ポケットモンスター Let’s Go! ピッピ   作:ディヴァ子

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アオイ:「そろそろ、この旅も終わりが見えて来たかしらね~?」
シン:「オレはもっとお前と旅行したいけどなー」
マツリカ&カリン:「「ヒューヒュー♪」」


最果ての楽園と時の旅人

 べつのひ~♪

 

「いよいよだね!」「もうすぐよ!」

「そう、だな……」

 

 私たちは優雅な船旅に身を任せていた。

 ティアーザスターミーたちの企みを、オーレンスターミーたちやジムリーダーの皆さん、ゲストの方々と協力して何とか退けた後、せっかく合流したので、そのまま旅仲間でオーレン巡りをしよう、という事になったのである。

 ちなみに、ミサワ氏とは全員が戦いました。流石に手の内が分かっている相手にはそこまで苦労はせず、無事にバッチゲット。アンズちゃんに続き、ハヤテとヒナゲシちゃんもオーレン化したのも大きい。オボン島(と近くのオレン島)で激戦を繰り広げた影響だとか。それは嬉しいが、ハヤテは何故ゴースト/ひこうになったのか……。

 さらに、他の連中ともその場でバトル。ジュンも結構強かったが、ユウギには一番苦戦した。スピードバトルというどっかで聞いた事のある形式は体験出来なかったが、スタンディングでも祖父譲りの馬火力で押されに押されまくった。火傷で物理殺してくるの止めーや。

 そんなこんなで、結果的にバッチを四つ揃え、「つららばり」「れんごく」「でんじほう」「だいちのちから」の技マシンを手に入れた。二つ程ロマン技なの草w。でも氷柱針と大地の力は普通に良い技なのでありがとう。

 ……で、今の面子はこんな感じ。

 

《私のメンバー》

 

◆相棒ピッピ(アカネ)Lv91:「ゆびをふる」「ウルトラクッキング」「コズミックパンチ」「ムーンフォース」

◆オーレンオニドリル(ハヤテ)Lv89:「ネコにこばん」「ステルスバード」「ドリルライナー」「とんぼがえり」

◆オーレンラフレシア(ヒナゲシ)Lv86:「ヘドロばくだん」「メガドレイン」「ムーンフォース」「どくどく」

◆スピアー(アキト)《メガシンカ》Lv89:「どくづき」「とんぼがえり」「げきりん」「ドリルライナー」

◆オーレンニドクイン(アンズ)Lv86:「どくづき」「れいとうビーム」「りゅうのはどう」「だいちのちから」

◆相棒イーブイ(ユウキ)Lv88:「めらめらバーン」「いきいきバブル」「びりびりエレキ」「どばどばオーラ」

 

《シンくんのメンバー》

 

◆相棒プリン Lv92:「ふわふわドリームリサイタル」「ころころスピンアタック」「プリプリほうふくビンタ」「スヤスヤおやすみタイム」

◆相棒ピカチュウ Lv89:「ばちばちアクセル」「10まんボルト」「ふわふわフォール」「ざぶざぶサーフ」

◆ピジョット 《メガシンカ》Lv91:「ねっぷう」「エアスラッシュ」「すなかけ」「はねやすめ」

◆フシギバナ Lv88:「メガドレイン」「やどりぎのタネ」「どくどく」「まもる」

◆アローラガラガラ Lv92:「シャドーボーン」「フレアドライブ」「ホネブーメラン」「おにび」

 

《マツリカちゃんのメンバー》

 

◆バリヤード(バリバリ)Lv82:「サイコキネシス」「ひかりのかべ」「リフレクター」「マジカルシャイン」

◆プクリン(おやかたさま)Lv84:「マジカルシャイン」「トライアタック」「10まんボルト」「はかいこうせん」

◆アローラキュウコン(キュウ)Lv84:「ふぶき」「マジカルシャイン」「あやしいひかり」「わるだくみ」

◆オーレンウインディ(バウワウ)Lv98:「じゃれつく」「おにび」「げきりん」「フレアドライブ」

◆オーレンサイホーン(ドンベェ)Lv78:「じゃれつく」「メガドレイン」「ねむる」「じこさいせい」

◆ガラルサンダー(ドードー)Lv77:「みきり」「らいめいげり」「ドリルくちばし」「とんぼがえり」

 

