「……まだ寝ぼけてるんですか、お兄様?」
と、テンション高くパニクっていた俺だったが。
そんな俺とは対照的に、妹は落ち着き払って……というか、キョトンとしている。
まるで車を運転してる奴に「これはどうやって走るものなんですか……?」と聞かれたかのような、コイツ何言ってんだと言わんばかりの見事なキョトン顔。
……正直、その目で見られるのキツいっす。
整った顔立ちの妹が。真っ白くきめ細やかな肌の妹が、「コイツ頭おかしいんじゃねえのか」とでも言いたげな目で兄を見つめる。
特殊な性壁をお持ちな変態紳士の諸君にはご褒美かもしれないが、俺にとっては違う。
まともな感性を持っている俺は普通に傷つく。
と、同時に困惑する。
(……えっ。俺の方が非常識扱い……?)
確実に妹の方がおかしくなっちゃったと思ってたんだけど、反応を見るに俺か⁉︎
俺のおつむがへんてこりんのくるくるぱぁになってしまったのか⁉︎
おでこにキスして状態なのか⁉︎
と、俺がこれまで以上にパニクって自分を信じられなくなってきていると。
「妹がお兄様の思考を読めるのなんて当たり前じゃないですか。キスしますよ?」
なんて、真顔で刺身がトドメを刺してきたのだった。
やっぱり俺が普通じゃなかったのか――!
寝ぼけているせいなのか、はたまた脳の異常なのか。
俺は、世の中の常識とズレた感性を抱えて今日を迎えてしまったらしい。
それに、妹の発言にはもう一つ確認しておきたいことがあって……。
「最後、俺に何するって言ったぁ――!」
「……えっ? キスですけど?」
再びのキョトン顔で即答する刺身。
……聞き間違いじゃなかった。
ちょっと待って、なんかもう本当に頭がこんがらがってきた。
妹の、刺身が? 兄の俺に、キス?
……なんでぇ‼︎
キスってあれであってるよねぇ!
唇と唇をくっつけて、愛を確かめ合う――
「あってますよ?」
あってるよねえ!
じゃあ、なんで兄妹の俺たちがそんな行為をするんだ!
恋人でもないのに、男女がキスをしてなるものか!
「なるものです!」
なるものなのか、くそぉ――!
……っていうか!
「おい刺身、お前俺の自問自答に入ってくるんじゃねえ!」
「どうしてですか? わたしはお兄様の考察を手助けしているのに」
初めての感覚に、脳の疲労が半端じゃない俺。
しかし、そんなことを毛程も気にしない妹は平気で独自の論理をぶつけてくる。
いや、確かにさ……円滑に脳内会議を進めることはできたけどさ……
……この有能司会者が!
反論できなくなっちゃうじゃないか!