魔女と魔剣士の旅々   作:ユリゼン

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プロローグ 運命の始まり

 これはまだ私が小さい頃のお話です。

 

 

 

 私が家でいつものように大好きな『ニケの冒険譚』を読んでいたら、突然お母さんに呼ばれました。

 『何だろう?』と思いながら部屋を出てリビングに行くと、お母さんが小さな女の子を連れて立っていました。

 

 それ自体が輝いているかのような白銀のツインテールに瑠璃色の瞳で、私よりも少しだけ小さいのですが、それはそれはもう可愛い女の子でした。

 

 「イレイナ、この子は『ティア』。今日から私達の家族よ」

 

 お母さんが微笑みながらそう言ってきました。

 家族になる。ということはティアという女の子は今日から私の妹になるということ。

 一人っ子だった私は密かに妹に憧れていたので、この時は内心大はしゃぎでした。それはもう一瞬ニケの冒険譚を忘れるくらいでした。それくらい嬉しかったのです。

 

 

 その日から私はティアと一緒に生活するようになったのですが……………それはそれはもう大変でした。

 私が話しかけてもティアはうんともすんとも言わず、言われたことしかやらない、まさにお人形のような子でした。

 

 私も最初の頃は仲良くなろうとあれこれ試していたのですが、それでもティアは無表情&無反応だったので、次第に『何でこんな子が家族になったんだろう?』と不満に思うようになりました。

 一度お母さんにその不満をぶつけてみたのですが、「まだ私達に慣れていないだけだから、気長に待ってあげて」とはぐらかされるだけ。

 お母さんにそう言われた私は渋々ティアと接していたのですが、ついに不満が爆発してしまいました。

 

 

 「どうしてあんたみたいなやつが妹なの!!」

 

 

 その言葉と共に私はティアの頬を引っ叩きました。パシッと乾いた音と共にティアの頬は赤くなりますが、その表情は相変わらず何を考えているのかわからない無表情。

 私はそれが気に入らず、今度は反対側の頬を引っ叩きます。それでもティアは無表情のまま。

 気がつけば私はティアに馬乗りになって叫びながら引っ叩き続けていました。

 

 私の叫び声を聞きつけたお母さんとお父さんがすぐに駆けつけ、私をティアから引き離します。そして騒ぎの原因を聞いたお母さんに罰としてしばらくの間ニケの冒険譚を取り上げられました。

 

 ティアに暴力を振るった上に大好きな小説を取り上げられた私は悲しみのあまり自分の部屋に引きこもり、ずっと枕に顔を埋めて泣き続けました。

 

 そしてついに夜中、こっそりと家出をしました。

 

 

 私は何を考えているのかわからないあの子が嫌いになっていました。

 

 私は何も教えてくれようとしないお母さん達が嫌いになっていました。

 

 だから私は家族と関わりたくないがために家を飛び出して森の中に飛び込んでしまいました。

 

 

 暗い森の中を脇目もふらずに走り続けました。

 すると不意に何かにぶつかってしまい、尻もちをついてしまいます。

 ぶつかってしまった何かに一言文句を言おうとして────凍り付いてしまいました。

 

 

 私がぶつかってしまったのは、平和国ロベッタにいるはずのない、凶暴な魔獣だったのです。

 

 

 魔獣は不機嫌そうに唸り声を上げながら振り向き、私を見た瞬間獲物を見つけたかのように舌舐めずりしました。おそらく『子供の肉は美味しい』ということを本能として理解していたのでしょう。

 

 「ヒッ………!?」

 

 『早く逃げなきゃ食べられちゃう』、そう思っても腰を抜かしてしまったのか動くことができません。その間にも魔獣はゆっくりと歩み寄ってきます。

 

 「ガァァァァァァッ!!」

 

 そして雄叫びを上げながら私に向かって飛びかかってきます。

 思わず目を瞑ってしまった私ですが………不思議なことに一向に痛みを感じません。

 

 恐る恐る目を開けると目の前に魔獣の姿は無く、代わりに一人の人物の後ろ姿がありました。

 それは背中に二対の翼を生やし、全身が逆鱗に覆われ、頭には天に向かって伸びた二本の角が生え、そして全身に走る蒼い光。

 

 

 ────悪魔。まさにそのような姿をしていました。

 普通なら一目見ただけでも恐怖を感じてしまうことでしょう。………しかし、私がこの悪魔の姿を見て最初に感じたのは『安心感』でした。

 

 「■■■■ーーーーーーッ!!」

 

 悪魔は右手に豪華な装飾された大剣を呼び出すと、雄叫びを上げて魔獣に襲いかかりました。魔獣もまた雄叫びを上げて悪魔に襲いかかりますが、悪魔はその鋭い爪や牙を軽々と避けては大剣で魔獣を斬り刻んでいきます。

 

 ついに恐れをなしたのか、魔獣は悪魔に背を向けて逃げていきました。魔獣が逃げていったことにより、この場には私と悪魔しかいません。

 しばらく逃げ去っていった魔獣を見ていましたが、不意に悪魔がこちらを向きます。思わずビクリと体を震わせてしまいますが、先ほどのように『逃げよう』と思うことはありません。

