ポケットモンスター Let’s Go! ピッピ 作:ディヴァ子
ロケット団、地下秘密基地。
ロケットゲームコーナーの地下へ秘密裏に建造された、ロケット団のカントー地方における活動拠点であり、絶対に邪魔にしかならないワープパネルの罠が張り巡らされている。
「……うわっ、何だ!?」「真っ暗じゃないの!」「停電だーっ!」
だけどさ、これ……断線されたら終わりじゃね?
よーし、今の内に進めるだけ進もうか。ゲームでならまだしも、今更あのクソ程に面倒臭いクルクルダンスに付き合う気はないんだよ。
いやぁ、楽ちん楽ちん。敵は暗闇で大混乱だけど、こっちはヒジュツ・カガヤキ(レーダーセンスで周囲の状況を鮮明に感知するヒジュツ)で確認し放題だもんね。
ちなみに、バウワウは目立ち過ぎるので引っ込んでもらっているが、代わりにカラカラがマツリカちゃんを護衛している。傍目には遊んでいるようにか見えないけど。
さぁさぁ、そんな事よりも、さくさくっとサカキ様の所に行っちゃうよ~♪
「ええい、落ち着きなさい! 予備電源に切り替えるのです!」
おっと、この口調は……。
しかも、間の悪い事に電源が復旧し、基地内に明かりが戻り始める。思ったより早かったな。さすがは世界を股に掛ける悪の組織か。
「(マズい、隠れるよ)」「(分かった)」「(あいさ~)」『(キャララ~)』『(ピイ!)』『(プリ!)』
間一髪の所で、私たちは空き部屋のロッカーに隠れる事に成功した。あっぶねぇ。つーか、狭い……。
「まったく、杜撰ですね。当直は誰ですか!?」
ロッカーの外から聞こえる声の主。
僅かに見える外の世界で悪態を吐いていたのは、空色の髪を持つイケメン――――――ロケット団の最高幹部、アポロその人だった。いかにも冷酷非道なインテリって感じ。
実にいけ好かない。原典ではムコニャが毛嫌いしてるらしいけど、気持ちは分かる。ムカつく顔してるよね。
「……ん?」
あ、ヤバい、こっち見た。結構勘が鋭い奴だな。
「報告します!」
しかし、駆け付けた下っ端の女団員が報連相に務めてくれたおかげで、アポロの気が逸れた。
「……分かりました。見に行きましょう。貴女はすぐに任務へ戻りなさい」
よっしゃよっしゃ、そのまま二度と来るな。
「もう行ったから、出て来ても大丈夫よ?」
だが、今度は女団員の方がこちらを見て来た。その上、しっかりバレとる。これは出て行くしかないな。
「アンタ、何者だ?」
「僕? 僕は美人スパイだよ。今はロケット団に潜入してるんだ~♪」
ああ、ロケット団の衣装セットをくれる、例の自称・美人スパイの人か。
でも、そのメタモンみたいな素朴な顔立ちを美人と称されると、違和感しかないのだが……。
「貴方たち、ロケット団を潰すつもりなんでしょ? だったら、そんな格好でうろついちゃ駄目だよ。ちょうど貴方たちにもピッタリのサイズがあるから、譲ってあ・げ・る♪」
何とも都合のいい話だが、そう言えばハルとフィロも同い年くらいだったし、“少年兵”や“鉄砲玉”に属する年少団員が割といるのかもしれない。
「それじゃ、お互いに秘密って事で、バイバ~イ♪」
そして、自称・美人スパイの人は、悪戯な笑顔(メタモン)でウインクしながら、配属場所へと戻って行った。
ありがとう、五秒ぐらいは忘れないわ。
「……先を急ぎましょう」
現在、地下二階。サカキの待つ地下四階はまだまだ先である。
「アオイ……お前、本当にスゲェよ……」
と、お着替えを済ませ、基地内をウロウロしていたら、不意にシンくんがポツリと呟いた。
「どうしたのよ、急に?」
「だって、こんなに簡単に基地に侵入出来るなんて、思ってもみなかったしよ。何だかよく分らないけど、あのロケット団と交渉してる時も、まるで大人みたいだった」
「………………」
まぁ、中身は成人してますしお寿司。
「それに比べて、オレ、熱くなってるばっかりで……オレだけじゃ、たぶん、上手く行かなかった……」
目に見えてションボリと俯くシンくん。
「いいんだよ、シンくんはそのままで」
どうせいつかは皆大人になっちゃうんだから、わざわざ今汚れる必要なんかない。
「えっ……?」
「キミは素直で優しい、しっかりとした芯のある、強い男の子だよ」
だから、私みたいな……汚れ切った心の人間にはならないで。
ポケモンどころか、こんな私とも友達になれる、その優しさを失わないで。
例えその気持ちが、これから何百回裏切られる事になっても。
――――――それが、初めてキミと出会った時からの、変わらぬ願いだ。
「私は、そんなキミが好き」
「なぁっ!?」
何か自分で言ってて小っ恥ずかしくなって来たな。つーか、告白じゃね、これ?
