ポケットモンスター Let’s Go! ピッピ   作:ディヴァ子

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アオイ:「あの世界の幽霊ってどういう扱いなんだろうね?」


死者の塔と悪の秘密基地

 ポケモンタワー。

 死んでしまったポケモンたちを供養する、言うなればポケモン専用の共同墓地。経営者はフジ老人という人物で、後ろ暗い過去の贖罪を兼ねて日々祈りを捧げているという。

 さて、そんなポケモンタワーだが、BGMこそ神秘的な物の、内部はホラーそのものだ。

 何せ攻撃不能かつ正体不明の幽霊がわらわら現れて立ち去るよう脅かしてくる上に、どう見てもラリっちゃってる祈祷師が片言で勝負を仕掛けてくるという、子供が本気で泣きかねない演出をプレゼントしてくれる。ゲーフリは一体何を考えてこんなマップを作ったんだろうか。

 余談だが、数年後にはラジオ塔になっていたりする。どう考えても曰く付き物件なのに。絶対にトークと一緒に呪い発信してるだろ。

 ――――――で、生のポケモンタワーはどんな感じかと言うと、

 

「………………」

 

 普通に怖かった。言葉も出ないくらいに。

 全体的に薄暗く、和洋折衷した墓石が延々と並ぶその様は、ここが明確に死者の眠る場所である事を示しており、心霊スポット特有の寒気とナニカの気配が常に感じられるという、ホラーの数え役満状態である。掛かる薄霧や滴る水滴が、もうどうしようもなく恐怖を駆り立ててくる。小さな物音でさえ心臓に悪かった。

 いや、ホント、マジで何でこんな場所作ったゲーフリ、ついでにフジ老人。子供を泣かせてそんなに嬉しいか。お前らの血の色何色だぁ!

 だが、カラカラが迷い込んでしまった以上、進むしかない。何故か出会ったばかりの婆さんから喪服まで貰っちゃったし。

 正直、イベントでなければ是非とも無視したいが、優しいシンくんが、

 

「でも……やっぱり……気になる……ぅ……!」

 

 などと、ウルウルの涙目でプルプルと訴え掛けてくるのだから、これは行くしかないっしょー。是非もなし!

 

「ごめんな、アオイ。こんな情けない奴で……だけど、何か……あったら、絶対……オレが……っ!」

「………………」

 

 ああん、チクショウ、可愛い! 抱きしめたい! お持ち帰りぃ~っ♪

 

「……フゥ」

 

 落ち着け。落ち着いて皿を数えるんだ。お皿は割った数だけ罰を受ける不憫な数字。私に恨みを募らせてくれる……駄目じゃねぇか。

 いや、うん、ホント落ち着こう。まずはカラカラだよ、カラカラ。どこに行きやがったあの素数ポケモン。

 

「キャララ~!」

 

 あっ、おった。

 しかし、素早さ種族値35とは思えない高速移動で奥へと消えて行ってしまう。ポケモンの素早さって、本当によく分らなくなるよね。マッハ2のスピードの癖に飛べない鳥よりも遅いジェットな鳥ポケモンとか、マッハポケモンを名乗りつつ宙を舞えない元陸鮫ポケモンとか。私の手持ちに一日中飛び続けられるスタミナの持ち主の割りに風船より体力ない奴いるけど。

 

「キェーッ!」

「ズワォッ!?」

 

 モッサリと歩き回っていたら、野生のキチ○イ……じゃなくて、トランス状態の祈祷師に襲い掛かられた。降霊師(イタコ)じゃないんだから、取り憑かれたらアカンやろ。ちゃんと仕事しろ。

 

「はーい、起きて下さい」

「ハッ……!」

 

 まぁ、苦戦はしないのだが。ゲンガーならまだしも、ゴースじゃねぇ……。

 

『タチサレ……ココカラ……タチサレ……』

「「「あっ……」」」

 

 だが、一勝負終えて油断した所を背後からデスルーラ。入り口に送り返されてしまった。

 そう言えば、今回の幽霊は逃げるしかないどころか、エンカウントしただけで追い返されてしまう親切設計(怒)なんだった。おかげで初代の時以上にシルフスコープがないとどうしようもなくなっている。死ね。死んでるけど。