 マツリカちゃん、何気に伝説のポケモン(ただしかくとうタイプ)ゲットしてる……。

 全体的にレベルも上がったし、もはやカントー地方に敵はいないと言っても過言じゃない気もする。原典のレッドよりレベル上なんだよなぁ。

 しかし、レベルだけが全てではないのがポケモン勝負。それにこの世界の四天王は自重する気が一切ないから、伝説のポケモンも平然と使ってくるだろう。本当に安心出来ないわー。

 ともかく、準備は整った。一日観光しつつ休息を取って、万全を期す。ウミガメスープ、意外と美味しかったです。

 そして、私たちはオーレン諸島のチャンピオンが居るという、最果ての孤島――――――「ナナ島」へ船出していた。

 地図の何処にも載っていない、四つのジムバッチを集めた者だけが辿り着ける島。ミサワたち曰く、“そんなに広くは無いが、とても美しく緑の溢れる楽園”だとか。詩的で素敵ですね。くさタイプやむしタイプがいっぱいいるんだろうなぁ~。

 さて、そんな緑の楽園へ私たちは向かっている訳だが、一つ問題が。

 

「……で、何でまだいるのかしらぁ~?」「何でかしらねぇ~?」

 

 何故かカリンとかいうアバズレが付いてきたのだ。惚けやがって。将来の四天王だからって調子に乗るなよ。

 

「ハァ……」

 

 ほら、シンくんも疲れてるじゃん!

 

「アオイおねえちゃんたちのせいだとおもうよ~?」

 

 黙らっしゃい!

 貴様に何が分かるぅ、マツリカァーッ!

 

「……それにしても、何時になったら着くのかしらねぇ?」

 

 カリンが船縁の柵を背に大海原を見渡しながら呟く。

 癪だが、確かにそうね。かれこれ二時間くらい波間を走ってるけど、島どころか岩礁一つ見えないし。これ、軽く遭難してない?

 

「あ、アオイ! あれ!」「おお……!」

 

 とか何とか言っていたら、オーシャンブルーの平原に、ポツンと浮かぶ島が。間違いない。地図に表示されない、緑の楽園。ナナ島だ。という事で、上陸!

 

「奇麗な島ね……」

 

 カリンが波風に揺れる髪を遊びながら、ポツリと漏らす。くそぅ、画になるなぁ!

 しかし、本当に美しい島である。深緑の樹々が生い茂り、清らかな小川がせせらいでいる。海岸線はリアス式と砂浜が混在していて、暮らしているポケモンも大分違う。実に自然豊かで、静かな島だ。

 その代わり、人工物は一切見当たらず、文明や文化の影も形もない。漂流物すら無いので、おそらくはポケモンが食べてしまったのだろう。はがねタイプとか、普通に金属を食べるしね。

 むろん、整備された道などある筈もなく、簡素な獣道が幾つかあるのみ。まさに秘境中の秘境だ。こんな所に居るのか、オーレンリーグのチャンピオン。

 

「……どうしようか?」「とりあえず、虫よけスプレーでも掛けて、進んでみるしかないんじゃない?」

 

 幸い、島の面積はそこまでではない……というか、南鳥島ぐらいしかない。多少の起伏はあれど山と呼べるようなものは無く、何処までも平坦な大地が広がっている。それでも川が流れているのは、島の中心に聳える結晶塔から湧き出る清水のおかげだろう。それにより淡水の確保が容易になっている。

 ただ、オーレン諸島でも群を抜いて南にあるので、ともかく暑い。動植物が繁栄するには持って来いだが、幼気な子供が過ごすには厳しい環境である。

 

「バッチが行く先を示してくれるわ」

 

 ここでカリンの出しゃばり。言われんでも気付いとるわい。

 そう、バッチを四つ組み合わせると羅針盤となり、島の何処かに潜むチャンピオンの下へ導いてくれるのだ。おかげで、島まで真っ直ぐ来れたし、迷子になる心配もない。歩き易いかどうかは別だけど。

 

『フリフリ~♪』「あ、バタフリー」

『ブゥ~ン!』「こっちはスピアーがいるぞ」

『クアァヴォオオン!』「ストライク~」

『キシャアアッ!』「カイロスが喧嘩してるわね」

 

 予想通り、むしポケモンが群生しているようである。

 孤島というのは生物相が限られ易い。狭過ぎるので、種類が多いと途端にニッチの食い合いが始まってしまうのだ。大抵は空を飛べる鳥や虫を中心とした食物連鎖が成り立つ事が多い。

