魔女と魔剣士の旅々   作:ユリゼン

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魔法使いの国 その二

 魔道士とは、簡単に言っちゃえば『魔法が使える人間』のこと。誰でもなれるわけじゃなくて、ほとんどの場合が遺伝によって受け継がれる。お姉ちゃんのお母さんとお父さんも魔道士なんだ。まあ私の場合はかなり事情が違うから、これには含まれないんだけど。

 

 それで『魔女見習い』は魔道士の上位にあたり、魔女よりも一つ下。名前の通り女性にのみ与えられる称号なんだ。

 どういうわけか魔法を生み出す能力は男性よりも女性の方が強いの。だから女性は魔道士よりも上の称号が貰えて、男性はどれだけ魔法を使いこなせても魔道士止まり。ある意味『男卑女尊』の世界だね。

 

 それで話は戻るけど、魔女見習いになる道はただ一つ、試験に合格し魔女見習いである証のコサージュをもらうこと。これしかない。ただ、その試験がめちゃくちゃ厳しいから、途中で諦めちゃう人も多いとか。

 魔女見習いとなったあとは、魔女に値する人物になるための修行が待ち構えている。本物の魔女の下で、魔女として認められてもらえるまで努力に日々だ。それが一日なのか、はたまた十年なのか。全ては本人の努力と先生となる魔女のさじ加減である。

 そして正式な魔女と認められれば、裏に名前が刻まれた星のブローチと、魔女としての名が先生より贈呈される。お姉ちゃんの場合は『灰の魔女』、私の場合は『宵の魔女』といった感じだ。

 

 長々と説明したけど、簡単に言っちゃえば私とお姉ちゃんはこの国においては最高位の存在なのです。何せ魔女ですから。えっへん。

 

 

 

 そんなわけでお姉ちゃんと一緒に魔法使いの国のいろいろな場所を回っていたのだけれど………

 

 「え? 割引? ないよ、そんなの。もしかしてお金ないのかい? お嬢ちゃん達」

 

 「あー、こりゃ真っ赤な偽物だねぇ。いらないならうちで処分するよ?」

 

 「ああん? ここはあんたらみたいなガキどもが来るところじゃないよ。さあ、帰った帰った」

 

 ………なんでかどこもかしこも私達のことをお払い箱にしてきた。

 おかしい。私達が魔女であることはお姉ちゃんのブローチを見ればわかるはずなのに。

 

 首を傾げながらも私達はそろそろ日が暮れる前に宿屋に入りたかったので、いかにも安そうなぼろぼろの看板を立てた宿屋の上にほうきを降ろす。ここならさすがに追い返されることはないはず。

 

 私達は屋根に付けられた窓を開き、中へと伸びている梯子を下りる。その途中でお姉ちゃんがめんどくさくなったのだろう、ジャンプして下りる。その際にどしんと鉄球が落ちたような音が響いた。お姉ちゃん……もしかしてまた太った?

 

 私達が降り立った場所は受付になっていた。

 そしてカウンターに座っている女性が、私達を見て────

 

 「いらっしゃいま………」

 

 硬直。彼女も、私達も。

 短く切り揃えられた黒い髪。どこか男の子のようにも見える中性的な顔立ち。

 そこにいたのは、つい数時間前にお姉ちゃんと(物理的に)衝突した不届き者だった。

 

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 

 まるでこの場が凍ったかのように静かになるが、凍った時間から最初に解放されたのは不届き者だった。

 

 「ひ、ひいいいいいいいいいいっ! ごごごごごごごめんなさい! ごめんなさい! 報復ですか? 報復ですね! ごめんなさい! 命だけは! 命だけはぁ!」

 「いえ、あの」

 「うわあああああああん! 死にたくないよおおおおおおお!」

 「えっと……」

 

 みっともなく泣き叫ぶ不届き者。

 あんまりにもうるさいから私は手に持っていたマルミアドワーズを振りかぶる。

 

 「ちょっとティア。何しようとしてるんですか?」

 「大丈夫お姉ちゃん。ちょっと殴って黙らせるだけだから」

 「全然大丈夫じゃありませんから。ティアは少しおとなしくしていてください」

 

 お姉ちゃんがそう言うので、私は渋々マルミアドワーズを下ろしておとなしくする。

 それを見たお姉ちゃんはゆっくりと不届き者のそばに歩み寄った。

 