 しかし、タイミング良くカラカラも寂しそうに出て来たので、結果オーライ。戻る手間が省けた、とでも思っておこう、そうしよう。

 

「ゆうれいさん、たのしそうだったね~」『バウッ!』

 

 キミは一体何を見聞きしたんだね、マツリカちゃんや。

 いやいや、それよりもあの素数なカラカラを――――――、

 

「何よもう、サカキ様の為にここまで来たのに、フジって爺さんいないじゃない!」

「あと探してないのは、ポケモンタワーの最上階だけだけど……」

「デッカい幽霊が邪魔で先に進めないのよねー」

『バトルも出来にゃーし、触ったら戻されるし、にゃんとかならにゃいかにゃ~?』

 

 おやおや、あんな所(8番道路の入り口近く)に、銀河を駆けるロケット団の二人とニャースがいるじゃないですか。目的は十中八九、フジ老人……というかフジ博士だろう。前回グレンタウンの話を振ったし、その過程で知ったのかな。

 

『マァーッ!』

 

 さらに、そんな困ったムコニャに、素数なカラカラが接触。

 

「あら~、ママに会いたいの~?」

『なら、会わせてやってもいいにゃ~?』

『マァーマァー!』

 

 そして、いつもの口車でカラカラを諭したムコニャは、そのまま8番道路の向こうへ走り去ってしまった。

 原典を信じるなら、フジ老人を見付けられなかった代わりに献上するつもりだった筈。そんな事をされてはガラガラお母さんに成仏して貰えなくなるので、連れ戻すしかない。

 ……どうでもいいが、彼らはカラカラの母上様が既に死んでいる――――――否、殺されている事を知っているのだろうか。アニポケのアイツらなら絶対にそんな事をしないだろうが、この世界線では分からない。

 いや、LPLEにはあのガイストじゃないアポロがいる筈だ。本人は知らないが、部下の誰かなら殺ってしまうかもしれない。ランスとかランスとかランスとか。

 だが、考えても仕方のない事だろう。終わったものは取り返しが付かず、普通は過去に戻れないのだから。

 

「あっ、カラカラが……!」

 

 さらに、本来は家に引き籠っている筈の、カラカラをお世話している女の子が、あわあわしているだけのモブに代わって登場。カラカラの母親であるガラガラがロケット団に攫われて二度と帰って来ていない事、最近になってポケモンタワーが幽霊の巣窟になってしまった事、カラカラとガラガラが彼女の大切な家族である事などを話してくれ、その上でカラカラの救出をお願いして来た。

 大丈夫、言われなくてもアポロはガイストにしてやるから安心して。

 

「あ、あいつら……アオイ、追い掛けよう!」

「そうね」『ピッピィ!』

「ごーごー、バウワウ!」『バゥヴァゥッ!』

 

 という事で、タマムシシティへGO! GO! GO! である。

 道中はカット。急いでいるし、何よりシンくんが燃えに燃えていたので、苦戦しないどころか相手が可哀想な事になっていた。さすがに最終進化形態のオンパレードは厳し過ぎると思うよ……。

 

「着いた!」「そうだねっ!」「フシギダネ!」

 

 そして、長ったらしい地下通路を抜けて、タマムシシティに到着。BGMの落差がしゅごい。

 タマムシシティは玉虫色の町というだけあってカラフルで、ヤマブキシティに次いで発展している。

 ただし、コンクリートジャングルそのものって感じのヤマブキシティと違って平屋の方が多く、あってもデパートやマンションなどの集合建築物ばかり。他にはゲームコーナー(というかパチンコスロット)や商店街、大衆食堂があるなど、かなり生活感に溢れている。

 雰囲気としては、大都市の郊外と言ったところか。地理的にもヤマブキシティの真隣なので、あながち間違いではあるまい。東京の世田谷区、S市の杜○町みたいなものだ。

 一方で発展に伴う弊害も発生しているらしく、ゲームコーナーに隣接する民家には大きな池があるのだが、今でこそニョロゾやヤドンが水中に生息しているが、しばらくするとベトベターやベトベトンしか現れなくなる。何があったし。

 しかし、メタな視点で言えば、一番の特徴は「町全体がロケット団の根城にされている」事だろう。

 ゲームコーナーの地下は秘密基地になってるし、街中を普通に下っ端がうろついている(ヤマブキシティにもいるが、アレは作戦上の理由であって、常駐している訳ではない)。ギャンブルを資金源にしてるとか、完全にマフィアのそれである。

 何の理由もなく新種ポケモンが一本釣り出来る辺り、タマムシデパートも彼らの傘下なのかもしれない。

 というか、カントーのFSはタマムシデパートの支店扱いなので、実質的にカントー全土が資金源と言える。マフィアの力ってすげーっ!

