そして████になった転生者 作:にわかネット文化ファン
付き合うまでの一年間のごたごたとは対照的に、
唯華とかこの日々は平穏なものであった。
ゲームBGMで例えるなら、MinecraftのC418のswedenみたいに。
他の転生者が見たら驚いただろう。
二人のいる空間だけがマギレコではなくマイクラなのだから。
そんなある日のことであった。唯華は小説を書いてみようとした。
「・・・むう、駄目だこりゃ」
「どうしたんですか?」
「いや、小説書いてみたんだけどさ・・・生命感がないというか。
全部、俺が考えたものだから、操り人形みたいになってしまうんだよ」
あくまで彼の能力は文化侵略。
コツが掴みやすくなるとか、そういうのだけだ。
最初から色々な技芸が身についているわけではないのだ。
結局は練習が必要となる。パワプロと同じなのだ。
もし天才というステータスが付いても、練習は必要だ。
作者も天才証明書を手に入れたが、それを思い知った。
そして、唯華はかこに殴り飛ばさた。
「アプローチが間違っていますね。これだと作文です。
キャラクターの十分間の行動にはその人の十年分の経験が反映されているんです」
「・・・なるほどね。じゃあ、かこを主人公にするとなると、
十二分間の行動には、十二年分の経験が必要になると」
「そういうことですね」
「ところで殴る必要あった?」
「熱血ものを読んでいたら、つい・・・」
この時点で、二年間付き合っていた。
最初でも言ったが、本当に平穏な毎日だった。
「どれくらい平穏だったんですか?唯華さんが殴られた時点で平穏じゃない気もしますが」
「・・・そうね、唯華は神楽の練習をするとき、とても怖い表情してたの。
それがね・・・練習の厳しさは同じなのに、穏やかになったのよ」
「私も練習の手伝いをしていましたが・・・とても美しかったです」
しかし、この時点で終わりが見えていたのだ。
唯華はかこみたいな子を主人公にしようと小説を書いていた。
そのために、様々なことを想像した。
その主人公がどう生まれたか、どう育ったか、どんな映画を見ているか、
どんなウェブサイトを見ているか、どんな音楽を聴いているか。
ちなみに、どんな化粧品を使っているかは想像したことなかった。
彼女は、化粧品を必要としないと、なぜか想像していたからだ。
そうして、キャラクターを創り上げていってみた。
ある日、いつものようにヒノカミ神楽を練習していた。
そのとき、一緒にいたのは阿見莉愛だった。
かこもいればいいのにと思ったが、彼女は少し用事があったのだ。
それで、かこそっくりのキャラクターが一緒にいる想像をしてみた。
彼女はそこでまじまじと練習風景を眺めている。
そして、にっこりとこちらに微笑んで・・・。
唯華は不意を突かれて、つい捻挫してしまって、里見メディカルセンターに搬送された。
微笑ませるつもりなどなかったのだ。だが、彼の想像の中の彼女は彼の意思に反した。
「・・・すまんな。ちょっとしくじったというか」
「気をつけてくださいね・・・はい、デカビタです」
それは唯華の大好きな炭酸飲料だった。二人を暖炉の火が照らして・・・。
しかし、気づくとそこはメディカルセンターの病室だ。暖炉なんて最初からない。
もちろん、かこそっくりのキャラクターもいないのだ。
唯華の想像が勝手に暴走した結果なのだ。
次の日、現実のかこにそれを相談してみた。
「・・・やっぱり、動き始めたんですね」
「えっ?」
「ゆーくんの創造したキャラクターが動き出したんですよ」
「・・・俺は今まで勘違いしていたんだ。
小説の登場人物は作者にコントロールされていると思ってた。
状況も、台詞も、何もかもが作者にコントロールされてるってね。
でも、それは違った」
「・・・そうなんです。私も本を読んで気づいたんですが、
一流とされてきた古典を書いてきた人たちは統制なんてしてなかったんです。
作中人物は確かに作者の心の中で生まれてきたけど、作者たちの手を離れてきたんです。
そして、作者はそんな彼らを勝手にさせて、そのあとをついていっただけなんです」
