アニメ二期の七話を見た後に勢いだけで書きました
現実競馬に詳しくない故の齟齬だったり、独自解釈が多かったりすると思いますが、許してください。

※キャラ崩壊、解釈違いなどを含んでいる可能性がありますので閲覧の際はご了承ください

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菊花賞IF ライスシャワーへの祝福

俺は、ウマ娘のレースが好きだ。

 

昔から走っているウマ娘を見るのが好きだった。同世代の友達が外で遊んだりゲームを通信している時、俺は中央のレースを見ていた。

人と似た、しかし人ならざる不思議な存在。そんなウマ娘たちが全力で走る光景。躍動する筋肉、大地を蹴る音、熱く燃えぶつかり合うウマ娘同士の熱意。そんな魅力に、俺は随分と長い間憑りつかれている。

我ながら変わっていると思う。大学生になった今でも、それは変わらない。いくら人気のあるスポーツエンターテイメントだからって、俺みたいに子供のころからずっと好きなんてやつは意外と少ないんじゃないだろうか。

でも、そんなことは関係ない。俺はウマ娘が好きだし、ウマ娘のレースが好きだ。

 

「お前ってホント変わってるよなぁ。今度の休日もレース見に行くんだろ?」

 

「そう、菊花賞な。ミホノブルボンの三冠がかかってるんだ。見行かないわけには行かねぇよ」

 

「最近ニュースでも結構やってるもんなぁ~。まあ、俺にはあんまわかんないんだけどよ」

 

「三冠だよ三冠! 一から説明すると流石に長くなっちゃうから省くけど、とにかくクラシック三冠を達成したウマ娘は数えるほどしかいないぐらい凄いことなんだぜ? 去年はトウカイテイオーが怪我で出走できなかったから三冠達成ならずだったんだけど、今年のミホノブルボンは調子も悪くないし、なんてったってここまで無敗なんだ。だからやってくれると思うんだよなぁ~」

 

「相変わらず語るねぇ。ま、そういうことなら楽しんで来いよ。また話聞かせてくれ」

 

「おう! もちろん!」

 

俺の周りにはレース好きのやつはあんまりいない。だから必然的に会話もこんな感じになる。

別に布教しようという気にはならない。レースはいいものだが、無理に進めるものでもないし、人によって好きなものは何でもいいはずだ。

時たまレース厨だ、ボッチ観戦者だなどとからかわれることもあるが、それでも俺はレースを見に行く。

 

だって走っている彼女たちは、この上なく魅力的だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよこれ! すげぇ!」

 

菊花賞当日。俺も含めミホノブルボンの三冠を期待してレース場に足を運んだ観客たちは、皆驚きを隠せないでいた。

一着は期待されていたミホノブルボンではなく、ライスシャワーだったのだ。

もちろん可能性としてはあった。ライスシャワーも調子を上げてきていて今回の二番人気。いかにミホノブルボンが強いと言えど、ライスシャワーが勝つ可能性だって十分にあった。だからおかしなことではない。

しかし……

 

「なんだよ、今度こそ三冠達成が見られると思ったのになぁ…………」

 

「俺ミホノブルボンに勝ってほしかったわ~」

 

「俺もだよ。ライスシャワーには悪いけど、残念だわ」

 

「!!」

 

周囲から漏れるのは落胆や失望といった負の感情。本来あるべき菊花賞ウマ娘に対する祝福が、どこにもなかったのだ。

 

(嘘だろ……そんなことって…………)

 

気持ちはわかる。俺だって三冠達成を見たかったし、特に今年は去年のトウカイテイオーのこともあるからなおさらだろう。

三冠ウマ娘なんてめったに表れるものではない。期待が寄せられるのはもちろん、多くのウマ娘が目標として憧れ、目指している特別な存在だ。それを純粋に応援するのは、何もおかしいことではない。

 

(でも……だからって…………これは違うだろ!)

 

こんな雰囲気でいいはずがない。これで終わっていいわけがない。

どんな結果であろうと、どんな思いがあろうと、たとえミホノブルボンの三冠を阻止した勝利であったとしても、最終的に勝ったのはライスシャワーなのだ。その事実は変わらない。

ならばそれを祝福するべきなのだ。讃えるべきなのだ。拍手を送り、声援を送り、勝利を喜ぶべきなのだ。

間違ってもこんな雰囲気にはなるべきではないし、少なくとも俺はそれだけの理由足り得ないと思う。

 

(ちくしょうなんで……なんで……なんでこんな!)

