宇宙行の空港はごった返していた。手続きをする人によってカウンターから長蛇の列ができている。
「……なぁ、スネ夫。いつになったら宇宙に行けるんだよ?」
「だ、大丈夫だよジャイアン。もうすぐさ……。」
待ちくたびれて機嫌が若干悪いジャイアン。一触即発の爆弾がそばにあるかのようにスネ夫はびくついていた。
「でも、この分だとまだかかりそうよ?みんな旅行かしら?」
しずかちゃんはカウンターがある方向に向かって背伸びしながら見渡した。
手続きはてきぱきと進んで確実に列は進んでいるのだが、いまだに到達するには時間がかかりそうだ。
そしてようやくスネ夫達3人はカウンターにたどり着き、速やかに手続きを済ませて長蛇の列から脱出した。
「はぁ、旅行シーズンでもないのにどうしてこんなに混んでるんだよ。はぁ……ジャイアンの癇癪に付き合わされるの僕だってのに……。」
「ん?なんか言ったかスネ夫?」
「あ、いや別に。」
「ギャー!!」
3人が話をしていると、横から悲鳴が聞こえた。3人は悲鳴が聞こえた方向を振り向くと、そこには、帽子をかぶった壮年の男と、それに付き添うかの成人女性と、若い少女の3人だった。
「あなた、また!またクェスが噛みました!!」
「クェス、こんなとこにまで来て、よさないか。」
スネ夫たちには3人がもめているように見えた。
「なんだなんだ?喧嘩か?」
気になったジャイアンは身を乗り出して喧嘩する3人を傍観した。
「もう嫌です!こんな子と宇宙に行くくらいなら、いっそ地球で凍え死んだほうがましです!」
「そうしなよ、年増ァ。」
壮年の男にクェスと呼ばれた緑髪の少女は、成人女性に向かってあっかんべーと舌をした。それが癇に障ったのか成人女性は手を出すも、クェスに避けられこけそうになる。
「……嫌よこんなの!!」
「キャシー!」
壮年の男は成人女性を呼び止めるも、成人女性は激しく踵を返し、そのまま怒った足取りで空港を後にした。
「……死んじゃえばいいのよ。行こう、宇宙へ。」
クェスはふんと鼻息を鳴らし、壮年の男の手を引いて、乗り場に向かおうとした。
すると、
ドンッ
「うわっ!?」
そのままいきなりずかずかと歩いてきたクェスに、スネ夫が捌ききれずぶつかってしまい、尻もちをつく。
「スネ夫さん!?大丈夫!?」
「……子供がこんなところでウロチョロしてんじゃないよ!!」
尻もちついたスネ夫に、クェスは怒号を飛ばして、そのまま去っていった。
「……なんだよ自分からぶつかってきといて!!子供って……自分もそう変わんないじゃないか!!! 」
スネ夫はクェスに怒鳴りつけるも、クェスは知らんふりして去っていった。
スネ夫たちは10歳。クェスは13歳。確かにそこまで変わらない。
「……いけ好かない女もいるもんだな。」
ジャイアンはしずかちゃんとクェスを見比べながら言うが、しずかちゃんは特に気にしていなかった。
「大丈夫かい?君。」
すると、クェスたちが行ったあとから、別の赤い背広の整った少年がスネ夫に手を差し伸べた。
「え?あ、はい、どうも……。」
いきなり見知らぬ少年に手を差し伸べられて少し戸惑うも、そのまま手を引いてスネ夫は立ち上がった。
「空港には、いろんな人たちが集まるし、今日はいつにも増して混んでるみたいだからね。気を付けたほうがいいよ。」
「ハサウェイ、何やってんの!?」
“それじゃ”と言って、ハサウェイと呼ばれた少年はカウンターに並ぶ行列に戻っていった。
「素敵なお兄さんだったわね!」
「……自分も僕らとそう変わんないのに、あっちは紳士的だったなぁ……。」
クェスとは対照的な優しさに、自分もいずれ社長になるならば、ああなってみたいと憧れをほんのり抱くスネ夫だった。
・・・
「……ドラえもん、それどういうこと!?未来が消えたって!?」
「……そのままの意味だよ。歴史書には、僕やドラミ、セワシ達が存在する時代までの出来事が書かれていたんだけど、それがそっくりそのまま消えた……なかったことになったんだ。」
ドラえもんが歴史書を開いてのび太に見せると、そこには”NO DATA”と書かれているだけで、未来については何も書かれていなかった。