 そんな一癖も二癖もある虹色の町にやって来た訳だが、

 

(私はここでイーブイを、手に入れる……っ!)

 

 カラカラより、そっちの方が気になって仕方なかった。

 だってだって、私も相棒イーブイ、欲しいんだもんっ!

 よーし、カラカラ捜索に託けてイーブイ探しをしよう。確かタマムシマンションのどこかに伏線もなく放置されていた筈……っ!

 あれ、でもそのイベントって初代限定で、LPLEにはないんだっけ?

 うーん、何かその辺の記憶が怪しい。元々印象の薄いイベントだったからなぁ……。

 いや、だけどストーリーが歪になり始めているこの世界なら、ワンチャンあるかもしれないし――――――とにかくイーブイだぁ、イーブイをくれぇっ!

 

「よし、手分けして探そう!」『プリャリャ~!』

「わかった~」『バゥワゥ!』

「……了解!」『ピッピィ!』

 

 ……うん、行き先を知っているだけに、罪悪感が凄い。シンくんの真剣かつ決意に燃える瞳が心に突き刺さる。

 やめてシンくん、私のライフはとっくに0よっ!

 ごめんなさい、真面目に探します。イーブイもまだ諦めてないけど。

 さてさて、どこ行っちゃったのかな、カラカラ~?

 

「………………」

 

 とか言いつつ、タマムシマンションの屋上に来てしまった!

 チクショウ、やっぱり抗えないよ!

 ちょっとだけ、ちょっとだけだから、寄り道させて、お願いシクラメン!

 

「……あった!」

 

 何かポケモン通信講座とかいう今更感溢れる教室になってたから軽く絶望したけど、ありましたよモンスターボール!

 頼む、アイテムとか擬態ポケモンとか、そういうオチだけはやめてくれ!

 ただでさえシンくんを欺いてるのに、そんな事されたら、マジで心が折れちゃうからぁっ!

 

 ――――――それ、ポチッとなっ!

 

『イッブィッ♪』

「悠木碧~っ♪」

 

 ぃよっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!

 勝った、風呂入って来る!

 ……じゃなくて、ステータス確認をば。

 

◆相棒イーブイ(ユウキ)

 

・分類:しんかポケモン★

・タイプ:ノーマル

・レベル:15

・性別:♂

・性格:せっかち

・種族値: HP:65 A:75 B:70 C:65 D:85 S:75 合計:435

・覚えている技:「しっぽをふる」「でんこうせっか」「にどげり」「すなかけ」

・図鑑説明

 不規則で不安定な遺伝子を持つポケモンで、周囲の影響を受けやすい。環境が変わると、それに適応すべく突然変異を起こす。イーブイの遺伝子は、進化の秘密を解き明かすカギだ。

 

 よすよす、ちゃんと相棒くんですよ。そかそか、せっかちさんなのか。進化ポケモンに相応しいわね。♀じゃないのは残念だけど、誰もが通る道だから仕方ない。色違いだから許す。

 名前はユウキくん。男の子だからね。女の子だったらアオイにするつもりだったけど。……名前が被るか。

 

「よしよし♪」『イッブブィビィ~♪』

 

 あぁ~はぁ~♪ このモフモフが堪らないんじゃ~♪

 

『ピッピィ~!』「大丈夫だって。私の一番の相棒は、アカネちゃんだよ♪」

 

 嫉妬するアカネちゃんも超カワイイ~♪

 

「……よし!」

 

 いい加減、カラカラ探索に戻ろう。達成と同時に罪悪感が津波になって押し寄せて来た。これ以上、私利私欲で寄り道するのは、シンくんに申し訳が立たな過ぎる。相棒技はまた今度っ!

