リビングのテーブルについて、リノにカップを差し出す。
すると、彼女は勢いよく二口でそれを飲み干すと、俺に椅子に座るよう指示した。
それから、その小さな口を開いて告げる。
「今話したのは、オードル・ト・レールと地球の歴史。フカは理解が早くて助かる」
「まあ、俺も多少は中二病だからな。普通の人よりは頭が柔らかいのかもしれない」
俺の軽口に「中二病……?」と首を傾げるリノ。
これまでの話は全て通じてきたが、中二病は難しかったらしい。
宇宙に中二病はいないんだろうか。
「……じゃあ、今度はさっきまでの話を踏まえて妹さんについての話をするわね」
中二病のことはなかったことにして、さっさと本題に入る彼女。
俺としては無視された感じがしてちょっと心が痛むけど、仕方のないことだ。
スムーズに話が聞けるよう、続きを促す。
すると、彼女は「最近、フカの妹さんになにか変わったことはなかったかしら?」なんて、いきなり質問をぶつけてきた。
「そうだな……」
変わったこと、か。
ここ最近の刺身について、思考を巡らせる。
高校に入学して、手芸部に入ったこと。
それから、家でカリンバという楽器を買ってひそかに練習を始めたこと。
あとは……えーっと……そうだな……
「…………あ」
考えて、考えて、思い当たる。
突拍子もなさすぎて忘れてたけど、そういえば今朝すごい変わったことがあったじゃんか!
身体が光り輝いたと思ったら、突然表示された「レベルアップ」の文字。
あれ以上の変化が刺身にあったとは到底思えない!
答えにまた一歩近づいたような感じがして、テンションの上がる俺。
昂った気持ちのまま、リノに心当たりを告げる。
「レベルアップだ! 今朝、刺身がレベルアップしたんだよ!」
よっしゃー、と、意味もなくガッツポーズを見せる俺。
しかし、そんな俺とは対照的にリノはなんだか落ち着いている。
そして、その落ち着きのままゆっくりと口を開いた。
「…………あ、ええと……多分そのレベルアップ? っていうのは全然関係ないわ」
「…………えっ⁉︎」
う、嘘だろ⁉︎
あんなに地球上の概念では考えられない謎の現象が、関係ない⁉︎
そんなわけがないだろう、と再び俺はリノの顔を覗き見る。
すると彼女はそれに気がついたようで、無表情のままこちらを一瞥すると言った。
「……冗談よ。レベルアップ、すごく関係あるわ」
「このガキ――! なんで一回騙したんだぁ――!」
「……えへへ、さっき照れさせたお返し!」
フっと柔らかい表情になっていたずらっぽく笑うリノ。
うーん、俺がロリコンだったら惚れていたかもしれない。
っていうか、多分襲ってたな!
だってほら、ここ自宅だし?
ノコノコ自分から訪問してきたロリが全裸見せてから微笑みかけてきたら、ロリコン耐えられないだろ。俺がロリコンじゃなくてよかったよ。
とまあ、ロリコンじゃなくてよかったトークはここまでにしておこう。
刺身という優秀な司会者がいなくなった今、脳内会議は永遠に続く可能性があるからな。
なんて、馬鹿な思考を取り払おうと思った時だった。
「……フカ、あの……すごく言いづらいんだけどね?」
怯えたような顔をして、リノがこっちの様子を伺っている。
それも、自分の身体を両手で抱くようにして、酷く狼狽ているようだ。
「えーっと……宇宙人様、どうされました?」
俺が聞くと、継続して怯えたような表情で告げてくる彼女。
「……実は、オードル・ト・レール人に備わった超能力として、フカの頭の中は多少覗けるというか、分かってしまうわけで――」
だからどうしたというんだろう。
それならば、うちの妹だって同じ能力を持っている。
だけど、別に刺身は俺に怯えたりはしてなかったよな……
と、そこまで考えたとこで気が付く。
……あれ?
俺、さっきまで、ロリだったら襲ってたとか、そんな物騒なことを考えてなかったか?
それを踏まえて、もう一度リノの方を見る。
すると、さっきと変わらず青ざめた表情で、涙目になってこっちを睨む彼女。
……うん、完全に身の危険を感じてる目だ!
これはマズい! 警察に通報される前に、どうにか誤解を――
「安心して! 俺はロリコンじゃないから! こんな未成熟な身体に欲情しないから――!」
「な、何言ってんの変態! それはそれでムカつく! 死ねぇ――!」
ロリっ子だって答えたときと同じように、顔を真っ赤にして怒るリノ。
どうやら、貧相な体型にコンプレックスがあるらしい。
俺にとっては、乳首がない時点でおっぱいが大きかろうが小さかろうが、背が高かろうが低かろうが、欲望の対象にはならないんだが……。
まあ、そんなことを伝えたところで火に油を注ぐだけだ。
大人しく、レベルアップについて話を聞くことにする。