 ポケモンの場合は、むしタイプも鳥並に馬鹿デカい上にくさタイプも普通に動けるので、とり・むし・くさによる三つ巴の状態なのだろう。

 事実、道中でもオーレンウツボットやオーレンフシギバナが、とりポケモンやむしポケモンに襲い掛かっていた。

 ちなみに、オーレンのフシギバナの図鑑説明は以下の通り。

 

◆フシギバナ(オーレンのすがた)

 

・分類:フラワーポケモン

・タイプ:くさ/ドラゴン

・レベル:68

・性別:♂

・種族値: HP:100 A:80 B:103 C:110 D:102 S:80 合計:575

・図鑑説明

 蕾が花開き、ドラゴンの力に目覚めた。毒気は失ったが、代わりに高い体力と凄まじいパワーを得ている。背中の花から撃ち出される種は、周囲の物を纏めて薙ぎ倒す強力な爆弾である。

 

 まさかのアローラナッシーと同じタイプである。こんな暑い場所で暮らしていれば、寒さに弱くもなるわな。

 

「……川にはコイキングしか居ないな」

 

 逆に小川の生物相はお世辞にも広いとは言えず、コイキングばかり。通常種(みず)とオーレン種(みず/でんき)が混在している辺り、オーレン種が通常種を捕食する関係のみが成り立っているのだろう。やたらと限定的だが、島の生態系ではあるあるだ。

 ……で、肥え太ったオーレンコイキングを、とりポケモンや飛べるむしポケモンたちが掻っ攫っていくと。なるほど、良く出来ている。オーレンコイキング、通常種と違って凄く美味しそうだもんなぁ……。

 

「――――――っていうか、ぜんぜんおそわれないねー」

「そう言えばそうね。何でかしら?」

 

 次々と顔を出す野生のポケモンを観察していたマツリカちゃんが首を傾げ、カリンのアバズレもそれに追従する。

 確かに、野生とは思えないくらいに人慣れしてるわね。木の実とか投げたら、普通にパクついてくれたし。

 人気のない島に、人慣れしたポケモンが群生している。中々にミステリーだな。チャンピオンが餌付けしてるのかな?

 

「……アオイ!」「あっ……!」

 

 そんなこんなで、道なき道を進む事、一時間。不自然に開けた場所に出た。その中心にはこの島唯一と思われる、古びた石造りの祠が一つ。何処となく、ジョウト地方の「ウバメの森」にある祠にちょっと雰囲気が似ている気がする。気のせいかもしれないけど。

 

『ミュウ~?』

 

 さらに、そこにはとても珍しい、色違いのミュウがフワフワと遊んでいた。水色の毛並みが木漏れ日の中で煌めき、とても美しい。

 色違いのミュウがここにいるという事は、やはりここはゲームで言う「さいはてのことう」なのか、それとも……?

 と、出くわした摩訶不思議に頭を捻っていた、その時。

 

『………………』

 

 突如、祠の真上に時空の扉が開き、穴の中から一人の少年が、まるでミュウを庇うように舞い降りた。

 ショートボブの茶髪に太い眉毛。健康的な肌色に、少女と見紛う程に可愛らしい顔立ち。白い半袖のYシャツに濃緑色のズボンという芋臭い格好、それに似合わぬガチな画材道具の数々。かなり地味だが、親しみ易い雰囲気である。

 

『ビィ~♪』

 

 そして、彼の周囲を飛び交う、球根のような(もしくはラッキョウのような)頭に妖精を思わせる小さな胴体が付いた、不思議なポケモン。円らな瞳でこちらを見ながら、背中の二枚翅で宙を舞う姿は、大変に可愛らしい。体色がピンクともなれば、尚の事。

 ――――――間違いない。時渡りポケモンのセレビィだ。色違いとは珍しいな。

 という事は、あの少年はもしかして……、

 

『………………』『ミュミュ~♪』『ビッビィ~♪』

 

 いや、笑ってないで何か言えよ。少年も幻組も。

 と、ともかく、彼がオーレンリーグのチャンピオンなのだろう。サトシみたいな力強い瞳で、GSボール構えてるし。ボールの中身が誰なのかは言うまでもあるまい。

 余談だが、腰のベルトには他にもプレシャスボールと思しき物が幾つかくっ付いている。GSボールと合わせれば、合計で六個。フル装備とは恐れ入るね。

 

「え、えっと、それじゃあ私から――――――」

「ハイ、そこまで」

 

 だが、名無しの少年チャンピオンに挑もうとした、その瞬間に待ったが掛かった。

 

「「「ブ、ブルー!?」」」

「ハーイ、久し振りねぇ」

 

 声の主は、まさかのブルー。

 

「……ようせいポケモンの?」

「いや、どう見ても違うだろ」

 

 言うと思ったけどさぁ!