 

時として勝負には複雑な事情が絡み合う。それは意地やプライドだったり、今回のように記録だったり様々だが、何があろうと結果が覆ることはない。

せめて終わった後は、後腐れなく切り替えたほうが良いはずだ。

 

 

「ッ!!」

 

 

その瞬間、俺の瞳に映ってしまった。

俺たち観客に視線を向けていたライスシャワーの表情。

レースを走り切り喜びを浮かべたその顔が、みるみる曇っていくその変化を。

確かにこの目で見てしまったのだ。

 

「ダメだ……そんな……」

 

そして彼女はそのまま背を向け、逃げるようにターフを後にした。

その姿あまりにも、一着を取ったというのにあまりにも悲しそうだった。

 

「ライスシャワー…………」

 

なんとなくではあるが俺にはわかる。彼女の心境が。

多くのウマ娘を、レースを好きになり、応援し、今のところの人生の半分以上の間見てきたからこそわかる。

彼女の、悲しみが。

 

(クソッ! こんなことがあってたまるか!)

 

意味もなく拳に力がこもる。ここで俺にできることは何もないというのに。

彼女はきっと人一倍努力をしてきたに違いない。でなければこの菊花賞の舞台にすら立つことすらできなかっただろう。

俺たちが観客として見ているレースはあくまで結果に過ぎない。そこに至るまでには、ウマ娘たちの厳しいトレーニングという過程が存在している。

俺は見たことがあるが、トレーニング風景のメディア露出は意外と少ない。ファンでもレースしか見たことないという者はザラだ。

きっと知らないのだろう。ウマ娘たちがどれだけ努力し、レースという大舞台に臨んでいるか。どれだけのつらいことを乗り越えて、走っているのか。

だからこそレースを走り切ったのなら、さらには一着ならば、多くの者に祝福される権利がある。レースに出るということは走る義務があるということだが、ならばそれを見ている俺たち観客にも応援だけでなく祝福する義務がある。

もし観客全員が俺と同等以上のファンだったらこんなことにはならない。惜しかったと、少し残念だという気持ちが多少あれど、ここまで酷いことにはならないはずだ。

だがその理解を全員に求めるのは間違っている。それもわかる。サッカーだろうが野球だろうが、どんなスポーツでも選手の日頃のトレーニングや心境まで理解しろなんていうのはお門違いだ。それを知らないで楽しむことは何も悪くない。

故に誰も悪くないのだ。この雰囲気も、ある意味正常とまで言える。

 

(こんなにウイニングライブを見たくないと思ったことは初めてだぜ……どうするか…………)

 

いつもならこのまま適当に時間を潰してウイニングライブを見てから帰る。しかし今日はそんな気分にはなれない。

この雰囲気の中そのままウイニングライブが始まったら一体どうなるか。考えずともわかってしまうからだ。

 

(かといってせっかくの菊花賞でそのまま帰るってのもな…………)

 

心が揺れる。俺はぶらぶらとレース場内を適当に歩きながら、この後どうするか決めかねていた。

正直どうすればいいのかさっぱりわからない。俺自身がどうしたいのかもわからない。

この雰囲気のまま行われるであろうウイニングライブなんて見たくはない。かと言って悶々としたまま帰るのも嫌だ。

何か気が晴れるようなことができればいいのだが、ちょっとやそっとじゃ上手くいかないだろう。もし何とかなったとしても風呂時か、あるいは寝る前なんかに今日のことを思い出してしまうだろう。

 

「………………」

 

ふと、物販ブースで販売されているグッズが目に留まった。

各ウマ娘がデフォルメされたぬいぐるみ、キーホルダーやミニバッグなどが並ぶ中に置かれている、ウイニングライブ用のペンライト。

様々な色が用意されているのを見て、俺は一瞬だけあることを考えた。

 

「いや……でもな…………」

 