い、いやいや、言葉の綾だからねっ!? ノーカン、ノーカン! ノーカンなんだぁっ!
「さぁ、急ぐわよっ!」
「ごまかした~」『カラカラ~』
「やかましいわっ!」
このマセガキがぁーっ!
「……さすがに広いわね」
うーむ、分かってはいたけど、ポケモンマフィアの基地というだけあって、かなり広い。無駄に複雑で、動線も最悪である。
ホント、もう少し利便性を追求しろよ。これ絶対に下っ端も困ってるから。せめて回らないようにしなさい。
とりあえず、道中ボコった下っ端の情報で、サカキのオフィスへは直通のエレベーターを使うしかなく、動かすには「エレベーターのかぎ」が必要な事が分かった。知ってるんですけどね。
「エレベーターが動かない? ハハハッ、当然っすよ!」
「俺たちが、ずっと守ってるんだからなぁ!」
で、件の鍵を持ってる下っ端だが、まさかのハルとフィロだった。いや、何でこいつらなんだよ。
「行くっス、ラッタ!」『ヂュッ!』
「やっちまえ、スリーパー!」『ロリダロリダ、ブヒヒヒッ!』
うーわー、しかもスリーパー(42)が鍵を振り子に使ってやがる。物凄く触りたくないんだけど。
しかし、勝負は勝負だ。いくらレベルが上がっていようと、ポケモンバトルでこいつらに負ける要素は全くない。
「アキトくん、「ミサイルばり」!」『ブブブブブッ!』
「ピジョット、「エアスラッシュ」!」『ピジョォァ!』
「「ヴァーッ!」」
もちろん、ストレート勝ち。手持ちも前と同じだし、相変わらず弱いなこいつら。
「使えないっスねぇ!」「この役立たずがぁ!」
『ヂゥ……!』『ロリィ……!』
と、負けた腹癒せに、瀕死のアローララッタとスリーパーに鞭打つハルとフィロ。
「おいっ、止めろよ! 死んじゃうだろ!」
「だから何だってん言うんスか?」「死んだら別のポケモンを団長から貰えばいいんだよ!」
「なっ……!」
シンくんが止めに入るが、全く躊躇する様子がない。
ああ、なるほど。こいつらは、そういう奴らか。どうりで弱いと思ったよ。
……もしかして、
「だよねぇ! 弱いポケモンなんて、さっさと捨てちゃえばいいんだよ!」
「ア、アオイ、何を……、……っ!」
初めこそ驚いたシンくんだったが、すぐに気付いて黙ってくれた。
そりゃ、分かるよね。私、今絶対に目が淀んでるもん。
「おっ、話が分かるじゃないっスか」「だよなぁ~!」
「この前のガラガラとか、ホント使えなかったよね!」
「そーそー、大人しく捕まってれば怪我だけで済んだのに、無駄に抵抗しちゃって」「おかげで瀕死にさせちまったから、骨だけ取ったら後は用済みだったしな。馬鹿な奴だよ、マジで。ギャハハハハ!」
「ハハハハハハ! ホントに馬鹿だよ……お前らは。アカネ、「ゆびをふる」」
もういいや。死ね。
『ピッピィ~ッ!』「「ギャアアアアアアッ!」」
アカネちゃんの指を振るが破壊光線を引き当て、ハルとフィロを吹き飛ばす。さすがに頭に来ていたのか、割と遠慮容赦のない一撃だった。全身に火傷を負わされた二人が、壁に叩きつけられた後、ゴトリと床に転がる。まるでゴミのようだ……いや、実際にゴミか。
「戻って、アカネ。ヒナゲシ、「どくどく」」『フィリリリ……』
「「ぐげぁああああっ!」」
さらに、傷口に猛毒を仕込んでやる。ゴミならどう扱ってもいいよね、別に。
