魔女見習いへの昇格は、筆記試験を合格した後に魔術試験に合格することで完遂される。
筆記試験は魔法理論や歴史などを頭に叩き込めば簡単にできるから、はっきり言って簡単なことこの上ない。
問題は魔術試験。これはどうにもならない。実力が備わってなければ何度もやり直しになる。
魔術試験の内容はほうきによる浮遊、攻撃魔法の操作の主に二つが見られ、試験に合格できるのは、毎回決まって一人のみ。それは今から一週間後にここで行われる試験でもそれが変わることはないだろうね。
ほうきでずっと飛び回り続け、互いに死なない程度に攻撃し合いながら敵を葬り、最後まで残った人が合格、晴れて魔女見習いになれるわけだ。
その争いの醜さといったら本当に酷いものだ。人間の一番汚い部分をまざまざと見せつけられてる気分になる。私の時なんか寄ってたかって皆私だけを狙ってくるもんだから、思い出しただけでも気分が重くなる。あれはもう二度と受けたくないね。
それで、サヤさんがその試験に合格できるかどうかっていうと………
「無理だね、うん」
はっきり言ってサヤさんは雑魚だから、真面目に戦ったところで秒で倒されてしまうだろう。合格するには最低でもお姉ちゃんと同等かそれ以上の実力をつけないといけない。
そのためにまずはほうきの扱いから上達させる。その辺りはお姉ちゃんが教えるので、その間私はお姉ちゃんのブローチ探しである。
「うーん……あるとしたらここのはずなんだけど……」
お姉ちゃんがサヤさんに魔法の技術を指導している間、私はお姉ちゃんとサヤさんがぶつかった場所に訪れていた。ここに来る前に役所に寄ってブローチの落とし物がないか聞いてみたけど、皆口を揃えて『知らない』としか言わないので、またこうして落としたと思われる場所に来ていた。
とはいえこの前みたいに道に這いつくばって探したところで見つかるわけないので、ここら辺に住んでいる人に聞いてみる。
「見たわねぇ」
ダメ元で聞いてみたら、予想外の返答をしたのはいかにも魔法に熟練していそうなおば様だった。見ると胸には星を象ったブローチをしている。
おお、これは期待できそう(何の?)だね。
「ど、どこで見たんですか!?」
「さて、どこで見たかねぇ………」
私の言葉にヒッヒッヒと魔女らしい笑い声をあげる謎のおば様。
これは一筋縄ではいかなさそう。なので秘密兵器を使うことにします。
「これでどうかお願いします」
そう言って私が差し出したのは金貨一枚。それを謎のおば様に渡すと、謎のおば様の目がキラリと光る。
「ほぉ、わかっているじゃないか」
「察しが悪いほどバカじゃありませんので」
謎のおば様の言葉に私はそう返す。お金で解決できるのなら、それに越したことはありません。
そして謎のおば様が語り出す。
「私が見たのはね────」
────謎のおば様の口から語られたのは、私も薄々感じていたことだった。
………
……
…
考えてみれば、事実は至極単純だった。
私が予想していた通り、お姉ちゃんのブローチは誰かが拾っていた。
それは誰だったのか?
「もう一人の嬢ちゃんとぶつかった女の子がおっただろ? あんたらが急いで飛んでいっちまった後、その子が拾ってったよ」
その言葉を聞いて、今まで感じていた違和感の正体がわかった。
思えば、彼女はほうきの操作が下手すぎた────まるでわざと下手に飛んでいるんじゃないかと思えるくらいに。
この国に入る最低条件は『ほうきで満足に飛べること』。彼女の出身がこの国ならまだしも、彼女は東国の出身だと言っていた。なら尚更ほうきで飛べなければならない。
では、何故彼女がお姉ちゃんのブローチを盗んだのか? それはおそらく────
「────一人が嫌だったから」
────彼女は妹と二人で魔女見習いになるためにこの国に来たけど、妹が先に魔女見習いとなってこの国を出ていってしまった。
それで彼女は寂しくなり、たまたま見かけた私達に目をつけ、そしてお姉ちゃんに意図的にぶつかり、お姉ちゃんが落としていったブローチを盗んだ。私達がこの国から出られないようにするために。
「────サヤさん」
お姉ちゃんのブローチを盗んだ犯人であるサヤさん、彼女から訳を聞く必要がある。
場合によっては………
「……サヤさんを許すことはできないかな」
そうつぶやいた私の目からは蒼い魔力が漏れ出していた。
………
……
…
後日談。
お姉ちゃんも私が行き着いた真実にたどり着き、サヤさんを諭して無事ブローチを返してもらうことができた。その際にお姉ちゃんの帽子の予備をサヤさんに渡したとのこと。羨ましくないといったら嘘になる。
そして魔法使いの国を出てから約六ヶ月後。私達がたまたま立ち寄った旅先の書店で、懐かしい顔を見つけた。
それは新聞に載っていたサヤさんで、今回の魔女見習い昇格試験の合格者であった。そこに写っていたサヤさんは以前とは違い、笑顔にありふれていた。コメントにはこれまでの苦悩が綴られていたが、魔法使いの国にやってきた旅人の姉妹から勇気をもらい、諦めずに挑戦し続けてようやく合格することができたこと。
そして最後のコメントに『故郷に帰って一人前になったら、大好きな旅人さんの姉妹に会いに行きます!』と残していた。
「楽しみだね、お姉ちゃん」
「そうですね。気長に待つとしましょう」
二人でフフッと笑い、私達は観光へと戻るのでした。