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オードル・ト・レールに到着すると、刺身は真っ白い部屋に閉じ込められた。
『あなたはここで永久に鍵として暮らしてもらうわ』
オーバーオールを脱いですっかり裸となった少女に告げられる。
その後、白い壁に囲まれた刺身はずっと疑問を抱き続けていた。
(学校にいたのに、いつの間にかこんな訳のわからないことに……!)
読心術、つまり不完全なテレパシーを持っている刺身だったが、彼女には読みとれない情報がたくさんあった。その中には、オードル・ト・レール人による陰謀やレベルアップについての情報なども含まれている。
そのため、彼女はこの状況を微塵も理解できていなかったのだ。
刺身にとってみれば、得体の知れない口のない集団に兄を殺されいきなり地球外に連れ去られるという急展開。兄、フカヒレの死が嘘であることは直感的に分かったが、ピンチであるのには変わりないらしい。
それに、先ほど裸の少女は永久にこの部屋で暮らすよう命令したが、何もしなくてもいいのだろうか。それだと、退屈で頭がどうにかなってしまいそうだ。
地球人とオードル・ト・レール人。その全員が集合的無意識下でつながっている中、刺身だけが中途半端な状態で閉じ込められているという状況。
その状況を、果たして刺身は理解することができるのだろうか――
「わかりました! つまりわたしは地球人を集合的無意識下で繋げるために過去宇宙人に用意された鍵となる人物だったんですね!」
――オードル・ト・レールの時間で二時間後。
刺身は、自身の置かれた状況について完璧な答えを導き出していた。
「おそらく、お兄様はこの星の宇宙人に騙されて利用されてしまったんでしょう。お兄様は人がいいですからね……! いえ、それ以外も全部いいですけど!」
頬に手を当てて床に転がり、くねくねと体を捩る彼女。
彼女の頭の中は常人の数百倍もよく出来ていたらしい。
「でも、どうして中心的な人物で鍵ともあろうわたしが集合的無意識に飲み込まれていないんでしょう……?」
疑問に思う彼女だったが、今はとりあえずの正解に近づいたことで気分が高揚し、それどころではない。再び頬に手を当てくねくねと動き出す。
「うへぇ……お兄様が騙されたのは、やっぱりわたし関連の嘘を吐かれたからでしょうか……? お兄様は妹のことが大好きなシスコンですからね……うへへ」
しばらくそうしてくねくねとし続ける刺身。
しかし、急に「あっ!」と声を上げると床から飛び起きた。
「こうしてはいられません! 一刻も早くお兄様を助けないと!」
そして、机に向かって、とある装置を作り始める。
オードル・ト・レール人が刺身に用意した真っ白い部屋には、ある程度日常に必要なものは準備されていた。彼女は、その中からいくつかの道具を選び、何かを組み立て始めたのだ。
それから、数分後。
「できましたー! これで地球のみなさんの意識をここに呼ぶことができます!」
出来上がったのは人型の機械と、小型の端末。それから拳銃と手錠だ。
地球人の繋がった意識から一つを切り離し、クラウド上にアップロードする端末と、その意識をダウンロードするための機械である。
手錠は、万が一失敗したときに備えて人型の機械につけておくものだ。
早速刺身は、早速端末を起動し無意識下の人間の中で兄だと思われる個体の意識を抽出する。
すると、みごとにフカヒレの意識はクラウド上を経由し、人型の機械に移動した。