百回狂わせると妹が一つレベルアップするようです。 作:雨宮照
「ひゃぁんっ! いきなりなにするんですかお兄様!」
「……! これは……!」
突然の兄の奇行に驚く刺身。
しかし、そんなことはもうどうでもいい。
そんな些細な問題は、すでにアイスクリームみたいに溶けていったのだ。
じゃあ、なにが今俺にとって大事なことなのかって?
よく聞いてくれたな、誰にも聞かれてないけど。
何を隠そう、俺が今一番重要視している、衝撃を受けたものは――これだ!
「妹のなみだ、美味しすぎるうううううう!」
「なにを言ってるんですかお兄様ああああああああ!」
いやほんとに!
これまで口にしたどんなものよりも美味いって!
さっぱりとしているようで、なめらかな口溶け。
味付けはジャングフードのような雑な味付けと違い、繊細だ。
例えるならば、高級料亭のお吸い物のような上品な味わい。
それが、すうっと消えることなく口の中を満たしてくれる。
……うまい、美味すぎるぞ!
意図せず埼玉県のお菓子のコマーシャルみたいな反応をしちゃうくらいに!
……ああ、幸せだなあ。
これまでの人生、こんなに幸せなことがあっただろうか。
人生において「生まれてきてよかった」なんて思うことはそんなにない。
例えば、小学校の運動会。
優勝したときはとても嬉しかったけど、そこまで大袈裟な喜びだっただろうか。
例えば、受験に合格したとき。
嬉しかったけど、あれは一つの手段に過ぎない。
高校に通うことが目的で、そのための手段が受験合格なのだ。
だから、「生まれてきてよかった」なんて思えるはずがない。
つまり、俺はこれまでの人生でそこまでの喜びを感じたことがなかったわけだ。
俺に限らず、多くの人がそんなものだと思う。
……でも、今この瞬間。
妹の涙を味わったこの瞬間、全てが報われた。
いじめられたこともあったし、死にたいと思ったことだって何度もあった。
それら負の感情は、いまだに俺の心の中に蓄積されていってたはずだ。
だけど、それらを全て浄化して、それでいてお釣りの幸福をもたらす。
そんな存在に、出会ってしまったんだ。
「……ぺろっ……れろっ……れろれろっ……んん……っ」
「……ひゃあっ……んっ……お兄様ぁ……もう、やめてぇ……」
「…………」
「…………あれ? 素直にやめてくれた……んにゃぁっ!」
「……ぺろっ……れろっ……れろれろっ……」
「……んあっ……もうらめぇ……っ……急に再開しないれくらふぁい……!」
耳まで真っ赤になった刺身が、息も絶え絶えに訴えかける。
しかし、抵抗すればするほど彼女は涙目になっていき……!
つまり、これはエンドレスなのでは⁉︎
俺が欲すれば欲するほど供給される極上の涙。
その味はいくら舐め取ったところで衰えることを知らない。
こんな楽園が、この世に存在していいんだろうか……。
と、宇宙の神秘に思いを馳せていたときだった。
「うううう……もう……っ……いい加減に……やめてくださああああああいっ!」
――妹が、爆発した。