 それにしても何時の間に、どうしてこんな所に?

 

「――――――何しに来たのかって顔ねぇ? それはもちろん、幻のポケモン(そいつら)を頂く為よ!」

 

 すると、聞いてもいないのに、ブルーが己の目的を明かした。うん、予想通り過ぎて笑える。お前はそういう奴だよ。

 

「付けて来たのか。厭らしいわね」

 

 ならば、今まで行動を起こさなかったのは、私たちがバッチを手に入れるのを待っていたからか。ナナ島は地図に無い幻の場所だからな。羅針盤を完成させなければ近付く事さえ出来ないとなれば、機が熟すのを待つのも一興だろう。

 

「……別に自分で集めても良かったんだけどね。今回はあくまで観光、物のついでよ。ただまぁ――――――」

 

 と、そこまで言った所で、ブルーは一度目を瞑ると、鋭い目付きで名無しの少年を睨み付け、

 

「万全の状態で叩き潰してから奪うのって、最高だと思わない?」

 

 なるほど、嗜虐心を優先したか。趣味が良いな。

 

「そんな事、許すと「思っているのかしら、クソガキ?」」

 

 シンくんの台詞に被せるように、カリンが挑発する。ヤロー、お前にだけ良いカッコはさせないッピ!

 

「……やっぱり一番槍はシンくんに譲るわ。この脳足りんは私に任せておいて」

「アオイ……だけど……」

 

 あ、もしかして心配してくれてる(嬉)?

 でも、大丈夫。こいつとは一度戦ってるし、遣り口も分かっている。例え前回のような事が起きても、マツリカちゃんや、不本意だがカリン(アバズレ)の手を借りれば、ギリギリ戦えるだろう。

 ……あと、何だかんだで鉄砲玉になりがちな現状から脱却したいっス。いっつも私から挑んで負けて、シンくんが勝ってから、私がリベンジするみたいな流れになってるもんね。鉄砲玉以外の何物でもない。

 

「随分好き放題言ってくれるじゃない。ワタシに勝てるとでも?」

「煩いんだよ、ストーカー」「そっちこそ不意打ち仕掛けるくらいだから、実は自信無いんじゃないの~?」

「……上等だコラァッ! ガキと若作りが調子に乗ってんじゃないわよぉ!」

 

 さらに、私とカリン(アバズレ)による初めての煽り文句(きょうどうさぎょう)。ブルーは挑発に乗ってしまったッ!

 

 ――――――ポケモントレーナーのブルーが勝負を仕掛けて来たッ!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「ヤッチマイナー!」『プァラァッ!』『ギャハハァッ!』『ギィガァォヴッ!』『ガァルヴォッ!』『クォンコォンコォン!』『グゥヴァメラァッ!』

「出番よ、ユウキ!」『ブイッ!』

「行きなさい、ブラッキー!」『ブラァック!』

「ごーごー、ドードー!」『バリバラヌ!』

 

 オレの背後で、ブルーとシズナたちの戦いが始まった。

 シズナはユウキ、カリンはブラッキー、マツリカはガラルサンダーを繰り出し、ブルーは前回同様に全ての手持ちを召喚した。

 ブルーのメンバーは前と変わりないようだが、ピクシー(Lv85)、ゲンガー(Lv87)、ウツボット(Lv88)、ガルーラ(Lv86)、キュウコン(Lv89)、カメックス(Lv98)と、大幅にレベルが上がっている。それに纏うオーラの強さから言って、ポケモンのアメも舐めさせているに違いない。

 例の力でシズナたちは一匹ずつしか出せないし……気を付けろよ、シズナ!

 

『………………』

「……待たせたな。オレが挑戦者だ」

 

 ――――――さて、ブルーはシズナたちに任せておいて、オレは自分の戦いをしよう。せっかく譲られたのだから、今度はオレが先陣を切るんだ!

