ソード・ワールド2.5(sw2.5)エピックトレジャリー リプレイ風オリ主小説「レプラカーンの冒険」 作:すー2018
魔動死骸区の外れ。魔動機文明アル・メナスの時代の残骸や遺跡にせよ、<大破局>後のふたたび人族が作った住居や建造物にせよ、人工物がそこかしこに林立するスラムのような地域を抜けると、そこは木々と土とが溢れる場所となっていった。
「まったく、こんなところまでひとりで遊びに来ていたのか。ふつうの子どもだったら居住区のごろつきにさらわれてもおかしくないんだぞ、チェルシー?」
テディが大きなため息をつく。
「大丈夫だよ! おかしなやつらが来たら『姿なき職人』の力で隠れるから」
えっへん、とチェルシーは大威張りだ。
「手に負えなさそうなときは逃げる。その選択は間違っちゃいないと思うんだけどな? テディ先輩」
と、応じたのはリオンだ。遺跡ギルドの仕事をほんの少し覚えたばかりの新米スカウトで、貴族の出身だが親が不祥事を起こして家族ごと、この"はきだめの"魔動死骸区に落ちのびてきた人間の少年だ。貴族時代に身に付けたソーサラーと、遺跡ギルドで最低限覚えた、身を守るすべとしてフェンサーの力がある。
本当はそうしたスカウトとフェンサーの組み合わせや、狙撃手としてシューターといった後衛を念頭に、生命力と筋力の弱さをカバーし器用さを活かす技能を学べば何かと有利に働くだろうに……。チェルシーが覚えたのは、前線に立つべきファイター。そして叔父のシュタインバッハと暮らすうちに覚えた、主に知力を要求されるアルケミストと、このひとりでふらっと外遊びへ行くクセによって身に付けたレンジャー。知識としては薬品学がレンジャーとアルケミストで見事にかぶっている。まだスカウトとレンジャー、ファイターとグラップラーというような、無駄にかぶりまくる技能の習得で無かったことはチェルシーのことを考えれば良かったほうなのかもしれない。
「シュタインバッハおじさんからもらった『マテリアルカード』だってあるし!」
チェルシーが、ぴらっと腰に装備した<アルケミーキット>から一枚のカードを取りだす。アルケミストが使う賦術(ふじゅつ)のための道具だ。
「あああ! それはとても高額なSSランクのカードです、ますたー! 絶対に軽々しく使ったら、いけないやつですっ」
あわあわ、とトットが取り乱した。
「SSランク? なんだったっけ、それ。忘れちゃったよ」
てへへ、と照れた顔をしてチェルシーが舌を出した。
「……仲間からブツをもらったら、さすがにまずいっすよね、テディ先輩」
ほとんどは冗談だが、ほんのすこしだけの本気も入ったような言葉を、リオンは言い放って苦笑した。
「お前ら! 一人で行くとか、仲間からスリを考えるとか、いくら冒険に出たことがないからっていい加減にしとけよ!」
とうとうこの何とも不穏な、ど素人即席パーティーのお守りとしてついてきたテディが雷を落としたのだった。
「ああ、もう! ボクひとりで出来るって言ったのになんでこんなに大所帯(おおじょたい)になっちゃうかなあ?」
大家さんのテディの雷にもまったく悪びれず、チェルシーはほんとうに不思議そうな顔をして、首をかしげた。
そんなやりとりをしながら暖かな木漏れ日の降る林と草のなかを、四人は進んでいった。
「あっ、あれだよ! ボクが見つけたのはっ!」
チェルシーが指さした先には、丈の高い草に覆われたなかで、確かに魔動死骸区の居住区域でも、貧困者たちが住む雑多な小さい家と同じくらいの大きさの遺跡があった。
「<ヒーリングポーション>ヨシ、火口箱、たいまつヨシ。遺跡を記録するための筆記具もヨシ、と。お前ら、いつでも戦闘が出来る準備はしとくんだぞ?」
「ええ? 何にもいなさそうだったよ、テディさん」
「チェルシー。いくら大丈夫そうでも、ここは”はきだめの”魔動死骸区で、人間だって金目当てだのなんだので荒いことをやる連中がそこらじゅうにいる場所なんだぞ? その近くの誰も入っていなさそうな新しい遺跡だって、最大限の注意は払った方がいい。油断だとか、慢心は捨てるべきだ。そのシュタインバッハが持たせてくれたマテリアルカードの代金で死体は生き返らせてやれんこともないが、いきなり死んで魂の"穢れ"持ちにはなりたくないだろ」
「えっ。このシュタインバッハおじさんのマテリアルカード、そんなにすごいの?」
「あああ! ますたー、だからそのカードは、使うべきじゃないのですぅ!」
「……やっぱ、欲しいけど、仲間は大事なんでスリは我慢しときます、テディさん」
「だから、お前ら遺跡に入るにしちゃあ、ゆるっとしすぎだっつーの!」
テディの第二の雷が落ちた。チェルシーは、大家さんのお小言をまた聞いたくらいのけろっとした表情で笑った。
「武器なら任せて! ボクは『インスタントウェポン』を覚えてるからね!」
初期レベルで覚えられるアルケミストの賦術のひとつ「インスタントウェポン」は、マテリアルカードを消費して魔法の武器を表すことが出来る技(わざ)だ。
「ボクの買ったマテリアルカードの武器で戦えるよ! シュタインバッハおじさんのくれたカードも同じ系統のたぶん強いやつだから、いざっていうときはそれも使えばバッチリだよ!」
「あああ! ものは大切に使うのです、ますたー!」
大変なアルケミスト兼ファイターの主人を持った、ルーンフォークのトットが悲鳴混じりの声をあげた。
「まさか、それに頼ってふつうの武器は持ってないとか言うなよ、チェルシー」
「……てへっ」
「マジか! 冒険者ギルドの仕事として出てくるような探索だったら、ヤバイところだからな!?」
「……ダガーくらいなら、オレは持ってきましたよ、テディ先輩。俺はひとまずソーサラーとして後ろに立つつもりなんで、何だったら貸しますよ」
「でかしたリオン! ……っていうか、それがふつうに冒険に出るやつの心得だよなあ。チェルシー、ほんとに俺らに感謝しとけよ!?」
「はーい。ひとまず、何か忘れても仲間がいれば大丈夫ってことを、ボク今学びましたぁ、テディさん!」
「そういうことじゃなーい!」
テディの第三の雷が落ちた。チェルシー以外のメンバーは、これでレプラカーンの少女の暴走が止まってほしいと切に願うのみであった。