メロンケーキを食べて、そのあと雑貨やアクセサリーを見て回って。
そうしているうちに日が暮れて、俺たちは帰宅することになった。
電車を降りて、自宅へと向かう。
刺身の髪の毛に輝くのは、青色の花の形をした髪飾りだ。
俺が、デートの終わりにプレゼントしたものである。
「今日は本当に楽しかったですね〜!」
刺身が、自身の髪飾りを撫でながら言う。
どうやら気に入ってもらえたようで一安心だ。
青い花を選んだのは、彼女の声を聞いていてそのイメージを持ったから。
刺身の声は、透き通ったガラスのように繊細な声。
その涼しい声色に、青色の髪飾りはぴったりだと思った。
「それにしても、お兄様とのデートっていいですね!」
ニコニコしながら刺身がいうから、俺はどうしてそう思うんだろうと疑問に思って聞き返す。
すると、刺身は暗くなった景色の中、月明かりのような静かな笑顔を湛えて言った。
「だって、お家に帰ってもずっと一緒なんですから、さみしくならないじゃないですか」
言われてみれば、そうなのかもしれない。
旅行のあと、祭りのあと、デートのあと。
楽しい出来事のあとは、どこか寂しさを覚えるのが人間だ。
だけど、俺たちのデートはこれで終わりじゃない。
二人がデートだと思っていれば、ずっと、それは永遠に続いてく。
だって、二人は兄妹で……同じ家に住んでるんだから。
今夜も、明日も、明後日だって、寂しくならずにずっといられる。
「だから、お兄様はわたしを一人にしちゃダメなんですからね?」
いたずらっぽく笑う刺身。
本人にはそんな気はないんだろうけど、俺はどうしてもリノとの会話を思い出してしまう。
――どうしようもない孤独。
刺身が地球を滅亡させた未来には、彼女自身が最も苦しむ未来が待ち構えている。
しかし、地球も刺身も救ってあげられるのは俺一人だけ。
ならば――俺が、頑張るしかない。
刺身の笑顔を見て、今改めてそう思った。
俺が守るのは、この笑顔だ。
相手が遺伝子だろうと宇宙だろうと関係ない。
俺は、俺の守りたいものを守り抜くだけだ。
*
そんなこんなで、俺は毎日刺身をレベルアップさせ続けた。
リノの説明では今までの人生で刺身がレベルアップした回数は五十回だという話だったが、それが嘘みたいに彼女は短いスパンで狂い、レベルアップを重ねる。
例えば、俺の入浴中に刺身が押しかけてきたとき。
普段なら絶対にそんなことしないはずなのに、遺伝子の暴走からか俺の風呂に突入してきた刺身の背中を流してやったことがあった。
そのときも、背中を洗われながら刺身は恥ずかしそうに体をくねらせ。
そして、体を反転させて俺に抱きつくと――そのままレベルアップした。
また、例えば寝ている俺の布団に刺身が潜り込んできたとき。
普段なら絶対にそんなことしないはずだからと、俺は彼女の方に背中を向けて眠ったフリをし続けた。すると、彼女は息遣い荒く俺の耳たぶをぺろぺろと舐め出し。
そして、小一時間ほどそれを続けて自室へと帰って行った。
だから、俺はまた逆転の発想を試みる。
今度は、寝ている刺身のベッドに行って彼女の耳たぶを俺が舐めたのだ。
すると、刺身はまだ起きていたようで「んぁ……」と可愛く呟きながらくねくね。
それでも続けていると、次第に彼女の息が荒くなって頬が上気してきた。
だから、俺は手応えを感じてさらに激しく耳の奥まで舐める。
すると、刺身はそのくすぐったさに耐えきれず、そのまま腰を浮かせてレベルアップした。