魔女と魔剣士の旅々   作:ユリゼン

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魔法使いの国 その一

 太陽に照らされて熱を帯びた岩肌の上を二つのほうきが飛び、生暖かい空気を切って進みます。

 

 それぞれのほうきを操るのは、それはそれはもう見目麗しい二人の少女。片や黒のローブと三角帽子を身に纏った灰色の髪の少女、片や黒いリボンがアクセントの腹部が露出した白と黒のドレスを身に纏った銀色のポニーテールの少女。

 二人はそれぞれの髪を風に揺らしながら前に進みます。

 

 そこに人がいたのなら間違いなく誰もが振り返り、ほぅっとため息をこぼしてしまうほどの美貌を兼ね備えた彼女達は一体誰でしょう?

 

 そう、私達です。

 あ、今のはお姉ちゃんの真似をしてみたので、私は妹のティアだよ。

 

 「お姉ちゃん、もうすぐで着くみたいだよ」

 「そうですね」

 

 私の言葉に頷くイレイナお姉ちゃん。

 

 私達姉妹は現在この先にある『魔法使いの国』を目指してるの。なんでもそこはたくさんの魔女が暮らしてる国なんだとか。

 元々は山だったものを削って壁を築き上げたらしく、周囲には高い壁がそびえ立って外側から国の中を窺うことはできない。

 視線を少し下にずらすと唯一の出入口である門が見えたので、私達はそこに向かう。

 

 なんて随分と厄介な場所に国を創ったんだろう、と思わなくもなかったり。でもこれはこの国に住む人達なりの配慮なんだろうね────ついうっかり間違えて入ろうとしないための。

 そんなことがあるかどうか疑わしいけど。

 

 門の前まで来たところで、私とお姉ちゃんはほうきを降りる。すると入国の審査をする門兵さんが一人迎え出てきた。

 門兵さんは私達を頭からつま先までゆっくりと見てくる。その際に私はお姉ちゃんの後ろに隠れる。まだお姉ちゃん達以外の視線には堪えられないんだよね………

 でも門兵さんは気にせず、私とお姉ちゃんの胸元にあるブローチを見てからにこやかな笑みを見せてきた。

 

 「ようこそ、魔法使いの国へ。どうぞ中へお入りください、魔女様」

 「? 魔法使いかどうかの審査はしなくていいんですか?」

 

 お姉ちゃんが首を傾げながらも兵さんに聞く。ここに来る前に『門兵に魔法を見せなければならず、一定以上の能力がなければ入国が許可されない』と聞いていたので、あっさりと入国が許可されたことに疑問を覚えたんだろうね。

 

 「あなた方が飛んでくるのをここから見ていましたから。それにそのブローチは紛うことなく魔女のもの。どうぞお入りください」

 「ああ、そうだった。そうでした」

 

 そういえば『ほうきで満足に飛べることが入国の最低条件』だった話をすっかり忘れてた。私はほうきが無くても飛べるけど、それだとこの国の中に入れないかもしれないということで、こうして魔剣『マルミアドワーズ』をほうきに変えて飛んでたんだった。

 うっかりうっかり。お恥ずかしい。

 

 「それと怖がらせてしまって申し訳ありませんでした。お詫びとしてはつまらないものですが、どうぞこれを」

 「わ、ありがとうございます」

 

 そう言って門兵さんがくれたのは一個の飴玉。私はそれを口に放り込んでコロコロと転がしながらお姉ちゃんの後に続いて大きな門をくぐる。

 

 

 ここ『魔法使いの国』は魔道士、魔女見習い、魔女────つまり()()使()()()()()()()()()()()()()()()という奇妙なしきたりをしている国である。

 

 

………

……

 

 

 門をくぐり抜けると、私達の目にへんてこな看板が二つ映った。

 片方はほうきにまたがっている魔法使いが丸に包まれていて、もう片方は歩いている兵士が三角に囲まれているものだった。

 

 「お姉ちゃん、この看板って何だろう?」

 「さあ、何でしょうね?」

 