 

『………………』『ビィッ!』

「行けっ、ピジョット! メガシンカだ!」『ピジョォヴァゥッ!』

 

 チャンピオンの先鋒はさっきから飛び回っていたポケモン。色違いのミュウは見学だけらしい。

 対するオレはメガピジョット。タイプは判別し辛いが、こんな森の奥にいるからにはくさタイプは入っているだろう。頭も何となく葉野菜っぽいし。

 とりあえず、今回はガンガン攻めてみるか。まずは熱風攻撃だ。

 

『………………!』『ビィ~イ~♪』

 

 すると、チャンピオンの指示で、不思議なポケモンが時空の穴に飛び込んで姿を消す。しばらくすると、メガピジョットの背後に突如姿を現し、虹の木の葉を旋風に乗せて攻撃して来た。効果が今一つなのを見るに、たぶん、くさタイプの技だな。

 しかし、時空の狭間に逃げ込むとか、そんなの有りか。地面に潜ったり、空を飛んだりは知ってるけど、時の流れに乗る奴は初めて見たぞ。シズナ曰く、影や闇の世界に姿を消す技があるらしいがね。

 どちらにせよ、消えている間は攻撃のしようが無い。となれば、出た瞬間に技を当てるしかないだろう。

 

『ビィビィ~♪』

 

 再び不思議なポケモンが姿を消す。にこやかに手を振りながら。またしてもメガピジョットだけが取り残され、辺りが静寂に包まれる。

 

「………………」

 

 焦るな、集中しろ。

 葉っぱを念動力で飛ばして来た以上、奴のタイプはくさ/エスパーの複合である可能性が高い。弱点が多い組み合わせであり、一つに至っては四倍ものダメージを受ける。雰囲気から言って、ミュウと似たような種族値だと思われるが、流石に華奢な身体を補い切れる程の耐久力はあるまい。

 ならば、やる事は一つ。

 

『ビィッ!』

「今だ、「すなかけ」!」『ピジョォッ!』

 

 そして、不思議なポケモンが時空の狭間から姿を現した瞬間を狙って、砂を掛けた。何時ものオレのスタイルである。出合頭に目潰しを喰らった不思議なポケモンは見事に攻撃を外し、背中を見せる。

 もちろん、そんな馬鹿デカい隙を見逃してやるようなオレではない。

 

「「エアスラッシュ」からの「ねっぷう」!」『ギャォオオオッ!』

『ビアァァッ……!』『………………!』

 

 エアスラッシュで怯ませ、動きが完全に止まった所に熱風を叩き込み、名前も知らない幻のポケモンを撃墜した。

 さぁ、お次は何だ?

 

『………………』『ヴギャアアアッ!』

 

 続いて繰り出されたのは、黒い体毛の猿型ポケモン。目は赤く、鋭い牙に爪、立っていても地面に着いてしまう程に長い腕を持つ。こいつもくさタイプなのか、身体の至る所に蔓が巻き付いていた。

 こいつも見た事がない、幻のポケモン。見た目からして、あくとくさの複合タイプだろう。

 

『ギャッギャッギャッ!』

「避けろ、ピジョット!」『ピジョルァッ!』

 

 危ない、いきなりラリアットをかましてきた。

 さらに、巻き付いた蔦を解いてぶん回し、鞭のように打ち付けて来る。さっきの不思議なポケモンは特殊型だったが、こっちは完全な物理系だな。気性荒過ぎだろ。

 

「ピジョット、上から「ねっぷう」!」『ピジョォァヴヴッ!』

 

 ならば、上空から熱風に晒してやろう。射程外からの一方的な攻撃は、戦いにおける基本である。

 

『ヴギィィィッ!』

 

 そして、こいつもくさタイプなのか、熱を浴びて苦しみ出す。あの様子だと、火傷も負ったな。こいつは良い。

 

『……ギャォオオオン!』

「何ィッ!?」

 

 だが、猿のポケモンは周囲の樹々に蔦を巻き付け、生命力のような物を吸収し、自らの傷を癒してしまった。加えて火傷まで治癒しており、パワー全開という感じ。

 くそっ、回復量は自己再生よりも弱そうだが、状態異常まで直すのは卑怯だろ。

 

『ウギャギャギャギャッ!』

「くっ……!」

 

 さらに、上から先手を取られるの嫌ったのか、トレーナーの手元へ蜻蛉返り。くさタイプっぽいトナカイのようなポケモンと交代した。速度差を嫌って繰り出されたからには、かなり素早いのだろう。

 

『ミィッ!』

『ピジョォッ!?』「速い……!」

 

 想像以上に速かった。プテラ並みだぞ!?

