試合開始直前のWU、所謂公式練習というものは荷物の運び出しやボールの回収など、諸々含まれた上で短い時間で行われる。
すなわち役割分担を予めしっかり決め、十分にアップが出来るよう円滑に進めていく必要がある。
そして行われるアップは短時間なことも影響し、どのチームも大概アップ内容は同じものとなっている。
が、
(雪ヶ丘、アップらしいアップをほとんどしなかったな。ボールには全員触れていたようだけど、それしかやってない。)
通常、コート全面が使える時のアップはスパイク、サーブ、サーブレシーブ、スパイクレシーブという流れが存在する。これによって今日のコンディションを把握したりするものである。
しかし今日対戦する雪ヶ丘中の面々は、スパイクどころかサーブすら打とうとしなかった。普通のチームならまず有り得ないことだ。
(何か隠したいことでもある?なら敢えてアップをしないという選択肢も無くはないか… いや、それなら隠したままでアップすればいいだけ。)
恐らくうちのメンバーは皆、今の自分の思考を知ったら「考えすぎだろ。」と言うだろう。
二年のドリンク作りの連中ではないが、無名な中学のうえ、選手は6人のみ。それも全員小粒な身長。
これでは舐めずに戦えと言う方が難しいかもしれない。
だが、一度負ければ終わりのトーナメント戦。油断せず、相手のことを観察することは決して悪いことではない。
そして、どんな相手だろうと微塵も手を抜かない選手は何も自分だけではない。ある意味チームで一番本気なのはうちの司令塔だろう。
その司令塔へと目を向ける。彼は速攻のタイミングが合わなかったスパイカーに対し、いつもの様に怒号を浴びせている所であった。
「タイミング遅ぇよ!クイックの時はもっと早く入ってこいって言ってんダロ!!」
その様子を先にアップを終えた雪々丘中の選手達も見ていた。
「うわぁ…あのセッター素人目にも凄く上手いって分かるけど怖ぇぇ…」
「いくら上手くても、あれじゃあ一緒のチームは嫌だわ…」
(くそ、ちゃんとうめぇ…!!)ムググ
「飛雄、いつも言ってるけど言い方。それに試合前なんだから、プレッシャー感じさせるような口調で言うなよ。」
「試合前なんだから緊張感あって当たり前だろうが。これぐらいのプレッシャーで潰れるようなヘタクソは、うちにはいらねぇよ。」
「あー、もう。だからそういう言い方が…っておい、まだ話の続き…はぁ、とりあえずアップ続けるか。」
(…やっぱ怖ぇぇ! さっき宥めてた人とも話こそしてるけど、あんま仲良くない感じだし…)
「翔ちゃん!ボール片付けて、審判にメンバー表提出だって!」
「あ、うん!分かった!」
一方、観客席では……
「おっ、そろそろ始まりますよ!大地さん、スガさん!」
「おう。」
「だな、間に合って良かったよ。」
「でも大地さん。何で中坊の試合なんかわざわざ見に来たんスカ?」
「王様を見に来たんだ。北川第一のセッター、コート上の王様影山飛雄!来年戦うことになるかもだろ?」
「へー、なんかいけすかないっスね!でも、その王様って何なんスカね?」
「名前の由来は知らないなぁ、そもそも凄いセッターがいる!って言うのも、ただの噂だしなぁ。」
「それにしても、王様の相手チームはどこだぁ? 小学生みたいなやつしかいねぇなぁ。」
「だな…ん? 大地、北川第一の4番知ってる?」
「4番?いや、俺が知ってるのは噂ぐらいで、中学のことは詳しくないからなぁ。」
「でもあの4番、雪ヶ丘と同じぐらいの身長じゃないっスか?下手したらリベロより小さいような?」
「整列してるってことは、スタメンなんだな。それじゃあ、王様とあの4番に注目して見てみよう。」
「おねがいしあーーーース!!!」
一際大きな声が聞こえてくる。この元気の良さは、先程のオレンジ頭の人だろう。
ちらりと横を、飛雄のほうを見る。試合前というのもあるだろうが、いつもより険しい表情をしていた。緊張というよりも、さっき監督に言われたことが影響しているのかもしれない。
───速さに拘りすぎるな、大事なのはスパイカーに如何に打たせるか───
セッターの役割はスパイカーが打ちやすいようにトスをあげることだと思っているので、監督の言うことは最もなことだとは思う。
ただ、我の強いセッターを前に、そういう言葉は通用しない。
飛雄は「分かってます!」と返事こそしていたが、恐らく今日も速さに拘ったトス回しをするだろう。
…一年以上トスをあげてもらってるんだ、そろそろ応えねぇとな…
気持ちを新たにして、コートのスタート位置である前衛レフトに立つ。
さぁ、試合開始だ。
えっ!試合まだなの?!って思った方、私もそう思います。
本当にすみません…試合開始は次回からとなります。まさか原作1話でこんなに時間かかるとは私も思ってませんでした。
次回は今日明日中に出すので、それで許して下さい。
…←これ使いすぎですかね?