と、俺が椅子に座り直して聞く態勢を整えたときだった。
……待てよ? ちょっとおかしくないか?
ふと、また違和感のようなものに襲われる。
妹の刺身がいつの間にか習得していた、心を読む技術。
そして、オードル・ト・レール人が本来持つ、心を読む技術……。
スルーしてしまうところだったが、これもレベルアップと同じく無関係とは思えない。
だって、普通の人間だったら、他人の心を読むなんてことができるはずはないのだから。
できるとすれば、オーギュスト・デュパンやシャーロック・ホームズなどの物語に登場する探偵だけ。しかも、あれだって心を読んでいるわけじゃなくて思考を推理しているだけだし。
で、あるならば……うちの妹がその能力を有するのは、何か意味があるはずだ。
例えば……刺身が、オードル・ト・レール人そのものだとか。
でも、刺身はれっきとした地球人だと思われる。
だって、彼女が生まれたときからついさっきまで、俺はずっと近くで見てきたのだから。
母さんがお腹を痛めて産んだ時点で、刺身は地球人として生を受けている。
それに……もちろん、乳首やおへそだって存在してるわけだし。
これだけの条件が揃っていて、刺身が宇宙人でしたなんていう、ふざけたエンドはやってこないだろう。
だとすると、どう考えれば読心術に説明がつくんだろう……。
それが、さっぱり思いつかない。
思考の行き止まりを感じた俺が頭を抱えたときだった。
「そこまで考えられれば上出来。やっぱり、フカは理解が早くて助かる」
と、リノが微笑んだ。
照れたり、微笑んだり、表情がコロコロ変わってかわいい奴め。
「ここからは、わたしが説明するからフカは安心して聞いててね」
若干の上から目線で、リノが話し出す。
「結論から先にいうと――妹さんの読心術と、オードル・ト・レール人の読心術には関係があるわ。もちろん、全く同じではないけれど……元を辿れば、おんなじものよ」
そこまでは、自分で考えて思い至った通りだ。
説明を聞く限り、関係ないと言われた方が納得できない。
「ええと、実はその関係っていうのがわたしの話したいことだったりするんだけど……」
「刺身が地球を滅ぼすって話とも関係してくるのか?」
「……その通り。だからわたしも、どこから話したらいいのか整理が追いつかなくって……」
顎のあたりに手を当てて、考え込むような仕草をすることしばし。
さっきまでの頼れる感じはどこにいったのだろうと疑問に思うが、それだけ説明が難しい話なんだろう。実際のところ、俺もリノが何を言いたいのかが全く推察できない。
だから、彼女が話し出すのをじっと待つ他にやることはないのである。
でも……そうだな、お茶のおかわりくらいは用意しておくか。
と、立ち上がろうとしたときだった。
「……フカ、そのまま座ってて。今から説明を始めるから」
リノが、すっきりしたような顔でそれを制する。
どうやら、言いたいことがまとまったみたいだ。
俺も、彼女に合わせて再び話を聞く体勢に戻る。
「……これだけ話すのに時間がかかったのは、話すのが難しいからじゃないの」
リノが少し小さめの声で話し出した。
「難しい話だからじゃなくて……急にフカにこんな話をしてもいいのか、迷ってたのよ」
「……それは、心の準備ができていないと思ったからか? それとも、理解が追いつかなそうだから?」
俺の質問に、リノは少し考え込んだあと訥々と回答する。
「……その、両方ね」
心の準備が必要で、理解の難しい話。
さっきの地球人の歴史だけでも、俺の脳みそは限界に達しそうだった。
だから、きっとここからはさらに宇宙規模で難しい話になってくるんだろう。
もしくは――理解はできるけど、理解したくない。そんな話に……
「……フカは、本当に察しがいいわね」
リノが、またも俺の心を読んで賛美する。
しかし、気の所為だろうか?
今一瞬、彼女の表情に翳りのようなものが……
「じゃあ、そんな察しもよくて理解も早いフカには、直球で説明するね」
……まあ、気の所為だろう。
これから難しいことを聞くっていうのに、他のことに脳のストレージを使ってしまうのは勿体ない。
気を取り直して、リノの長い睫毛を一直線にとらえる。
これから出てくる言葉がどれだけ突拍子のないものでも、理解し尽くしてやる。
そんな心意気で彼女を見つめる。
すると、ついにリノが核心的なひとことを放った。
「フカの妹さん――刺身ちゃんは……ほとんど、オードル・ト・レール人なの」