 

『ミィデシュー!』

『カッ……!』「くっ、一旦戻れ、ピジョット!」

 

 その上、更なる高みからエアスラッシュを放って来た。飛んでるし、エアスラッシュがメインウェポンって事は、こいつくさ/ひこうの複合だな!

 ともかく、このまま怯みゲーをされても叶わないので、一旦メガピジョットを引っ込める。

 

「行け、ピカチュウ!」『ピッカァッ!』

 

 代わりに出したのは、ピカチュウだ。素早さは相変わらず負けているが、タイプ相性的にこっちの方がマシだろう。

 

「ピカチュウ、「10まんボルト」!」『ピカチュウゥゥゥッ!』

 

 まずは10万ボルト。敵はプテラ並みに速いので当たらないが、あくまでこれは囮である。

 

「……今だ! 「でんこうせっか」からの「ばちばちアクセル」!」『ピカピカピカ、ピッカァッ!』

『ミミミィ……!』

 

 本命は、攻撃を掻い潜った事により、思惑通りに誘導された相手を、電光石火でスタンしてからのばちばちアクセルを食らわせる事だ。

 

『デュシュシュシュッ!』

「ぬぉっ!?」『ピカッ!』

 

 しかし、そこそこの耐久力はあるのか落とし切れず、緑色の光弾で反撃して来た。何だその技は。

 

「「ざぶざぶサーフ」!」『ピカチューッ!』

『ミィィ……!』

 

 効果が今一つではあるが、素早さを削ぐ為にざぶざぶサーフを食らわせる。上手く麻痺も引いてくれた。後は――――――、

 

「ピカチュウ、「10まん――――――」

『ミァアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 だが、畳み掛けようと10万ボルトを放とうとした瞬間、トナカイ的なポケモンの身体が光り輝き、大爆発した。自爆技ではないようで、使用後も倒れる事は無かったが、直前で発動した10万ボルトがヒットし、結局ピカチュウと共倒れになる。

 ……チクショウ、相討ちにされた!

 しかし、これでお互いに残り五体ずつ。動揺している暇は無い。オレは、勝つんだよ!

 

『………………』『ジィオオオン!』

「頼むぞ、プリン!」『プリャッ!』

 

 そして、次なるポケモンが召喚される。こちらはプリン。向こうは美しい雌のカモシカを思わせるポケモン。今までの傾向から考えて、くさタイプなのは間違いないだろうが、単一かは分からない。

 とにかく、観ろ、察しろ。戦いは読み勝った方が制する。それは指示を出すトレーナーの役目だ。

 さぁ、掛かって来いやぁ!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「シンくん……!」

 

 大分苦戦してるなぁ。

 あのポケモンのオーソリティーの若かりし頃っぽい少年は、どうやらくさタイプ統一パーティーのようだが、まぁ、面子が酷い。伝説・幻のポケモンが入り乱れである。

 セレビィ、ザルード、シェイミ、ビリジオンと来て……OH、カミツルギまで繰り出して来やがったよ。ウルトラビーストなんぞ、どうやって手に入れた。

 ……嗚呼、相棒プリンがやられた。流石にはがねタイプ持ち相手は無理か。カミツルギの攻撃力でスマートホーンなんかされたら、そりゃ落ちるわ。

 だが、手助けは出来ないし、するつもりもない。彼なら絶対に勝ってくれる。そう信じている。だから、

 

「ユウキ、「どばどばオーラ」!」『ブッブゥ~イ!』

『ゲハハハハハッ!』『クアァアアアッ!』

 

 このお邪魔虫を始末しないとな!

 やっぱり例の能力で手持ち数を制限された私が繰り出したのは、相棒イーブイたるユウキだ。パワーだけならアカネちゃんの方が圧倒的に上だが、彼女は大技ばかりで集団戦に向いていないので、今回は見送った。

 で、私が担当する相手はゲンガーとウツボット。高速特殊アタッカーと不意打ち持ちの両刀使いを敵に回すのは正直キツいが、こちらも弱点を突いていけるので、戦い様によっては優位に立てる。

 まずはどばどばオーラでゲンガーの弱点を突きつつ、光の壁を形成。ウツボットの不意打ちを喰らってしまったが、そっちはめらめらバーンで火傷を食らわせてやった。これで被弾ダメージをかなり軽減出来る。

 さらに、びりびりエレキでゲンガーの素早さを奪い、もう一度どばどばオーラを当てる。多対一の場合、集中砲火で片割れを倒すのが定石である。絶対にゲンガーの方が厄介なので、先にこっちを瀕死にさせる。私、ゲンガー好きだから、その面倒臭さも知ってるよ!

