現代日本で突然妹がレベルアップした件。   作:雨宮照

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存在しないモノ。

『例えば……神話や伝承の例がわかりやすいかしら。世界各地に、ドラゴンの逸話が残されているのは知っているわよね?』

「……ああ。具体的に詳しく知っているわけじゃないが、あること自体はな」

 俺の答えに、満足そうな雰囲気を醸しながら頷くリノ。

 無表情でも、なんとなく思っていることの雰囲気は出るらしい。

『あとは……振り返ってはいけないということが描かれた神話ね。これは日本にもある神話だからフカにも身近なんじゃないかしら』

「そうだな。古事記の黄泉平坂とか、あとはギリシャ神話のオルフェウスとハデスの話が確かそうだったよな。でも、それがどうしたんだ?」

 以前訪れたときと同じく意味不明な会話を展開するリノを不思議がる俺。

 そんな俺に、リノはテレパシーでメッセージを伝えてきた。

『それって……よく考えるとおかしなことじゃないかしら?』

「……おかしなこと?」

 再びオウム返しをする俺に、リノが続ける。

『だって、その時代の人々が文化的交流を行なったという事実はどこにもないでしょう? なのに、世界各地に似たような伝承や神話がある。これっておかしくないかしら?』

 言われて、初めて気づく。

 確かに、その通りだ。

 その時代に人々の文化的交流がないのだとしたら……一体、なぜこんなことが起こっているのだろうか。偶然、同じようなことを似たような時期に考え出したのだろうか。

 ……いいや、そんなはずはない。

 なぜなら、リノがわざわざ説明中に話し出すようなことなんだ。

 これは、きっと人類の歴史にとって大切な着眼点なんだろう。

 俺が神話の疑問点に気付いたことを悟ったのか、再びリノが話し出す。

『結論は、こうよ。太古の人類は――普通に離れた民族ともコミュニケーションをとっていたの。こうして、今わたしがやっているようなテレパシーを通じてね』

「……それは、まだオードル・ト・レールの遺伝子が強く残っていたからか?」

『正解よ。フカももう気付いてるんじゃないかしら。わたしの今の姿を見て、オリジナルのオードル・ト・レール人が、どんな姿をしていたのか』

 言われて、改めてリノの姿を観察する。

 ……彼女には、口が存在しなかった。

 この間来たときは、口を使って会話して口を使ってお茶を飲んでいたはずだ。

 なのに、今は口のあった部分には何も存在していない。

 膝や肩のように、皮膚がただ途切れずにくっついているだけだ。

『この間わたしが来たときは、地球人の姿に馴染むために擬態して来ていたのよ。マスクをして口を隠してもよかったんだけど、食べ物や飲み物を摂取してみたかったからね』

 あっけらかんと言い放つリノ。

 ってことは……人類の祖先はもともとテレパシーを使っていたため、口がなかったということか。それが、だんだんと猿との子孫が代を重ねるごとに消えていったというわけだ。

『ようやく本質が見えてきたみたいね。さらに情報を付け足すなら……そうね、文字やイラストの例なんかを出してみようかしら。アレなんて、完全に地球の独自の文化なのよ? だって、テレパシーが使えたら文字なんて必要ないじゃない。それに……テレパシーには、時間なんて存在しないし』

 分かりやすい解説のあとに、意味不明なことをチョロっと漏らす彼女。

 ええと……時間が、なんて?

『時間が存在しないって言ったのよ。未来も過去も、現在も。まあ、ここら辺の説明は言語を使っているフカたちにはわからないでしょうね。だって、言語には「あいうえお」と発話した時点で過去と現在が流れて行っているんだから。テレパシーの点と点のやりとりなんてわかるはずがない』

 そういうものなんだろうか。

 リノがわからないと言うんだから、俺には本当に理解できない現象なんだろうけど……。

『まあ、いいわ。話を続けましょう』

 と、肩を落とす俺に気を取り直したかのようにリノが伝え続ける。

 彼女曰く、次はついにテレパシーの仕組みを説明してくれるらしい。

 

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