「ここは宇宙空間だぞ……なんで人間がノーマルスーツなしに生身で外に出ているんだ!?」
ヤクト・ドーガのパイロット、”ギュネイ・ガス”は、普通なら生身で宇宙空間に生きていられない人間が、目の前に存在している光景に目を疑った。
「……一人はまだガキじゃないか!それにあと……なんだあの”青いタヌキ”は!?」
「僕はタヌキじゃない!!ネコ型ロボット!!!」
ギュネイからのタヌキ呼ばわりにドラえもんは腹を立て、むきになった。
「タヌキじゃないのなら、ネコ耳もつけないものかよ!!」
「うっ……痛いところを……!」
「怪しい奴らめ、フィフス落下の邪魔するってんなら、ここで吹っ飛ばしてやる!!」
そういうと、ギュネイのヤクト・ドーガは容赦なくビームアサルトライフルを構えた。
「まずい!逃げろのび太君!!」
「わーっ!!」
ドラえもんの号令で、のび太とドラえもんは一目散に逃げだした。
「このヤクト・ドーガから逃げられると思うな!!」
ギュネイは容赦なく操縦席の引き金(トリガー)を引くと、ビームアサルトライフルが火を吹いた。
飛来したビームはドラえもんたちのいる地点の近くに着弾したが、ドラえもんたちには直撃せず、少しよろける程度で済んだ。
「チッ、外したか。」
ギュネイはドラえもんたちにもう一度照準を合わせ、狙いを定めた。
そんなヤクト・ドーガに目をくれる暇もなしに、ドラえもんとのび太は全力疾走していた。
「ドラえもん!バリアとかなんかないの!?」
「え~っと、バリアバリアバリア……」
ドラえもんは必死にポケットからバリアの類の道具を探し出すが、出てくるのはガラクタばかり。
「あった!これならどうだ!」
ドラえもんはポケットからある道具を出すと、すかさず作動させた。いつもなら道具の名前を言って掲げるのだが、今回はそんな暇はない。
「それはなんなの?」
「小型Iフィールド発生器さ。この時代でもIフィールド発生器は存在してるけど、それだとでかいから、未来ではそれが小型化されたものが作られたんだ。」
ドラえもんが説明していると、ヤクト・ドーガのビームが飛来してきた。
ドラえもんたちに直撃しようとするも、Iフィールドのおかげでビームは拡散消滅した。
「ビームをかき消した!」
「馬鹿な!Iフィールドだと!?」
現時点でも普通ならばモビルアーマー級の建造物ぐらいにしか搭載されないIフィールドがなぜこんなところに?驚きを隠せないギュネイだったが、あきらめずにビームアサルトライフルを撃ち続ける。
「わーこりゃいいや!」
のび太がいい気になっていたのもつかの間、3発目のビームをしのぎ、4発目を受けた次の瞬間、Iフィールドは一瞬で消し飛んだ。
「あ~っ!バリアが!」
「だめだ!向こうのビームが強すぎて、バリアでは防ぎきれない!!小型化した分、耐久力も弱まってるんだ!」
「そんな~!」
「等身大の人間が真っ向からモビルスーツに挑むなんて考えられないから!」
ドラえもんとのび太は息せき切らしながらもう一度全力疾走した。すると、配置されている宇宙救命ボートが見えた。元の着陸地点に戻ってきたのだ。
「宇宙救命ボートに乗ろう!一旦退却するんだ!!」
ドラえもんはのび太を引き連れてボートに乗ろうとした。
「あれがやつらの宇宙艇か。させるかよ!!」
するとギュネイはヤクト・ドーガのビームアサルトライフルをドラえもんたちではなく、宇宙救命ボートのほうに向けた。ドラえもんたちはそれに気づいていない。
「落ちろよ!」
ギュネイが容赦なく引き金を引き、ビームが放たれると、宇宙救命ボートに直撃した。
「あーっ!宇宙救命ボートが!」
宇宙救命ボートは一撃で破壊されてしまった。
「ど、どうしよう!?これじゃあ帰れないよ!!!」
慌てふためくのび太。しかしドラえもんも同じくパニックになっている。
「終わりだな。いくら子供とはいえ、こんなところにノコノコ来るのが悪いんだ。」
ヤクト・ドーガは改めてドラえもんたちに狙いを定めた。
「恨むんなら、自分を恨むんだな。」