「未来が消えれば、どうなるのさ?ドラえもんが帰れなくなるわけ?」
「……それならまだマシなほうだ。」
ドラえもんは目をそらしながら言った。
「……そうだ!ドラミちゃん!ドラミちゃんはどうなったの!?セワシは!?あれからみんなどうなったの?」
「未来が消えた……存在しなくなった……全てなかったことになるということは、みんな最初から存在しなかったことになる。」
「つまり……消えた?完全にいなくなったってこと!?」
のび太の質問にドラえもんは静かに頷いた。
「で、でもドラえもんは!?ドラえもんはどうなるのさ!?ドラえもんだって、未来から来たわけだから……!!」
「のび太君、いつも言ってるだろう?未来は変わることがあるって。だから君はジャイ子と結婚する未来もあれば、しずかちゃんと結婚する未来もある。」
そういってドラえもんはポケットから何か適当に秘密道具を取り出した。出てきたのはスモールライトだった。
「さっきのタイム電話、見ただろう?……タイムパラドックスが起きたんだ。」
「タイムパラドックス?」
あまり聞きなれない言葉にのび太は首を傾げた。
「未来の世界があるのは過去の世界があってこそなんだ。その過去の世界で何かが起こると、未来も変わる。それがタイムパラドックスさ。」
「じゃあ、未来が存在しなくなったということは、過去に何かが起きたってこと!?」
「そう……そしてタイム電話が作られることもなかったことになった。だから消えたんだ。」
「で、でも過去の世界で未来が消滅するような出来事って、いったい何なんだよ!?それに、過去って言ってもいつの時代さ!?江戸時代!?戦国時代!?まさか原始時代!?」
のび太は半ばパニックになる。
「落ち着いてのび太君。まず、今パラドックスが起こっているのは、僕の持つ秘密道具をはじめとして22世紀のものだ。のび太君の時代のものに何の影響もないところを見ると、この時代より前に何かが起こっていることは多分ないだろう。」
そういってドラえもんは、もう一度歴史書をパラパラと開き始めた。
「何が起こったのか、事件の詳細は分からずとも、いつの時代かぐらいはあてることができる。」
歴史書をパラパラめくっていると、NO DATAの文字が、先ほどより増えているようだった。タイムパラドックスは進んでいることが考えられる。
「2011年……ノビスケ、僕の息子の時代だ……ああ、それもない!!」
そこから少しさかのぼり、のび太としずかちゃんが結婚したという出来事も消えていることが目に入ると、のび太はひどく落胆した。
「どこだ……どこで何が起ころうとしているんだ……!?」
ドラえもんは歴史書から、歴史が途絶えている地点を見つけ出そうとする。
「……あった!ここだ!」
「どこ!?どこでなにが……いつ起こるの!?」
「199X年……ここから歴史が途絶えている。」
ドラえもんが歴史書に指さすと、確かに199X年以降の歴史情報がなかった。
「199X年って……僕らの時代、今じゃないか!!」
自分の住む時代で歴史が消えてなくなるほどの出来事が起こることにのび太は驚愕した。
「いったい何が、今から何が起ころうとしているの!?」
「何が書かれているんだ……これから何が起ころうと……あっ!!」
ドラえもんが199X年の最後の欄に何が起ころうとしているのかを見ようとした瞬間、歴史書もタイム電話と同じく、フェードアウトして消えてしまった。
「ああ~っ!これじゃ何が起こるかわからないじゃないか!!!ほかになんかないの!?」
「今、宇宙完全大百科端末器を取り出そうとしたけど……だめだ遅かった。」
ドラえもんがポケットから分厚い百科事典のような宇宙完全大百科端末器を取り出そうとしたが、直後にこれもまたフェードアウトして消えた。
「う~ん……でも、最後の行にあることが書かれていたのは覚えた。それを手掛かりにするしかない。」
「手掛かり?何なのそれ?」
「最後の行に……”アクシズ”って書かれていたのは見えた。」
「アクシズ?」