 

 すると悪魔の身体が蒼色の淡い光に包まれます。その光が消えると、そこにいたのはなんとティアだったのです。

 

 

 ────そして次の瞬間、ティアが持っていた大剣を放り捨て、未だに腰が抜けている私に抱きついてきました。

 

 

 「()()()()()…生きててよかったよぉ………!!」

 

 

 ────私に抱きついてきたティアは無表情ではなく、私が無事であることを知って泣きじゃくっていました。

 今まで無表情だったのに今は泣きじゃくっているティアに私は何も言えず、ただ混乱することしかできませんでした。

 

 

 「……お姉ちゃん、私は『半人半魔』なの」

 

 

 一頻り泣いた後、ティアが私の目の前にちょこんと座って語り始めました。

 

 

 ティアは人と悪魔の間に生まれた半人半魔でした。身体能力や魔力は人間ではありませんでしたが、それ以外はごく普通の女の子でした。しかしティアの故郷である街は『人間至上主義』で、それ以外の種族に対しては排他的でした。そのためティアの一家は街外れの森の中でひっそりと生活していたそうです。

 

 ………しかし、そのささやかな幸せがあった生活さえも奪われてしまいました。

 ある時、武装した街の住人達が幼いティアの目の前で両親を殺し、ティアの命をも奪おうとしました。

 

 その光景を見たティアは初めて『街の住人達が憎い』という負の感情を抱いてしまい、眠っていた悪魔の力が目覚めてしまい、気がつけばその場にいた街の住人達を全員殺してしまっていました。

 

 両親を殺され自らも殺されそうになったとはいえ、自分の手で多くの命を奪ってしまった。その事実に耐えきれず、ティアは泣き叫び、廃人のようになってしまいました。

 

 その後、紆余曲折があって私達の元に来たのですが、ティアは『また自分が傷つくかもしれない』、『お姉ちゃんになってくれた人を傷つけてしまうかもしれない』という恐怖心から、敢えて壁を作るようなことをしていたのでした。

 

 「本当はもっとお姉ちゃんと一緒にいたかった………でも私は悪魔だから、周りを不幸にしちゃうの………」

 

 そう言って再びグスグスと泣き出すティア。

 そんなティアを私は優しく抱きしめました。

 

 「え……?」

 「あなたは悪魔なんかじゃない。あなたは人間。とっても優しい人間」

 

 私はティアを抱きしめながらそう語り掛けます。

 ティアは私と同じごく普通の人間です。お姉ちゃんっ子で、泣き虫で、とても優しいただの女の子なのです。

 

 「皆がティアのことを傷つけるなら、私がティアを守る。それがお姉ちゃんの役目だから」

 「おねえ…ちゃん………!」

 

 感情のままに出した私の言葉についに耐えきれなくなったのか、ティアが声を上げて泣き出しました。

 

 やっぱりティアは人間でした。だって悪魔は泣くことなんてできないのですから。

 

 

 その後私達を探しに来たお父さんとお母さんに見つけてもらい、無事に家に帰ることができました。

 家では私とティアはお母さんにゲンコツを落とされたものの、「二人が無事で良かった……!」と泣かれてしまいました。そのことに安心を覚えたのか、はたまた『まだ生きている』ということを実感したのか、私も泣き出してしまい、それにつられてティアまで泣き出してしまいました。お父さん? 蚊帳の外です。

 

 

 それからは私とティアは本当の姉妹のように仲良くなりました。

 以前の無表情が嘘のようにティアはコロコロと表情が変わり、見ていて飽きません。これだけでパン10個はいけます。

 特にティアは私が読み聴かせる『ニケの冒険譚』が気に入ったようで、毎日「読んで読んで!」と目を輝かせながらせがまれました。この子は天使か何かですか?

 

 そして私はずっと考えていたことを口に出しました。

 

 「ティア、大きくなったら一緒にいろんな国を旅しない? ニケのようにいろんなものを見にいかない?」

 「行きたい! お姉ちゃんと一緒に旅したい!」

 

 私の提案にティアが大きく頷きます。そして私とティアはお母さんから教えてもらった、小指同士を絡ませる『約束のおまじない』をしました。

 

 

 私とティアが他の誰にも引き裂けないように。

 

 

 

 

 

 さて、ここで問題です。

 ある草原を二人の少女がこの先にある国へと向かって飛んでいました。

 

 片や黒いローブに黒い三角帽子の灰色の髪の少女、片や青いリボンがアクセントの黒のドレスに黒いリボンで結ばれた銀髪のポニーテール。

 

 二人の少女は仲良く、それこそラブラブな恋人の如く仲睦まじく旅をしています。いつか約束した、多くの国を見るために。

 

 そんな誰もが振り向いてしまう二人の美少女は一体誰か?

 

 

 

 

 ────そう、私達です!!

 

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