 「えっと、大丈夫ですよ。私達、今日はここに泊まりに来ただけですから」

 「嫌ああああ────あ、なんだ。そうだったんですか。じゃあこの用紙に記入をお願いしまーす」

 

 お姉ちゃんの言葉を聞いてケロリと態度を変える不届き者。いますぐにぶっとばしたいけど……我慢、我慢なのです。

 

 お姉ちゃんがもう書き慣れた用紙を記入していると、不届き者が実に明るい声で話しかける。

 

 「昼間は本当にごめんなさい。練習中に考え事をしてたら、なんだかほうきが上手く操れなくなっちゃって………」

 

 そんなことを言ってくるんだけど………本当にそんなことあるのかな? 私もお姉ちゃんもまだ修行時代の時でも何も考えずにほうきを操れたから、よくわかんないけど。

 

 「本当はキチンとお礼したかったんですけど、すぐにどっかへ行っちゃうし────あ、お名前、イレイナって言うんですね。ぼく、サヤです」

 

 お姉ちゃんの手元を覗き込みながらにこやかに笑う不届き者改めサヤさん。あんまりにもお姉ちゃんに対して馴れ馴れしいので、マルミアドワーズを握る手に力が篭ってしまいます。

 

 「お礼なんて別にいいですよ。それに魔法の練習中に他人を巻き込むなんてよくある話ですから」

 

 あー、それはよくあるかも。私もお姉ちゃんと一緒に蝋燭に火をつけるつもりが家に火をつけちゃって、お母さんにゲンコツを落とされたことがあったっけ。いやー、今となっては懐かしい思い出だなぁ。

 

 「でも、ぼくに何かさせてもらえませんか? あんなに迷惑をかけて、さらには怪我まで治してもらったのに何もしないなんて酷い話ですよ」

 「いや、本当にいいんですけど……」

 「そこをなんとか! お願いします! イレイナさん!」

 

 お礼をさせろとお姉ちゃんにせがむサヤさん。新手の押し売りかな?

 

 「うーん……そうですね、じゃあ────」

 

 そう言って黙り込むお姉ちゃん。用紙のある項目を覗き込んでいるみたい。

 お姉ちゃんの隣に立って覗き込むと、そこには『魔女様専用割引(一泊半額)』と書かれていた。これならお礼にもちょうどいいね。

 

 「あ、それは魔女様じゃないと割引対象外ですよ。魔法使いの方は通常のお値段の方に丸つけてくださいな」

 「なるほど」

 

 サヤさんの言葉を聞きながらお姉ちゃんは躊躇いなく魔女様専用割引(半額)の方に丸をつけた。

 

 「えっ? いや、あの……、んんー?」

 

 お姉ちゃんが丸をつけたことに微妙な反応を見せるサヤさん。

 さすがに我慢の限界なのです。私はブローチを取り出してサヤさんに見せつけた。

 

 「ちょっと、私達は魔女ですが」

 「うーん、あなたはそうみたいですがイレイナさんは………あ、でもぼく、イレイナさんに迷惑をかけちゃったし………うん! じゃあ割引の対象にさせてもらいますね!」

 

 サヤさんは手をポンと叩いてそう言ってくるけど………なんていうか、どうにも会話が噛み合っていないというか、妙な違和感を感じる。

 お姉ちゃんも同じことを感じたらしく、口を開いた。

 

 「いえいえいえいえ、ティアも私も正真正銘魔女なんですよ。こんな身なりですけど」

 「ええー?」

 

 それでもサヤさんは微妙な反応を見せる。

 そしてお姉ちゃんの胸元を指差して口を開いた。

 

 「でも、()()()()()()()()()()()()()()?」

 「「……えっ?」」

 

 その言葉に私もお姉ちゃんも目を向ける。

 

 

 そこには、あるはずのブローチが消えていた。

 

 

………

……

 

 

 魔女のブローチは、いわば身分証明書。あれがなければ、私もお姉ちゃんも魔法が使えるだけのただの旅人。

 だからどこもかしこも私達をただの子供扱いしてたわけだね。なるほどなるほど。

 

 というかなんで今の今まで気がつかなかったんだろう? お姉ちゃんが身につけてるのが当たり前だったから気づくのが遅れたのかな?