 

「あっ、アオイか。カラカラ見付かったか?」

「え、ええ……えーっとぉ、何か……あのゲームコーナーの方で、それっぽいのを見掛けたような……」

 

 出た途端にシンくんに詰め寄られたので、無茶苦茶不自然に答えてしまった。雰囲気から察するにバレてないようだけど、発覚したらどうなっちゃうんだろう。

 絶対に嫌われるよなぁ。よしんば嫌われずとも、関係はギクシャクするに違いない。

 それだけは嫌だっ! だから、真相は墓の中まで持って行く――――――、

 

「………………」

「……ハッ!」

 

 マ、マツリカちゃん……貴様、見ていたなっ!?

 

「おやつはわたしのすきなものを、むせいげんでね♪」

「……はい」

 

 チックショウ、抜け目ねぇ……!

 まぁいい、おやつくらい幾らでも買ってあげるさ。それでブクブクに太っても知らん、そんな事は私の管轄外だ。

 

「ここか……」

 

 ――――――で、件のゲームコーナー。その名も「ロケットゲームコーナー」。そのまんまである。隠す気あんのか。

 

「基地の入り口ってどこのボタンで入るんだっけ?」

「確か「ロケット団に相応しいポスターの裏」にあるって言ってたなぁ……」

『そんな事より、早くスロットを回すにゃ。ピ、ピカチュウ~♪』

 

 さらに、店内にはムコニャが、スロットマシンで絶賛おサボり中。

 

「おい、仕事しろよ」

「「えっ、ジャリガール!?」」『んにゃんだとぉ!?』

 

 あっ、しまった。思わず突っ込みを入れてしまった。

 

「おい、お前ら! カラカラをどこにやったんだよ!」

 

 しかも、シンくんまで乱入し、もう後には退けなくなった。こうなったら、しゃーなしだな。

 

「カラカラをどこにやったんだと聞かれたら!」

「答えてやるが世の情け!」

「世界の破壊を防ぐ為!」

「世界の平和を守る為!」

「愛と正義の悪を貫く!」

「ラブリーチャーミーな敵役!」

「ムサシ!」

「コジロウ!」

「銀河を駆けるロケット団の二人には!」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

『あっ、ニャーんてにゃあ~っ!』

 

 二度目の口上、ありがとうございます。サイン下さい……じゃなくて!

 

「カラカラなら、あそこでニビあられ食べてるわよ?」

 

 ムサシの指差す先を見てみれば、景品交換所の脇でニビあられを頬張るカラカラの姿が。なーに餌付けされたんだよ。

 ひとまず、無事で良かった。この三人が、ポケモンを殺っちまうような真似はしないと思っていたよ。ぞんざいには扱うかもしれないけどね。

 

「カラカラを返せっ!」

「やーなこった。あいつはサカキ様への献上品なんだよ!」

 

 シンくんが突っ掛かるが、コジロウは聞く耳を持たない。そりゃそうだよな。あのサカキに手ぶらで面会出来る訳がない。

 

「お前ら……カラカラのお母さんに会わせるなんて、嘘を吐いておいて、まだ……!」

「あら、嘘は言ってないわよ? ガラガラならこの前捕まえたしね」

「確か、アポロの野郎がサカキ様に献上したんだっけか?」

「そうそう。あの子もサカキ様に献上するんだから、会える事は会えるわよ~?」

『そうだにゃ~。サカキ様はじめんタイプの使い手だし、上手く使ってくれる筈なのにゃ~』

 

 うーむ、この感じだと、ガラガラが骨だけ取られて処分されてるのは知らなさそうね。最高幹部と幹部候補生の差って奴かな。あとサラッと情報漏洩。だから教えて貰えないんだよ。

 いずれにしろ、ガラガラを殺した犯人は、少なくともこの三人ではない。サカキも原典ではポケモンへの愛情自体は持っていたから、たぶん違う。

 そうなると、手を下したのは、やっぱりアポロか……それとも……。

 

「お前ら――――――」

「カラカラぐらいで、サカキ様が満足するかしらね~?」

 

 だが、一般人も大勢いる店内で大暴れする訳にもいかないし、このままじゃ話も出来ない。熱くなっている所を悪いけど、シンくんは下がっててね。

 ここからは、大人の時間である。

 

「あーら、何よジャリガール。アタシのやり方にケチでも付ける気?」

「まーまー、ムサシ、落ち着けって。こいつは話の分かる奴だし、少しくらい聞いてやろうぜ?」

『そうだにゃ~。ジャリガールのおかげで、グレンタウンの化石研究所ともパイプが出来て、サカキ様からの評価も上がったんだからにゃ~』

 

