そして████になった転生者 作:にわかネット文化ファン
最初は吐血騒ぎがあったが、ひかるもずいぶんと上達した。
まず、基礎から練習させたのも大きい。
呼吸法をじっくりとやってから、舞の方に移ったのだ。
「いち、に、いち、に・・・」
「そこ、動きが少し違うぞ。集中」
「はいっす!」
そもそも、唯華は呼吸の練習だけでも血反吐を吐いた。
その度に、阿見莉愛が泣きながらやめろといったものだ。
その時、ひかると目が合った。
その目に唯華は映っていなかった。ただ、太陽が映っていた。
(・・・俺より上手くなりそうだな)
(じっと見られると、恥ずかしいっす)
練習後、家に帰った唯華は次の練習の計画を練っていた。
彼はぼんやりとした不安に襲われていた。
文化侵略は順調に進んでいるではないか。
事実、最近投稿したMMDもウケまくっている。
それでも、何かの不安が彼を包んでいた。
・・・ひかるのことだろうか?
彼女は着々とヒノカミ神楽を体得しつつある。
この調子であれば、師弟関係の逆転もありうるだろう。
嫉妬しているのか?それも多少はあるだろう。
でも、それを言ったら美貌を持つ阿見莉愛にも嫉妬している。
人を導く能力のある和泉十七夜にも嫉妬している。
天才的な料理センスを持っている胡桃まなかにも嫉妬している。
誰よりも水名を愛している梢麻友にも嫉妬している。
多くのファンを集めている史乃沙優希にも嫉妬している。
花を愛していて、色々な花言葉に精通している春名このみにも嫉妬している。
可愛い女の子が二人もいて、その子たちを守り抜こうとする瀬宮にも嫉妬している。
いつの間にかヒノカミ神楽とは違う神楽を体得した秋野かえでにも嫉妬している。
どういうわけかヒノカミ神楽を舞える千秋理子にも嫉妬している。
妹と強い絆を持ち、グループの中心であり、やはり神楽を舞える環いろはにも嫉妬している。
自分より芸術センスのあるアリナ・グレイにも嫉妬している。
なんやかんやで一途にマンガに没頭できる御園かりんにも嫉妬している。
そして・・・一門の復興を託された常盤ななかにも嫉妬している。
・・・そういうわけで、”嫉妬”という感情で考えると、今頃すごい不安に襲われてるはずなのだ。
嫉妬という線で考えるのはやめた。
これは誰かに相談する必要がある。阿見莉愛?彼女に弱い姿はどういうわけか見せたくなかった。
胡桃まなか?それだと阿見莉愛にバレてしまう。梢麻友?冗談じゃない、阿見莉愛に殴られる。
・・・ちょうどいいのがいた。
「私はカウンセラーじゃないんだけど?こんな朝っぱらから・・・」
「みたま、こちとら緊急事態なんだ。
こんな不安、今まで抱いたことないんだよ」
「・・・その不安を芸術に生かせば?」
「それもそうか」
彼女が適当なこと言ってはぐらかしたのに気づいたときには手遅れだった。
すでに曲名のない曲をピアノで弾いてしまっていた。
いや、本当に曲名がないのだ。『界隈』と知られる業界の曲だが、曲名がないのだ。
こんなことをしても、不安を拭うことはできなかった。
「・・・だ、大丈夫ですか?」
前みたいにはぐむが心配してくれていた。
「やっぱりいい曲じゃないよな・・・」
「そ、そういうわけじゃないんです!ただ・・・顔が不安そうで」
「だろうね・・・」
そこではぐむはポケットからあるものを取り出した。
それはヒノカミを模したフェルトのぬいぐるみだった。
「最近、お守りを作ってみたんです。
一歩踏み出す勇気が出るようにって」
受け取ってみると、なんだか暖かった。
さっきまでポケットに入っていたからとかそんな理由ではない。
おそらく、本当に心をこめて作ったからこそ暖かいお守りになったのだろう。
自分で自分を模したお守りを持つのは何だかおかしな気分だったが。
それでも気持ちに落ち着きを取り戻すことができた。
「ありがとう、はぐむ。やっぱりこういう分野で君にはかなわないな」
「えっ・・・そんなことないよ!」
少し心が軽くなった気がする。
そうだ、こういうことはありふれてるじゃないか。
少なくとも、唯華は裁縫やら何やらははぐむと比べると苦手だ。
できることはできるが、誰が野獣先輩のぬいぐるみを欲しがるだろうか?
「・・・あんがと。少し落ち着いた」
「ど、どういたしまして・・・!」
今度は暖かい気分で同じ曲を弾くことができた。
そうだ。ひかるがどう成長しようと、唯華が彼女に種を蒔いたことには変わりないのだ。
どちらにせよ、自分はそこまで大した人間ではないのだから。
「みたまは水名女学園に通えた!俺は絵を描けて、ピアノも弾けて、フルートも吹ける!
優勝トロフィーや賞状なんて飽きるくらいにたくさんもらった!賞金だって一生遊べるくらい!
何も成したことがないお前らのようなミジンコが、みたまを非難する資格なんてないんだよ!」
水名女学園から帰ってきたみたまを庇うために、こんなことを言い放ってしまった。
でも、今となっては・・・どっちがミジンコだったのだろう。