「戻って、ヒナゲシ。アキト、「ミサイルば――――――」
「アオイ、よせっ! もう止めろ! そいつら死んじまうぞ!」
と、さすがに止められた。レディに羽交い絞めなんて、案外積極的じゃないの、シンくん。
「大丈夫、死なせはしないわ。はい、「かいふくのくすり」。ここに置いておくから、頑張って取ってね。それじゃ、バイビー」
私は追撃を諦め、代わりに少し離れた所に、どっかで拾った(マジでどこだったっけ?)なけなしの回復の薬を置いて、放っておくことにした。あの深手じゃ、辿り着く前に死ぬだろうし。
「うぐぐぐ……い、嫌だ、死にたくない……助けて、団長ぉ……!」「何で俺たちがこんな目に……壊れた道具を切り捨てる事の、どこが悪いんだよぉ……!」
猛毒と火傷で苦しみのたうちながら、ハルとフィロが芋虫のように這いずっている。心なしか、アローララッタとスリーパーが嗤っているような気がした。
当然だろう。どういう教育を受けたのかは知らないが、この二人は明確にポケモンを“道具”と認識しているのだから。年齢的に洗脳されたのかもしれないが、それこそ私の管轄外である。
そもそも、私は別にポケモンを苛めようが、捨てようが、道具と見做していようが、文句を言う気はない。プレイヤーなんて、少なからずそういう一面、あるしな。厳選とか逃がしたりとかは、廃人なら当たり前だし。
だけど、殺すのだけは駄目だ。明確に命を切り捨てたという
それをやってしまったこいつらを生かしておく気はない。私の
「くそっ……!」
だが、死ぬ寸前で、葛藤に打ち勝ったであろうシンくんが、ハルとフィロに回復の薬を使用。二人は惜しい事に、一命を取り留めてしまった。
「チクショウ、覚えてるっスよ、オマエら!」「絶対に復讐してやるからなぁ!」
しかし、ハルもフィロも感謝どころか反省する素振りさえ見せず、アローララッタとスリーパーを回収すると、さっさと行ってしまった。マジで救いようがないな、あいつら。ヒルカワって呼ぶぞコラ。
「………………」
そのあんまりな態度に、意気消沈するシンくん。
「……ごめん、やり過ぎたわ」
そんな彼の姿に、私は耐えられなかった。変わらないでと願っておきながら、自分が曇らせるような真似をしてどうする。
……ここは、ゲームの中じゃないんだぞ。
瀕死のポケモンを痛め付ければ死ぬし、裏切られれば人の心なんて簡単に壊れる。皆みんな、生きているんだ。
コマンド入力さえすれば都合良く立ち直る、
いい加減に自覚しろよ、私の馬鹿……!
「………………」
シンくんは何も言わなかった。応えて、くれなかった。ポケモンたちは、どうしていいか分からず、オロオロしている。
「………………」
そんな私たちの姿を、マツリカちゃんは黙ってスケッチしていた。何を考えているのかは、皆目見当が付かない。とりあえす趣味が悪いとだけ言っておく。
「「「………………」」」
そして、私たちは一言も会話がないまま、エレベーターの鍵を使い、サカキのいる最深部のオフィスへ向かう。
「えっ……!?」
だが、エレベーターは地下四階では止まらず、何故かそのずっと下――――――存在しない筈の地下七階で止まった。
そこにいたのは、
『おやおや、こんな所に人間が……それも外部の子供がやって来るとは、思いもしませんでしたよ』
人語を介す、ポリゴンZだった。
な、何でこんな所に……!?
