「だから、フカたち地球人が誕生したのは偶然でもあるの。もちろん、彼らがもし精神異常を来していなかったとしたら、フカがいうように子孫を残すための苦肉の策として猿との交配を選んだ未来もあったかもしれないわね」
目を瞑って、歴史に想いを馳せているかのような表情のリノ。
先ほど人類の新歴史を聞いていた時には何も疑問を抱かなかった部分が、実は間違いだった。
まあ、それは俺も今の説明を聞いて理解できた。
これから刺身を救う方法を聞く上で、正しく歴史を理解しておくことはきっと大切だからな。
でも――どうして、今のタイミングだったんだろう?
話の内容を聞くに、別にこのタイミングで話さなくてはいけないことではなかった気がするんだけど――思い違いかな?
考えないようにするけれど、どうしてもそこが引っかかる。
だから、未だに遠い目をし続けるリノに質問を投げかけてみた。
「……で、リノ。お前はどうして今俺にその話を聞かせたんだ?」
……別に、裏なんてないのかもしれない。
ただ、なんとなくこのタイミングで話したくなっただけなのかも。
でも、これまでの説明を聞く限りリノはそこまで何も考えずに話すタイプじゃない。
おそらく、この話を今のタイミングでしたことも彼女なりの考えがあってのことだろう。
勘繰りながら答えを待っていると。
「そりゃ、なんの脈絡もなしにこんな話、語ったりしないわよ……」
と、口を開いたリノが期待通りのセリフを口にしてくれた。
……やっぱり、この話はなにか別のトピックに繋がっている……!
俺の中に、一筋の光が降りてきたかのような希望が見え始める。
このオードル・ト・レール人と精神異常の話が、刺身を救う手立てと関わってくるとしたら。
もしかしたら――その精神異常を対策することで、刺身は救われる⁉︎
俺の仮定はこうだ。
リノはさっき刺身がこのままでは異常な行動を繰り返すようになると言っていたが、それは地球にいることで生じるオードル・ト・レール人の精神異常。
しかし、既に二回目の宇宙船クルーたちによってその精神異常を防げることは実証済み。
だとすれば、きっと精神異常の治療に効果があるワクチンなどが開発されているのだろう。
そして――俺に課せられるミッションは、そのワクチンを刺身に接種させること!
よし、どうだ!
リノ、お前の説明が必要ないくらい俺は推測で理解してるだろ――
「全っ然ちがうよ!」
「全っ然違うの⁉︎」
……全然違ったらしい。
あれー、結構筋の通ったいい考察だと思ったんだけどなぁ……。
どうも、やはり自分一人で考えられるような次元の話ではないらしい。
この考察が違うなら俺はもう他になんにも思いつかないため、黙ってリノの説明を聞くことにする。
すると、彼女はその俺の不貞腐れたような態度に「ふふっ」と楽しそうに微笑んで、説明を再開してくれた。