思い立つと、早速行動に移る。
まずは、席を立ち上がって……それから、テーブルの向かいにいる刺身の前へ。
「…………?」
突然動き出した俺に、刺身は腕を組んで怪訝そうな顔をする。
そんな彼女の前にしゃがむと、俺は彼女の履いていたフレアスカートの中に、ゆっくりと右手を潜ませた。そして、本来あるはずの布地がそこにないことを指で示す。
「お、おおお、お兄様⁉︎ 突然なにをしてらっしゃるんですか⁉︎」
急な兄貴の奇行に、目に涙を浮かべて動揺する刺身。
ふははは、作戦成功か……!
きっと、刺身は今この上なく怒りを感じているはずだ。
だって、ここはカフェの中。つまり衆人監視の中。
さっきの人だかりみたいに俺たちに注目してる人は誰もいないが、少しでも変な行動を取れば、たちまち多くの人の鋭い視線が俺たちに突き刺さることだろう。
そんな状況で、自分がノーパンであることを示してくる兄貴。
おもらしをしてからカフェに来るまで、刺身は一度も自分の下着に違和感を持った様子がなかったからな……。
恐らく今の指摘で気がついて、顔を真っ赤にしているはずだ。
さらに、彼女はスカートの中に手を突っ込まれている。
それも、言うまでもなくカフェの中でだ。
家の中だって怒られるだけじゃ済まないはずの愚行に、刺身が耐えられるとは思えない。
きっと、今すぐにでも怒りのエネルギーが頂点に達して爆発するに違いない。
やっちゃいけないことを全力でやっている高揚感に、顔が熱くなる。
さあ、妹よ。その怒りを解き放つがいい!
さすれば汝は地球人へと近づき、さらにその負の感情を空中分解することができるのだ!
「お兄様っ、手をっ、どけてっ……ああっ、あっ、んんんっ……」
「嫌だね! これは……そう、罰だ! お前が街中でおもらしをした罰だ!」
「ごめんなさっ……いぃ……っ、もう、しないからぁ……やめ……っ……」
「ははははは! どうだ、イライラしてきたか! ほら、爆発しちゃえよ!」
普段は大人しくしているだけに、悪いことをしていると楽しくなってくる。
可愛くて頭のいい妹を、出来の悪い兄が辱めているのだ。
なんだか、新しい性癖に目覚めそうである。
なんて、しばらくスカートの中で刺身の温もりを感じていたのだが。
なぜだろう、一向に刺身が爆発する気配がない。
それどころか、彼女はだんだんとイキイキと、嬉しそうになっていき……。
「おしおきをっ、おしおきをお願いしますっ……この駄目ないもうとに、おしおきを……っ」
最終的には、自分から罰をねだってくる始末。
ええと……これはどういう状況なんだろう。
怒らせるつもりが、悦ばせてしまったようだ。
困惑している最中にも、刺身はどんどん腰をくねらせて要求を続けてくる。
だったら、と俺は決心する。
スカートの中に手を入れるだけじゃなく、もっと凄いことをしてやろうと。
具体的には、その手を動かしてやろうと。
唾を飲み込む。
ごくんと、大きな音がした。
それだけ、緊張しているんだろう。
今耳元で大きな声でも出された日には、心臓が止まってしまってもおかしくはない。
それだけ、俺と刺身の間に緊張が走る。
だから、俺はその緊張を沈めるために刺身の涙を舐めとった。
相変わらず、極上の味わいだ。
爽やかで、それでいてコクのある不思議な味がする。
夢の中をギュッと凝縮して液体にしたような風味。
そんな幸せなひとときに、意識が飛んでしまいそうになる。
しかし、俺はこれから刺身の期待に応えなくちゃならない。
もっと、エッチなことをしてやらなくちゃならない。
だから、涙を味わうのはそこまでにして、刺身の目を見つめた。
「行くぞ……」
「うん……お兄様、きて……」
脳がとろけそうな会話。
俺は彼女を怒らせようとしていたはずなのに、いつの間にか幸せに苛まれていく。
ああ、刺身……! これはお前が望んだことなんだからな……!
一緒に、快楽のその先に行こうじゃないか……!
ゆっくりと、手を動かそうとする。
指の先まで神経を研ぎ澄ませて、ゆっくりと――
――と、全意識を指先に集中させていた時だった。
トントン、と何者かに肩を叩かれる。
「…………えっ」
驚いて振り返ると、そこに立っていたのはカフェのユニフォームを着たお兄さん。
頬を引きつらせて、メロンのケーキを持っていた。
「ええと、お客様……。こちら、ご注文のメロンケーキになります……」
何かいいたげに、それでもビジネススマイルは顔に貼り付けたまま告げるお兄さん。
俺は、テーブルにメロンケーキを置いてもらうと、流れるような動作で床に這いつくばる。
そして、頭を床に擦り付けて言った。
「…………本当に、申し訳ございませんでした……」
刺身の怒りを買う作戦は、いつの間にか店員さんの怒りを買う作戦に変わってしまっていたらしい。本当に、申し訳ございませんでした。