「な、何だこいつ!? ポリゴンに似てるけど……何か違う!?」
カントーには存在しないポケモンであるポリゴンZの姿に、シンくんが大絶賛大混乱。
「ぽりごん……?」
さすがにアローラから来たマツリカちゃんなら知ってる……かと思われたが、首を傾げるばかり。まだこの頃はパッチの開発がなされていないのかもな。アップグレードさえない時代だし。
だとすれば、ますます分からない。進化方法が確立されていないLPLEの世界に、どうしてポリゴンZがいるんだ!?
そもそも、何で人間と会話出来るんだよ、このポリゴンZは!?
『ですが、見られてしまったのならば、致し方ありません。「
しかし、疑問を氷解する暇もなく、戦闘に突入する。
――――――謎のポケモンが襲い掛かって来たっ!
「ハヤテ、「ネコにこばん」!」『ケァーン!』
とにかく、挑んでくるなら、応じるしかない。私はハヤテを繰り出し、牽制も兼ねて猫に小判を放った。
『馬鹿ですねぇ!』
だが、ポリゴンZはヒラリと躱し、トライアタックで攻撃してくる。
『ホァッ!』「ハヤテ!」
炎、電気、氷の三属性のビームがデルタを描きながらハヤテを穿ち、地へ落とす。たった一発で瀕死である。
こいつ、相当レベルが高いぞ……!
『死になさい』「あっ……」
さらに、瀕死のハヤテには目もくれず、無防備になった私に破壊光線を放って来やがった。
え、あ……嘘……私、これで……終わ――――――
「アオイっ!」「わっ……!?」
しかし、咄嗟にシンくんが動いてくれたおかげで、何とか助かった。
標的を失ったビームは鋼鉄の壁面を融解させ、グツグツにしてしまう。何て破壊力だよっ!
『チッ……ならば、今度こそ……』
反動で動作が鈍っているが、再び私……否、私に狙いを付け始めるポリゴンZ。
『プリャアアアアアッ!』『ピッピィッ!』
『ぐわばぁああああああああああああっ!』
だが、そこにプリンとアカネちゃんが割り込む。
アカネちゃんはコズミックパンチで、プリンは「ころころスピンアタック」というスマブラっぽい新しい相棒技で攻撃を仕掛け、ポリゴンZを殴り飛ばし、撥ね飛ばした。
「バウワウッ!」『ガァヴォァッ!』
『ぐげぁああああああああああっ!』
そして、バウワウのフレアドライブも直撃。燃え盛る伝説ポケモンが、人工ポケモンを聖なる炎で焼き焦がす。
さすがレベル50の放つタイプ一致技。余裕の威力だ、火力が違いいますよ。
『うぐぐぐっ、高がピッピとプリン、ウィンディ如きが……! しかし、ここで倒れる訳にはいきません! また、相見えましょう……!』
これはポリゴンZも堪えたようで、
あ、カラカラもちょっとだけ頑張ったんだよ、骨が掠っただけだけど。
「……あ、ありがとう……でも、どうして……」
どうして、私なんか、助けてくれたの?
今の今まで、誰も、そんな事――――――、
「当たり前の事、聞くなよ……」
「………………っ!」
私はシンくんに抱き着いた。
そして、そのまま声を上げて泣いた。これまで一度もした事のない、大号泣だった。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
あれだけの事をしておきながら、その相手に縋り付いて泣き喚くなんて恥ずかしい。
でもね、涙がね……止まらないんだよぉ……っ!
「………………」
そんな私とシンくんのツーショットを、マツリカちゃんがスケッチする。にこやかに。バウワウもカラカラも笑っていた。
うわぁ~、ブッ飛ばしたくなるわぁ……!