 お姉ちゃんもこの凡ミスは相当堪えたらしく、「私は馬鹿なのですか? 馬鹿なのですね? 死んでしまえ」と自分を呪い罵っている始末。

 

 そんなお姉ちゃんと私はすぐさま探しに出たんだけど………

 

 「ない……」

 「ないね……」

 

 さっきサヤさんとぶつかった時に落としたと踏んで戻ってきたけど、そこには何も無く。

 外はすでに暗くなっている上に、探し物は手のひらに収まる程度の小さなブローチ。ちょっと歩き回った程度で見つかるわけもなく。

 

 お姉ちゃんと二手に分かれて屋根の上をジグザグ、道に降りて家の周辺をぐるぐる回ったけど、それらしいものは全く見かけなかった。

 

 「駄目でしたー! イレイナさん、やっぱりこっちにもないですよー!」

 

 屋根の上から十分すぎるほどのサヤさんの声量が落ちてくる。サヤさんも「ぼくにも責任があるからついていきます!」と言って聞かなかったので、一緒に探してもらっていたわけである。結果は私達と同じみたいだけど。

 

 「これだけ探しても無いってことは、誰かに拾われてる可能性が高いんじゃないかな?」

 「そう考えるのが妥当ですね……」

 

 屋根の上に上がった後、私の言葉にお姉ちゃんが同意してため息を溢す。もし本当に誰かが拾っていたら、何処から手をつければいいのかわからなくなる。親切な誰かが役所に届けてくれてればいいんだけど………

 

 「外が暗いから見つけづらいっていうのもあると思いますよ。明日の朝、もう一度ここを探したらいいんじゃないですかね?」

 

 サヤさんが明るい声でそう言ってくる。確かにその通りなんだけど………何か違和感を感じる。あの時、お姉ちゃんと衝突した時と同じ小さな違和感。でもやっぱりその正体がつかめない。

 お姉ちゃんもかなり落ち込んでいて傷心気味なので、今日はおとなしく引き返すことになった。

 さすがにこんな状態のお姉ちゃんを一人でほうきを飛ばさせたらすぐに何かとぶつかりかねないので、マルミアドワーズの後ろに乗せて宿まで引き返した。

 

 その後茫然自失なお姉ちゃんを介護しながら夕ご飯を食べ、サヤさんから貰った鍵で部屋に入ってから荷物を置いて大浴場へと向かった。

 

 ここまでの間にお姉ちゃんと私の間に会話は一切ない。そりゃお姉ちゃんにとってあのブローチは想い入れのある大切なものだ。それを無くしてしまったのだから、そのダメージは計り知れない。私も私でお姉ちゃんに何もできない歯痒さから押し黙ってしまっている。

 そんな風に二人でのぼせる寸前まで大浴場に居座ってから、ようやく重い腰を上げて大浴場を出た。

 

 そして────

 

 「あ、どもー」

 

 ────部屋に戻ると、何故かサヤさんの姿が。

 ギィ、バタンとお姉ちゃんが無言で扉を閉める。かくいう私も部屋番号を確かめている。

 うーん、確かに鍵に書いてある部屋番号と一致してるんだけどなぁ。おかしいなぁ。

 

 今度は私が扉を開けてみる。

 

 「あ、どもー」

 

 ………悪夢でも幻覚でもなく、確かに私達の部屋にサヤさんは確かにいた。硬いベッドの上から呑気に手を振ってさえいる。

 

 「……私達の部屋で何を?」

 「ちょっとお二人とお話がしたいなーと思って、待ってたんです」

 「鍵はかけていたはずですが?」

 「ふふん、ぼくはこの宿屋で働いてるんですよ?」

 

 そう言って得意げに鍵が束ねられた輪っかを見せびらかしてくるサヤさん。

 

 何にせよ不法侵入であることには変わりないので魔力でサヤさんをぶっ飛ばそうとした時、お姉ちゃんが無言でサヤさんの元へ歩み寄り、両手で彼女のほっぺたをつまんだ。

 

 「い、いひゃい! いひゃいです!」

 「勝手に部屋に入り込むとはどういう了見ですか。ええ?」

 

 珍しくキレてるお姉ちゃん。まあ縦続きにあんなことがあればキレたくもなるよね。

 

 「ひひれひゃふ(ちぎれちゃう)ほっへははひひれる(ほっぺたちぎれる)!」

 「え? 何ですか? 聞こえません」

 

 ギリギリと引っ張ったり捻ったりしてサヤさんのほっぺたで遊ぶお姉ちゃん。彼女を助けないのかだって? 不届き者を助ける義理はありません。

 

 しばらく遊び続けて飽きたのか、お姉ちゃんがサヤさんを解放した。ほんのり朱に染まった頬を両手で包みながら「ひどい……」と言ってたけど、ひどいのは果たしてどっちかな?