 私とお姉ちゃんは二人揃って首を傾げる。

 でもその答えはすぐに見つかった。見上げれば所狭しとひしめき合っているレンガ造りの家達の上、もしくは太陽の下を多くの魔法使いが飛び回っていた。

 どうやらこの看板はこの国ならではのルールらしい。

 

 「『郷に入りては郷に従え』って言葉がありましたね」

 

 お姉ちゃんがそう言いながらほうきを取り出して横座りに乗ったので、私もほうきにしたマドミアドワーズに横座りに乗る。

 そして軽く地面を蹴ってふわりと浮き上がる。

 

 こうして宙に浮かんだ私達に、魔法使いの国が本当の姿を現す。

 枯れた大地のように広がる赤茶色の屋根たちの上を魔法使い達が漂っていて、ほうきの上で談笑している人もいれば、ほうきに荷物をくくりつけて飛んでいる人、見るからにザ・魔女っていう老婆もいれば空を駆けて速さを競い合う子供達の姿まで、この国らしい風景が広がっていた。

 

 それはとっても素敵な光景で、息を呑んでしまうほどに美しくて。私には眩しい光景だった。

 

 お姉ちゃんがゆっくりと動き始めたので、私も後に続いて動き始める。

 ぼんやりと流れに身を任せていると、ふと屋根の上に『宿屋』という看板がくくり付けられているのが目に入る。他にも『八百屋』だったり、『肉屋』だったり、さらには『宝石店』だったりと、たくさんの店が屋根に看板をくくり付けていた。屋根の上で生活するから、屋根の上に看板を置くのが主流なんだろう。

 

 さらによく見てみると、ほとんどの家の屋根に人ひとり通れそうなほどの大きさの窓が埋め込まれていた。

 ぽけーっと眺めていると、不意に窓が開いて中から男の人がほうきに乗って飛び出してきた。つまりはそういうことらしい。

 

 「おもしろい国だね」

 「そうですね」

 

 私とお姉ちゃんはそんな会話をしながらのんびりと、国の景観を楽しみながら飛び回る。

 

 そんな仲睦まじい私達の仲を引き裂く変化が起きたのは、しばらく進んだ頃のこと。

 

 「いやあああああああああああああああっ!」

 

 突然背後から絶叫。

 私はマルミアドワーズの柄を掴んで急降下したからなんともなかったけど、お姉ちゃんはのんきに背後を振り返るもんだから隕石のように突っ込んできた何かと激突、もつれあいながら屋根の上に落ちて瓦を剥がしながら落ちる寸前で止まった。

 その際に「うげ」とか「うぎゃ」とか可愛くない悲鳴が聞こえたような気がしたけど、私は聞かなかったことにする。やっぱり持つべきは空気の読める可愛い妹だと思うのです。

 

 「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 マドミアドワーズを操ってお姉ちゃんのそばによれば、お姉ちゃんは黒のローブにこびりついた赤茶色の破片を払いながら立ち上がるところだった。

 

 「ええ、直撃は避けましたから」

 「そっか、よかった」

 

 お姉ちゃんが無事であることにほっと息を漏らしながら、今度はお姉ちゃんに突撃した不届き者に視線を向ける。

 

 「うごごごごご…………」

 

 変な呻き声を上げながら目を回しているのはお姉ちゃんや私よりも年下に見える十代の女の子で、黒色の短く切り揃えられた髪に中性的な顔立ち、黒のマントの下に白のブラウスとチェックのスカート、胸には何も付いていないから多分魔道士の人だろう。

 

 私は屋根の上に降りると、ほうきにしていたマルミアドワーズを両手持ちの杖に変え、石突の部分でツンツンとつつく。

 

 「生きてるかな?」

 「生きているに決まってるでしょう」

 

 私の言葉にお姉ちゃんが呆れながらそう返して、「あの、大丈夫ですか?」と声をかけながら肩に触れる。

 すると不届き者の目がパチッと開いた。

 

 「………」

 「………」

 「………」

 

 そして沈黙。状況が理解できていないらしい。

 

 「ほうきの操作、苦手なんですか?」

 