ヤクト・ドーガのビームは無慈悲にも放たれ、ビームの直撃で発生した爆炎と粉塵にドラえもんたちの姿はかき消されてしまった。
・・・
ロンデニオン行きのシャトルは大気圏を脱出した。
「わあ、きれい!私たち、星空を間近で見てるのね。」
しずかはシャトル内キャビンの窓から見える成層圏と宇宙空間の境目の光景を見て感動していた。
「へへっ。気に入ったかいしずかちゃん。」
誘ったのは自分という事実を武器に自慢げになるスネ夫。
「なあ、機内食とかまだ?俺、腹減ったんだけど。」
ジャイアンのデリカシーのない横やりにちょっとイラっときたスネ夫だった。
「……あれ?君たちもこのシャトルだったのかい?」
突如声をかけられたスネ夫たちは、声がした方向を向く。
そこには、スネ夫を助けたハサウェイがいた。
「あ、あなたはさっきの紳士のお兄さん!!」
「いやぁ、そんな紳士ってほどでもないけどなぁ……。」
スネ夫の急な尊敬の声に、ハサウェイは照れて頬を赤らめた。
「私たちと同じシャトルだったんですね。」
「うん。あまりに混雑してて、乗れるか乗れないかの瀬戸際だったんだけど、親切なおじさん、アデナウアーさんに席を一つ譲ってもらえたんだ。で、それで僕だけ一足先に。」
ハサウェイが親指で刺すと、親切なおじさんが彼の隣に座っていた。
「私が政治特権で割り込んでしまってな。その詫びのようなものだ。」
「せーじとっけんってなんだスネ夫?」
「VIPってことじゃない?」
ジャイアンたちのやり取りを見たアデナウアーは子供の言うことと思ったからか、軽くせせら笑った。
そんなやり取りをしていると、スネ夫の視線はアデナウアーのさらに奥のほうの席にやると、そこにはクェスの姿があった。
「あ!よく見ればあの時のいやな女!!」
スネ夫のストレートな呼び方に、クェスはうっとおしそうに鼻を鳴らした。
「私の娘だ。」
アデナウアーはクェスが自分の娘であることを宣言すると、いきり立って居たスネ夫が引き下がった。
「む、娘さんでしたか……すみません。失礼……」
「今更しおらしくなったって。」
クェスは厭味ったらしい顔をスネ夫に見せた。
キャビンのスネ夫たちの席付近は、通路越しに談笑で盛り上がる。
「ハサウェイさんはどうしてロンデニオンに?旅行?」
「旅行ってあんた、気楽なもんね。空から隕石来てるっていうのに。」
ハサウェイとスネ夫の会話に口をはさむクェス。
「あの……僕、今ハサウェイさんと話してるんだけど。っていうか隕石って?」
「知らないのかい君たち?まあさっき速報で流れたばかりのニュースだけど……」
ハサウェイは小惑星フィフス・ルナが地球に向かって進行をはじめ、下手をすれば落下する警報のニュースが流れていたことを話した。
「……それ、本当なんですか?」
しずかは旅行ムードでウキウキだった気分が一転して不安に包まれた。
「僕たちは、その避難で、ロンデニオンに行くんだけど。」
「おい、スネ夫。大丈夫なんだろな?これから楽しい旅行なのに隕石で事故らないだろうな!?」
「ぼ、僕に言われても……。」
ジャイアンの威圧に近い安全確認にスネ夫はたじろいだ。
「……火の玉が。」
「……どうしたクェス?」
ゴタゴタの最中だったスネ夫たち3人も、クェスの突如のささやきに目を向けた。
「火の玉?」
「火の玉なんてどこに?幽霊でもいんのか?」
ジャイアンの中では火の玉=幽霊か何かの人魂という解釈があるのか、あたりに人魂がないかを探した。
「わからないの!?火の玉!!シャトルの中にあるわけないでしょ!!シャトルの前のほうよ!!」
クェスはキャビンの前方のほうに力強く指さした。
「クェスさん、火の玉ってまさか……その例の隕石のこと!?」
「キャプテン!もっと右、右に寄せてよ!!」
いち早くクェスの火の玉の意味に気が付いて問いただすしずかを押しのけ、クェスはキャビン前方の操縦室に向かって、身を乗り出し叫んだ。
ほかの乗客からは、騒がしい連中にしか見えないため、酔っ払いか何かを相手にするかのようにうっとおしがる客もいた。
