現代日本で突然妹がレベルアップした件。   作:雨宮照

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精神異常。

「……さっきの外来種の例に戻るけど」

 と、リノ。

 彼女曰く、地球人はもともと外来種でありながら、猿との交配や環境に馴染むための進化を続けた結果、地球にそこまでの害をなす存在ではなくなったという。

 しかし、原初の地球人に近い遺伝子を顕にした刺身はどうか。

 彼女は、人類が何万年もの時間をかけて進化してきた部分を取っ払った個体なのだ。

 ――つまり、彼女は純粋に、生態系が変わってしまう前の「外来種」としての人類なわけで。

「……結論を言えば、今の地球や人類には到底馴染まない行動をしてしまうようになるでしょうね……もちろん、今の人類には未知の超能力を使って」

 そうなったら最後、刺身はどうなってしまうのだろうか。

 世紀の大悪党として吊し上げられる? 

それとも、全地球人の反感を買って殺されてしまう?

……いいや、リノの説明によると……暴走した刺身は、そんなことでは死なない。

だから――刺身の行き着く先は、孤独だ。

嫌われるとか、無視されるとか、そんな次元じゃない孤独だ。

残された人類は一人だけ。さらに、故郷である地球すら滅亡して存在しない。

今までに誰も味わったことのない、これ以上ないほどの孤独だ。

 考えただけで、叫び出しそうになる。

 考えただけで、吐きそうになる。

 それを、最愛の妹が……

 兄想いの可愛い妹が、経験しそうになっている。

 何か、食い止める手立てはないのだろうか。

 期待を込めてリノを見る。

 すると、心を読んだのか、それとも表情から推察したのか。

 彼女は、「だから『フカに何ができるのか』をこれから説明するっていってるじゃん!」と、小さな真っ白い歯を見せて笑った。

 見た目はロリのくせに、随分と頼りになる表情をする目の前の宇宙人。

 俺に与えられた選択肢は、やはり彼女の言葉を信用し、それに従うことしか存在していないらしい。

「じゃあ……まずは、さっきまでの説明に足りなかったことを補足していくね?」

 頼もしい、それでいて可愛らしい笑顔のままリノが続ける。

「最初の説明にあった、オードル・ト・レール人が地球の在来生物である猿と交配した――っていう部分なんだけどね、フカはどうしてその二種類の間で異種間交配が行われたと思う?」

「ええ……っと、普通に考えたら、子孫を残すためにその土地の生物と交配したんじゃないか?」

 初めに説明を受けた時から、勝手に思い込んでいた理由。

それを素直に口にする。

 頭のいいオードル・ト・レール人のことだ。

 きっと、種としての将来のことも考えて原生生物との交配を試みたに違いない、と。

 しかし、目の前の少女は首を横に振る。

「彼らが猿と交配した理由は――そんな、理論に基づいたものじゃないの」

 ここからは若干理屈で考えられない話になっていくから気を付けてね、と彼女。

 一体、猿と宇宙人、地球人の祖先の間に何があったのか。

 例の如く想像のつかない俺は、リノに次の発言を促す。

 すると、彼女は少し躊躇うような仕草のあと、言った。

「また、これも結論から話すことになるけど――正解は、奇行よ」

 今更考えることでもないが、宇宙は未知で、広大だ。

 だから、もちろん他の星に移住するということになれば、それ相応のリスクが伴う。

 例えば、凶暴な生物に出会ってしまったり。

 例えば、今までに見たことがない災害に襲われてしまったり。

 例えば――精神に、異常を来してしまったり。

「最初の宇宙船の乗組員たちは、地球の環境なんて調べている暇がなかったのよ。だって、その当時オードル・ト・レールは戦争をしていて、命からがら逃げてきたわけだからね」

「じゃあ、原因は地球の環境だったってことか……?」

「そうよ。地球の環境は、オードル・ト・レール人に麻薬のような効果をもたらすの。幻覚を見せたり、精神異常に陥らせたり、ね」

 二回目の宇宙船が地球に向かった時には、しっかりと調べられていた地球の環境。

 それを知らなかったがために対策できなかった最初の十人は、狂ってしまった。

結果として、彼らが引き起こした行動は幸いにも環境を破壊したり地球を滅亡させたりするようなものではなかったが――原生生物である猿との交配という、後の地球にとって大きな行動ではあったのだ。

 


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