 お姉ちゃんが容赦無く言う。今のは完全に皮肉だ。

 

 「………あ」

 「ようやく頭が回り出したみたいですね」

 「あわわわわわ」

 

 お姉ちゃんの言葉に不届き者がまた目を回し出す。

 

 「ど、どどどどどうしよう。どうしよう。ぼく、こんなにいっぱいの瓦、直せない……」

 

 むっ。

 

 「ちょっと、その前に謝罪が先じゃないんですか?」

 「あ、ご、ごめんなさい! わざとじゃなかったんです! 本当です!」

 

 それはわかってるんだけど。

 

 「………?」

 

 何だろう、今の光景に少し違和感を感じる。

 まるでのどに魚の小骨が引っかかったかのような、小さな違和感。でもその違和感正体がわからない。

 そんなモヤモヤを抱えていると、お姉ちゃんが細長い杖を取り出していることに気がついた。どうやら屋根を修理するらしい。

 

 「あ、お姉ちゃん。私も手伝うよ」

 「ならそっちの屋根をお願いします」

 「はーい」

 

 お姉ちゃんの言葉に私は頷き、マルミアドワーズに魔力を篭めて石突で屋根を突く。

 コォンと小気味良い音が響くと同時に、地面に落ちて砕け散っていた瓦が動き出す。

 

 ────『時間逆転の魔法』。

 その名の通り、流れる時間を逆転させることで壊れたものを修理したり、怪我を治したりすることができる、なかなか使い勝手の良い魔法だ。少しばかり高度な技術がいるけど、この国に住む魔女なら誰でも使うことができるはず。まあ激突してきた魔道士さんには難しいだろうけど。

 

 砕け散っていた瓦がパズルピースのように元の形へ戻っていき、そして新品同然の屋根へと元に戻る。

 

 「お姉ちゃん、こっちは終わったよ」

 「ありがとう、ティア」

 

 そう言ってお姉ちゃんが私の頭を撫でてくれる。私の中でお姉ちゃんへの好感度が爆上がりです。今すぐにでも押し倒したいです。

 

 とはいえいつまでこうしていたら騒ぎが大きくなりかねないので、私達はこの場から離れるためにほうきに乗る。

 

 「あ、あの!」

 

 何やら不届き者が呼び止めようとするけど、その前にお姉ちゃんが口を開く。

 

 「感謝なら結構です。ほうきで飛び回る時は周囲を確認しなきゃ駄目ですよ?」

 「待ってください、何かお詫びを───」

 「いりません。私達、急いでいるものですから。さようなら、名も知らぬ魔道士さん」

 

 そう言って私達はほうきを飛ばしてその場から離れていった。




・ティア

 本作におけるもう一人の主人公。
 イレイナの義理の妹で、半人半魔の少女。

 引き取られた当初は無表情で無感情だったが、それは『傷つきたくなく、傷つけたくない』という想いから壁を作っていたためであり、本来は天真爛漫な女の子。

 半人半魔であるため身体能力や魔力は常人よりも高く、魔法に関しても実力はイレイナを超える天才。しかし本人は「魔法で戦うよりも魔剣でぶった斬った方が速い」とかなり脳筋。

 かなりのお姉ちゃんっ子で、イレイナの姿が見えなくなるとパニックに陥ったり、家族やイレイナの師匠以外の女性が近づくと嫉妬したりと、ほとんど依存レベル。
 イレイナもティアのことは好いており、いつかティアを嫁にすることを野望としている。
 ちなみにイレイナよりもスタイルが良く、イレイナが妹に欲情するほど。

 イレイナ達の元に来る前に『とある人物』の元で魔法と悪魔の力の使い方を身につける。その流れで歴史上最年少で魔女となる。
 魔女名は『宵の魔女』。

 容姿は第二再臨時のモルガン。
 悪魔時の姿はDMC5の真魔人ダンテを蒼っぽい色にしたもの。

 使用する魔剣はアルトリア・キャスターのマルミアドワーズで、普段は杖に形を変えて持ち歩いている。
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