背が低いだけのモンスターに憧れて   作:名も亡き一般市民

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第5話

「夏の全中バレー全国大会、ベスト4のかかった試合、栄蘭中学マッチポイント!光仙学園このピンチを凌げるか!」

「ここを凌げば次はビッグサーバーの滝川君ですからね、栄蘭中学もここで決めたいと思っているはずですよ!」

 

ピーッ!!

 

「さぁ栄蘭のサーブですが… ! おっとこれは笛と同時にサーブしてきた!光仙学園乱されここは返すだけになる!」

 

チャンスボール!

 

「さぁ多彩な攻撃をしてくる栄蘭中学ですが…やはりここはエースに上げてきた!光仙学園もきっちりブロックを揃えるが───」

 

 

ゴッ!!!

 

ピピーッ!!

 

「最後もブロックを吹き飛ばす強烈なスパイク!!セットカウント2-1!栄蘭中学ベスト4進出!光仙学園最後まで粘りをみせましたが、ベスト8で敗退ということになりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッ。と、音は鳴らないがテレビの電源を消す。

 

(光仙ベスト8止まりか、うちのチーム事情もあったとはいえ白鳥沢中とウチを高さとパワーで粉砕したのにな。やっぱ全国すげぇのいんなぁ。)

 

宮城県予選決勝で敗れてから数ヶ月。改めて全中の全試合の見直しをしていた。どのチームも全国に行くだけあって、やはりレベルは高い。そして高さとパワーをかね揃えた選手を軸にして攻めるチームがほとんどだった。徹底的にブロックとレシーブを意識した守備寄りのチームも僅かながら存在したが。

 

ノートを開き、気付いたことを書き込んでいく。

(やっぱ中学は力で押してくるチームが多いよな、そんで多分これは高校でもある程度通用するはず。となるとレシーブの強化と、高いブロックから一人で点を取るための技を身に付けること、シャットアウト出来なくてもワンチ取り出来るブロック…ってとこか。高校はこれまで以上にレベル高くなるだろうし、全体的な向上が必要に───)

 

「ほら、やっぱここにいた。」「お、マジだ。」

 

扉が空いた音がしたのでそちらを見ると、チームメイトの金田一勇太郎と国見英がいた。

「勇太郎、英。お疲れ、なんかあった?」

「や、まぁちょっと聞きたいことあってな。にしても、またこの教室借りて試合視てたのかよ。許可取ったのか?」

「理科の先生に言ったよ、一応担任にも言っといたし。まぁ理科の先生には、あぁまたか。みたいな顔されたけど。」

「今日は何の試合?」

「今日は栄蘭と光仙のベスト4をかけた試合。どっちのエースもパワー系で見ごたえあった。」

「相変わらず引くぐらい熱心。それ何冊目?見る度に違うノート持ってるけど。」

「さぁ、小学生から書いてるから正確な数は分かんないな。で、何か用事あったんだよね?」

「あぁ。お前進学先どこにするか決めたのか?大概のやつは一般入試で、あとは推薦って感じだけど。」

「あ~、その話か。二人は確か青城だっけか。」

「おう、俺ら二人は推薦で青城にした。元北一の先輩も沢山いるしな。」

 

青葉城西高校、通称青城。毎年宮城県のベスト4に入る強豪校で、その実力は全国に行っても通用すると言われている。また、ここ北川第一バレー部の多くが進学する高校でもある。

 

しかし、ある高校の影響により全国出場は長年遠退いている。

 

「お前も推薦来たんだろ?」

「まぁいくつか、青城と白鳥沢はコーチ的な人が直接来た。」

「お前白鳥沢からも来たのか。流石だな。」

「でも青城は兎も角、白鳥沢から推薦ってなーんか違和感あったから詳しく聞いてみたら、リベロとして欲しいとか言われた。」

「あ~、リベロか。お前レシーブも良いしなぁ。けどその様子だと白鳥沢には行かないんだな。」

「うん、行かない。そりゃリベロという制約付きとは言え県内最強の白鳥沢にスカウトされるのは嬉しいけどな。」

 

宮城県内最強と呼び声高い白鳥沢高校。毎年のように宮城県代表として全国に行けば、ベスト8は固い。青城が全国に行けないのは、この高校が同じ県にいることが少なからず影響している。

 

