミサイルみたいな奴だ。ガラル三鳥は渡りを行うと言うが、あれなら納得出来る。

 

「さぁ……お望み通り、ポケモンバトルと行こうか」

「くっ……」

 

 そして、こっちもこっちで戦いが始まる。予定とは少し違うが、今更言っても仕方あるまい。

 ようは倒してしまえばいのだろう?

 さっさとこの馬鹿を片付けて、マツリカを救出だ。

 

「「バトル!」」

 

 ――――――ジムリーダーのマンジョウメ・サンダーが勝負を仕掛けて来たッ!




◆サンダー(ガラルのすがた)

・分類:けんきゃくポケモン
・タイプ:かくとう/ひこう
・性別:ふめい
・特性:まけんき→無効化中
・種族値
 HP:90
 こうげき:125
 ぼうぎょ:90
 とくこう:85
 とくぼう:90
 すばやさ:100
・図鑑説明
 羽毛が擦れる時、バチバチと電気のような音がする事から、サンダーと呼ばれてきたポケモン。一蹴りでダンプカーを粉々にする脚力を持つ。時速300キロで山を駆けるという。渡りを行い、何十年に一度かの間隔でカンムリ雪原にやって来る。
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