現代日本で突然妹がレベルアップした件。   作:雨宮照

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初デート。

 デートの場所は池袋。

 自宅のある埼玉から電車に乗ってすぐに来られる都会だということで、刺身が提案してくれた。刺身の言によると、駅に隣接するファッションビルを歩いていれば自然と似合うものが見つかるはずです、とのことだ。

 さらに、ビルの上層階には食事ができるお店もたくさん入っている。

 刺身はここをデートで使ったことがあるんじゃないかと思うほど、完璧なプランだ。

「ぶー、なんですかお兄様。刺身だって、今回が初デートなんですからね?」

 頬を膨らませて、ちょっぴり不機嫌そうにする刺身。

「悪い悪い……それじゃあ、行こうか」

 俺はそんな彼女に若干安心しつつも、それを悟られないように軽く返事をして歩き出した。

 ……まあ、心を読まれてるわけだからいくら取り繕おうとも中身はバレバレなわけだけど。

 とまあ、そんなわけでファッションビルの中を兄妹二人でぶらぶらする。

 時には刺身が俺に似合いそうな服を選んでくれて、それに着替えてみたり。

 時には俺が気になった服を手に取って、刺身に微妙な顔をされたり。

 そうして小一時間ほど歩いた頃だろうか。

「お兄様……わたし、ちょっとお腹が空いてきました」

「実は俺もそろそろ食べたいと思ったところだ。いい時間だし、お昼にするか」

 時刻はちょうど正午をまわったくらい。

 俺は、刺身が決めてくれたパスタの店に向かおうと歩みを進める。

 しかし、どうしてだろう。

 刺身はその場に立ち止まったままだ。

「……? 刺身?」

 呼びかけるが、返事はない。

 さっきまで楽しそうにしてたのに……具合でも悪くなったんだろうか?

 それとも、遺伝子の関係で奇行に走ろうとしてるのか……?

 心配になって、彼女のところまで引き返す。

 すると、ワナワナと俯いて震えていた彼女が大きな声で言い放った。

「いい加減服を買ってくださいです――! 優柔不断にも程がありますよお兄様ぁ!」

 ……うん、普通に怒ってただけだったみたいだ。

 デートの服を買う目的で一時間も服を見て回って、一着も買わなかったらそりゃそうか。

 でも、言い訳するわけじゃないけどさ、服買うのって難しくないか?

 無難な服を買ってもあんまり面白くないし、かといって奇抜な服は似合わないし。

 刺身が選んでくれた服も、いいんだろうけど俺の好みとはまた違うしな……。

 と、心の中で抗議してみる。

 すると、怒った刺身はさらに激昂し。

「なに一丁前にファッション中級者みたいなこといってるんですか! 初心者は無難な服を無難に着こなしておけばいいんですよ! ほら、さっき渡したチェック柄のシャツでも買ってきて着てください! さあ早く!」

 所々怒り過ぎてジャンプしたりしながら、優柔不断な俺に外から決断を下してみせた。

 ……ほんと、不甲斐ない兄貴で申し訳ないです。

 肩を落としながら、素直に試着を済ませ、服を購入。

 その場で着替えて、刺身のもとへ出ていく。

 すると、上から下まで俺の服装を眺めた刺身がぽつり。

「……なに着たってかっこいいんですから、すぐに選べばいいんですよ……」

 なんて、小さな声で漏らすのだった。

 


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