……えーと……なんだって?
思わず口を開けてわかりやすくポカンとしてしまう。
……いやだって、ほとんどってなんだよ!
宇宙人か地球人かに、そんなほとんどもクソもあるか!
頭の中で、激しく肩を震わせる俺。
かつてこんなに理解に苦しむ、理不尽な言い回しが存在しただろうか。
「複雑で簡単」とか「丸い四角形」みたいに明らかに思考の余地がない言い回しじゃなくて、なんとか考えれば答えが出そうなのが余計に厄介だ。
刺身は「ほとんど」オードル・ト・レール人。
つまり、地球人の部分も少しはあるってことか?
……ダメだ、分からん。
自分で考えても分からなそうだから、リノの詳しい説明を聞くことにする。
「えっと……そうね……じゃあ、いくつかに区切って話しましょうか」
「おう、それで頼む。できるだけ俺にも分かりやすくな」
俺が頭を捻っている間、リノも説明の仕方を考えてくれていたらしい。
「刺身に何が起こっているのか」「これからどうなっていくのか」「俺に何ができるのか」
この三つに分けて、これから説明してくれるんだそうだ。
「じゃあ、まずは刺身ちゃんになにが起こってるのか説明するね!」
だんだんと整理がついてきたからか、少しテンションの上がるリノ。
「ん……っと、フカはさっきの話で地球人の祖先が移住してきたオードル・ト・レール人だってことは理解してくれたよね?」
「ああ。外来種だって説明で納得した」
「じゃあ、フカたち人間の遺伝子の全部にオードル・ト・レール人の遺伝子が入ってることも理解できるよね?」
「そりゃあ、祖先がオードル・ト・レール人なら遺伝子の形もオードル・ト・レール人のものを継承していくんだろうからな。自然に考えてそれも分かる」
「で、ここからが問題なんだよ」
フカなら理解してくれるだろうけど、とリノ。
そんなに買い被られると不安になってくるけど、頑張ってみるか。
深呼吸する俺に、リノは小さな口を一生懸命動かして告げる。
「だから、もちろんフカも……くだんの刺身ちゃんも、その遺伝子は持ってるの」
「まあ、人類全員が持ってる遺伝子なんだから、そりゃそうか」
「でね、ここからが本題。その刺身ちゃんなんだけど――オードル・ト・レール人の遺伝子が、他の人より色濃く反映されているの」
「……っていうと……なんだ、隔世遺伝みたいなもんか?」
「その通り。長い間潜性遺伝子として受け継がれてきたオードル・ト・レール人の遺伝子が、何万年もの時を経て刺身ちゃんの遺伝子に大きく影響をもたらしたの。……わたしが今日地球のこの場所にピンポイントに来ることができたのも、刺身ちゃんに備わった超能力のおかげね」
「……そうなると、刺身が心を読めるのもその隔世遺伝のおかげってことか」
「そう。刺身ちゃんの超能力は、彼女の体質に合った形に適応して表に顕れたの」
それから、リノは他にも過去に隔世遺伝が起こった例を教えてくれた。
例えば、全世界に伝播した宗教で崇められるような人物たち。
さらには、世紀の大悪党や超人とされる人たちまで。
しかし、彼女は話の最後をこう締め括った。
「過去、これらの人間たちとは行進を重ねてきたけど……今回の例は特殊なの。こんなに色濃くオードル・ト・レール人の血が顕れたのは、フカの妹さんが初めてよ」
……つまり、刺身はそれらの人物よりももっと多くの才能を持ち得るということだろう。
人々を導く女神のようになるかもしれないし、人々を救う天使のようになるかもしれない。
しかし、リノのトピックの二つ目「これからどうなっていくのか」の部分において、そんな期待は泡になって崩れ去っていく。
なぜなら――
「それがね、フカ。今の刺身ちゃんを見てると……確実に、悪い方向に進んでる」
「なんだって!」
どうやら、刺身の向かっていく先に明るい未来はないらしい。
過去の例でいくと、崇められる側ではなく、大悪党側。
それが、なんと地球の滅亡に繋がるほどの破滅に向かっていくというのだから問題だ。