「落ち着いたか?」
「う……ぐすっ……うん……」
「なら行こう」
「……うん!」
そんなこんなで、謎のポケモンによる意味不明なイベントは、ひとまず幕を下ろした。
これ、絶対にイベントフラグだ。後で再会する流れですね、分かります。
「いや、アンタら、秘密基地で何してんのよ……?」
「馬鹿なのか?」『馬鹿なのにゃ?』
……で、地下四階で降りた瞬間、ムコニャに見付かった。さすがに気付かれるよなぁ。
「まぁいいわ。丁度サカキ様と面会するところだったし、一緒に来なさいな」
「どこで手に入れたか知らんが、その恰好なら新入りで通じるだろ。紹介してやる」
『今までの借りをここで返してやるにゃ~♪』
良い奴だな、お前ら。さすがは愛と正義の悪を貫く連中である。
「着いたわよ。失礼のないようにね」
程なくして、オフィスの入り口に到着した。いよいよ以て、ロケット団のボス・サカキとのご対面だ。
「「失礼します!」」『失礼しますにゃっ!』
エレベーターと同じくらいに重厚な扉にカードキーが差し込まれ、入力されたコードが厳重なロックを解除し、思ったよりも滑らかなスライドで開放される。
内部はそこそこ程度の広さで、壁も床も天井も他の部屋と同じ金属パネルで構成されていた。地下施設なんだから仕方ないと言えばそれまでだが。
その分、小物や調度品にはかなり金を掛けており、床にレッドカーペット、壁には赤と白のパネルが後付けされ、様々な資料が収められたアンティーク調の本棚や如何にもなオフィステーブルなどが置かれている。入り口から見て真正面の壁には、デカデカと「R」のエンブレムが飾られていた。
何と言うか、質実剛健な雰囲気を持った、悪の組織のボスが座するに相応しい部屋である。
「……以上が、現状把握出来ている不穏分子です」
「なるほど、思っていた以上だな……」
中ではちょうどアポロが何某かを報告しており、例のあの人が溜息を吐いている。
オールバックに鋭い目付きという悪人面に、黒い一式物のスーツ(ただしYシャツは赤)を粋に着こなす、これぞマフィアのボスと言った感じの燻し銀。傍らには最高のペットたるシャムネコポケモンのペルシアンが寄り添っている。
間違いない……こいつこそ、ロケット団の首領サカキだ。
それにしても、相変わらずカッコいいなぁ。
他の組織のボスも人の上に立つ
マツブサはどちらかと言うとインテリ系だし、アオギリはただの海賊だし、アカギはざわざしてそうだし、ゲーチスは真ゲスの類友だし、フラダリは色々と惜しいけどアレだし、グズマは不良だし、ルザミーネはなぁにこれぇだし、ローズはそもそも悪人ですらないし……。
ゲーフリよ、そろそろサカキの再来となる人物を登場させてもいいと思うぞ。
あと、何かマトリさんっぽい女性秘書もいらっしゃいますが、本人なんですかね?
とりあえずアレだ、
「サイン下さい!」
「「「いや、誰だお前は」」」
「「『ジャリガールぅぅぅっ!』」」「アオイぃぃっ!」「ありゃー」
サインを強請ったら、総スカンを食らった。解せぬ。
「……本当に誰なのですか、貴方たちは? そこの幹部候補生、説明してくれますね?」
落ち着きを取り戻したアポロが詰問してくれる。
「件の少女と、その友人です」
「ああ、報告書にあった、例の“
コジロウさんや、もっと言い方はなかったのかね。その通りだけどさ。
「はい。ポケモンの化石とそれを復活させる技術者の情報をリークしたのも彼女です。そして、“これ”も……」
『ミュゥ~!』
「「「なっ……!」」」
さらに、さっき私があげたミュウをさっそく召喚。組織のトップ3の度肝を抜いた。
おやおや、なかなか良いプレゼンしてくれるじゃない。これは私も頑張らないとな。
「い、一体どこでそのポケモンを――――――」
「フジ老人……いや、フジ博士からですよ。もちろん、居場所も知っています」
開いた口が塞がらないアポロに、私が爆弾を投下。これで掴みは完璧ね♪
シンくんが「そんなの聞いてない」って顔をしてるが、実際に言っていないから仕方ない。重要なのは、嘘だろうが何だろうが、相手の興味を引く事だよ。話が通らなきゃ、会話なんて出来ないんだから。
「……貴方、一体何者なのです?」
「見ての通りの子供ですよ。ポケモンマスターを夢見るね」
そう言いつつ、サカキの方をチラリと見る事で、言外に「お前の表の顔も知っているぞ」と伝える。これならアナタも興味を持ってくれるわよね、サカキさん?