「じゃあ、シェイクスピアとかトルストイは覗き魔だったってことか」
「・・・悪く言うと、そういうことになりますね」
「・・・かこもやったことあるのか?」
「ええ、一度だけ。私だけの王子様、みたいなキャラクターを。
ゆーくんに会う前から、ずっと」
唯華は深い溜息をついた。
「これ以上続けたら、どうなるんだ?」
「・・・手遅れになりますね、今の私みたいに」
それで終わりだった。両者をつないでいた糸が静かに切れたのだ。
「えっ???つまり、両者ともに空想の恋人を創り上げて・・・」
「ええ、それで別れることになりました」
「???」
まなかは考えるのを・・・
「しゃんとしなさい!」
「あべしっ」
阿見莉愛にビンタされた。
「・・・確かに円満ですし、酷いとも言えますね」
「確かに後悔は少しあるけど、私もゆーくんも受け入れていますから」
阿見莉愛は溜息をついた。
「はあー・・・受け入れてるんだったら、どうして唯華はああなってんのよ・・・」
そのころ、唯華はアリナに殴り飛ばされていた。
彼は病院の窓を突き破り、どこか遠くに吹っ飛んでしまった。
「ハア・・・ハア・・・どういうわけか記憶が復活したんだケド?」
「アリナ先輩、いくらなんでもひどいの!」
「フールガール、あの野郎にはこのくらいしないと駄目なんだヨ」
奇しくも、唯華も御園かりんに昔のことを話していた。かりんにせがまれたからだ。
それを聞いていたアリナはだんだんと腹が立ってしまったのだ。
あまりにも腹が立って、果てなしのミラーズの奥深くにあるはずの記憶が戻ってきたのだ。
さて、視点を神浜現代美術館に戻そう。
「もしかして、文学をやってないのって・・・」
まなかはついに気づいた。
「そうよ、昔のことを思い出すからでしょうね。
今回搬送されたのも、どうせ隣に空想の恋人が現れたからに決まってますわ」
「そ、そうなんですか・・・」
その時、麻友が復活した。
「・・・こうなったら、私が唯華さんを励ますしかありませんね」
特に理由しかない膝蹴りが麻友を襲う!
麻友はまたしてもぐっすりと気絶した!
「この子は寝かしつけといてっと・・・お断りする必要があるわね。
みたまさんから事情は聞いてましたから」
「お断り?」
阿見莉愛はまなかを連れて、中央区のピュエラケアの拠点に移動した。
「かくかくしかじか・・・というわけで、唯華に文学はやらせないでほしいわ」
「・・・わかったわ。ごめんな、無茶言うて」
「いえ、私も気に掛けるべきでしたから・・・」
そのころ、唯華はどこかの裏路地で目を覚ました。
幸い、来ている服は外出用の私服のままだったので、怪しまれることはない。
「・・・だ、大丈夫ですか?」
「ああ・・・なんとかな。まったく、アリナの奴・・・」
唯華は自分を心配してくれている目の前の少女に見覚えがあったが、思い出せなかった。
立ち上がろうとするが、なかなか立ち上がれなかった。
そうしていると、目の前の少女は手を差し伸べてくれた。
「ありがと・・・」
彼女の手に触れた瞬間、名前を思い出した。安積はぐむだ。
「・・・もしかして、はぐむさん?」
「・・・!そうです」
「一度話してみたかったんだ。演劇部で綺麗なドレス作ってたから」
これはまごうことなき彼の本音だ。何の下心もない、純粋な言葉。
「そ、そうだったんですか!ありがとうございます!」
唯華は知らない。この言葉が、彼女にとって大きな言葉であったと。
その後、はぐむの助けを受けながら、なんとか家まで帰ることができた。
ピュエラケアから頼まれた仕事は阿見莉愛が断ってくれていた。
後日、ケーキを奢らされるはめになったのだが。
まなか「それにしても、わけのわからんサブタイトルですね」
濠太剌利「作者の暴走よ。感想に便乗した結果ですわ。あと、私は阿見莉愛だっての」
リヴィア「まあまあ、漢字四文字やし同じようなもんやろ」
まなか(・・・読み方わかる人、いるんですかね?)
みたま「ちなみに、本当の予定では『だから僕は文学をやめた』だったらしいわよ」