息継ぎ 作:華メル
ハンジさんは多忙だ。分隊長という立場だから当然っちゃ当然っなんだが。その仕事に加え、調査兵団に出資してくれている変わり者の商人達との会食、そして巨人の研究。まあ、巨人の研究は今のところ仮説ばかりの理論らしいが。
「いやぁペアくん悪いね。家だけじゃなくこっちの私室まで片付けてもらっちゃって」
「あ、別にいいっスよ。リヴァイ兵長程じゃないっスけど片付けとか好きなんで」
まあ、決して好きではないがな。ハンジさんと俺は調査兵団本部にいる。ハンジさんの言う私室とは、分隊長室とは別に設けられたハンジさん専用の研究室といったところだな。そこで時々研究を手伝ったり、掃除したり、話を聞かされたり、掃除したりしてる。
「それにしても来年から訓練兵だろ?あんなにちっちゃかったペアくんがねぇ」
「そッスね。お世話になりました。正式に調査兵になってもよろしくお願いします」
「気が早いし硬いなぁ」
調査兵の方々にはもちろん恩を感じてる、それにハンジさんは俺が地下を出てから何年も家に置いてくれた。この人には特別恩を感じている。
何せこの人と過ごすと勉強になることが多すぎる。少々巨人の知識に偏るが、職工学系に強くなった気がする。ほとんど巨人の話題から派生したものだったりするけどな。
巨人を捕獲するにあたって立体機動装置にも使われる黒金竹の繊維を使ったワイヤーを使用したり、その加工法やその他の活用法、立体機動装置のアンカーを使用した拘束具など未だに実用に至っていない武器、道具の設計図などを見せられたり、実際に作成したりもした。
もちろん、既存の武器の構造も自然と会話の最中で叩き込まれた。構造が分かれば整備も手伝わさせるし、改善点の模索をしたこともある。
「気が早くなんてないですよ。俺なんてすぐ態度に出るんで早いうちに強制しとかないと」
「あぁ。そういう考えだったの? 私は別にいつもくらい軽い方が気が楽だけどね」
「あ、そっスか。じゃあ普段はこうしときます」
「私は君のその切り替えの速さ嫌いじゃないよ」
そういいハハハと笑うハンジさんにつられ、俺も顔が緩む。こうやって笑っていると街で親子に間違われたのを思い出す。ハンジさんは嬉しそうに「ウチの子」と言ってくれていたが、実際俺とハンジさん似ているだろうか?
俺の髪色は赤茶色だし、目こそ似てるような色合いだけど…。それに俺は目がつり上がってて細いけど、ハンジさんは若干タレ目ででかいし。
「あ、でも心配事が一つだけありますね」
「心配事って…珍しいね。なんなの?」
これはすごく大事なことだ。俺が居なくなることでこの人が絶対しないことが一つだけあるからな。
「いや、ハンジさんに一日一回、朝風呂でもいいから入っていただきたいっス。別に今までがそうだったように他の調査兵の方々は気にしないと思っスけど」
「いや研究が捗っちゃってさ。これがなかなか時間が取れなくてね…」
「あ、別に研究云々は別に大丈夫ッスよ。俺がモブリットさんや二ファさん、それとリヴァイ兵長にも頼んでおくんで」
「えぇぇ、急に本気すぎない?」
「や、普通っス」
この人研究に没頭すると風呂に入らないからな。俺がここに来て数ヶ月の間はマシだったが、俺が一人で風呂に入るようになると、髪はベトベト、汗が染み付いて悪臭のするシャツ。女性であるってことにもう少し自覚を持って欲しい。
そこで俺がハンジさんを風呂に追いやって、無理やり体を洗わせてた。家に帰ってくる日は寝る前に叩き込んで、泊まり込みで研究の時は朝無理やり備え付きの風呂に押し込んだりしてたからな。
俺だって風呂に入るように習慣づけたのは上に来てからだし、今でも時々入らない日もある。だけどその次の日の朝にちゃんと入ってるさ。この人のそこら辺のいい加減具合がどうも気になる。
「大事なことっスよ。そこら辺きちんとした方が研究も捗るんじゃないスかね」
「いや入ろうとは思って──」
「あ、そういうのいいっス」
とりあえず言い訳を許してはいけない気がする。信じられるか?俺に風呂に入るように教えたのこの人なんだぜ?
今でも時々一緒に入ることはあるが、昔は髪の洗い方とか全部教えて貰いながら入ったし、…まあ、途中で巨人談義になるせいで体が冷えて風邪引くんだが。
「じゃ、じゃあ!君が毎回こっちに来ればいいんだよ!」
「いや何キロあると思ってんスか。ハンジさん風呂関連だと急に頭弱くなりますよね」
ああぁ、と頭を抱え始めたハンジさんが面白くて自然と笑ってしまう。…はぁ、俺が居なくなるとまた以前の不潔なハンジさんに戻るのか。そう考えるとすっごい訓練兵になりたくないんだが。
「…ペア君!風呂いくよ!」
「あれ?研究いいんスか?」
「チャチャッとはいってすぐ研究!習慣づけるのが大切なんだろう?」
そう言いニヤッとこっちを見つめてくる。なんだろうな、こっちが説教してたのになんだか負けた気分になる。ほんと、調子のいい人だ。
備え付けで結構狭い風呂だと言うのに俺の肩を掴みながら上機嫌で風呂に向かう姿は、先程までの姿と打って変わり、眩しいくらいの笑顔が咲き乱れている。
俺と一緒に入るのを習慣づけなくてもいいのにな。今度からは少し見守って自ら入るのを待ってみるか?
「ほれ、さっさと脱ぐ!」
「あー、うす」
まあ、今日くらいはや風呂もいっか。
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