「良いだろう。話を聞いてやる」
「「サカキ様!?」」
「アポロ、マトリ。少し下がっていろ」
案の定、サカキが動いた。アポロとマトリが驚愕しているが、知った事じゃないって感じ。
「「分かりました……」」
こうなっては何を言っても無駄だと悟ったのか、二人は渋々と脇に下がった。ムコニャも珍しく無言で下がったので、私とシンくんとマツリカちゃんの三人とサカキが正面から向かい合う形になる。
「さて、まずはその恰好から説明してもらおうか?」
あ、そこからスか。
「自称・美人スパイから貰いました」
「ほほう。そいつは“こいつ”の事か?」
サカキがアポロに目配せし、アポロがそれに最新式のポケギアによるホログラムで応える。そこにはあの時のメタモンお姉さんが映し出されていた。
「はい、間違いありません」
「……こいつは、一部の部下を扇動して、クーデターを図っていた女狐だ。まさかスパイだったとはな」
ああ、マジもんのスパイだったんだ、あの人。人間、見た目じゃ分からないものである。
「どういう関係だ?」
「お近付きになりたくて、不法侵入した時に出会いました。ちょうど良かったんで貰いましたけど、初対面ですよ?」
「………………」
おうおう、懐疑的な目をしてますな。当たり前だけど。
「まぁ、信じてくれなくても構いませんけどね。ただ、少なくとも彼女の味方ではありませんよ。“ポケモンを道具扱い”して、殺してしまうような輩とは関わりたくないですから」
「………………!」
この言葉に反応したのは、サカキではなくアポロだった。どうやら“当たり”みたいね。
「下っ端の中にいた、ハルとフィロ。あの二人、あのスパイの配下なんでしょう? 迂闊にも“団長”って連呼してましたしね。猿でも分かります」
「そいつらはどうした?」
「彼らが殺したガラガラと同じ末路を辿ってもらおうかと思いましたが、逃げられました」
「……どうして奴らがガラガラを殺したと?」
「カマを掛けて本人に聞きました。あいつらアホでしたからね。そうでしょう、アポロさん?」
もう一度、アポロさんに振ってみる。今度は直接だ。
「ええ。あの二人は前々から暴走しがちでしたから、割と早く尻尾を掴めましたよ。
つまり、あのスパイさんは停電に乗じて何か事を起こそうとして、それをアポロに逆用されたのか。滅茶苦茶優秀じゃないですか。さすがは最高幹部である。
「シルフの回しモンですかね?」
「……どうしてそれを?」
「何となくです♪」
でも、子供のカマには引っ掛かっちゃうお茶目さん。
たぶん、中身の年齢は私の方が上だけどね。若手って感じだし。
「……目的は何です?」
「開発中の“シルフスコープ”ですよ。持ってるんでしょう?」
「………………!」
いや、アポロさん、顔に出過ぎ。もう少し表情のコントロールを学びましょう。
とは言え、企業秘密やら重要機密やらをベラベラ喋る子供が目の前にいたら、そういう顔したくなるのも分かるが。
「フジ博士は今、ポケモンタワーにいます。しかし、ポケモンタワーは今、どっかの馬鹿共が殺したポケモンの幽霊がうろつくせいで、先に進めません。だから、シルフスコープが必要なんですよ」
「ならば、シフルカンパニーに直接伺えばよろしいのでは?」
「あんな胡散臭い企業、信用出来ませんよ」
個人的にだけど、シルフカンパニーって真面な企業じゃないと思うのよ。社長さんは誠実っぽいけど、社内の人間全てがそうだとは限らないし。マスターボールとかポリゴンとか、“夢はあるけど絶対に悪用される商品”を開発している辺り、社長・社員共々、後先を考えられないのかもしれない。歯止めが利かない探究者なんぞ、マッドサイエンティストと変わらん。
そんな事だからロケット団に目を付けられ、企業スパイ(しかもダブルスパイっぽい)なんか生み出しちゃうんだよ。
「――――――その理屈だと、俺たちも信用出来ないんじゃないのか?」
すると、黙って様子を見ていたサカキが口を挟んできた。確かにそうなんだけどね。
「私はね、和気藹々としたアットホームな職場だとか、福利厚生がしっかりしてますとか、人社一体だとか、そういうおべんちゃらを並べる連中が、一番大嫌いなんですよ」
何が互いを尊重し合ってだ。ふざけるなよベイベロン。反吐が出るんだよ、クソが。
「まるで闇のような目だな。その年で、一体何を見て来たのやら……」
そんな私の闇を感じ取ったサカキが、愉しそうに笑う。
「逆にそっちの少年は、燃え盛る火のようだな」
「……当然だ。オレは悪魔に魂を売る気はないからな」
シンくんスゲェ。マフィアのボスに正面から喧嘩売っていやがる。
「ほう。ならば、何故ここにいる? その少女は媚びを売りに来たようだが……」
「アオイはそんな安っぽい奴じゃないさ。単に利用するつもりなだけだよ。アオイも、オレも」
それ、フォローなんですかね?
