息継ぎ   作:華メル

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 俺が彼に拾われたのは、たしか五か六の頃だったと思う。俺が生まれ育ったこの地下街で彼は葬儀屋のような仕事をしていたっけ…。

 今のなっては姿すら思い出せない彼の嗄れた声が頭に残ってる。

 

『ペア…お前は今日からペアだ…わかったか、クソガキ』

 

 白髪混じりで痩せこけた彼は自分の姓の『トーン』を俺にくれた。彼は俺に色々なことを教えてくれた。

 死体の処理や異常者との付き合い方、長物や銃の扱いも仕込まれたな。…まあ、殆どが上じゃ役に立たないものだったがな。

 

 てな感じで、クソ昔の話みたいに語っては見たがだいたい五年くらい前で言うほど経っちゃいない。

 そんでもって上に上がったのが三年前だ。あたかも恩人にように彼を語ってはいるが、俺の記憶にすらほとんど残っていないただの老人だ。

 

 地下での生き方を教えてくれたのは感謝してるぜ。見てっかい?ジジイ?

 

 

「おいペア! ボーッとしてないでさっさと皿運ぶ!」

 

「うーす。さーせんおばちゃん」

 

 

 おっとおばちゃんに怒られちまった。ここは調査兵団の食堂で、拾われた俺はここである程度の歳まで雑用を任されている。

 ある程度ってのは訓練兵に所属できる歳までだな。たしか兵士長のリヴァイって奴は同じ地下出身だけど、体も出来上がってたし、立体機動装置も扱えるとかで即戦力に組み込まれたらしいが。

 別に俺は立体機動装置なんて触ったこともないし、まだ十歳なりたてのガキだ。調査兵と同じ訓練もさせて貰えないから雑用なのよ。

 

 

「ペア坊!こっち持ってきてくれ!」

「お前ガリガリだなぁ!俺のも食えよ!」

 

 

 ええ、調査兵の奴らは変な奴らだけど、すごく親切な奴らだよ…変な奴らだけど!

 中でもずば抜けて頭のおかしい奴は『ハンジ・ゾエ』とかいうメガネの女だ。彼女は分隊長という地位につき、巨人の研究に私生活の大半を割いている人物って印象。…まあ、巨人狂い、異常者の中の異常者だよ。

 

 

「──って言うことがここで考えられるんだけどね? だけど、ここで仮説Bが──」

 

「はへー。巨人ってそんなに軽いんスか?」

 

「よっ…くぞ!聞いてくれた!」

 

 

 あ、やべ火つけちゃった。おばちゃんからもう飯食っていいって言われたから空いてる席に着いたんだけど、全く周りみてなかった…。空いてる理由がこの人がいるからなんて…。

 

 

「いやぁーペアくん相手だとついつい話しすぎちゃうなぁー。あ、ご飯冷めちゃうよ?」

 

「全然大丈夫ッスよ。ハンジさんの話色々と面白いんで」

 

 

 この人は苦手だが嫌いではない。あ、言い忘れていたが、俺を地下から引っ張りあげてきたのはこの人だったりする。それ以来、この人の家で厄介になっている。と言っても、この人研究でなかなか帰ってこないし、一人暮らしのような感じだ。

 

 

「ペアくんももう少しで訓練兵になれるからね。いやぁー君と一緒に巨人捕獲するのが楽しみだなぁ!」

 

「そッスね。しかもせっかくの好環境だ。しっかりと盗めるもん盗んで、バッチリ好成績たたき出してやりますよ」

 

「いいねぇ!その意気!」

 

 

 うん。嫌いじゃない。勝手ながらお母さんのように慕っている…絶対調子乗るから言わないけどな。巨人狂いなところ、研究熱心なところ、幾らかネジが飛んでるところも含め、尊敬している。

 

 

「じゃあねペア少年!今日は家に帰るから安心して待っていてよ!」

 

「はーい了解っス。掃除でもして待ってますよー」

 

「お?リヴァイに似てきたねぇ…未来の兵士長様かな?」

 

 

 なりませんよ。なりたくない。一生あんたの下がいい。なんならリヴァイともあんまり喋ったこともないですから。

 

 

「ははは、モブリットさんが待ってるッスよ」

 

「おっ、確かにそうだ」

 

 

 手をブンブン振りながら食堂を後にするハンジさん。元気なのはいいところだが、もう少し落ち着きを身につけて欲しいものだ。毎回モブリットさんがフォローしてるし、あの人も苦労が絶えないね。

 そんなことを思いながら残っていたスープを口に運ぶ。

 

 

「…冷めちゃった」 

 

 

 案の定冷めてしまっていたスープ。野菜だらけで、切れ端程度のベーコンが入ったものだ。兵団のスープとしてはかなり質素なもの…だと思う。肉などは王族、貴族、憲兵達など内地に住まうものたちがほとんど独占してるんだとか。ま、生まれてこの方満足に飯食ったことないし文句なんか言えないね。

 

 

「あ、今日も稽古してもらえるかな。…結構キツイけど、これからのこと考えれば必要泣きがするんだよなぁ」

 

 

 俺に稽古をつけてくれるのは役職もまともにないような新兵たちだ。彼らは訓練の合間に休憩と称して稽古をつけてくれる。初めは疲れてるだろうから遠慮してたんだが、子供の訓練などで体力は減らんらしい。

 

 その日の午後は稽古、ハンジさんの家の掃除で終えることとなった。なかなかにハードだったが慣れればどうってことない。めんどくさいのはハンジさんの洗濯物の量だ。シーム捲ったら出てきたり…あ、ほら下着出てきた。うーわこれいつのだよ…。

 ハンジさんの下着だからって欲情なんかはしないよ。だって下着じゃん。しかも何日か熟成されてそうなものだし…。

 

 

「…今度こそ文句言っとこ…」

 

 

 

 その日の夜、ハンジさんに説教して部屋内を掃除したところ、さらに何着か服が出てきて、次の日の洗濯物が増えたのだった。

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