 私の言葉に食って掛かるムサシを、コジロウとニャースが宥めすかす。

 やっぱりね。思った通り、あの化石を持ち込んだ事で研究所と関りができ、ロケット団があの怪し過ぎるエセチャイナ研究員の秘密裏なスポンサーになった訳だ。

 元々グレンタウン自体がロケット団のポケモン兵器の開発拠点だった事だし、事故で一度は切れてしまった縁を、再び結び直した形になるのだろう。遺伝子組み換え技術が、化石の復活作業に挿げ替わっただけに過ぎない。

 元研究員だったカツラの監視を掻い潜るのは難しいかとも思ったが、ムコニャは変装技術や潜入能力だけは妙に高いので、それが功を奏したようである。

 

「あー、そうそう。これ、サカキ様に報酬として貰えたのよ~♪」『ピギィッ!』

「俺のなんて色違いだったぜ~♪」『キュギュゥッ!』

 

 と、ムサシとコジロウが自慢げにカブトと色違いのオムナイトを見せて来た。

 なるほど、サカキにとっては化石ポケモンそのものよりも、研究所との繋がりの方が大事だった訳か。

 まぁ、掘れば掘るだけ古代のポケモンが手に入るんだから、商業的にも軍事的にも価値が高いわよね。功績としてはかなりの物だし、報酬として支払われるのも当然だろう。

 何より、こいつらなら誰かと違い、手持ちのポケモンは大切にするだろうからね。まさに適材適所だ。

 

「大事にしてくれているようで何より。……返してくれないなら、交換と行こうじゃない」

 

 だからこそ、私はポケモン交換を申し出た。

 

「あら、また何かくれるのぉ~?」

「くれるポケモンによっては考えてやらんでもないぞ?」

『化石ポケモンより珍しい物で頼むにゃ~♪』

 

 途端に食い付いてくるムコニャ。いかにも「お前が望むなら考えてやる」みたいな言い方だけど、顔に「早くチョ~ダイ♪」って書いてあるぞ。

 うむうむ、実に俗物的で何より。やっぱり、こいつらはこうでなくっちゃね~♪

 

「それじゃ、この子と交換しましょう」

 

 私はボックスから件のポケモンが入ったボールを引き出した。最近の作品はわざわざパソコンに向かわなくてもいいのだから、便利になったものよねぇ。

 そして、スイッチを押して、召喚する。

 

「出ておいで、ミュウ!」

『ミュゥ~!』

 

 幻のポケモン、ミュウを。

 すっかり忘れてたけど、現実で買ったコントローラー、モンボ+だったんだよ。

 だから、当然中にはミュウが入ってた訳で。旅路の最中にボックス見てたら、普通にいた。嬉しさ以前に「ファッ!?」ってなったわ。一体何事かと思ったわよ。使わないけど。

 

「「『「えぇ~!?」』」」

 

 ムコニャどころか、さっきまで熱々だったシンくんも血相を変えて叫んだ。そりゃそうか。

 でもねぇ、デパートで一本釣り出来る幻のポケモンとか、正直そこまで有難みを感じないんだよねぇ。ミュウツーみたいな演出や達成感もないし。バグでデータをフィッシングしただけなんだから当たり前だけど。

 それにユウキを手に入れた今の私に、これ以上のスタメンは必要ない。ミュウツーについては一考の余地があるけどね。

 という事で、この子はキミたちにあげよう。大切にしてね♪

 

「ア、アンタ、正気なの!?」

「絶対に釣り合い取れてないだろ!?」

『何か企んでるのかにゃ!?』

 

 とは言え、素直には受け取れないか。幻のポケモンだもんね。仕方ないなぁ~。

 

「なら、この「ひみつのこはく」もプレゼントだ!」

「「『ブーッ!』」」

 

 もっと驚かれただけだった。解せぬ。

 

「ア、アオイ……何でこんな奴らに……!?」

 

 いや、だっていらないんだもん。絶対に使わないし。可愛がってくれる人にあげるのが一番だろうに。

 まぁ、彼が言いたい事はそういう事ではないんでしょうけどね。

 