「アオイが何を考えているかまでは分からない。でも、これだけははっきりしている。オレはポケモンを悪用し、あまつさえ殺しちまうようなロケット団を許さない。だけど、今のオレはただの子供だし、全然強くもない。だから……」
「だから?」
「だから、オレがいつか変えてやる! 今は無理でも、強くなって、絶対にお前の首を取ってやる!」
そして、この正々堂々、威風堂々な下克上宣言。逆にカッコいいじゃないか、チクショウ。
「だから、この俺に力を貸せと? 他ならぬ敵を相手にか?」
「そうだ! オレは馬鹿で弱いし、割り切れも出来ないから、そんな事しか考えられないんだよ!」
「フハハハハハハハハハッ!」
おおぅ、サカキが豪快に笑っていらっしゃる。マフィアのボスとしてではない、ジムリーダーとしての顔だ。
「いいな、その反骨精神。ウチの息子にも見習わせてやりたいもんだ」
それって、一歩間違えば永遠に正体不明な、あの
「それに、お前の濁った瞳。まさに悪道に相応しい」
こっち見んな。あと少しくらいマツリカちゃんにも触れてあげてください。
「いいだろう。お前たちのロケット団への入団を認める」
「サカキ様!?」「こ、こんな得体の知れない連中を……」
「あくまで“仮”だ。深い所には関わらせないし、関わり方もこれまでと同じでいい。……寝首を掻きたければ掻いてみろ、小童共」
実に悪い顔で、私たちの
「アポロ、例の玩具をくれてやれ」
「ハッ……!」
さらに、ようやく出ました、シルフスコープ。暗視ゴーグルにカメラを組み合わせたような、割と謎な見た目の機械である。
「シルフカンパニーとトキワコンツェルンは表向きこそ提携を結んでいるが、裏では競合相手でな。お互いに牽制し合ってるんだよ。この玩具も、こちらのスパイが持ち帰った物だ」
この世界線ではロケットコンツェルンじゃなくて、トキワコンツェルンなのか。関係性がモロバレルだからね、仕方ないね。
そんな事より、はよスコープよこせや。
「……とは言え、そんな大事な戦利品を、只でやる分けにはいかんな」
しかし、サカキはニヤニヤするだけで、なかなか渡してくれない。さっき玩具って言うたやん、アンタ。
「アポロ、マトリ」
「「了解です!」」
そして、彼の目配せと共に、モンスターボールを構えるアポロとマトリ。
おや、この流れは……?
「欲しくば、奪って見せろ。それが入団と引き渡しの条件だ」
なるほど、こましゃくれた媚びも、言葉だけの反骨精神も、確かな実力を見せてからにしろ……って事か。いいだろう、やってやる。
「しんぱんやるー」
キミは自由だな、マツリカちゃん!
「行くよ、シンくん!」「おう!」
「子供とは言え、手加減はしませんよ!」「押して参ります!」
――――――ロケット団の最高幹部と秘書の、アポロとマトリが勝負を仕掛けて来たっ!
◆ロケットゲームコーナー
ロケット団が運営するスロットゲームのお店。賞品がかなり豪華で、ポリゴンはここでしか手に入らない。賞品やスロットそのものに魅かれ、それなりのプレイヤーがここで散財したのではないかと思われる。
その地下はロケット団の秘密基地となっており、最奥には悪の首領が座して待っている。