 

『ゲァォォォ……!』

 

 よし、落ちた。ゲンガーは素早い分、耐久力が無いからな。

 

『キャァアアアアアッ!』

「危なっ!」『ブィィ!』

 

 拳を握ってる場合じゃなかった。火傷有りとは言え、不意打ちとパワーウィップを喰らっているので、こちらも後が無い。早く決着を付けなければ。

 

「ウツボット、「ヘドロばくだん」!」『キャォオオオオッ!』

「そのワードはもう聞きたくないんだよ! 「めらめらバーン」!」『ンン……ブィィッ!』

 

 そして、ウツボットのヘドロ爆弾とユウキのめらめらバーンが同時に発動する。反吐の塊と燃えるモフモフが交錯し――――――、

 

『ブイッ!』『ギャアアアアアアッ!』

 

 ユウキが競り勝った。火傷で力が出ないから特殊に変えたは良いが、一歩遅かったな。鉄砲玉のアオイちゃんを舐めるなよ!

 

「止めよブラッキー、「あくのはどう」!」『ブラァアアアッ!』

「ドードー、「らいめいげり」!」『ギャォオオオオオオォス!』

 

 さらに、他の面子も何とか勝利を修める。ブラッキーは瀕死寸前だし、ガラルサンダーも割とボコボコにされているが、勝利は勝利だ。

 むしろ、伝説のポケモンまで引っ張り出して来てるのに、何で余裕勝ち出来ないの?

 相変わらず意味不明に強いなぁ、こいつ……。

 

「クソッタレが! これで終わりじゃないわよ! 次は絶対に……絶対に、勝つんだからぁ! バイバイキーン!」

 

 そして、手持ちを失ったブルーは、何時もの捨て台詞を残して、何処かへと逃げ去って行った。まさか、泳いで帰るの?

 

「……そうだ、シンくんは!?」

 

 邪魔者が居なくなった所で、シンくんの様子を窺うと、

 

「はぁ……はぁ……!」『ガラァ……!』

『………………』『ブルルルルル……!』

 

 ヤバい、もう追い詰められてる!

 つーか、アローラガラガラが相手だからって、カプ・ブルル出すなよ。こんにちは(アローラ)じゃねぇんだよ。あの傷の受け具合から察するに、自然の怒りでHPを半減されてから、岩雪崩(もしくは10万馬力)を喰らったな。そりゃ膝も着くよ。攻撃種族値が130もあるもんね。

 しかし、ユキ何とかさんも、残りはカプ・ブルルだけの模様。シンくんもガラガラだけしか生き残っていないとは言え、よくあのLEGENDラッシュを捌き切ったな。最早怖いんですけど。

 だが、流石にこれは厳しいか。アローラガラガラが瀕死寸前なのに対して、カプ・ブルルはほぼ無傷。ザルード辺りを倒すのに手間取った所に繰り出されたのだろう。

 こうなると、タイプ相性の有利不利は関係ない。普通に弱った方が負ける。

 嘘でしょ……あのシンくんが……そんな……!

 

「「頑張って!」」

 

 アバズレと声が揃ってしまった。

 しかし、今はそんな事はどうでも良い。勝って、シンくん!

 

『ブルヴォオオオオッ!』

 

 だが、カプ・ブルルは無情にもウッドハンマーを放って来た。オーバーKILL過ぎるだろ。やめたげてよぉっ!

 と、その時。

 

『ミュウッ!』『ブルヴォッ!?』

 

 これまで見ているだけだった青いミュウが、まるで庇うように飛び込んで来た。

 さらに、タイプ一致のサイコキネシスでカプ・ブルルを吹っ飛ばす。

 

「お前……」

『ミュウミュウ!』

「……分かった。なら、行くぞ!」

『ミュウ~!』

 

 どうやら、シンくんの為に戦ってくれるらしい。そんなの有りか。

 いや、でも手持ちの数ではシンくんの方が少なかったし、これで6VS6になったから、別に良いか。ともかく、シンくんが勝てば良いんだよ、勝てば!