 

 「それで何の用ですか? わざわざ私達の部屋で待ち伏せしていたということは、何かしらの用があったということですよね?」

 

 私が眉を顰めながらそう尋ねると、サヤさんが頬をさすりながら口を開いた。

 

 「イレイナさんとティアさんって本当に魔女なんですよね?」

 「ええまあ。ティアも私も魔女ですよ。私は現在ブローチがありませんが」

 「じゃあ魔女見習いの試験も合格したってことですよね?」

 「そうですね」

 

 私もお姉ちゃんも頷く。

 お姉ちゃんはあっさり合格してたし、私も特に何かするわけでもなくあっさりと合格したのを今でも憶えてる。

 そんな私達をサヤさんはジッと見つめてから、突然ベッドを降りて床の上で足を畳み、両手を床に添えて額を地面に擦り付けた。

 

 「お願いします! どうかぼくに試験の極意を教えてくださいませ!」

 「極意って言われても………」

 「それよりも、なんですかその姿勢?」

 「これはぼくの故郷に伝わる伝統文化、土下座です! 相手に対してとても申し訳ないことをした時に使う必殺技です!」

 

 なんていう妙な伝統文化。サヤさんの故郷では他人に謝りっぱなしだったのかな?

 それはそうとお姉ちゃんのあの表情を見るに………興奮してるね。

 きっと心の中で「ああーん? 人に物を態度がその程度かぁー?」と頭を踏みつけてるところを妄想してるんだろうね。

 

 「あの、とりあえず顔を上げてください」

 「良いんですか!」

 

 私の言葉にサヤさんがバッと顔を上げる。まだいいなんて一言も言ってないんだけど……

 

 「とりあえず事情を聞かせてくれませんか? 話はそれからです」

 

 そう言ってサヤさんをベッドに再び座らせる。そして備え付けの机に置いてあった椅子を二つ引っ張り出し、対面するように座った。

 

 「えっと、ぼくには妹がいるんです。とっても可愛い妹が」

 「はあ……」

 

 どうして妹が出てくるのかわからないけど、まあ気にせずに聞こう。

 

 「ぼく達は東国の出身なんです。妹と二人で魔女見習いになるためにこの国まで遥々やってきたんですよ────ぼく達の故郷には、試験を行なっている組織がありませんでしたから。だから二人でこの宿屋で働いてお金を稼ぎながら、試験を受けるという生活をここ数年続けていたんですけど………」

 「二人ともまだ魔道士のままというわけですか?」

 

 私が聞くとサヤさんが目を伏せ、ゆるりと首を横に振った。

 

 「妹だけ前回の試験で受かっちゃいました。そしてあの子だけ先に帰りました」

 「………ふむ」

 

 サヤさんの言葉を聞いてお姉ちゃんが納得したような声を出す。私もなんとなく話が見えてきた。

 

 つまるところ────

 

 「その可愛い妹さんに先を越されて焦っているから、たまたま知り合った魔女である私達に助けてもらおうと。そういうことですね?」

 「えっと、まあ………そうなります、かね」

 

 お姉ちゃんの言葉にサヤさんがそう返す。

 私はお姉ちゃんの方に顔を向けて小声で聞く。

 

 「お姉ちゃん、どうする?」

 「どうするもこうするも、ブローチが無ければ私はこの国から出られませんし」

 「そうだよねぇ……」

 

 私はともかく、お姉ちゃんはブローチが見つからないとこの国から出ることができない。

 そうなるとブローチが見つかるまでは生活拠点が必要となる。まあそこはサヤさんと交渉してこの宿屋で生活することにしよう。

 

 

 結局、ブローチが見つかるまで主にお姉ちゃんがサヤさんに魔法を教えることになり、私はお姉ちゃんのブローチを探すことになったのだった。

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