「でも――レベルアップを繰り返すほど身体への負担も減るし、強くなっていくから大丈夫。だからフカは――これから、刺身ちゃんがレベルマックスになるまで、狂わせてほしいの」
「俺が――刺身を狂わせる?」
突然、妙なことを頼んでくるリノ。
「ええと――それじゃあわかりやすいように、レベルアップの説明をさせてもらうわ」
そして、ついにレベルアップについて語り始める。
リノの話をまとめると、レベルアップのシステムはこうだ。
地球の環境とオードル・ト・レール人の遺伝子が合わないために引き起こされる奇行。
それを抑えるためには、そもそもオードル・ト・レール人の遺伝子を薄めればいい。
そうすることで体内の遺伝子の割合は地球人に近づき、最終的に宿主は完全な地球人と同じ割合の遺伝子を持った普通の個体に戻ることができる。
結果、奇行を引き起こすこともなくなるというわけだ。
レベルアップは、それを可能にするための技術。
感情を爆発させて、それと同時にオードル・ト・レール人の遺伝子を少しずつ体外に放出する、というシステムになっている。その爆発を起こして、ちょうど地球人と同じ数値にまで遺伝子が減らせるのが百回目の爆発、百回目のレベルアップだ。
そこで、晴れて宿主は完全な地球人になることができる。
「……ほ、ほぉ……」
説明を聞いて、間抜けな顔で一つ頷く俺。
「……フカ、絶対わかってないでしょ」
もちろん、俺が理解していないことなど心が読めるリノからすればすぐに分かってしまうのだが。……いや、今のは誰が見ても明らかだったか。
でもさ、ちょっと考えてみてほしい。
リノの説明だと、レベルアップするごとに刺身は地球人に近づいていくんだろ……?
だったら、ある程度レベルがアップした段階でもう、地球が滅亡するほどの大惨事にはならないんじゃ……?
引っかかって、頭を悩ませる。
すると「それもそうね……わたしの説明が悪かったかもしれない」と、またも彼女は回答を用意してくれた。
「確かに、わたしの説明ではレベルアップするごとに奇行の回数も減って万事がうまくいくように感じたかもしれないわね。でも、実際は真逆なのよ」
「……真逆?」
「……そう、真逆。レベルアップをすればするほど……実は、奇行の内容が濃く、残酷になっていくの。例えるならば……バイキンのようなものかしら? 薄い除菌剤を空間に撒いた場合、弱いバイキンたちは一掃される。でも、強いバイキンはその場に残ってしまうわよね? すると、数が減って焦った強いバイキンたちは生き残ろうと必死に頭角をあらわすのよ」
なるほど、最初に放出される遺伝子はいわば弱い遺伝子。
そして、後に放出される遺伝子こそより強く、凶悪なものになっていく、と。
「だから、レベルが上がれば上がるほど刺身ちゃんはどんどん思いも寄らない行動を起こすようになる。そして、地球を滅亡させてしまうことにも繋がるの」
「……それを食い止められるのは、あいつのレベルを百にすることだけなんだな……?」
「そうよ。このまま放っておいても結局奇行を繰り返すことには変わりないし、地球を滅亡させるリスクはある。だから、できるだけ早くレベルをマックスにすることが最適解なの」
……俺が、地球を救う……。
正直、はじめにリノに説明された時は実感が湧かなかったけど、きちんと説明を受けて色々なことを理解した今だからこそ、事の重大さが分かってきた。
……そうだよな、地球を、救うんだもんな……!
それに……なにより、最愛の妹を救ってあげられるんだもんな……!
「よし! 俺、引き受けるよ! 刺身を、いくらでも狂わせてみせる!」
「……ありがとう。フカならそういってくれると思ってた……」
心底安心したような表情で息を吐くリノ。
別の星の危機だっていうのに、そんなに想ってくれていたことが素直に嬉しい。
しかし次の瞬間、少しだけ――彼女の表情が、悲しそうなものへと変わった。
一瞬だったから見間違いだったのかもしれないけど、少しだけ不安になる。
今の瞬間、彼女が本当に悲しげな表情を見せたのだとしたら――それは、何を意味しているのだろうか。
考えてみたけれど、心を読む技術を持っていない俺にはさっぱり理解できなかった。