それはあまりにも突拍子もない発想だった。もし実現できば、と思ったが俺にそんな行動力はない。

それならまだ控室に無理やり突入してライスシャワーに一声かけに行くほうが現実的だ。

しかし、ほんの少しだけ、俺にはその発想が理想的に思えてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ウイニングライブが始まった。俺の位置はステージから見て丁度真ん中辺り。近くもなく遠くもないちょうどいい位置だ。

結局俺は残って見ていくことにした。俺のように気を悪くして帰る者も多いかと思ったが、見る限りではほぼ満員。流石に菊花賞と言ったところだろうか。

だが案の定雰囲気は最悪だ。観客のほとんどはミホノブルボンに声援を送っている。

周囲をぐるっと見回してみても、ペンライトは赤や橙などの暖色系ばかり。本来であれば曲の雰囲気にあった色や、一着になったウマ娘のテーマカラーに沿った色のペンライトを使うのがマナーなのだが、今回は守られていない。

 

(ふざけやがって!)

 

その時点で俺は覚悟を決めた。こんなことをしようと思ったのは人生初だが、もう止まれない。

心のどこかでもやもやと溜まっていた不満や鬱憤が爆発した。自分でもなんでここまで感情が動いているのかはわからない。

どう考えても冷静ではない。冷静だったこんなぶっ飛んだことをやれないし、やろうという発想すら生まれない。

きっと、正しくはないはずだ。なんとなく直感的にそう感じている。

別に俺はライスシャワーのファンというわけではない。そもそも特定のウマ娘を推したりすることはほとんどない。ファンの中でも特殊と言えば特殊なのだろう。

誰が勝っても喜ぶし、誰が負けても次は頑張って欲しいと願う。それが俺だ。人によっては調子のいい偽善だと言われても仕方ないし、究極的にはみんな勝って欲しいと思っているのだから我儘であることは変わらない。

そう、あくまでこれは俺の我儘だ。

 

 

「ライスシャワーああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

俺は全力で声を張り上げた。ステージまで届くように。

すると当然ながら俺の大声に反応し、周囲の観客が一斉に沈黙する。

突然の出来事に多くの者が困惑しているのがわかった。ステージ上の彼女らもあっけにとられているようだ。

全方位からの視線の嵐。何事かと俺を見る者もいれば、まるで腫物を見るかのような視線を向けてくる者もいた。

通常ウイニングライブ中に雰囲気を壊すような過度な声援やその他過激な行動などはマナー違反だ。俺も一人のファンとしてそのことは十分すぎるぐらいに理解している。

でも、そんなこと関係あるか。こちとら雰囲気をぶち壊そうと大声を張り上げているのだから当然だ。

俺は覚悟と共に大きく息を吸い、彼女に届くように全力で叫んだ。

 

「菊花賞一着!!!!! おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」

 

その声と共に俺は彼女の衣装と同じ色、紺色のペンライトを高々と掲げた。

周囲からの視線が痛い。緊張もしているし、こんな大勢のいる場所でこんな目立つようなことをして恥ずかしくないわけがない。

しかしそれでも、

 

 

俺の声が彼女に届けば、それでいい。

 

 

「!!」

 

ステージ上を見ると、センターに立つライスシャワーの表情が見えた。

俺は彼女のことをよく知っているわけでもないし、直接会ったことも話したこともない。距離的にも少し遠い。

 

 

けれどその時の彼女は、俺の言葉で笑ってくれていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「レースどうだったよ?」

 

「ん? ああ、菊花賞ね」

 

「そうそれ、大きいやつだったんだろ?」

 

「まあね、距離も長めだったし、いいレースだったよ」

 

「なんだ? いつもよりテンション低くないか? 確か三冠がどうとかって言ってなかったか?」

 

「ああ、そうだな。残念ながら俺の言ってたミホノブルボンは三冠達成ならずだったよ」

 

「なんだそうなのか。そりゃ残念だったな。滅多にないチャンスだったんだろ?」

 

「そうだな、残念だったよ。今度こそ三冠達成を見られるかもって思ったからな。けどよ……」

 

「けど?」

 

 

「俺はそれ以上のものを見れたと思うから、それでいいんだ」

 

 

俺は、ウマ娘のレースが好きだ。

そしてもっと具体的に言うならば、笑顔で笑っている彼女たちが、大好きなのだ。

 

 


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