最新の研究では彗星が蛇神のモチーフだとされていたが、実際は彗星に見える宇宙船だったのだと彼女はいう。確かにその後定期的に訪れたとされる蛇神はすべて彗星を見間違えたものだが、旧約聖書をはじめとする神話に登場する蛇は全て宇宙船を表現したものだと。
最初の宇宙船に乗った十人が地球にやってきてからしばらくして。
二大勢力の戦争は終結し、オードル・ト・レールには復興の時代が訪れていた。
戦争で失われた資源や自然を大切にしようとする動きが活発になり、平和の時代に移り変わっていった。
そんな中――当時甚大な被害を被っていた一般市民達の生き残りが、宇宙船に乗って旅立っていった仲間のことを大々的に発表した。
すると、星中は大混乱。
償いと救出、その二つを目標に捜索隊が設けられた。
新たに見つかった資源などは宇宙船を作るために使われ、人々は応援し。
そうして、ついにオードル・ト・レール人は百人規模の宇宙船を完成させ、自分たちの備わっていた超能力を頼りに宇宙へと旅立ったのだ。
それから、地球へとたどり着くまではそう長い時間かからなかった。
なぜなら、オードル・ト・レール人同士ならばお互いの居場所が超能力でわかるから。
船長は地球にいる十人のその力が弱まり、そして増えていることに疑問を感じたが、それでも地球を目指し船を動かし続けた。
そして、ついに地球にたどり着いた時――宇宙船の乗組員達は、自分たちの誤算に気がついた。地球の時間の流れは、オードル・ト・レールと比べて、かなり早いものだったのだ。
宇宙船を降りてみると、数多くの自分たちに似た生物が存在したが、オードル・ト・レール人そのものはどこにも存在しなかった。
つまり――最初に来た十人は既に子孫を残し、死んでいったのだ。
その際、交配の相手に選ばれたのは地球の在来種、猿だった。
そのため、本来ならオードル・ト・レール人に備わっているはずの超能力は弱まり、乳首やへそを獲得するなどの変化が生じ、完璧だった性質が崩れ去ってしまっていたのである。
「はじめの十人が地球に降り立った場所は、今のエジプトと呼ばれているところ。でも、交配を重ねるうちに狩猟対象を求めて各地へと散らばっていったみたいね……」
リノは、続けて第二宇宙船の乗組員達が行なった功績を話して聞かせた。
例えば、彼らが各地の猿人たちに農耕を教えたこと。
それもただ農耕について教えるだけでなく、次第に灌漑設備を開発するなどの大規模な農耕を可能にする知恵をつけるよう、遺伝子を少し弄って持続可能なものにしたこと。
例えば、文字や絵を伝え、その文化を次の世代へ継承していけるようにしたこと。
その結果猿人たちが地球人として知恵を授かり、絵や文字、言い伝えによって「知恵を伝えた者」、つまりオードル・ト・レール人を蛇として神格化したこと。
「……だから、旧約聖書では最初に蛇が出てくるのよ。禁断の果実を食べさせた存在としてね」
「知恵を与えた存在……か。あの蛇が、地球外生命体を表していたとはな……」
感心していると、もう一口お茶を飲もうとして、カップが空になっていることに気がつくリノ。申し訳なさそうに目配せしてくるから、俺も残っていたお茶を飲み干して補充に向かう。
キッチンにある急須を持ち上げると、中身はちょうど一杯分くらいはありそうだった。
……せっかくだから、お客さんに一杯持っていってやるか。
俺はそっと自分の湯飲みを食洗機に置くと、リノのカップにお茶を注いで再びリビングへ。
歩きながら、頭の中を整理する。
人間はもともと宇宙人で、猿と交配した結果地球人が生まれた。
そして、地球人に知恵を与えたのもまた宇宙人。
……うーん。
そうなると、地球人はオードル・ト・レール人の分岐した種族ということになるんだろうか。
リノの姿形が人間にそっくりなのも、遠い親戚だからと言われれば納得がいく。
っていうか、猿と人間より近いもんな俺たち!
猿とは喋れないけどリノとは喋れてる時点で地球人とオードル・ト・レール人の関係が深いことは明白だ。
……と、ここまでは理解できたし、納得もできた。
はじめは都市伝説的な話だと疑ってかかっていた俺だが、根拠のある説明によって、完全にリノのことを信じざるを得なくなった。
ただ、問題はここからである。
どうしてそれが、刺身が地球を滅ぼすことに繋がってくるのか。
今の説明だけでは、皆目見当がつかなかった。