「となると、俺らと同じ青城に行くのか?お前のことだから当然高校でも全国目指すんだろ?」

「ん~…全国目指すのは当たり前として、俺もっと色んな人とバレーしてみたいんだよな。青城は知り合いの先輩方とか沢山いるから過ごしやすそうではあるけど。」

「全国目指すんだったら、強豪に入るのが普通だろうけど?」

「いや、学校はそんなに関係ないよ。弱小校に入るつもりもないけど、同じ高校生で勝てない理由はないし。それに誰よりもバレーに対して努力してきたことには自信あるから。だからまぁ、中堅以上に入れればそれでいいかな。」

「……」

「そうか…んじゃ早めに決めろよ。監督困る前に。」

「分かった。…そういや、飛雄の進路聞いてる?あいつも推薦いくつかきてるはずだよな?」

「…さぁ、王様の進路なんか知らねぇよ。」

「その王様って誰が言い出したのか知らないけど、悪い意味で言うなよ。飛雄がああなったのは俺らにも責任あるんだから。」

「まだそんなこと言ってる奴、お前ぐらいだろ。ムチャブリトスの癖に、打てないと罵声が飛んでくるからな。俺だって何回言われたか。お前も言われてただろ?そんな奴嫌われて当然だって、皆思ってる。」

「そりゃ俺も言われはしたけど。」

「兎に角知らない、知りたいなら直接聞けよ。んじゃもう帰るわ、早く進路決めろよ。」

「おう、またな。」

 

ガラガラと扉を閉め、二人は帰っていった。

 

(結局引退してもこんな調子だもんな、飛雄とは引退して以来全然話してないし。クラス違うとはいえもう少し話すと思ってたんだけどな。…まぁ飛雄も気になるけどまずは自分か。推薦貰ってたとこの確認と県内の高校のパンフレット進路支援室で貰ってくるか。)

 

ノートをまとめ、テレビを片付けて視聴覚室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「…まだ影山のこと気にしてんのかよ。」

「!別に何も言ってねぇだろ…」

「顔に出てるから。お前は精一杯やっただろ。」

「けどよ、結局あいつが引っ込んだからって、試合で勝てたわけじゃなかっただろ。」

「あの身長でエースやってたうちの怪物でも、結局最後までまともにあのトスを打てなかった。…あの時の俺らに、何が出来たよ。」

「……」

 

痼を残していたのは、影山飛雄だけではなかった。それがいつ消えるかは、誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一応推薦貰ってたとこと、バレー部の強さとか場所とか考慮した高校のパンフレット一通り見たけど、いまいち決め手がないなぁ。県外からも2、3校スカウト来てたって監督言ってたっけ。寮生活も楽しそうではあるけど、家から出たくないし…いや、でもなぁ…)

 

ご覧の通り、行く高校決めは難航していた。

バレー部と立地しか見ていないが、実際のところ推薦以外のところならば学力も考慮しなければならないのだが。

 

(さて、どうしたもんか。ん?まだもう一枚あったか。)

パンフの束の一番下になっていたものを取る。

 

(烏野…か)

その高校は彼にとって最も見覚えのある高校であった。が、無意識的に候補から外していたところでもあった。

(バレー部の最近の戦績は、良くて県ベスト8か。強くもなく、弱くもないって感じか。)

 

烏野高校。数年前まで白鳥沢と張り合う程の強豪で、直近で出た春高バレーでは「小さな巨人」と呼ばれる選手の活躍により、全国に名を残した。

しかし、近年は成績が振るわず、「落ちた強豪 飛べない烏」という不名誉な異名で呼ばれている。

 

(ここは今まで無意識に避けてきた。……けど、もしかしたらいい機会かもしれない。自分の気持ちに踏ん切りをつけるのに。)

数分熟考し、一つだけパンフレットを持ち、他は全て元の場所に戻して職員室へ向かう。この時間なら監督も練習も終わってもう戻っているだろう。担任にも伝えなければならない。

 

すっかり日が短くなり、月をより輝かせるかのように、空は既に黒く染まっていた。




最後の文、ポエミーだった!?引いた!?…まぁちょっとカッコつけてみたかっただけです。はい。
主人公の烏野との因縁?ですが、次回には分かる予定です。
ここまで彼の名前をひたすら伏せてきたのもそれが理由です。
今回は彼の名前を出すところまで行きたかったのですが、ここからの繋ぎ方が分からなかったので一度切ることにしました。次回から烏野編となる予定です!!

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