「(シンくん。こいつらは、ガラガラ殺しの下手人じゃないわ)」

「(だけど……)」

「(彼らのポケモンを見て。あんなに懐いてる。確かに彼らは悪人だけど、冷酷非道な下衆ではないわ。きちんとポケモンと向き合える、“根は良い奴ら”よ)」

 

 より正確に言うなら、“憎めない奴”とか“愛すべき馬鹿”だろうけど。

 

「(ロケット団だからって、全部が全部、救いようのないクズって訳じゃない。そういう「一人が皆」っていう先入観は目を曇らせるだけでなく、自分にも不利益を齎すだけだわ)」

「………………」

 

 うん、納得出来ないって顔してる。

 だけどね、奇麗事だけじゃ、この鬼だらけの世間を渡っては行けないんだよ。

 

「(私たちの目的は、カラカラを取り返す事。それを忘れてはいけないわ)」

「(……ああ、そうだな。そうだった)」

 

 ゴメンね、ズルい言い方して。

 でも、安心して。

 

 ――――――こいつらは許しても、ロケット団の“病巣”を許す気はないから。

 

「は、ははは、なるほどなるほど、確かに化石ポケモンより珍しいな……出所は聞かないでおく」

『これをサカキ様に献上すれば、ニャーたち、間違いなく幹部に昇進にゃ!』

「よぉーし、そうと決まれば、サカキ様の下へLet's Goよ! ありがとね、ジャリガール。カラカラは勝手に持ち帰ってちょ~だい♪」

 

 そうこうしている内に、頭を切り替えたムコニャが、秘密基地の入り口があるポスターへ向かってロケットダッシュ。

 

「ちょっとアンタ、どきなさいよ! 急いでんのよ、アタシたち!」

「知るか! いいから、合言葉を言え!」

「ロケットパン~チ☆!」「ぐわーっ!」

 

 さらに、立ち塞がる見張り番をロケットパンチで殴り倒し、さっさと地下へ降りて行ってしまった。出入り口をポッカリと開けたまま。相変わらずやり方が雑である。……計画通り。

 

「さてと……シンくんは、これからどうしたい?」

 

 ロケットミサイルのように走り去ったムコニャを見送ってから、私はシンくんの方へ振り返った。

 

「えっ?」

「カラカラは取り戻せた。目的は達成したの。……だからこそ聞くわ。これから、シンくんはどうしたい?」

 

 イベントの関係上、個人的には帰るつもりなど毛頭ないけど、それはあくまで私の勝手。シンくんの今後の進退まで縛る気はない。彼は「シン・トレース」という一人の人間なのだから。

 

「………………」

 

 シンくんはしばし逡巡し、

 

「……やっぱり行くよ、オレ。あいつらは悪い奴じゃないのかもしれないけど、それでもロケット団は許せないから……」

 

 進む事に決めた。

 うんうん、実に彼らしい。それでこそシンくんだ。

 

「カラカラ、お前はどうする?」

『キャラ……? ……、……カラカラァッ!』

「そうか。なら、一緒に行こう」

 

 カラカラも行く気満々らしい。

 やっぱり、ムコニャはともかく、自分の母親を奪った奴らは許せないのだろう。

 

「アオイは――――――」

「もちろん行くわよ? あいつらとは腐れ縁だけど、ロケット団そのものに想う事は何もないからね」

「……だよな! ヘヘヘッ……!」

 

 こうして、私たちはロケット団の巣窟、地下秘密基地へ足を踏み入れたのだった。




◆ポケモンタワー

 死んだポケモンたちが眠る供養塔。グリーンのラッタも多分ここにいる。ミュウツーですら怯える幽霊がわんさかいる危険な心霊スポットとして皆のトラウマになっているが、あれはガラガラの未練が悪霊を引き寄せてしまっているだけで、普段からこの有様と言う訳ではない。じゃないとお墓参り出来ないから。
 管理者はフジ老人。捨てられたポケモンを養う保護施設「ポケモンの家」も含めて、過去にミュウツーを創り出してしまった罪滅ぼしとして運営しているが、当のミュウツー(※ゲーム世界の個体)はそんな事など気にも留めてないと思う。戦う事しか考えられないんだし、そもそも生き物は自分が生まれた意味など考えない。

 生き物は、今日も明日も“生きる為に生きている”のだ。
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