 行けぇ、ミュウ!

 

『ブルヴァァオオオオッ!』

 

 カプ・ブルルがウッドハンマーや10万馬力と、当たったら即死レベルの猛攻を仕掛けて来るが、当たらない。戦闘経験が豊富なのか、天武の才なのかは知らないが、青いミュウの動きはニャースのミュウを遥かに超えていた。

 

『ミュアアアアアアアン!』

『ブヴォァアアア……ッ!』

 

 そして、悪巧みをしてからのサイコキネシス一発で沈めてしまった。つ、強い……!

 

『ミュッ!』

「え、お前……分かったよ」

 

 さらに、念動力でシンくんの荷物からプレミアボールを取り出し、自ら収まった。戦いを通して彼に付いて行きたい、と思ったのだろう。

 

『……フフ♪』

 

 そんな一人と一体の様子を見守っていた、将来博士号を取るであろう少年は、柔らかな笑みを浮かべた後、まるで幽霊のようにスーッと消えていった。

 彼は結局、何者だったのだろうか。オーレンリーグを制覇した証であるリボンを(シンくんだけでなく私たちの分まで)残していったので幻じゃないのは確かだが、あんな消え方されると本当に生きているのか怪しんでしまう。金銀時代のレッドばりに。

 そもそも、彼が私の思う通りの人物だとしたら、同じ時代に年齢の違う同一人物が二人いる事になる。年食った方、知らぬ間に昇天してたりしないだろうな、タイムパラドックスとかで。流石にそれは寝覚めが悪いぞ。

 ……段々心配になって来たな。ご挨拶も兼ねて、ちょっと久々に連絡を入れてみよう。

 

 ――――――プルルル! カプルルルッ!

 

 すると、何時変えたのか分からないが、不思議な着信音と共に、私のポケギアが揺れた。

 しかし、相手はオーキド博士ではなく、アポロさん。サカキならまだしも、彼がこんな急に連絡を入れるだなんて、一体何が?

 

「はい、もしもし、アオイです」

《アオイさんですか。……周囲の状況は?》

「問題ありません」

《分かりました。では、落ち着いて聞いて下さい》

 

 マジで何かヤバそうだな。あのアポロさんが電話口で「落ち着いて下さい」なんて、彼自身が焦っているのが丸分かりである。

 

《――――――ロケット団の地下秘密基地が、「スマイル団」を名乗る輩に襲撃を受けました》

 

 ……、…………、……はぁ?

 おいおいおいおい、そいつは一体どういう事かね?

 

「だ、大丈夫なんですか!?」

《マトリさんと幹部候補生の手を借りたので問題ありませんよ。しかし、こっちは囮だったようで、別動隊がシルフカンパニー本社を乗っ取り、出向いていたサカキ様を社員諸共人質にして立て籠っています》

「ええぇ……」

 

 これは予想外過ぎる。シルフカンパニー本社の乗っ取りイベントを引き起こすのがロケット団じゃないばかりか、全然知らない悪の組織が出しゃばって来るとは。どうなってんのよ一体。

 

《もちろん、黙って見過ごす気はありません。今度はこっちが粛清してやりますよ。売られた喧嘩は数万倍で返すのがロケット団なのでね。ですから、そちらも色々と立て込んでいるかもしれませんが、貴女たちにはカントー本土に戻ってきて欲しいのですよ》

 

 つまり、お礼参りするから馳せ参じろ、という事か。バッチOKです!

 

「シンくん、マツリカちゃん、緊急事態だから、今すぐ帰るわよ!」

「「「え~!?」」」

 

 こうして、私たちはオーレン旅行を一時中断し、カントー本土へ舞い戻る事になった。

 ……お前は反応しなくて良いんだよ、アバズレぇ!




◆オーレンリーグのチャンピオン

 最果ての孤島「ナナ島」に居るという、くさタイプの使い手。見た事もないポケモンたちを持っており、初代カントーリーグチャンピオンにして伝説の最強トレーナー「レッド」とも肩を並べる実力と言われている。趣味は絵を描く事のようで、いつもスケッチブックを持ち歩いている(絵の実力は定かではないが)。
 常に島にいる訳ではなく、森の奥に鎮座する祠の前に突如現れる事から、幽霊だとか精霊だとか、色々な噂が立っている。オーキド博士は彼を「時の旅人」と称しているらしい。

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