そんなクェスの叫びが後ろから響く操縦席では、前方からフィフス・ルナとそれに追従する隕石の破片が飛来してくるのが見えていた。
「来たか!!」
「意外と北寄りだったのか。」
機長はシャトル左舷のアポジモーターを吹かして、右への回避運動を行った。
「もっと右よ!右なのよ!」
「クェス、落ち着きなさい。」
アデナウアーは冷静にクェスをなだめる。すると、それを遮るかのようにシャトルが振動した。
「ああっ、隕石よ!!」
しずかがキャビンの窓を見ると、フィフス・ルナの破片の隕石が、掠めるギリギリのところを通過していくのが見えた。
「ほ、ほんとに隕石だーっ!!」
スネ夫も隕石が飛来している光景を窓から見ると、先ほどまでしずかの前でかっこつけていたのとは逆転して、パニックになった。そんなスネ夫の悲鳴に反応してほかの乗客たちも窓の外の隕石を見て次々とパニックを起こし始めた。
「クェス、みんな、落ち着いて!!!」
ハサウェイは身を乗り出すクェスをはじめ、パニックを起こすスネ夫たちもまとめてなだめようとした。
「きゃぁっ!?」
「うわっ!」
すると、突如強めの揺れがシャトルを襲い、そのショックでしずかとクェスの体が宙に浮いた。
「ああっ、しっかり!」
ハサウェイはクェスを手を掴んで引き寄せたことで、クェスはハサウェイの上にゆっくりと落ちた。
「大丈夫かしずかちゃん!?」
しずかのほうはジャイアンが捕まえ、席に戻した。
「ありがとう剛さん!」
シャトルへの隕石襲来のショックは徐々に激しくなり、フィフス・ルナの本体がシャトルに最接近しようとしていることが乗客全員にもわかっていた。
「うわーん!ママーッ!!!」
「か、神様……!!」
あまりのパニックに、スネ夫は完全に情けないことになっていた。スネ夫がパニックになるとこうなるのはいつものことである。
一方ハサウェイ・クェス側の席では、アデナウアーがうずくまって両手を頭に神に祈る形で、命乞いをしていた。
先ほどの紳士的かつ気丈なアデナウアーを思うと、こちらもかなり情けない。
「こいつら……!!!」
そんなスネ夫と父アデナウアーの情けない姿がクェスの目にしっかり焼き付き、嫌気がさしていた。
・・・
フィフス・ルナは大気圏突入間近となり、摩擦熱で全体が赤く燃えていた。フィフス・ルナを確実に目標に向けて落下させるために護衛していたネオ・ジオンのギラ・ドーガや戦艦ムサカも、自分たちが巻き込まれないように次々と引き上げ行き、フィフスの周辺にはほとんどだれもいない状態となっていた。
現時点で存在するのは、ギュネイ・ガスが登場する専用のヤクト・ドーガと……
「……どうしたギュネイ。帰還するぞ。」
シャアが乗るサザビーが彼を迎えに来た。
「ヤクト・ドーガがイカれたか?」
「いえ、大佐。自分だけでも帰れます。」
「ならば行くぞ。フィフスも落下コースに入って、大気圏間近だ。もうだれにも止められんよ。」
「すみません大佐。ですが、ちょっとやり残したことがありまして。」
「このタイミングでか?なんだ、言ってみろ?」
ギュネイは先ほど起こったことを簡潔に話した。
ノーマルスーツも来ていない生身の人間、それも少年と、青いタヌキのようなロボットがフィフスの地表で存在していたことを。
シャアらが知る常識で考えればまずありえないことで、信じるに値しないことだが、シャアはサザビーの通信機能を通して、ヤクト・ドーガのガンカメラを確認してみた。そこにはしっかりのび太達の姿が映っていた。
「……まあ、合成写真なんかじゃないな。ほんとにこんなことが……だとしたらこいつらは一体……?」
「はい。状況が状況でしたから、容赦なく発砲し吹き飛ばしたんです。しかし……なんかまだどこかにいるような、そんな予感がして……それで少し警戒していたんです。」
(強化人間とはいえ、ギュネイのニュータイプの勘か。)
シャアはもう一度、のび太達が映ったガンカメラの映像を確認した。
「……ギュネイの予感も、ある意味間違いではないかもしれんな。」
シャアは映像に映っているのび太たちから、胸騒ぎに似た妙な感覚を覚えていた。